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北欧神話

ニーズヘッグとは何の神様か|家系図・物語

Níðhǫggr  / ニーズヘッグ

冥界 巨人

世界樹の根を噛み続ける竜。終末を生き延びる数少ない存在。

ニーズヘッグとは何の神様か

ニーズヘッグはひとことで言えば世界を下から食う者です。名は「怒りに燃えてうずくまる者」「悪意をもって打つ者」などと解されます。

新エッダギュルヴィたぶらかし』第15章によれば、霧の国ニヴルヘイムの泉フヴェルゲルミルに多くの蛇とともに棲み、世界樹ユグドラシルの三つめの根を噛み続けています。

木の上ではノルンが水をかけて枯れるのを防ぎ、下ではこの竜が根を齧る。支える力と壊す力が、同じ木の上下で働き続けています。

もう一つの姿が『巫女の予言』にあります。死者の岸ナーストレンドで、誓いを破った者の死体をすする竜です。

そして最大の特徴は、ラグナロクを生き延びることです。世界が焼け落ちたあと、翼に死者を乗せて飛ぶ黒い竜として、もう一度現れます。

ニーズヘッグの名前の表記と読み方

古ノルド語では Níðhǫggrníð は北欧社会でとりわけ重い語で、単なる悪意ではなく「名誉を汚す侮辱」を指します。

この語を名に持つことには意味があります。この竜が食うのは、戦って死んだ者ではなく、誓いを破り、人を裏切った者の死体だからです。

日本語ではニドヘグ、ニーズホッグなどとも書かれます。竜ではなく大蛇と訳されることもあり、原文の語(dreki/ormr)も揺れています。

Níðhǫggr(ニーズヘッグ)

古ノルド語の表記。níð(悪意・恥辱)と hǫggva(打つ)から成るとされる。

Nidhogg(ニドホッグ)

英語圏で広く使われる綴り。

Níðhöggr(ニーズホッグ)

