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北欧神話

トールとは何の神様か|家系図・物語・ゆかりの地

Þórr  / トール

アース神族

雷神。槌ミョルニルを振るい、巨人と戦い続ける。

トールの姿を描いた図

エミール・デプラー 「スクリューミルとトール」 1905年 / パブリックドメイン 出典

トールとは何の神様か

トールはひとことで言えば雷の神です。名がそのまま「雷」を意味し、英語の Thursday(トールの日)の語源になっています。

この神の役割は明確です。巨人から世界を守ること。 神話に登場する回数は主神オーディンより多く、その大半が巨人との戦いです。

武器は投げれば必ず手に戻る槌ミョルニル。力帯メギンギョルズを締めると力が倍加し、鉄の手袋で槌を握ります。二頭の山羊が引く車に乗り、その轟きが雷鳴とされました。

信仰の広さでは主神を上回ります。 オーディンが王侯や詩人の神であったのに対し、トールは農民の神でした。ミョルニルを模した護符が北欧各地から大量に出土しています。

トールの名前の表記と読み方

古ノルド語では Þórr「雷」そのものを意味する語です。ドイツ語の Donner(雷)、オランダ語の donder と同語源にあたります。

英語の Thursday は古英語 Þunresdæg「スノル(トール)の日」に由来します。ローマの曜日名では木星(ユピテル)の日にあたり、同じく雷を司る神として対応づけられました。

Þórr(トール)

古ノルド語の表記。Þ は th の音を表す文字。

Thunor(スノル)

古英語での名。英語の Thursday はここから来ている。

Donar(ドナー)

ドイツ語圏での名。現代ドイツ語の Donner(雷)と同じ語。

Ása-Þórr(アーサ・トール)

「アース神族のトール」の意。他のトールと区別する称。

トールの物語

  1. 槌を得る ─ ロキの悪戯から生まれた宝
  2. 槌を盗まれる ─ 花嫁に化ける
  3. 巨人の国へ ─ 負け続ける旅
  4. 大蛇を釣る ─ 一度目の対決
  5. ラグナロク ─ 九歩あゆんで倒れる

槌を得る ─ ロキの悪戯から生まれた宝

ある日、ロキが悪戯でトールの妻シヴの黄金の髪をすべて切り落としました。

激怒したトールに骨を砕くと脅されたロキは、償いのため小人の職人のもとへ走ります。

小人たちは競い合い、次々と宝を作りました。本物より美しい黄金の髪、オーディンの槍グングニルフレイの船と猪。そして最後に作られたのが──

ミョルニル。投げれば必ず標的に当たり、必ず手に戻る槌。ただし柄が短い。

柄が短いのは、鍛造中にロキが虻に化けて職人を刺し、鞴の手が止まったためでした。欠陥がそのまま特徴になっています。

神々はこれを最良の宝と認め、ロキは賭けに負けて口を縫われました。

槌を盗まれる ─ 花嫁に化ける

ある朝、トールは目覚めてミョルニルがないことに気づきます。

巨人スリュムが盗んでおり、返す条件として女神フレイヤを妻に寄こせと要求してきました。フレイヤは激怒して拒みます。

ヘイムダルが案を出しました。

トールが花嫁に化けて行けばよい。

トールは猛烈に抵抗しましたが、ロキに説得されて花嫁衣装を着せられ、侍女に化けたロキとともに巨人の館へ向かいます。

宴の席で「花嫁」は牛一頭と鮭八匹を平らげ、蜜酒三樽を飲み干しました。不審がる巨人に、ロキが「花嫁は八日間何も口にしていなかった」と説明します。ヴェールの下の目が炎のように燃えているのを見咎められると、「八晩眠っていない」と答えました。

祝いの儀式でミョルニルが花嫁の膝に置かれた瞬間、トールは槌を掴み、その場の巨人をすべて打ち倒しました。

北欧神話でもっとも喜劇的な一編です。

巨人の国へ ─ 負け続ける旅

トールとロキが巨人の国ウートガルズを訪ねたときの話です。

巨人の王はトールに三つの競技を持ちかけました。

大食い競争 — 相手に完敗する。
駆けっこ — 従者が完敗する。
角杯の酒を飲み干す — 三口飲んでも減らない。
猫を持ち上げる — 足が一本浮いただけ。
老婆と相撲 — 片膝をつかされる。

