世界樹の頂で輝く雄鶏。殺すには、出口のない謎を解かねばならない。
ヴィゾーヴニルとは何の神様か
ヴィゾーヴニルはひとことで言えば世界樹の頂の雄鶏です。名は「木の蛇」の意とされます。
エッダ詩『フョルスヴィーズルの言葉』によれば、この鶏は世界樹ユグドラシル?のもっとも高い枝にとまっています。そしてその輝く体が、世界樹全体を明るく照らし出しています。
世界樹には、根を齧る竜がいて、葉を食う鹿がいて、言葉を運ぶリスがいます。頂には、光を放つ鶏がいる。下から食われ、上から照らされている木という姿になります。
この鶏が有名なのは、そこにまつわる謎掛けのためです。ある若者が館に入るためにこの鶏の肉を必要とし、鶏を殺せる唯一の武器を得るためには、その鶏の羽が必要でした。どこにも入口が無い条件です。
語られるのはこれだけですが、世界樹を描く絵にはほぼ必ず添えられます。
ヴィゾーヴニルの名前の表記と読み方
古ノルド語の綴りは Víðófnir(ヴィゾーヴニル)と Víðópnir(ヴィゾープニル)の二つが伝わっています。日本語ではヴィドフニルとも書かれます。
名の意味は「木の蛇」とされます。鶏の名に蛇の語が入っているのは不思議に見えますが、前半の語は世界樹そのものを指すとも読め、「木に棲むもの」ほどの意味だとする解釈もあります。
北欧神話の鶏は、時を告げる役目を負っています。『巫女の予言』には、終末の到来を告げる三羽の鶏が現れます。この雄鶏を、そのうちのフィアラルかグリンカムビと同じものと見る意見もありますが、確かめられてはいません。
Víðófnir(ヴィゾーヴニル)
古ノルド語の表記。「木の蛇」の意とされる。
Víðópnir(ヴィゾープニル)
写本によって見られるもう一つの綴り。日本語ではヴィドフニルとも書かれる。
Lævateinn(レーヴァテイン)
この雄鶏を殺せる唯一の武器の名。「傷の杖」ほどの意味と解される。
ヴィゾーヴニルの物語
世界樹の頂 ─ 光を放つ鶏
堂々巡りの謎掛け
『フョルスヴィーズルの言葉』は、若者スヴィプダグルが館の門前で門番と問答を重ねる詩です。
スヴィプダグルは、館リュルに入るために、この雄鶏の肉が要ると知らされます。
では、どうすれば雄鶏を殺せるのか。答えは、レーヴァテインという武器だけが殺せる、というものでした。
では、その武器はどこにあるのか。門番はこう答えます。地の下に納められていて、取り出すには対価が要る。その対価が──この雄鶏の尾羽でした。
鶏を殺すには剣が要る。剣を得るには鶏の羽が要る。
欲しいものを得るために、先に同じものが要る。 出口のない条件として組み立てられており、この詩でもっともよく引かれる箇所です。
なぜ記録が少ないのか
この雄鶏について語る原典は、事実上ひとつしかありません。『フョルスヴィーズルの言葉』です。
この詩自体が、エッダのなかで扱いの難しい作品です。写本に伝わる時期が遅く、古い詩なのか後の作なのかで見方が分かれています。
そのため、この雄鶏の位置づけも定まりません。世界樹の主要な住人として数える立場もあれば、この詩だけの登場人物と見る立場もあります。
『巫女の予言』に出る二羽の鶏、フィアラルとグリンカムビのどちらかと同じではないか、という意見もあります。ただし、その二羽は終末を告げる役目を負っており、光を放つとは書かれていません。
わかっていないことが多いというのが、いまの正直な答えです。
照らすものと、告げるもの
北欧神話の鶏には、二つの役目が与えられています。
ひとつは告げることです。『巫女の予言』は、終末の到来を三羽の鶏が告げると歌います。巨人の国で鳴く赤い鶏、ヴァルハラ?で鳴く金の鶏グリンカムビ、そして死者の国で鳴くすすけた赤い鶏です。
