巨人でありながら神々に交じる者。災いと解決の両方をもたらす。

エミール・デプラー 「ロキの子ら」 1905年 / パブリックドメイン 出典
ロキとは何の神様か
ロキはひとことで言えば厄介事の担い手です。巨人の血を引きながら、オーディンと義兄弟の契りを結んでアース神族?に交じって暮らします。
この神の役回りは一貫しています。まず問題を起こし、責められて、自分で解決する。 シヴの髪を切って宝を持ち帰り、イズンを巨人に渡して取り返し、城壁の代金を踏み倒すために自ら雌馬に化けます。
注目すべきは、神々の宝物がすべてロキの後始末から生まれたことです。トールの槌ミョルニル?、オーディンの槍グングニル、フレイの船。いずれもロキが償いのために小人へ作らせたものです。
しかしバルドルの死を仕組んだことで、その立場は決定的に変わります。捕らえられ、蛇の毒が滴る岩に縛られ、ラグナロク?では巨人の側について神々と戦います。
ロキの名前の表記と読み方
古ノルド語では Loki。語源が定まっていない珍しい名です。「終わらせる者」「結び目」「炎(logi)」など諸説ありますが、どれも決定的ではありません。
なお炎の巨人ロギ(Logi)とは別の存在です。巨人の国での大食い競争でロキが負けた相手がロギであり、両者はよく混同されます。
Loki(ロキ)
古ノルド語の表記。語源は定まっておらず、「終わらせる者」「結び目」など諸説ある。
Loptr(ロプト)
「空気」に通じる別名。姿を変えて飛ぶ性格を表すとされる。
Hveðrungr(フヴェズルング)
「吠える者」の意とされる別名。
ロキの物語
- 義兄弟となる ─ 巨人でありながら神の側に
- 神々の宝を作らせる ─ 悪戯の後始末
- 雌馬になる ─ スレイプニルを産む
- バルドルを殺す ─ 越えてはならない線
- 縛られる ─ 蛇の毒と、妻の器
- ラグナロク ─ 縛めを解いて
義兄弟となる ─ 巨人でありながら神の側に
ロキは巨人ファールバウティの子で、血筋は完全に巨人です。
それでもオーディンと義兄弟の契りを結び、アース神族の一員として暮らしました。古エッダ?でロキ自身がこう言います。
覚えているか、オーディンよ。我らが昔、血を混ぜ合わせたことを。おまえは言った、我とともに飲まぬ限り一滴も飲まぬと。
敵の血を引く者が、内側にいる。 北欧神話の緊張は、この一点から生まれています。
神々の宝を作らせる ─ 悪戯の後始末
ロキがシヴの黄金の髪を切り落としたとき、トールに骨を砕くと脅されました。
償いのため小人の職人のもとへ走り、髪を作らせます。そこで欲を出し、別の小人と「首を賭ける」勝負を持ちかけました。
小人たちは競って宝を作ります。黄金の髪、オーディンの槍グングニル、フレイの船と猪、そしてトールの槌ミョルニル。
ロキは負けを恐れて虻に化け、職人を刺して鞴の手を止めさせました。そのためミョルニルの柄は短くなります。
神々はミョルニルを最良と認め、ロキは負けました。首は「賭けたのは首だけで頭ではない」と言い逃れましたが、口を縫い合わされます。
神々の宝は、すべてこの一件から生まれました。
雌馬になる ─ スレイプニルを産む
バルドルを殺す ─ 越えてはならない線
縛られる ─ 蛇の毒と、妻の器
神々は宴を開いていました。そこへロキが押しかけ、居並ぶ神々の秘密をひとつずつ暴きます。 古エッダの「ロキの口論」の場面です。
最後にトールが現れて追い出されると、ロキは鮭に化けて滝に隠れました。しかし網で捕らえられます。
神々はロキの子を殺してその腸で彼を岩に縛りつけ、頭上に毒蛇を吊るしました。毒が顔に滴り落ち続けます。
そこへ妻シギュンが来ました。
シギュンは器を掲げ、滴る毒を受け止め続けた。器がいっぱいになると、捨てに行かねばならない。その間だけ、毒はロキの顔に落ちる。
ロキが身悶えすると、大地が揺れる。 地震の由来として語られます。
神話でもっとも救いのない場面のひとつであり、同時にシギュンの献身がもっとも印象に残る場面でもあります。
ラグナロク ─ 縛めを解いて
終末の日、ロキは縛めを解いて自由になります。
死者の爪で作った船ナグルファルを率い、巨人と死者の軍勢を従えて、神々の側へ攻め寄せました。
対するのは、虹の橋の番人ヘイムダル。両者は宿敵でした。
ロキとヘイムダルは互いに戦い、互いを殺し合った。
引き分けです。どちらも生き残りません。
世界は焼け落ち、海に沈み、やがて新しい大地が浮かび上がります。ロキはそこにはいません。