トールは屈辱にまみれて帰ろうとします。門を出たところで、巨人の王が種明かしをしました。

大食いの相手は火そのもの。駆けっこの相手は思考。角杯は海につながっており、あなたは海面を下げた。猫は世界を取り巻く大蛇で、あなたはそれを持ち上げかけた。老婆は老いで、老いに片膝で耐えた者はいない。

負けたと思っていたすべてが、実は人知を超えた偉業だった。 種明かしを聞いたトールは槌を振り上げますが、館も巨人も消えていました。

大蛇を釣る ─ 一度目の対決

トールは巨人ヒュミルとともに舟で海へ出ました。

餌に牛の頭をつけて糸を垂らすと、世界を取り巻く大蛇ヨルムンガンドが食いつきます。トールは全力で引き、足が舟底を突き破って海底に達しました。

水面に大蛇の頭が現れ、トールが槌を振り上げた瞬間──

恐怖にかられたヒュミルが糸を切ってしまいます。

大蛇は海に沈み、決着は先送りになりました。トールはヒュミルを海に投げ込みます。

この対決の続きが、ラグナロクです。

ラグナロク ─ 九歩あゆんで倒れる

終末の日、大蛇ヨルムンガンドが海から陸へ這い上がり、毒を吐きながら進んできます。

トールは正面から立ち向かい、ミョルニルで大蛇を打ち倒しました。

しかし、その毒を全身に浴びています。

トールは大蛇を殺し、そこから九歩あゆんで倒れ、死んだ。

勝ったうえで死ぬ。 逃げも、退きもしません。北欧神話の英雄の死に方として、もっとも知られた場面です。

ラグナロクのあと世界は再生し、トールの子マグニとモージが、父の槌ミョルニルを受け継ぎます。

トールの家系図と家族

トールの親: オーディンヨルズ

トールのきょうだい: メイリ

トールの妻・夫: シヴ

トールの子・子孫: ウル義理の親子スルーズマグニ

トールの性格と人物像

トールは、単純で正直な神です。

オーディンが謀り、ロキが欺くなか、この神は正面から向かっていきます。腹を立て、槌を振り上げ、殴る。策略はほとんど使いません。

そのため騙されやすい神でもあります。巨人の国では幻術に翻弄され、負けたと思い込んで帰ります。花嫁に化けるという案には猛烈に抵抗しました。

しかし信仰の広さでは主神を上回ります。オーディンが王と詩人の神であったのに対し、トールは農民の神でした。作物を実らせる雨をもたらし、巨人という災いから世界を守る。日々の暮らしを守る神だったからです。

そして最期は、大蛇を倒したうえで毒に倒れます。勝って死ぬ。 この神らしい終わり方です。

トールゆかりの地と遺跡

トールを祀った神殿は残っていませんが、信仰の証拠はもっとも多く残っています。

ミョルニルを模した護符は北欧全域から千点以上出土しており、アイスランドやノルウェーには Þór- を含む地名と人名が今も大量に残ります。 記録より物のほうが雄弁な神です。

ソルスモルク(Þórsmörk(トールの森))

神名がそのまま残る渓谷

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ソルスモルクの住所: アイスランド南部

ソルスモルクに残るもの: 地名

「トールの森」を意味する渓谷です。三つの氷河に囲まれた谷で、入植者がこの地をトールに捧げたことから名づけられました。

アイスランドの入植者にはトール信仰者が多く、Þór- で始まる人名や地名が各地に残っています。 Þórsteinn(トールの石)、Þórunn などは現在も使われる名前です。

現在はトレッキングの目的地として知られ、夏のあいだ山岳バスが通じています。

悪路のため四輪駆動か専用バスでのみ到達可能。

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デンマーク国立博物館(Nationalmuseet)

ミョルニル護符を多数所蔵

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デンマーク国立博物館の住所: デンマーク コペンハーゲン

