炎そのものだった巨人。大食い競争でロキを打ち負かす。
ロギとは何の神様か
ロギはひとことで言えば炎そのものだった巨人です。名がそのまま「炎」を意味します。
登場するのは、巨人の国ウートガルズでの勝負の場です。トール一行が王ウートガルザ・ロキの宮廷を訪れ、次々に競技を挑まれました。その最初の相手がこの巨人でした。
種目は骨付き肉の早食いです。ロキは骨と皮をきれいに除いて食べ尽くしました。相手は違います。肉も骨も木皿も、置かれていた桶まで食べ尽くしました。
種明かしはあとで語られます。この相手の正体は火であり、王が見せた幻でした。 火は器ごと呑みこむ。勝てるはずがありません。
別の伝えでは、巨人フォルニョートの子とされます。その場合の兄弟は、風を象徴するカー?リと、海を支配するエーギルです。
ロギの名前の表記と読み方
古ノルド語では Logi(ロギ)。これは固有名詞であると同時に、「炎」を意味する普通の言葉でもあります。
ここで必ず問題になるのがロキとの混同です。音が近く、しかも大食い競争でロキと戦った相手がこの巨人であるため、二つの名は何度も取り違えられてきました。ロキの語源を「炎」に求める説があるのも、この混乱に拍車をかけています。
結論から言えば、別の存在です。ロキは巨人の血を引きながら神々に交じる者であり、この巨人は火の支配者です。
もうひとつの名ハーロギは「高き炎」と解され、ノルウェー北部の王国ハーロガランドの名の由来とされます。
Logi(ロギ)
古ノルド語の表記。「炎」を意味する普通名詞でもある。
Hálogi(ハーロギ)
「高き炎」の意とされる別名。ノルウェー北部の王国ハーロガランドの名祖とされる。
Loki(ロキ)
別の存在。名が似ているため古くから混同されてきた。
ロギの物語
ウートガルズの宮廷 ─ 三つの負け
トールは、ロキと従者シャールヴィを連れて巨人の国ウートガルズへ向かいました。
王ウートガルザ・ロキは一行を迎え、力を示せと求めます。ここから連続して勝負が行われました。
ロキは大食い、シャールヴィは駆けくらべ、トールは飲みくらべと、猫を持ち上げること、そして老婆との相撲。
三人とも、ひとつも勝てませんでした。
後で明かされる種明かしはこうです。ロキの相手は火、シャールヴィの相手は思考、トールが飲んだ角杯は海につながり、猫は世界を巻く大蛇、老婆は老いそのものでした。
相手はすべて、勝てるはずのないものでした。この巨人はその筆頭に置かれています。
大食い ─ 桶まで食べる
勝負の内容は単純でした。長い木皿の両端から、骨付き肉を食べ進む。中央で出会ったとき、より多く食べていたほうが勝ちです。
ロキは速く食べました。骨と皮をきれいに除き、肉だけをきれいに片づけて中央へ達します。ふつうなら文句のない勝ちです。
ところが相手も同時に中央へ着いていました。しかもその側は、
肉も骨も食べ尽くし、木皿も、置かれていた桶まで食べていた。
勝負にならないのは、食べる速さではなく、食べる範囲が違ったからです。
火は肉も骨も器も呑みこみます。この一場面は、幻術の説明であると同時に、火とは何かの説明にもなっています。
フォルニョートの子 ─ 三兄弟で自然を分ける
エッダとは別の系統の伝えもあります。サガの『ノルウェーはいかに住まわれしか』『ノルウェーの発見』が語る話です。
そこでこの巨人は、フォルニョートという巨人の子とされます。兄弟は二人。
風を象徴するカーリと、海を支配するフレール、すなわちエーギルです。
火・風・海が、三兄弟として並べられています。
『詩語法』に載る火の言い換えのひとつが「風とエーギルの兄弟」であるのも、この系譜を踏まえたものです。
