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北欧神話

ウートガルザ・ロキとは何の神様か|家系図・物語

Útgarða-Loki  / ウートガルザロキ

大地 巨人

巨人の王。ひとつも力を使わず、幻術だけでトールを完敗させた。

ウートガルザ・ロキとは何の神様か

ウートガルザ・ロキはひとことで言えば幻で勝った王です。巨人の国の城ウートガルズを治め、幻を操る術と策略にたけています。

新エッダギュルヴィたぶらかし』第46章から第47章が、この王の舞台です。雷神トールの一行が城を訪れ、技くらべを挑まれて、全員が負けます。

ところが種明かしを聞くと、話がひっくり返ります。誰ひとり力で負けたのではなく、全員が幻に負けていました。

ロキが大食いで負けた相手は野火、従者が駆けくらべで負けた相手は思考、トールが飲み干せなかった角杯は海に通じ、持ち上がらなかった猫は世界を取り巻く大蛇、組み合って敗れた老婆は老いそのものでした。

負けたのに、負けた内容が偉業だった。 北欧神話でもっとも巧みに組み立てられた話といえます。

『デンマーク人の事績』には、まったく別の姿で現れます。

ウートガルザ・ロキの名前の表記と読み方

古ノルド語では Útgarða-Loki(ウートガルザ・ロキ)。「ウートガルズのロキ」を意味します。

ウートガルズは「外側の囲い」の意で、神々の国アースガルズ、人間の国ミズガルズの外側にあたる領域を指します。名前そのものが、世界のいちばん外にいることを表しています。

紛らわしいのは、後半の「ロキ」です。神々に交じるあのロキと同じ名ですが、別の存在です。しかも話の中では、ロキ本人がこの王の城で大食いを競って負けています。

二人を同じものと見る説もありますが、原典は別々に扱っています。日本語ではウトガルザ・ロキ、ウトガルド・ロキ、ウトガルデロックとも書かれます。

Útgarða-Loki(ウートガルザ・ロキ)

古ノルド語の表記。「ウートガルズのロキ」の意。ウトガルド・ロキ、ウトガルデロックとも書かれる。

Skrýmir(スクリューミル)

トール一行の前に現れたときの姿。巨大な体で山を自分の頭だと見誤らせた。

Útgarðaloki(ウートガルティロキ)

『デンマーク人の事績』での姿。洞窟の奥で鎖につながれた存在として描かれる。

ウートガルザ・ロキの物語

  1. スクリューミル ─ 山を頭だと思わせる
  2. 五つの勝負 ─ 相手はすべて仕掛け
  3. 種明かしと、消えた城
  4. もう一つの姿 ─ 鎖につながれた存在

スクリューミル ─ 山を頭だと思わせる

話は、城に着く前から始まっています。

トール、ロキ、従者シャールヴィとレスクヴァの一行が巨人の国を旅していると、スクリューミルという巨大な男に出会います。この男が道連れになりました。

夜、男の食料袋を開けようとして、トールはどうしても紐を解けません。腹を立てたトールは、眠っている男の頭に槌を打ち下ろしました。

男は目を覚まし、木の葉が落ちたかと言います。二度目には、どんぐりが落ちたかと言います。三度打っても、小枝が落ちたかと言うだけでした。

種明かしはこうです。槌が当たっていたのは、遠くの山でした。 男は幻でトールの目をそらし、打撃を山へ受け流していたのです。山には三つの深い谷が刻まれました。

そしてこの男の正体こそ、変装したウートガルザ・ロキでした。

五つの勝負 ─ 相手はすべて仕掛け

城に着いた一行に、王は技くらべを申し出ます。相手はすべて仕掛けでした。

ロキは大食いを競い、負けます。相手はロギ、野火でした。ロキは肉を食べ尽くしましたが、火は肉も骨も皿も食べ尽くします。

シャールヴィは駆けくらべで三度負けます。相手はフギ、思考でした。考えるより速く走れる者はいません。

トールは角杯を飲み干せませんでした。杯の底は海に通じていました。それでも海面は目に見えて下がりました。

トールは灰色の猫を持ち上げられませんでした。猫の正体は、世界を取り巻く大蛇ヨルムンガンドです。それでも足が一本、地から離れました。

トールは老婆エリと組み合って膝をつきます。老婆の正体は、老いそのものでした。老いに勝てる者はいませんが、片膝で耐えた者もいません。

種明かしと、消えた城

翌朝、王は一行を城の外まで見送ります。そして、真相を明かしました。

幻を使っていたこと。相手が誰だったこと。そして──あなたたちがどれほど恐ろしかったか。

もう二度と会うつもりはない。

トールは槌を振り上げました。ところが、振り上げたときにはもう、城も王も消えていました。 目の前には広い野が広がっているだけです。

この結末が、話全体を反転させます。

負けたはずのトールは、海の水位を下げ、世界を取り巻く大蛇の足を持ち上げ、老いを相手に膝をついただけで済んでいました。巨人の王は、恐怖のあまり二度と会わないと告げて姿を消しました。