ロキの家系図と家族
ロキのきょうだい: オーディン義兄弟の契り
ロキの性格と人物像
ロキは、善悪で分けられない神です。
神々を何度も救っています。城壁の代金を踏み倒し、イズンを取り返し、ミョルニルを取り戻す旅では作戦を立て、自ら侍女に化けました。ロキがいなければアース神族は何度も破滅しています。
同時に、その危機のほとんどはロキ自身が招いたものです。火をつけて、消して回っている。
決定的なのはバルドルの一件です。それまでの悪戯とは質が違いました。取り返しがつかず、償いもしていません。 泣きさえしませんでした。
そして縛られ、毒に灼かれ、終末で神々に牙を剥きます。
内側にいた敵。 北欧神話が最初から抱えていた矛盾が、この神を通して破裂します。
ロキゆかりの地と遺跡
ロキを祀った場所は見つかっていません。 神殿も、地名も、人名もほとんど残っていません。
これは他の神と決定的に違う点です。トールやフレイの名を持つ地名が各地にあるのに対し、ロキ信仰の痕跡は事実上ゼロです。物語には不可欠だが、誰も祀らなかった存在でした。
ゴットランドの絵画石碑(Gotlands bildstenar)
文字より古い神話の証拠
ゴットランドの絵画石碑の住所: スウェーデン ゴットランド島/ゴットランド博物館(ヴィスビュー)
ゴットランドの絵画石碑に残るもの: 絵画石碑(数百基)
ゴットランド島には絵画石碑が数百基残されており、文字が書かれる前の神話の姿を伝えています。
縛られた人物と蛇を描いた石碑があり、ロキの罰の場面とする解釈が有力です。エッダが書かれる数百年前のもので、この物語が古くから伝わっていた証拠とされます。
ゴットランド博物館で多数の石碑を見られる。
ロキが現代に残した痕跡
ロキの名は地名や曜日には残りませんでしたが、空と天候の言葉として北欧の方言に残っています。
Lokabrenna(ロキの燃焼): 古アイスランド語で恒星シリウスを指す。もっとも明るく輝く星に、この名が与えられていた。
スウェーデン方言 lokeeldar: 「ロキの火」の意で、夏の陽炎や蜃気楼を指す方言表現として残る。
地名の不在: トールやフレイの名を持つ地名が北欧各地にあるのに対し、ロキの名を持つ地名はほとんど見つかっていない。祀られなかったことの証拠とされる。
ロキが司るもの
変化・機転
姿を自在に変え、窮地を切り抜ける性格による。
火
炎と結びつけられることが多く、後世の民間伝承では火の精として語られた。
ロキが登場するゲーム・アニメ
現代でもっとも人気のある北欧の神といえます。マーベル版の影響が圧倒的ですが、善悪の間で揺れるという性格そのものは原典に忠実です。原典のロキも、憎まれきってはいません。
ロキが登場するゲーム
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ロキについてよくある質問
ロキは何の神様ですか。
特定の領域を司る神ではありません。巨人の血を引きながら神々に交じり、災いをもたらしては自ら収める役回りを担います。
ロキは神ですか、巨人ですか。
血筋は巨人です。オーディンと義兄弟の契りを結んだためアース神族に数えられますが、出自は最後まで巨人のままです。
ロキの子供は誰ですか。
狼フェンリル、大蛇ヨルムンガンド、死者の国の女王ヘルの三体です。さらに自ら雌馬に化けて、八本足の馬スレイプニルを産んでいます。
なぜロキは縛られたのですか。
バルドルの死を仕組み、さらに返還の条件である「あらゆるものが泣く」を一人だけ拒んだためです。子の腸で岩に縛られ、頭上の蛇から毒が滴り続けました。
ロキを祀る遺跡はありますか。
見つかっていません。地名や人名にもほとんど残らず、祀られなかった神と考えられています。
ロキと併せて覚えたい言葉・用語
アース神族(あーすしんぞく)
オーディンを主神とする神々の一族。戦いと支配を担う。アースガルズに住む。
ミョルニル(Mjölnir)
トールの槌。投げれば必ず手に戻る。小人が作ったが、ロキの妨害で柄が短くなった。
ラグナロク(Ragnarök)
北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。
古エッダ(こエッダ)
詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。
アースガルズ(Ásgarðr)
アース神族が住む神々の国。虹の橋ビフレストで地上とつながる。