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北欧神話

スレイプニルとは何の神様か|家系図・物語・ゆかりの地

Sleipnir  / スレイプニル

神獣

オーディンが乗る八本足の馬。父は巨人の馬、母はロキ。

スレイプニルとは何の神様か

スレイプニルはひとことで言えば世界のどこへでも行ける馬です。オーディンが乗る八本足の軍馬で、名は「滑るように走る者」と解されます。

新エッダは、この馬を「すべての馬のなかで最良」と言い切ります。陸を走り、海を渡り、空を駆け、そして死者の国へも下れます。

生まれ方が異様です。アースガルズの城壁を築く仕事を請け負った巨人が連れていた馬スヴァジルファリと、雌馬に姿を変えたロキとのあいだに生まれました。北欧神話でもっとも名高い馬の母は、男神ロキです。

八本足という姿は、エッダの写本より数百年古い絵画石碑にすでに彫られています。物語が文字になる前から語られていた証拠とされます。

スレイプニルの名前の表記と読み方

古ノルド語では Sleipnir。日本語ではスレイプニール、スレイプニィールとも書かれます。

語根は「滑る」で、足を運ぶというより、地面の上を滑っていく動きを表しています。 八本の足は速さの表現であり、実際に八本あることに意味があるのか、走る足が重なって見えることの絵画的な表現なのかは、議論が続いています。

シベリアのシャーマンの太鼓に八本足の馬が描かれる例があり、他界へ渡る乗り物という共通の発想を見る研究者もいます。

Sleipnir(スレイプニル)

古ノルド語の表記。動詞 sleipr(滑る)に由来し「滑走者」と解される。

Sleipner(スレイプネル)

ノルウェー語・デンマーク語式の綴り。

Sleipnirr(スレイプニール)

日本語の文献に見られる長音表記。

スレイプニルの物語

  1. 城壁を築く巨人 ─ 生まれるまで
  2. ヘルへの道 ─ 死者の国へ下れる馬
  3. 石に彫られた八本足

城壁を築く巨人 ─ 生まれるまで

神々の国アースガルズに城壁を築く仕事を、ある職人が請け負いました。報酬は太陽と月と女神フレイヤ。期限は一冬。

無理に決まっていると踏んで承知させたのはロキの入れ知恵でしたが、職人の馬スヴァジルファリが異常な働きを見せます。夜のあいだに巨大な石を運び、期限に間に合いそうになりました。