勝敗が書き換えられて終わる、めずらしい話です。

もう一つの姿 ─ 鎖につながれた存在

『デンマーク人の事績』には、まったく違うこの存在が記録されています。

デンマークのゴルモ王は、死後の魂の行方を思い悩むようになりました。そこで家臣トルキルが、ウートガルティロキのもとへ派遣されます。

トルキルは巨人たちに教わったとおりに旅をし、洞窟の奥にたどり着きました。そこにいたのは、暗く不潔な部屋で、手足を重い鎖につながれた存在でした。

会った証拠として、トルキルはその髭を一本抜きます。髭は異臭を放っていました。

帰還したトルキルから真相を聞いたゴルモ王は、恥辱のあまり死にます。 さらに、持ち帰られた髭の悪臭で、周囲の者も数人が死んだと記されます。

幻で神を打ち負かした王と、鎖につながれて悪臭を放つ存在。同じ名が、書物によってこれほど違って伝わる例は多くありません。

ウートガルザ・ロキの家系図と家族

ウートガルザ・ロキの性格と人物像

ウートガルザ・ロキは、力を使わない相手です。

一度も殴っていません。武器も持っていません。この王がしたことは、見せ方を変えることだけです。

北欧神話でトールを完全に打ち負かしたのは、この王だけです。 巨人スリュムも、巨人フルングニルも、最後は槌で砕かれました。この王だけが、槌の届かないところで勝っています。

そのうえで、最後に負けを認めているのが独特です。種明かしをして、恐ろしかったと告げ、二度と会わないと言って消えます。勝った側が、勝てなかったと言い残して去ります。

幻術は、力の弱い者の技です。この王が城ごと消えたのは、もう一度戦えば勝てないと知っていたからでしょう。

見せ方だけで巨大な力を退けた話として、北欧神話でもっとも読み返される一篇になっています。

ウートガルザ・ロキゆかりの地と遺跡

この巨人を祀った場所は見つかっていません。 社も祭りも伝わっていません。

ゆかりの場所として語られるのは、巨人の国ヨトゥンヘイムにある城ウートガルズですが、これは神話の中の場所であり、実在の土地とは結びつけられていません。

なお、ノルウェー南部の山脈は、いまもヨートゥンハイメン(巨人の家)と呼ばれています。ただしこの名は近代に付けられたもので、この巨人の城と直接に結びつくわけではありません。

ウートガルザ・ロキが現代に残した痕跡

この巨人の名は、幻術で勝つという物語の型と、記録の食い違いの例として残っています。

五つの勝負の型: 相手の正体が野火、思考、海、大蛇、老いという抽象概念だったという構図。挑戦の内容が種明かしで反転する話の型として、後世の作品でくり返し使われている。

スクリューミルの三つの谷: トールが眠る巨人の頭だと思って槌を打ち下ろし、実際には山を打っていたという話。山に刻まれた三つの深い谷は、その打撃の跡だとされる。

二つの伝わり方: 新エッダでは幻術で神を退けた巨人の王、『デンマーク人の事績』では洞窟で鎖につながれた悪臭を放つ存在。同じ名がまったく違う姿で伝わっている。

ウートガルザ・ロキが司るもの

変化

姿を変え、幻を操る術にたけているとされる。

知恵

力ではなく見せ方を変えることで、雷神を退けた。

ウートガルザ・ロキについてよくある質問

ウートガルザ・ロキとは誰ですか。

北欧神話に登場する巨人の王です。巨人の国の城ウートガルズを治め、幻を操る術と策略にたけています。雷神トールの一行を幻術で打ち負かしました。

ロキとは別の存在ですか。

別です。名は「ウートガルズのロキ」を意味しますが、神々に交じるロキ本人はこの王の城で大食いを競って負けています。原典は両者を別々に扱っています。

トールは本当に負けたのですか。

見た目には負けましたが、相手はすべて幻でした。角杯は海に通じ、猫は世界を取り巻く大蛇、老婆は老いそのものです。王自身が、恐ろしかったので二度と会うつもりはないと告げて消えました。

『デンマーク人の事績』ではどう描かれますか。

まったく別の姿です。洞窟の奥で手足を重い鎖につながれ、悪臭を放つ存在として描かれます。持ち帰られた髭の臭いで人が死んだとまで記されます。

ウートガルザ・ロキと併せて覚えたい言葉・用語

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

アースガルズ(Ásgarðr)

アース神族が住む神々の国。虹の橋ビフレストで地上とつながる。