現代アイスランド語式の綴り。

ニーズヘッグの物語

  1. 三つめの根 ─ どこにいるのか
  2. リスが運ぶ悪口
  3. ナーストレンド ─ 誓いを破った者の岸
  4. 生き残る ─ 新しい世界の空を飛ぶ

三つめの根 ─ どこにいるのか

世界樹ユグドラシルには三本の根があります。一本は神々の国へ、一本は霜の巨人の国へ、そして三本目が霧の国ニヴルヘイムへ伸びています。

ニーズヘッグがいるのは、その三本目の下です。泉フヴェルゲルミルに、数えきれない蛇とともに棲んでいます。

新エッダは蛇の名を並べたあと、こう付け加えます。

その数はあまりに多く、名を挙げきることはできない。

世界を支える木の根もとが、蛇の巣になっている。 神話が世界の底に置いたのは、闇でも炎でもなく、噛み続ける口でした。

リスが運ぶ悪口

木の頂には鷲がとまっています。名は伝えられていません。

そのあいだを、リスラタトスクが上下に走ります。古エッダ『グリームニルの言葉』第55節によれば、鷲とニーズヘッグの言葉を運ぶ役です。

新エッダはもっとはっきり書きます。このリスは中傷を運び、両者を煽り立てている。

世界樹という壮大な柱の上と下で、竜と鷲が延々と悪口を言い合い、リスがそれを往復して届けている。北欧神話の語り口には、こうした身も蓋もないおかしみがあります。

ナーストレンド ─ 誓いを破った者の岸

『巫女の予言』は、死者の国のありさまをこう歌います。

日の光の届かぬ岸に館が立つ。ナーストレンド、死者の岸である。扉は北を向いている。
毒の川が窓から流れこみ、壁は蛇の背でできている。

そこを渡るのは、誓いを破った者、人を殺めた者、他人の妻を奪った者です。

ニーズヘッグが死者の血をすする。狼が人を引き裂く。

北欧の冥界は善悪で人を裁きません。ヘルヘイムには良い者も悪い者も同じように行きます。ただしこの一節だけは例外で、裏切りに対してだけ罰が用意されています。

生き残る ─ 新しい世界の空を飛ぶ

『巫女の予言』の終わり近く、世界は焼け落ち、海に沈み、そして新しい大地が緑をたたえて浮かび上がります。

生き残った神々が野に集まり、黄金の板遊びの駒を見つける。麦は蒔かずに実る。バルドルが戻ってくる。

その明るい情景のあと、最後から二番目の節にこう置かれます。

そこへ暗い竜が飛んでくる。ニーズヘッグ、下の丘から来た輝く蛇。その翼には死体を乗せている。

そして巫女は「いま私は沈む」と告げて語りを終えます。

新しい世界の空にも、この竜は現れます。 世界が作り直されても、根を噛む者は消えていない。 この一節を、再生の物語に差した最後の影と読む研究者は多くいます。

ニーズヘッグの家系図と家族

ニーズヘッグの性格と人物像

ニーズヘッグは、悪の親玉ではありません。

ロキのように神々と口論もしなければ、フェンリルのように縛られもしない。誰かと戦う場面もありません。ラグナロクの戦場にも出てきません。

ただ根を噛み、死者をすすり、鷲と悪口を言い合っている。世界の破滅に加わるのではなく、破滅の前も後も同じことを続けている存在です。

そこがこの竜の恐ろしさでしょう。倒せる敵ではなく、世界に最初から組みこまれた摩耗です。ノルンが毎日水をかけ続けなければならないのは、この口が止まらないからでした。

ニーズヘッグゆかりの地と遺跡

ニーズヘッグを祀った場所はありません。 祈る対象ではなく、世界の底にいるものとして語られました。

遺物としては、ノルウェーやスウェーデンの木造教会に彫られた絡み合う竜の意匠が、この竜と結びつけて語られることがあります。ただし、それらが特定の竜を指して彫られたと断定できる根拠は確かめられませんでした。

ニーズヘッグが現代に残した痕跡

この竜の名は、北欧神話の竜のなかでもとくに現代の作品に取り上げられています。

「ニード」という語: 名の前半 níð は、北欧社会で相手の名誉を決定的に傷つける侮辱を指した。ニードの柱を立てる呪いの作法も記録されている。

教会の竜の意匠: ノルウェーの木造教会の柱や扉に、絡み合う竜の彫刻が残る。キリスト教の建物に北欧の竜が彫られた例として知られる。

ゲームでの登場: 世界樹の根を噛む竜という設定が扱いやすく、現代の作品では最上位の竜として登場することが多い。

ニーズヘッグが司るもの

毒の川の流れる死者の岸に棲み、死体をすするとされる。

日の光の届かない世界の底に棲む。

循環

世界樹を食い、終末を越えてなお現れる。壊すことと続くことが同じ姿に重ねられている。

ニーズヘッグについてよくある質問

ニーズヘッグは何をしているのですか。

世界樹ユグドラシルの三つめの根を噛み続けています。あわせて、死者の岸ナーストレンドで誓いを破った者の死体をすするとされます。

ニーズヘッグはラグナロクで死にますか。

死にません。『巫女の予言』では、世界が再生したあとに翼へ死者を乗せて飛ぶ黒い竜として現れます。生き延びる数少ない存在です。

ニーズヘッグとヨルムンガンドは同じですか。

別の存在です。ヨルムンガンドは人間の世界を取り巻く海の大蛇で、ラグナロクでトールと相討ちになります。ニーズヘッグは世界樹の根もとにいて、戦いには加わりません。

ニーズヘッグは竜ですか、蛇ですか。

原典の語が揺れています。竜(dreki)とも蛇(ormr)とも書かれ、日本語訳でも竜と大蛇の両方が使われます。

ニーズヘッグと併せて覚えたい言葉・用語

ユグドラシル(Yggdrasill)

世界を貫いて立つ巨大な樹。三つの根がそれぞれ別の世界へ伸び、その根元に泉がある。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

ラグナロク(Ragnarök)

北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。