デンマーク国立博物館に残るもの: ミョルニル護符

ヴァイキング時代の遺物を所蔵する博物館です。ミョルニルを模した銀や青銅の護符が多数展示されています。

これらの護符は北欧全域から千点以上出土しており、トール信仰が実際に広く行われていた物的証拠です。キリスト教化の時期には、十字架とミョルニルを同じ鋳型で作った例まで見つかっています。

2014年にはデンマークでルーン文字で「これはハンマーである」と刻まれた護符が出土し、この形がミョルニルを指すことが確定しました。

入場無料。ヴァイキング関連の展示が充実している。

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トールが現代に残した痕跡

トールの名は、曜日と天候の言葉として現代に残っています。ドイツ語の Donner(雷)が同じ語源であることは、この神が何を司っていたかを直接示しています。

Thursday(木曜日): 古英語の Þunresdæg「スノル(トール)の日」に由来する。ローマの曜日名では木星ユピテルの日にあたり、同じく雷を司る神として対応づけられた。

ドイツ語 Donnerstag: 「ドナーの日」。Donner は現代ドイツ語で「雷」を意味し、神名がそのまま普通名詞になっている。

人名 Thorsten・Torbjörn: 「トールの石」「トールの熊」の意。北欧では現在も一般的な名前として使われている。

地名 Þórshöfn(トースハウン): フェロー諸島の首都。「トールの港」を意味する。

元素 トリウム(Thorium): 1828年に発見された元素。発見者ベルセリウスがトールにちなんで命名した。

トールが司るもの

守護・魔除け

巨人から世界を守る神であることによる。ミョルニルを模した護符が広く用いられた。

豊穣・農耕

雷と雨をもたらす神として、農民の信仰を集めた。

力・勇気

正面から立ち向かう性格による。

結婚の祝福

婚礼の儀式でミョルニルが花嫁の膝に置かれる習わしがあった。

トールが登場するゲーム・アニメ

現代の作品ではマーベル版の金髪の美男子という印象が定着していますが、原典のトールは赤い髭を蓄えた粗野な大男です。目は鋭く、腹を立てやすく、巨人を見れば槌で殴る。この落差は大きいものです。

トールが登場するゲーム

God of War ラグナロク

巨躯の戦士として登場し、主人公と対決します。原典の粗野な面が強く反映されています。

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Assassin's Creed Valhalla

ミョルニルが最強クラスの武器として入手できます。

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女神転生シリーズ

雷を扱う上位の神格として登場します。

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トールが登場するアニメ・漫画・映像

マイティ・ソー(マーベル)

北欧神話の名を世界に広めた最大の要因です。ただし原典のトールは赤髭で粗野な大男であり、容姿も性格も大きく異なります。

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ヴィンランド・サガ

ヴァイキング時代の信仰として、トールへの言及が繰り返されます。

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魔探偵ロキ・北欧神話系の作品

ロキとの対比で登場することが多くあります。

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トールについてよくある質問

トールは何の神様ですか。

雷の神です。槌ミョルニルを振るい、巨人から世界を守る役割を担います。

木曜日 Thursday はトールと関係がありますか。

あります。古英語の Þunresdæg「トールの日」が語源です。ドイツ語の Donnerstag も同じく「ドナー(トール)の日」を意味します。

ミョルニルとはどんな武器ですか。

投げれば必ず標的に当たり、必ず手に戻る槌です。柄が短いのは、鍛造中にロキが虻に化けて職人を刺し、作業が中断したためとされます。

トールとオーディンの関係は。

親子です。オーディンが父にあたります。ただし信仰の広がりではトールのほうが大きく、農民層に篤く信仰されました。

トールはラグナロクでどうなりますか。

大蛇ヨルムンガンドを倒しますが、その毒を浴びて九歩あゆんだところで倒れて死にます。

トールと併せて覚えたい言葉・用語

ミョルニル(Mjölnir)

トールの槌。投げれば必ず手に戻る。小人が作ったが、ロキの妨害で柄が短くなった。

ラグナロク(Ragnarök)

北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。