もうひとつが照らすことで、これはこの雄鶏だけの働きです。
世界樹の頂に灯りがあるという発想は、ほかの詩には出てきません。 夜の長い北の土地で、高い場所にある光がどう受け止められたかを考えると、この一行の重さが見えてきます。
鶏は、暗いうちに鳴いて夜明けを知らせる鳥です。告げるのも照らすのも、夜が明けることに関わっています。
ヴィゾーヴニルの家系図と家族
ヴィゾーヴニルのきょうだい: ヴェズルフェルニル世界樹の高みにとまる鳥どうし
ヴィゾーヴニルの性格と人物像
ヴィゾーヴニルは、動かない存在です。
枝にとまり、光を放つ。それだけです。誰かと戦うわけでも、誰かを助けるわけでもありません。ラグナロク?で何をするのかも書かれていません。
それでいて、この鶏をめぐる話はすべて「殺す方法」の話です。 詩に出てくるのは、どうすればこの鶏を殺せるかという問答だけで、鶏自身は一度も関わってきません。
狙われる側でありながら、狙われていることを知らない。しかも殺す条件が最初から成立しない。手が届かないことが、この存在の唯一の性質だといえます。
世界樹の頂という場所も同じです。誰も登れない高さで、光っている。触れられないものとして置かれた鳥です。
ヴィゾーヴニルゆかりの地と遺跡
この雄鶏を祀った場所は見つかっていません。 社も祭りも伝わっていません。
ゆかりの場所を挙げるとすれば、住まいである世界樹ユグドラシルの頂ですが、これは神話の中の木であり、実在の場所と結びつけられてはいません。
世界樹そのものを刻んだ遺物は北欧にいくつか知られていますが、この雄鶏だと確かめられた図柄は報告されていません。
ヴィゾーヴニルが現代に残した痕跡
この雄鶏の名は、詩の一篇と、そこから広がった謎掛けの型のなかに残っています。
堂々巡りの謎掛け: 鶏を殺すには剣が要り、剣を得るには鶏の羽が要るという条件。解のない問いの型として、いまも引き合いに出される。
武器レーヴァテイン: この雄鶏を殺せる唯一の武器。名は「傷の杖」ほどの意味と解される。現代の作品では強力な武器の名として広く使われている。
世界樹の図像: 世界樹を描くとき、根の竜、幹のリス、枝の鷲とともに、頂の鶏が添えられることが多い。この雄鶏の記述がその位置を占めている。
ヴィゾーヴニルが司るもの
光
輝く体で世界樹を照らし出す存在とされる。
夜明け
暗いうちに鳴いて朝を告げる鶏として、北欧神話に置かれている。
ヴィゾーヴニルについてよくある質問
ヴィゾーヴニルとは何ですか。
北欧神話に出てくる雄鶏です。世界樹ユグドラシルのもっとも高い枝にとまり、その輝く体で世界樹を照らし出しているとされます。
ヴィゾーヴニルはどうすれば倒せますか。
レーヴァテインという武器だけが殺せるとされます。ただしその武器を手に入れるには、この雄鶏の尾羽が必要だとされ、条件が成立しません。
ヴィゾーヴニルはどの書物に出てきますか。
エッダ詩『フョルスヴィーズルの言葉』です。事実上この一篇にしか出てこないため、位置づけについては見方が分かれています。
『巫女の予言』の鶏と同じものですか。
『巫女の予言』に出るフィアラルかグリンカムビと同じではないか、という意見があります。ただしその二羽は終末を告げる役目を負っており、光を放つとは書かれていません。
ヴィゾーヴニルと併せて覚えたい言葉・用語
ユグドラシル(Yggdrasill)
世界を貫いて立つ巨大な樹。三つの根がそれぞれ別の世界へ伸び、その根元に泉がある。
ヴァルハラ(Valhöll)
オーディンの館。「戦死者の館」の意。選ばれた戦士が毎日戦い毎晩よみがえって、ラグナロクに備える。
ラグナロク(Ragnarök)
北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。