雪山と狩りの巨人。父の仇討ちに神々の館へ乗り込んだ。

W Engelhard 「ノアトゥーンへ向かうニョルズとスカジ」 / パブリックドメイン 出典
スカジとは何の神様か
スカジはひとことで言えば乗り込んできた神です。
巨人スィアチの娘。父が神々に殺されたと知ると、兜と鎧を身につけ、武器を持って、単身アースガルズ?へ向かいました。
復讐に来た巨人に対し、神々は戦いませんでした。賠償を申し出ます。
条件は二つ。神々のなかから夫を一人選んでよい、ただし足だけを見て選ぶこと。 そして、スカジを笑わせること。
スカジはもっとも美しい足を選びました。バルドルだと思ったその足は、海の神ニョルズのものでした。
結婚は続きませんでした。海辺に住みたいニョルズと山に住みたいスカジは、九夜ずつ交互に暮らした末に別れます。
そして山へ戻り、スキーを履き、弓を持って狩りをして生きました。
スカンディナヴィアという地名は、この女神の名に由来するという説があります。
スカジの名前の表記と読み方
古ノルド語では Skaði。日本語では「スカジ」「スカディ」の両方が使われます。
注目されているのは、スカンディナヴィア(Scandinavia)の語源とする説です。ゲルマン祖語で「スカジの島」を意味する語にさかのぼるという解釈があります。
確定はしていませんが、半島そのものに名を残した可能性のある神ということになります。
Skaði(スカジ)
古ノルド語の表記。「害」「影」を意味する語と関係するとされるが、語源は定まっていない。
Öndurdís(オンドゥルディース)
「スキーの女神」の意。狩りと雪山の性格を表す別名。
Þrymheimr(スリュムヘイム)
住まいの名で「轟きの家」の意。父から受け継いだ山の館。
スカジの物語
- 父を殺される ─ 林檎をめぐる事件
- 単身で乗り込む ─ 復讐に来た巨人
- 足だけを見る ─ 選び間違えた夫
- 笑わされる ─ ロキと山羊
- 九夜ずつ ─ 山と海で暮らせない
- ロキを縛る場に立つ ─ 蛇を吊るしたのは誰か
父を殺される ─ 林檎をめぐる事件
単身で乗り込む ─ 復讐に来た巨人
新エッダ?の記述は簡潔です。
スカジは兜と鎧をつけ、すべての武器を身につけて、父の復讐のためにアースガルズへ向かった。
女性の巨人が、たった一人で神々の国へ乗り込む。 北欧神話にほかに例のない場面です。
神々の反応も意外なものでした。戦いませんでした。
神々は彼女に和解を申し出た。賠償として。
殺す気で来た相手に、話し合いを持ちかけたのです。
スカジは受けました。ただし条件をこちらから出します。夫を一人もらう。 そして、私を笑わせること。
彼女はもう二度と笑えないと思っていた。
笑えないほど悲しかった。だから、笑えるものなら笑わせてみろと言ったのです。
足だけを見る ─ 選び間違えた夫
神々は条件をひとつ付け加えました。夫は足だけを見て選ぶこと。 顔も体も見てはいけない。
幕が張られ、下から足だけが並びます。
スカジは見比べました。もっとも整った、傷ひとつない美しい足がありました。
これを選ぶ。バルドルには醜いところなど何もないだろうから。
幕が上がりました。
それはバルドルではなく、海の神ニョルズの足でした。
海辺に暮らす神の足が、いちばん綺麗だった。潮と砂に洗われていたからという説明が、後世に付け加えられています。
復讐に来て、望まぬ相手と結婚することになった。しかもその選択は、自分の目で選んだ結果です。
笑わされる ─ ロキと山羊
もうひとつの条件が残っていました。スカジを笑わせること。
神々は誰も笑わせられません。そこで名乗り出たのがロキでした。
ロキは山羊を連れてきて、紐の一端を山羊の髭に、もう一端を自分の体に結びつけます。
そして引っ張り合いを始めました。
両者は互いに引き合い、どちらも大声で鳴き叫んだ。 ついにロキはスカジの膝の上に倒れ込んだ。
スカジは笑いました。
こうして和解は成立します。
興味深いのは、父を殺す原因を作ったのがロキだったことです。イズンをさらわせたのも、その後始末をしたのも、この神でした。
父を死なせた張本人に笑わされて、復讐を終える。 スカジの物語には、こういう捻れが最初から入っています。
オーディンはさらに賠償として、スィアチの目を天に投げ上げ、二つの星にしました。
九夜ずつ ─ 山と海で暮らせない
結婚生活は取り決めから始まりました。山で九夜、海辺で九夜、交互に暮らす。
まず山のスリュムヘイムで九夜。ニョルズはこう言いました。
山は忌まわしい。 九夜しかいなかったが、狼の遠吠えが、白鳥の歌に比べてどれほど耳障りだったことか。
次に海辺のノーアトゥーンで九夜。スカジはこう答えます。
私は眠れなかった。 毎朝やってくる海鳥の騒ぎ声に起こされて。
どちらも譲りませんでした。
スカジは山へ戻ります。そして、こう描かれます。
彼女はスキーを履き、弓を持って、獣を射て暮らした。
結婚に失敗したのではなく、自分の生き方に戻っただけです。この女神は、最初から山の生き物でした。
ロキを縛る場に立つ ─ 蛇を吊るしたのは誰か
スカジは、もう一度重要な場面に現れます。
ロキが捕らえられ、岩に縛られたときです。
神々はロキの子を殺し、その腸で父を岩に縛りつけました。そのあと──
スカジは毒蛇を取ってきて、ロキの上に吊るした。 毒が彼の顔に滴り落ちるように。
この罰を考えたのは、スカジです。
古エッダ?「ロキの口論」でも、この女神はロキにこう言い放っています。
