オーディンが乗る八本足の馬。父は巨人の馬、母はロキ。
スレイプニルとは何の神様か
スレイプニルの名前の表記と読み方
古ノルド語では Sleipnir。日本語ではスレイプニール、スレイプニィールとも書かれます。
語根は「滑る」で、足を運ぶというより、地面の上を滑っていく動きを表しています。 八本の足は速さの表現であり、実際に八本あることに意味があるのか、走る足が重なって見えることの絵画的な表現なのかは、議論が続いています。
シベリアのシャーマンの太鼓に八本足の馬が描かれる例があり、他界へ渡る乗り物という共通の発想を見る研究者もいます。
Sleipnir(スレイプニル)
古ノルド語の表記。動詞 sleipr(滑る)に由来し「滑走者」と解される。
Sleipner(スレイプネル)
ノルウェー語・デンマーク語式の綴り。
Sleipnirr(スレイプニール)
日本語の文献に見られる長音表記。
スレイプニルの物語
城壁を築く巨人 ─ 生まれるまで
ヘルへの道 ─ 死者の国へ下れる馬
石に彫られた八本足
スウェーデン・ゴットランド島のチェングヴィデの絵画石碑には、八本足の馬に乗る人物と、それを角杯で迎える女性が彫られています。
八世紀から九世紀のものとされ、エッダの写本より三百年以上古い遺物です。
同じ島のアルドレ教会の絵画石碑にも、八本足の馬が刻まれています。
文字で書かれる前に、この馬はすでに石に彫られていました。 スノッリが十三世紀に書き残した話が、彼の創作ではないことを示す数少ない物証のひとつです。
乗っている人物がオーディンなのか、ヴァルハラ?へ迎えられる戦死者なのかは、いまも意見が分かれています。
スレイプニルの家系図と家族
スレイプニルの性格と人物像
スレイプニルゆかりの地と遺跡
スレイプニルを祀った場所はありません。 神ではなく、神の乗り物だからです。
かわりに残ったのが彫られた石でした。ゴットランド島の絵画石碑には、八本足の馬が繰り返し現れます。デンマークの民間伝承では、荒野を渡る八本足の馬の足跡として地形の窪みが語られることもありますが、そちらは近代の記録で、位置は特定されていません。
チェングヴィデの絵画石碑(Tjängvide bildsten)
八〜九世紀。八本足の馬を彫った最古級の遺物
チェングヴィデの絵画石碑の住所: スウェーデン ゴットランド県ゴットランド市アルスコグ教区
チェングヴィデの絵画石碑に残るもの: 絵画石碑
八本足の馬に乗る人物と、角杯を差し出して迎える女性が彫られています。エッダの写本より三百年以上古いものです。
この石が、八本足の馬の言い伝えが古くからあったことを示す物証になっています。 乗り手がオーディンか、迎えられる戦死者かは決着していません。
スウェーデン国立文化財庁の遺跡台帳に登録されている。原石はストックホルムの国立歴史博物館が所蔵する。
アルドレ教会の絵画石碑(Ardre kyrka bildsten)
八本足の馬と神話の場面を並べた石碑
アルドレ教会の絵画石碑の住所: スウェーデン ゴットランド県ゴットランド市アルドレ教区
アルドレ教会の絵画石碑に残るもの: 絵画石碑(八世紀頃)
教会の床下から見つかった一連の絵画石碑です。八本足の馬のほか、鍛冶の工房や、大蛇を釣る場面など、北欧神話のいくつもの場面が一枚に詰めこまれています。
見つかった場所が教会である点も重要で、古い石が建材として転用されたことがわかります。
スウェーデン国立文化財庁の遺跡台帳に登録されている。
スレイプニルが現代に残した痕跡
この馬の名は、乗り物と速さの象徴として、いまも北欧で使われています。
ノルウェーの船と列車の名: 高速船や鉄道車両にこの名が付けられた例がある。速く走るものの名として選ばれてきた。
八本足の意匠: ゴットランド島の絵画石碑に繰り返し現れる。北欧神話の図像でもっとも見分けやすい印のひとつ。
アイスランド馬の歩様: アイスランド馬には他の馬にない特殊な歩き方があり、八本足の伝説と結びつけて語られることがある。ただし関係を示す資料は確かめられていない。
スレイプニルが司るもの
交通安全
陸も海も空も走り、乗り手を目的地へ届ける馬とされた。
死者の導き
生者を死者の国へ運び、また連れ帰った唯一の乗り物である。
力
すべての馬のなかで最良と評された。
スレイプニルについてよくある質問
スレイプニルはなぜ足が八本あるのですか。
原典は理由を説明していません。速さを表す絵画的な表現とする説と、他界へ渡る乗り物の古い形とする説があります。
スレイプニルの親は誰ですか。
父は巨人の馬スヴァジルファリ、母はロキです。ロキが雌馬に姿を変えて産みました。
オーディン以外に乗った者はいますか。
ヘルモーズです。バルドルを取り戻すため、死者の国へ下るときにオーディンから借りました。
スレイプニルは実在の遺物に出てきますか。
出てきます。スウェーデン・ゴットランド島のチェングヴィデの絵画石碑などに、八本足の馬が彫られています。
スレイプニルと併せて覚えたい言葉・用語
新エッダ(しんエッダ)
1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。
アースガルズ(Ásgarðr)
アース神族が住む神々の国。虹の橋ビフレストで地上とつながる。
ヴァルハラ(Valhöll)
オーディンの館。「戦死者の館」の意。選ばれた戦士が毎日戦い毎晩よみがえって、ラグナロクに備える。