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北欧神話

ニョルズとは何の神様か|家系図・物語・ゆかりの地

Njörðr  / ニョルズ

ヴァン神族

海と航海の神。山の女と結婚し、住む場所で争った。

ニョルズの姿を描いた図

Vysotsky 「ニョルズ(ライデン)」 / CC BY-SA 3.0 出典

ニョルズとは何の神様か

ニョルズはひとことで言えば海で稼ぐ神です。海・航海・漁業、そしてを司ります。

新エッダはその力をこう記します。

彼は風を支配し、海と炎を鎮める。航海と漁のために、この神に祈るがよい。 彼はきわめて富み、土地でも財でも、求める者に与える。

ヴァン神族の神で、フレイフレイヤの父にあたります。

この神を有名にしているのは、しかし海ではありません。結婚生活です。

巨人の娘スカジと結ばれましたが、ニョルズは海辺に住みたく、スカジは山に住みたかった。九夜ずつ交互に暮らすという取り決めをしたものの、双方とも耐えられず、結局別れます。

住む場所が合わずに別れる。 神話には珍しい、生活感のある結末です。

ニョルズの名前の表記と読み方

古ノルド語では Njörðr。日本語では「ニョルズ」「ニョルド」の両方が使われます。

興味深いのは、この名が1世紀の記録に残る女神ネルトゥスと同じ語だという点です。ローマの歴史家タキトゥスは、ゲルマンの部族が大地の母ネルトゥスを祀り、牛車に載せた神像を巡幸させたと記しました。

女神が、千年のあいだに男神へ変わった。 あるいは、もともと男女一対の神だったとも考えられています。

Njörðr(ニョルズ)

古ノルド語の表記。日本語では「ニョルド」とも書かれる。

Nerthus(ネルトゥス)

1世紀のローマ人タキトゥスが記録したゲルマンの女神。言語学的にニョルズと同じ名にあたる。

Nóatún(ノーアトゥーン)

住まいの名で「船の囲い(船着き場)」の意。

ニョルズの物語

  1. 人質として渡る ─ 富をもたらす神
  2. 足だけで夫を選ばれる ─ 奇妙な結婚
  3. 九夜ずつ ─ 山と海の生活
  4. 子の母は誰か ─ 語られない事実
  5. ラグナロク ─ ただひとり帰る神