おまえの言葉は軽い。だが長くは続くまい。神々はおまえを、おまえの子の腸で岩に縛るだろう。
ロキは答えます。「知っている。それを最初に提案するのはおまえだろう、スカジ。」
父の仇を、最後に自分の手で取った。 笑わされて和解したように見えて、この女神は忘れていませんでした。
スカジの家系図と家族
スカジの性格と人物像
スカジは、譲らない神です。
父を殺されれば単身で乗り込み、賠償の条件は自分で出し、夫を自分の目で選び、暮らせないと分かれば別れて山へ帰る。そして最後に、父の仇を自分の手で罰します。
この女神には、他人に従った場面がひとつもありません。
注目すべきは、神々の側の態度です。戦わずに賠償を申し出ました。 巨人が相手なら普通は殺します。トールなら間違いなくそうしたはずです。
それをせず、和解の席を用意した。この巨人は、殺すより迎え入れたほうがよいと判断されたということです。
実際、スカジはこのあとアース神族?の側の存在として扱われます。 巨人でありながら、神々の集会に列席し、ロキを裁く場に立つ。
外から乗り込んできて、内側に居場所を作った神。 北欧神話でこれができたのは、この女神だけです。
スカジゆかりの地と遺跡
スカジを祀った神殿は見つかっていません。 残っているのは地名だけです。
しかしその地名は山にあります。 海沿いに散らばるニョルズの地名と、正反対の場所に残った。
九夜ずつ交互に暮らして別れた二柱が、地図の上でも別々の場所にいる。 物語と地名がこれほど一致する例は多くありません。
スカンディナヴィア半島(Scandinavia)
地名になった可能性のある女神
スカンディナヴィア半島の住所: ノルウェー・スウェーデン一帯
スカンディナヴィア半島に残るもの: 地名
スカンディナヴィアという地名は、ゲルマン祖語で「スカジの島」を意味する語にさかのぼるという説があります。
確定はしていません。「危険な浅瀬」を意味する語とする対立説もあります。
ただし、もし正しければ、半島の名そのものがこの女神の名ということになります。北欧神話の神で、これほど大きなものに名を残した例はほかにありません。
語源については現在も議論が続いている。
スカジが現代に残した痕跡
スカジの名は、地名と、冬の暮らしの道具に残りました。
スカンディナヴィアの語源説: ゲルマン祖語で「スカジの島」を意味する語にさかのぼるとする説がある。確定はしていないが、有力な解釈のひとつとされる。
スキーの女神という別名: オンドゥルディース(スキーの女神)と呼ばれた。北欧でスキーが移動手段であった時代の生活が、そのまま神の姿になっている。
スウェーデン内陸の地名: この女神の名を含むとされる地名は山地に集中する。海沿いに残るニョルズの地名と対照をなす。
「笑わない女を笑わせる」筋書き: ギリシャ神話のデメテルとバウボなど、他の神話にも同じ型がある。悲しみを笑いで断ち切るという古い発想を示す。
スカジが司るもの
狩り
スキーと弓で獣を射て暮らしたとされる。狩人の守り手である。
冬・雪山
「スキーの女神」という別名を持ち、雪の山そのものを体現する。
復讐・意志を通すこと
単身で乗り込み、賠償を勝ち取り、最後に自ら罰を下したことによる。
スカジが登場するゲーム・アニメ
「足で夫を選んだ女神」として記憶されがちですが、原典のスカジはもっと激しい神です。
単身で武装して乗り込み、賠償を自分で決め、最後にロキへの罰を提案する。創作ではこの側面がほとんど描かれません。
スカジが登場するゲーム
スカジが登場するアニメ・漫画・映像
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スカジについてよくある質問
スカジは何の神様ですか。
雪山と狩りを司る女神です。もとは巨人ですが、神々と和解したあとはアース神族の側の存在として扱われます。
スカジはなぜアースガルズへ乗り込んだのですか。
父スィアチが神々に殺されたためです。兜と鎧をつけ、武器を持って単身で復讐に向かいました。
スカジはなぜニョルズと結婚したのですか。
賠償として夫を一人選ぶ権利を得ましたが、足だけを見て選ぶという条件でした。もっとも美しい足をバルドルだと思って選んだところ、それはニョルズの足でした。
スカジとニョルズはなぜ別れたのですか。
住みたい場所が合わなかったためです。九夜ずつ山と海辺で交互に暮らしましたが、ニョルズは狼の遠吠えに、スカジは海鳥の声に耐えられませんでした。
スカンディナヴィアはスカジの名前ですか。
そう考える説があります。ゲルマン祖語で「スカジの島」を意味する語にさかのぼるという解釈ですが、確定はしていません。
ロキに毒蛇を吊るしたのは誰ですか。
スカジです。神々がロキを岩に縛ったあと、この女神が毒蛇を取ってきて頭上に吊るし、毒が顔に滴るようにしました。
スカジと併せて覚えたい言葉・用語
アースガルズ(Ásgarðr)
アース神族が住む神々の国。虹の橋ビフレストで地上とつながる。
新エッダ(しんエッダ)
1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。
古エッダ(こエッダ)
詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。
アース神族(あーすしんぞく)
オーディンを主神とする神々の一族。戦いと支配を担う。アースガルズに住む。