光り輝く小神族。神々と並べて数え上げられる、もう一つの一族。
エルフとは何の神様か
エルフはひとことで言えばもう一つの一族です。古ノルド語ではアールヴ(Álfar)といいます。
古エッダ?には「アース神族?とアールヴは」という言い回しが繰り返し現れます。神々を数え上げるとき、必ず並べて呼ばれる存在でした。 添え物ではなく、対等に置かれています。
新エッダ?は二つに分けます。光のアールヴは太陽より美しく、アルフヘイムに住む。闇のアールヴは瀝青(れきせい・天然のアスファルト)より黒く、地の下に住む。
この分け方には昔から異論があります。闇のアールヴの説明が、小人ドヴェルグの説明とほとんど同じだからです。スノッリが整理のために作った区分ではないか、という見方が根強くあります。
司るのは自然と実りです。病を治す力があるとされ、アールヴに供物を捧げるアールヴァブロートという祭りが行われていました。
エルフの名前の表記と読み方
古ノルド語では álfr(アールヴ)、複数形 álfar。この語が英語の elf になりました。
日本語では「妖精」と訳されることが多いのですが、原典のアールヴは羽の生えた小さな存在ではありません。 姿かたちの描写がほとんど無いのが実情です。
人名にも残りました。アルフレッド(Ælfrēd)は古英語で「アールヴの助言」を意味します。北欧の地名にも「アールヴの〜」という形が各地にあります。
Álfar(アールヴァル)
古ノルド語の複数形。単数はアールヴ(álfr)。
Ljósálfar(リョースアールヴァル)
「光のアールヴ」。新エッダの区分。
Dökkálfar(デックアールヴァル)
「闇のアールヴ」。同じく新エッダの区分で、小人と重なる。
エルフの物語
アルフヘイム ─ 乳歯の祝いに贈られた世界
アールヴの住む世界がアルフヘイムです。九つの世界のひとつに数えられます。
古エッダ『グリームニルの言葉』は、この土地の持ち主をこう歌います。
アルフヘイムを、神々はかつてフレイに与えた。彼が最初の歯を得たときの贈り物として。
乳歯が生えた祝いに世界をひとつ贈る、という言い方です。北欧には歯の贈り物という習わしがあり、その古い形が神話に取りこまれています。
豊穣神フレイがアールヴの土地を治めているという一点は、この一族が実りと結びついていたことを示します。
光と闇 ─ 分けたのは誰か
新エッダ『ギュルヴィたぶらかし』はこう記します。
光のアールヴは太陽よりも美しく見える。だが闇のアールヴは瀝青よりも黒い。
きれいに二分されているようですが、問題があります。闇のアールヴの住む場所として挙げられるのが、小人の国スヴァルトアールヴヘイムだという点です。
古エッダには、この二分法がまったく出てきません。ドヴェルグとアールヴは別々に数えられており、闇のアールヴという分類そのものが、スノッリの整理によるのではないかと疑われています。
研究者の多くは、光と闇の対比をキリスト教の天使と堕天使の影響と見ています。
アールヴァブロート ─ 実際に行われた祭り
この一族は、物語の中だけの存在ではありませんでした。アールヴに捧げる祭りが実際に行われていた記録が残っています。
『ヘイムスクリングラ』に収められた詩に、アイスランドの詩人が晩秋のスウェーデンで宿を求めたところ、アールヴァブロート(アールヴの犠牲祭)の最中だからと五軒続けて断られる場面があります。
また『コルマクのサガ』には、傷が治らない男に「丘に住むアールヴのために雄牛を屠り、その血を丘に塗れ」と助言する場面があります。
神話の脇役に見えるこの一族が、家々でもっとも身近に祀られていた可能性があります。 大きな神殿の神ではなく、土地と家の神でした。
トールキン以後 ─ 姿を与えられる
現代の作品に出てくる、背が高く耳の尖った美しいエルフ像は、トールキンの『指輪物語』が作ったものです。
トールキンは古英語とエッダの語をていねいに拾い、ほとんど描写の無かったアールヴに、寿命・言語・歴史を与えました。それが指輪物語の成功とともに世界中へ広がります。
日本のファンタジー作品では「森に住む種族」の印象が強く、森人という当て字が使われることもあります。
原典のアールヴは、森に住むとも耳が尖っているとも書かれていません。知られている姿は、ほとんどすべて後から加えられたものです。
エルフの家系図と家族
エルフの性格と人物像
アールヴは、輪郭の無い一族です。
名前は繰り返し出てくる。祭りも行われていた。それなのに、姿も、数も、指導者も、まとまった物語も残っていません。名の知れた個体は、鍛冶のヴェルンドが「アールヴの長」と呼ばれるくらいです。
これは記録が失われたというより、もともと個体として語られる存在ではなかったからだと考えられます。土地に、丘に、家のそばにいる。名前も顔も要らない。
輪郭が無いからこそ、後の世が自由に姿を与えられました。 いま世界中で愛されているエルフ像は、その空白の上に建っています。
エルフゆかりの地と遺跡
アールヴを祀った建物は見つかっていません。 祭りが家々で行われていたため、専用の社が建てられなかったと考えられます。
かわりに残ったのが地名です。ノルウェーとスウェーデンには「アールヴ」を含む地名が各地にあり、スウェーデンのウップランド地方にはアルフタ(Alfta)などが伝わります。ただし川を意味する語(älv)と紛れやすく、どれがこの一族に由来するかを一つずつ確かめるのは難しいのが現状です。
エルフが現代に残した痕跡
この一族の名は、人の名と土地の名として、いまも北ヨーロッパに広く残っています。
英語の elf: 古英語の ælf がそのまま現代英語になった。北欧語からではなく、ゲルマン語に共通していた語である。
人名アルフレッド: 古英語の Ælfrēd で「アールヴの助言」の意。アルヴィン、アルベルトなども同系の名とされる。
アールヴァブロート: 晩秋に家々で行われたアールヴへの犠牲祭。『ヘイムスクリングラ』の詩に、その最中で宿を断られる場面が残る。
エルフが司るもの
豊穣
実りをもたらす小神族とされ、収穫のあとに供物が捧げられた。
医薬
アールヴに雄牛を捧げて傷を治す助言がサガに残る。
土地の守り
丘や岩に宿り、その場所を守るとされた。
エルフについてよくある質問
エルフは北欧神話の神様ですか。
神々と並べて数え上げられる小神族です。アース神族・ヴァン神族とは別の一族で、自然と実りを司ります。
エルフとドワーフは同じものですか。
古エッダでは別々に数えられます。ただし新エッダの「闇のアールヴ」の説明が小人の説明とほとんど同じため、区分そのものを疑う見方があります。
エルフはどこに住んでいますか。
九つの世界のひとつアルフヘイムです。豊穣神フレイが乳歯の生えた祝いに贈られた土地とされます。
耳が尖っているのは原典に書かれていますか。
書かれていません。背が高い、耳が尖っている、森に住むといった特徴は、いずれも近代以降、とくにトールキン以降に加えられたものです。
エルフと併せて覚えたい言葉・用語
アース神族(あーすしんぞく)
オーディンを主神とする神々の一族。戦いと支配を担う。アースガルズに住む。
古エッダ(こエッダ)
詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。
新エッダ(しんエッダ)
1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。