滝に住む小人。奪われた指輪に、持ち主を滅ぼす呪いをかけた。
アンドヴァリとは何の神様か
アンドヴァリはひとことで言えば呪いをかけた小人です。滝の近くに住み、自分の意志で魚に姿を変えられました。名は「吝嗇なもの」と解されます。
持っていたのは、財産を増やす魔法の指輪アンドヴァラナウトです。これが物語を動かします。
賠償の黄金を集めていたロキが、女神ラーンから借りた網でこの小人を捕らえました。黄金をすべて差し出させ、隠していた指輪も見つけて取り上げます。
返してほしいという願いは容れられませんでした。そこでこの小人は言い放ちます。その指輪を手にした者は、必ず破滅する。
呪いはそのとおりに働きました。竜となったファフニールも、竜を討った英雄シグルズも、黄金とともに滅びます。北欧神話でもっとも遠くまで届いた一言です。
アンドヴァリの名前の表記と読み方
古ノルド語では Andvari(アンドヴァリ)。「吝嗇なもの」、つまりけちんぼを意味すると解されます。「用心深い者」と読む説もあります。
指輪の名アンドヴァラナウトは「アンドヴァリの持ちもの」という意味です。奪われたあとも、持ち主の名が付いたままの指輪ということになります。誰の手に渡っても、この小人のものであり続ける。名前そのものが呪いの一部のように働いています。
ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』に出る小人アルベリッヒには、この小人の性格の一部が取りこまれました。ただし多くの部分は、フランクの魔法使いアルベリッヒから来ています。
Andvari(アンドヴァリ)
古ノルド語の表記。「吝嗇なもの」「用心深い者」などと解される。
Andvaranautr(アンドヴァラナウト)
「アンドヴァリの持ちもの」。呪いをかけられた指輪の名。
Alberich(アルベリッヒ)
ワーグナーの楽劇に出る小人。この小人の性格の一部が取りこまれている。
アンドヴァリの物語
カワウソの賠償 ─ 黄金が要る
網にかかる ─ 魚に化けても
滝に住むこの小人は、自分の意志で魚に姿を変えられました。 カワカマスに化けて水中に潜みます。
ロキは女神ラーンのもとへ行き、網を借りました。溺れた者を引き寄せるあの網です。
網は逃がしませんでした。捕らえられた小人は、黄金をすべて差し出すよう強要されます。
海の女神の道具が、滝の小人を捕らえた。 一行の記述ですが、北欧神話のなかで意外な二人が結ばれる場面です。
小人は黄金を渡しました。ただし指輪だけは隠します。 財産を増やす力を持つ指輪だからです。
しかしロキに見とがめられ、それも取り上げられました。返してくれと懇願しましたが、聞き入れられません。
呪い ─ 手にした者は破滅する
すべてを失ったこの小人が最後にしたのは、呪いをかけることでした。
指輪の恩恵が誰の手にも渡らないように。そう願って、手に入れた者は破滅すると言い残します。
ロキは黄金をフレイズマルに引き渡したあとで、呪いのことを告げました。わざと後から言っています。
呪いはすぐ働き始めました。フレイズマルは息子ファフニールに殺されます。ファフニールは黄金を独占して竜になり、弟レギンにそそのかされた英雄シグルズに討たれます。シグルズは欺きが露見して殺され、ブリュンヒルドは火葬の炎に身を投じました。
誰ひとり、この黄金を持ったまま生き延びません。
小人の一言が、竜殺しの英雄まで倒した。 北欧神話でもっとも効き目の長かった呪いです。
取り戻す ─ そして指輪は消える
この物語には、あまり知られていない続きがあります。
ブリュンヒルドとシグルズが死んだあと、黄金はグンナルの手に渡りました。グンナルはそれを洞窟に残します。
そしてこの小人が、洞窟を見つけました。黄金を取り戻します。
ただし、指輪だけは永遠に失われました。
奪われたものは戻り、いちばん惜しんだものは戻らない。 呪いの物語としては、これ以上ないほど整った幕引きです。
この筋は、ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』にも形を変えて受け継がれました。楽劇に出る小人アルベリッヒには、この小人の性格の一部が入っています。
アンドヴァリの家系図と家族
アンドヴァリの親: ドワーフこの一族の一人
アンドヴァリの性格と人物像
アンドヴァリは、奪われる側の言い分を残した存在です。
神話に出てくる小人の多くは、宝を作る職人として描かれます。ドヴェルグたちはミョルニル?もグングニルも作りましたが、作った理由も報酬も、ほとんど語られません。
この小人は違います。言い返しています。 返してくれと頼み、断られ、呪いをかけました。
神々の側から見れば、賠償のための正当な取り立てです。小人の側から見れば、押し入られて全財産を奪われた話です。
北欧神話は、この二つの見方を並べたままにしています。ロキを責めもしなければ、小人を悪役にもしません。
そして結果として、取り立てた側が全員滅びます。 呪いという形をとっていますが、読み方によっては報いの物語です。
名の意味が「吝嗇なもの」であることは、記録した側の目線を示しています。それでも、この小人の言い分は消えずに残りました。
アンドヴァリゆかりの地と遺跡
この小人を祀った場所は見つかっていません。 小人は祀られる側ではありませんでした。
物語のうえでのゆかりの地は、住みかである滝です。原典はアンドヴァリの滝と呼びますが、地上のどこかに比定できる場所ではありません。ただし、この小人から始まる竜殺しの物語は石に刻まれて残りました。スウェーデンのラムスンドの岩絵がその代表で、竜を討つシグルズと、指をなめる場面が彫られています。
アンドヴァリが現代に残した痕跡
この小人の名は、指輪の名と、近代の楽劇に残りました。
アンドヴァラナウト: 「アンドヴァリの持ちもの」を意味する指輪の名。奪われたあとも、もとの持ち主の名が付いたままだった。
ワーグナーの小人アルベリッヒ: 楽劇『ニーベルングの指環』に出る小人。この小人の性格の一部が取りこまれている。ただし多くはフランクの魔法使いアルベリッヒに由来する。
ラムスンドの岩絵: スウェーデンに残る十一世紀の線刻画。この小人の黄金から始まる竜殺しの物語が、一枚の岩に順を追って彫られている。
アンドヴァリが司るもの
財産
財産を増やす魔法の指輪を持っていたことによる。
ものづくり
宝を作り、蓄えるドヴェルグの一族に属する。
アンドヴァリについてよくある質問
アンドヴァリとは誰ですか。
滝の近くに住む小人です。自分の意志で魚に姿を変えられ、財産を増やす魔法の指輪アンドヴァラナウトを持っていました。
なぜ黄金を奪われたのですか。
ロキがカワウソ姿のオトを誤って殺し、その賠償の黄金を集めるためです。ロキは女神ラーンから借りた網でこの小人を捕らえ、すべて差し出させました。
呪いはどうなりましたか。
そのとおりに働きました。フレイズマル、ファフニール、シグルズ、ブリュンヒルドと、黄金に関わった者は次々に滅びます。
指輪は最後にどうなりましたか。
グンナルが洞窟に残した黄金を、この小人が見つけて取り戻しました。ただし指輪だけは永遠に失われたと伝えられます。
アンドヴァリと併せて覚えたい言葉・用語
ミョルニル(Mjölnir)
トールの槌。投げれば必ず手に戻る。小人が作ったが、ロキの妨害で柄が短くなった。