神々はロキを責めます。追い詰められたロキは雌馬に化け、スヴァジルファリを誘い出して走り去りました。

仕事は止まり、正体を現した職人(巨人でした)はトールに討たれます。

そして数か月後、ロキは八本足の子馬を産みました。神々を救うためについた嘘の代償として生まれたのが、この馬です。

ヘルへの道 ─ 死者の国へ下れる馬

バルドルが死んだとき、神々は死者の国へ使者を送ることにしました。名乗り出たのはヘルモーズです。

そのとき貸し出されたのがスレイプニルでした。

九夜のあいだ、深く暗い谷を駆け続けた。ギョッル川にかかる黄金の橋に着くまで、光はいちども見えなかった。

橋の番人モーズグズは、この騎手が死者ではないことに気づきます。そして最後の門では、

ヘルモーズは馬の脇腹に拍車をあて、馬は門をはるか高く飛び越えた。

生者を死者の国へ運び、また連れ帰る。 神々の馬の値打ちは、速さよりも、行ける場所の広さにありました。

石に彫られた八本足

スウェーデン・ゴットランド島のチェングヴィデの絵画石碑には、八本足の馬に乗る人物と、それを角杯で迎える女性が彫られています。

八世紀から九世紀のものとされ、エッダの写本より三百年以上古い遺物です。

同じ島のアルドレ教会の絵画石碑にも、八本足の馬が刻まれています。

文字で書かれる前に、この馬はすでに石に彫られていました。 スノッリが十三世紀に書き残した話が、彼の創作ではないことを示す数少ない物証のひとつです。

乗っている人物がオーディンなのか、ヴァルハラへ迎えられる戦死者なのかは、いまも意見が分かれています。

スレイプニルの家系図と家族

スレイプニルの親: ロキ雌馬に化けて産むスヴァジルファリ

スレイプニルの子・子孫: グラニその血を引く馬

スレイプニルの性格と人物像

スレイプニルには、性格が描かれていません。嘶きも、気性も、名場面での働きも語られない。

それでもこの馬が北欧神話でとりわけ愛されてきたのは、存在そのものが物語だからでしょう。

父は敵の馬。母は男の神。生まれた理由は、神々が結んだ不利な契約を踏み倒すためでした。神話でもっとも高貴な乗り物が、もっとも後ろ暗い経緯から生まれています。

孫にあたるのが英雄シグルズの愛馬グラニです。神の馬の血が英雄へ渡る、という筋も北欧神話らしいところです。

スレイプニルゆかりの地と遺跡

スレイプニルを祀った場所はありません。 神ではなく、神の乗り物だからです。

かわりに残ったのが彫られた石でした。ゴットランド島の絵画石碑には、八本足の馬が繰り返し現れます。デンマークの民間伝承では、荒野を渡る八本足の馬の足跡として地形の窪みが語られることもありますが、そちらは近代の記録で、位置は特定されていません。

チェングヴィデの絵画石碑(Tjängvide bildsten)

八〜九世紀。八本足の馬を彫った最古級の遺物

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チェングヴィデの絵画石碑の住所: スウェーデン ゴットランド県ゴットランド市アルスコグ教区

チェングヴィデの絵画石碑に残るもの: 絵画石碑

八本足の馬に乗る人物と、角杯を差し出して迎える女性が彫られています。エッダの写本より三百年以上古いものです。

この石が、八本足の馬の言い伝えが古くからあったことを示す物証になっています。 乗り手がオーディンか、迎えられる戦死者かは決着していません。

スウェーデン国立文化財庁の遺跡台帳に登録されている。原石はストックホルムの国立歴史博物館が所蔵する。

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アルドレ教会の絵画石碑(Ardre kyrka bildsten)

八本足の馬と神話の場面を並べた石碑

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アルドレ教会の絵画石碑の住所: スウェーデン ゴットランド県ゴットランド市アルドレ教区

アルドレ教会の絵画石碑に残るもの: 絵画石碑(八世紀頃)

教会の床下から見つかった一連の絵画石碑です。八本足の馬のほか、鍛冶の工房や、大蛇を釣る場面など、北欧神話のいくつもの場面が一枚に詰めこまれています。

見つかった場所が教会である点も重要で、古い石が建材として転用されたことがわかります。

スウェーデン国立文化財庁の遺跡台帳に登録されている。

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スレイプニルが現代に残した痕跡

この馬の名は、乗り物と速さの象徴として、いまも北欧で使われています。

ノルウェーの船と列車の名: 高速船や鉄道車両にこの名が付けられた例がある。速く走るものの名として選ばれてきた。

八本足の意匠: ゴットランド島の絵画石碑に繰り返し現れる。北欧神話の図像でもっとも見分けやすい印のひとつ。

アイスランド馬の歩様: アイスランド馬には他の馬にない特殊な歩き方があり、八本足の伝説と結びつけて語られることがある。ただし関係を示す資料は確かめられていない。

スレイプニルが司るもの

交通安全

陸も海も空も走り、乗り手を目的地へ届ける馬とされた。

死者の導き

生者を死者の国へ運び、また連れ帰った唯一の乗り物である。

すべての馬のなかで最良と評された。

スレイプニルについてよくある質問

スレイプニルはなぜ足が八本あるのですか。

原典は理由を説明していません。速さを表す絵画的な表現とする説と、他界へ渡る乗り物の古い形とする説があります。

スレイプニルの親は誰ですか。

父は巨人の馬スヴァジルファリ、母はロキです。ロキが雌馬に姿を変えて産みました。

オーディン以外に乗った者はいますか。

ヘルモーズです。バルドルを取り戻すため、死者の国へ下るときにオーディンから借りました。

スレイプニルは実在の遺物に出てきますか。

出てきます。スウェーデン・ゴットランド島のチェングヴィデの絵画石碑などに、八本足の馬が彫られています。

スレイプニルと併せて覚えたい言葉・用語

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

アースガルズ(Ásgarðr)

アース神族が住む神々の国。虹の橋ビフレストで地上とつながる。

ヴァルハラ(Valhöll)

オーディンの館。「戦死者の館」の意。選ばれた戦士が毎日戦い毎晩よみがえって、ラグナロクに備える。