人質として渡る ─ 富をもたらす神

アース神族とヴァン神族の戦争が和睦したとき、ニョルズは子のフレイ・フレイヤとともに人質としてアースガルズへ送られました。

しかしこの神は、単なる人質ではありませんでした。アース神族に富をもたらす存在として遇されます。

彼はきわめて富み、豊かである。土地でも財でも、求める者に与えることができる。

住まいはノーアトゥーン、「船の囲い」を意味する海辺の館です。

古い時代の北欧において、海は道であり、財産でした。 漁も交易も略奪も、すべて船で行われます。海を鎮める神は、そのまま経済の神でした。

農民がフレイに祈り、船乗りと商人がニョルズに祈った。 親子で守備範囲を分け合っていたことになります。

足だけで夫を選ばれる ─ 奇妙な結婚

巨人スィアチが神々に殺されたあと、その娘スカジが武装して単身アースガルズへ乗り込んできました。

神々は賠償を申し出ます。条件は二つ。

神々のなかから夫を一人選んでよい。ただし足だけを見て選ぶこと。 そして、スカジを笑わせること。

スカジは並んだ足を見比べました。もっとも美しい足を選び、こう言います。

これを選ぶ。バルドルには醜いところなど何もないだろうから。

選んだ足はニョルズのものでした。

海辺で暮らす神の足が、いちばん綺麗だった。潮と砂に洗われていたからという説明が後世に付け加えられています。

もうひとつの条件はロキが果たしました。山羊と自分の体を紐で結び、引っ張り合って転げ回り、スカジはついに笑いました。

こうして間違って選ばれた結婚が成立します。

九夜ずつ ─ 山と海の生活

二人は取り決めをしました。山で九夜、海辺で九夜、交互に暮らす。

結果は、古エッダにそのまま残っています。

まず山のスリュムヘイムで九夜を過ごしたあと、ニョルズはこう言いました。

山は忌まわしい。 私はそこに長くはいなかった。九夜だけだ。狼の遠吠えが、白鳥の歌に比べてどれほど耳障りだったことか。

次に海辺のノーアトゥーンで九夜を過ごしたスカジは、こう答えます。

私は眠れなかった。 海辺の寝床では、鳥の騒ぎ声のせいで。毎朝やってくる海鳥が、私を目覚めさせるのだ。

どちらも相手の土地に耐えられませんでした。

二人は別れます。スカジは山へ戻り、スキーと弓を持って狩りをして暮らしました。

神話のなかで、これほど生活が具体的に描かれる場面はほかにありません。 相手が嫌いになったのではなく、環境が合わなかっただけです。

子の母は誰か ─ 語られない事実

ニョルズには、フレイとフレイヤという子がいます。

しかし母はスカジではありません。

新エッダはこう記します。

ニョルズはノーアトゥーンで、自らの妹との間に二人の子をもうけた。ヴァン神族のもとでは、そうすることが許されていた。

アース神族では禁じられていた婚姻が、ヴァン神族では認められていた。だからアースガルズへ渡ったあとは、その関係は続けられませんでした。

ロキは「ロキの口論」でこの点を突きます。

おまえは自分の妹との間に、そのような子をもうけたのだ。

神族が違えば掟も違う。 人質交換とは、掟の違う集団に身を置くことでもありました。

この妹の名は、どこにも記されていません。ネルトゥスがその女神ではないかとする説があります。

ラグナロク ─ ただひとり帰る神

終末の日、ほとんどの神が死にます。

しかしニョルズについて、古エッダはまったく違うことを記しています。

世界が滅びるとき、ニョルズは賢明な力のもとへ帰るだろう。

「賢明な力」とはヴァン神族のことです。

戦って死ぬのではなく、故郷へ帰る。

北欧神話の神々のなかで、この結末を与えられているのはニョルズだけです。

人質として送られ、間違って選ばれて結婚し、住む場所が合わずに別れ、そして終末には元いた場所へ戻っていく。

最初から最後まで、この神はアース神族の一員ではありませんでした。

ニョルズの家系図と家族

ニョルズの妻・夫: スカジ

ニョルズの子・子孫: フレイフレイヤ

ニョルズの性格と人物像

ニョルズは、争わない神です。

北欧神話の神々は、たいてい何かと戦います。この神は戦いません。武器の話も、敵と対決した話も残っていません。

代わりに残っているのは、風を鎮め、船を守り、財を与えるという記述と、妻と暮らせなかったという話です。

注目すべきは、スカジとの別れ方です。どちらも相手を責めていません。 ニョルズは山が嫌だと言い、スカジは海が眠れないと言った。それだけです。

恨みも呪いもなく、ただ合わなかったから離れた。

神話に出てくる別離としては、異例なほど穏当です。

そして終末では、戦わずに故郷へ帰る。始めから終わりまで、この神は誰とも争いませんでした。 北欧神話のなかで、もっとも静かな神です。

ニョルズゆかりの地と遺跡

ニョルズの神殿は見つかっていませんが、地名は豊富に残っています。 しかもそのほとんどが海沿いです。

古い誓いの言葉に「ニョルズとフレイと全能のアースにかけて」という定型があり、法廷で誓約を立てるときに名を呼ばれたことが分かっています。物語での出番は少なくても、日々の暮らしのなかでは頻繁に口にされた神でした。

ニェルディャルヴィーク(Njarðvík)

この神の名を持つ港町

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ニェルディャルヴィークの住所: アイスランド レイキャネス半島

ニェルディャルヴィークに残るもの: 地名

「ニョルズの入り江」を意味する地名です。アイスランドの国際空港のある町として知られています。

ノルウェーやスウェーデンにも、この神の名を含む地名が数多く残っています。 いずれも海に面した場所であることが特徴です。

地名の分布が、そのままこの神の性格を示しています。

ケプラヴィーク国際空港の所在地として今も港町である。

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ネルトゥスの祭地(Nerthus)

1世紀の記録に残る祭祀

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ネルトゥスの祭地の住所: デンマーク・ドイツ北部(比定地は未確定)