ただし、ウートガルズで幻として現れたロギと、このフォルニョートの子のロギが同じかどうかは、はっきりしていません。同じ名の火の支配者が、二系統の伝えに別々に現れているのが実情です。
ハーロガランドの王 ─ 地名になる
『ヴィーキングの息子ソルステインのサガ』は、また別の顔を伝えます。
そこではハーロギという別名を持ち、ノルウェー北部にあった王国ハーロガランドの名の由来とされます。妻の名はグロズ。二人の娘はエイサとエイミリャといい、どちらも燃え残りの熾火(おきび)に関わる語です。
一家そろって、火にまつわる名で固められています。
ノルウェーのハーロガランドは実在した地域の名です。神話の火の巨人が、地上の地名の由来として語られる。 北欧では珍しくない形で、トールやフレイの名を持つ地名と同じ働きをしています。
近代には、土星をめぐる衛星のひとつにもこの巨人の名が与えられました。
ロギの家系図と家族
ロギの性格と人物像
ロギは、人格を持たない登場人物です。
言葉をひとつも発しません。表情も、意図も描かれない。ただ食べ尽くします。
しかしそれが役どころでした。この巨人は、勝負の相手ではなく、勝てない現実そのものとして置かれています。
ウートガルズの三つの勝負は、いずれも同じ構造です。相手は火、思考、海、大蛇、老い。人が抗えないものが、順に並べられている。
そのなかで火は、最初に出てきます。もっともわかりやすく、もっとも身近な「呑みこむもの」だからでしょう。
別系統の伝えでは、風と海の兄として自然を分け合っています。火を一柱の存在として立てる感覚が、北欧には確かにありました。 名前がそのまま炎を指すこの巨人は、その感覚のいちばん素朴な形です。
ロギゆかりの地と遺跡
この巨人を祀った場所は見つかっていません。 巨人は祀られる側ではありませんでした。
ただし地名としては残っています。ノルウェー北部のハーロガランドは、別名ハーロギを持つこの巨人を名祖とすると『ヴィーキングの息子ソルステインのサガ』が伝えます。現在もノルウェー北部を指す歴史的な地域名として使われますが、この由来譚が事実を反映しているかどうかは確かめられていません。
ロギが現代に残した痕跡
この巨人の名は、地名と、火を指す言い回しに残りました。
ハーロガランド: ノルウェー北部の歴史的な地域名。別名ハーロギを持つこの巨人を名祖とする、とサガが伝える。
「風とエーギルの兄弟」: 火を指す詩の言い換え。風のカーリと海のエーギルを兄弟とする系譜を踏まえている。
衛星ロゲ: 土星をめぐる衛星のひとつに、この巨人にちなむ名が付けられている。北欧神話の巨人にちなむ名を集めた一群に含まれる。
ロギが司るもの
火
名がそのまま炎を意味し、火の支配者として語られる。
力
大食い競争で相手を圧倒した存在として語られる。
ロギについてよくある質問
ロギとロキは同じですか。
別の存在です。名が似ているうえ、大食い競争でロキと戦った相手がロギであるため混同されますが、ロギは火の支配者、ロキは神々に交じる者で、系統も役割も違います。
なぜロキは大食い競争に負けたのですか。
相手の正体が火だったためです。ロキは肉だけを食べ尽くしましたが、相手は骨も木皿も桶も食べていました。ウートガルザ・ロキが見せた幻でした。
ロギの家族は誰ですか。
別系統の伝えでは巨人フォルニョートの子とされ、兄弟に風のカーリと海のエーギルがいます。妻はグロズ、娘はエイサとエイミリャと伝えられます。
ロギはラグナロクで戦いますか。
出てきません。世界を焼くのは炎の巨人スルトであり、この巨人は終末の場面に登場しません。
ロギと併せて覚えたい言葉・用語
カー(kꜣ/生命力)
人と一緒に生まれ、死後も供物を受け取る生命力。クヌムがろくろで人を作るとき、肉体とカーの二体を同時に形作った。