ネルトゥスの祭地に残るもの: 文献記録

ローマの歴史家タキトゥスが『ゲルマニア』に記した祭祀です。ゲルマンの諸部族が大地の母ネルトゥスを祀り、牛車に載せた神像を各地へ巡幸させたとされます。

女神が去ると、車と布と、そして神そのものが湖で洗われた。その務めを果たした奴隷たちは、ただちに湖に呑まれた。

ネルトゥスはニョルズと言語学的に同じ名です。千年をへだてた二つの記録が、同じ神を指している可能性があります。

正確な祭地は特定されていない。デンマークの湖沼が候補とされる。

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ニョルズが現代に残した痕跡

ニョルズの名は、地名と誓いの言葉として残りました。

ニェルディャルヴィーク(アイスランド): 「ニョルズの入り江」の意。現在も港町であり、国際空港が置かれている。

ノルウェー・スウェーデンの海沿いの地名: この神の名を含む地名が数十例確認されており、いずれも海に面している。

古い誓いの定型句: 「ニョルズとフレイと全能のアースにかけて」という誓いの言葉が、アイスランドの法に関する記録に残る。

タキトゥスのネルトゥス: 1世紀のローマの記録に現れる大地の女神。ニョルズと同じ名にあたり、北欧神話の神が実在の信仰にさかのぼる証拠とされる。

ニョルズが司るもの

航海安全

風を支配し海を鎮める。船出のときにこの神へ祈った。

大漁

漁のために祈るべき神と新エッダに明記されている。

富・財産

きわめて富み、土地でも財でも求める者に与えるとされる。

交易

海が道であった時代、海を鎮める神は商いの守り手でもあった。

ニョルズが登場するゲーム・アニメ

創作での出番はほとんどありません。 戦わず、争わず、宝物の逸話もない神は、物語の材料になりにくいためです。

しかし当時の船乗りにとっては、もっとも切実な神でした。海に出るたび、この神の名が呼ばれていたはずです。

ニョルズが登場するゲーム

God of War ラグナロク

ヴァン神族として言及されます。

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女神転生シリーズ

海の神として登場します。

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ファイナルファンタジーシリーズ

装備や召喚の名として使われることがあります。

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ニョルズが登場するアニメ・漫画・映像

ヴァルキリープロファイル

ヴァン神族の神として登場します。

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マグメル深海水族館

直接の登場ではありませんが、海神の名が用いられる例があります。

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ニョルズについてよくある質問

ニョルズは何の神様ですか。

海・航海・漁業・富を司るヴァン神族の神です。風を支配し海を鎮めるため、船出や漁の前に祈られました。

ニョルズとスカジはなぜ別れたのですか。

住みたい場所が合わなかったためです。ニョルズは海辺、スカジは山を望み、九夜ずつ交互に暮らしましたが、ニョルズは狼の遠吠えに、スカジは海鳥の声に耐えられず別居しました。

フレイとフレイヤの母は誰ですか。

スカジではありません。新エッダによれば、ニョルズがヴァン神族にいたころ自らの妹との間にもうけた子とされます。この妹の名は記されていません。

ニョルズはラグナロクで死にますか。

死にません。古エッダは「世界が滅びるとき、ニョルズは賢明な力(ヴァン神族)のもとへ帰る」と記します。故郷へ帰ると明記された唯一の神です。

ネルトゥスとニョルズは同じ神ですか。

名は言語学的に同じです。ネルトゥスは1世紀のローマの記録に現れる大地の女神で、千年をへだてて性別が入れ替わった、あるいはもともと男女一対の神だったと考えられています。

ニョルズと併せて覚えたい言葉・用語

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。

ヴァン神族(ヴぁんしんぞく)

豊穣と富を担う神々の一族。アース神族と戦って和睦し、ニョルズ・フレイ・フレイヤが人質としてアースガルズへ渡った。

アースガルズ(Ásgarðr)

アース神族が住む神々の国。虹の橋ビフレストで地上とつながる。

アース神族(あーすしんぞく)

オーディンを主神とする神々の一族。戦いと支配を担う。アースガルズに住む。

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

誓約(うけい)

神意を問うための占い。あらかじめ結果の意味を決めておき、どちらが起きるかで是非を判断する。