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北欧神話

スルーズとは何の神様か|家系図・物語

Þrúðr  / スルーズ

アース神族ワルキューレ

「強き者」という名の娘。トールの娘か、ワルキューレか。

スルーズとは何の神様か

スルーズはひとことで言えば強さという名前です。古ノルド語の Þrúðr は、そのまま「力」「強さ」を意味します。

知られているのは、雷神トールと黄金の髪の女神シヴのあいだの娘という顔です。

ところが同じ名が、もう一か所に出てきます。ヴァルハラエインヘリャルにエールを注ぐワルキューレの一人が、やはりスルーズという名なのです。

二人が同じ存在なのかどうかは定かではありません。原典はどちらとも書いていません。雷神の娘が戦死者に酒を運んでいると読むこともできますし、たまたま同じ名の別人だと読むこともできます。

この名は、単独の物語よりも言い換えの語としてよく使われました。トールの館はスルーズヴァング(強き者の野)。「強さ」という言葉が、そのまま雷神の一族の名になっています。

スルーズの名前の表記と読み方

古ノルド語の þrúðr は「力」「強さ」を意味する普通名詞でもあります。神の名が、そのまま日常の語と重なっている例のひとつです。

日本語ではスルーズ、スルーズルなどと書かれます。頭の文字は舌先を歯に当てて出す音で、日本語には無い音のため、表記が揺れやすくなっています。

この語は北欧の詩で、女性を指す言い換えの要素としても使われました。強さを表す語が女性の名に入るのは、この神話ではめずらしいことではありません。ワルキューレの名にも、力や戦いを表す語が数多く含まれています。

Þrúðr(スルーズ)

古ノルド語の表記。「力」「強さ」を意味する語である。

Thrud(スルーズ)

特殊な字を置き換えた綴り。英語圏の資料で使われる。

Þrúðvangr(スルーズヴァング)

トールの館の名。「強き者の野」を意味し、同じ語根を持つ。

スルーズの物語

  1. トールとシヴの娘 ─ 系譜だけがはっきりしている
  2. エールを注ぐワルキューレ ─ 同じ名の謎
  3. 奪われかけた娘 ─ 名前が書かれていない話
  4. なぜ物語が残らなかったのか

トールとシヴの娘 ─ 系譜だけがはっきりしている

スルーズの立場は、系譜の上でははっきりしています。父は雷神トール、母は黄金の髪の女神シヴ

トールにはほかにも子がいます。女巨人ヤールンサクサとのあいだのマグニ、そしてモージ父と母の両方が神である子は、スルーズだけです。

それでいて、この娘の物語はほとんど残っていません。生まれも、育ちも、その後も書かれない。名前と親の名だけが伝わります。

北欧の神々の系譜には、こうした「名前だけが残った子」が数多くいます。詩の中で親を指す手がかりとして名が挙げられ、それきりになるのです。

エールを注ぐワルキューレ ─ 同じ名の謎

古エッダには、ヴァルハラで働くワルキューレの名が並べて歌われる箇所があります。フリスト、ミスト、スケッグルド、スケグルなどに混じって、スルーズの名も出てきます。

役目は、エインヘリャルにエールを注ぐことです。

彼女たちはエインヘリャルにエールを運ぶ。

ここで問題になります。このスルーズは、トールの娘と同じ存在なのか。

原典は答えを書いていません。 同じ名の別人とみる読み方が無難ですが、雷神の娘が戦死者の館で働いていると読むほうが物語としては面白い、という指摘もあります。

北欧の名は使い回されます。ヴァーリロキオーディンの双方の子にいます。名前が同じでも別人という例は、この神話にいくつもあります。

奪われかけた娘 ─ 名前が書かれていない話

トールの娘を、誰かが奪おうとする話がいくつか伝わります。

古エッダには、すべてを知ると称する小人がトールの娘を妻に求め、トールが夜明けまで問答を続けて足止めし、日の光を浴びさせて石に変える一篇があります。

また新エッダの言い換えの語には、巨人フルングニルを「娘を盗む者」の意で呼ぶ言い方が伝わります。

ただし、これらの話で娘の名がスルーズだと明記されているとは限りません。 後世の読み手が結びつけた部分が含まれます。

確かめられないことを、確かなことのように書くべきではありません。 ここでは「トールの娘をめぐる話がいくつかある」という事実までにとどめます。

なぜ物語が残らなかったのか

スルーズについて確かなのは、名前と、親と、同名のワルキューレがいることだけです。

理由は推し量るしかありません。ひとつは、この神話の女神たちの多くが同じ状態にあることです。フリッグフレイヤのような大女神を除けば、名前と系譜だけが伝わる女神が並んでいます。

もうひとつは、名前が普通名詞と同じであることです。「強さ」を意味する語が詩の中に出てきても、それが女神を指しているのか、ただの語なのかを見分けられません。

資料が乏しいことと、重要でないことは、同じではありません。 名が繰り返し使われ、館の名にまで入っている以上、この語が重んじられていたことは確かです。

スルーズの家系図と家族

スルーズの親: トールシヴ

スルーズのきょうだい: マグニ

スルーズの性格と人物像

スルーズは、輪郭が二重になっている存在です。

雷神の娘という顔と、戦死者に酒を注ぐワルキューレという顔。どちらも同じ名で呼ばれ、どちらとも決められません。

決められないまま千年が過ぎた、というのが正確なところです。 原典を書いた人々にとっては当たり前だったのかもしれませんし、書いた本人も知らなかったのかもしれません。

それでも、この名には一貫したものがあります。強さです。父の館の名にも入り、詩の言い換えにも使われ、ワルキューレの名簿にも並ぶ。

人格としてではなく、性質として残った。 北欧の女神には、この形の残り方をした者が少なくありません。名前がそのまま意味を持ち、意味のほうが人物より長く生き延びます。

スルーズゆかりの地と遺跡

スルーズを祀った場所は見つかっていません。 神殿の記録も、この名を確かに含む地名も確かめられませんでした。

難しいのは、名前が「強さ」という普通名詞と同じであることです。地名や人名にこの語が入っていても、女神に由来するのか、単に強さを表しているだけなのかを分けられません。

父トールの名は北欧各地の地名に残りましたが、娘の名までは残らなかったというのが現在わかっていることです。

スルーズが現代に残した痕跡

この名は、館の名と、ワルキューレの名簿の中に残りました。

スルーズヴァング: トールの館の名で「強き者の野」を意味する。同じ語根を持ち、雷神の一族と強さという語の結びつきを示す。

ワルキューレの名簿: 古エッダがエールを注ぐワルキューレの名を並べる箇所に、この名が挙がる。トールの娘と同じ存在かは定かではない。

女性を指す言い換え: 「強さ」を意味するこの語は、詩の中で女性を指す言い換えの要素としても用いられた。

スルーズが司るもの

勇気

名が「強さ」を意味し、ワルキューレの名としても伝わる。

勝利

雷神トールの娘であり、戦にかかわる語としても使われた。

死後の栄誉

ヴァルハラで戦死者にエールを注ぐワルキューレの名としても現れる。

スルーズについてよくある質問

スルーズは誰の娘ですか。

雷神トールと女神シヴの娘です。トールの子のうち、父と母の両方が神であるのはスルーズだけです。

ワルキューレのスルーズと同じですか。

はっきりしていません。ヴァルハラでエールを注ぐワルキューレに同じ名の者がいますが、原典は同一かどうかを書いていません。

名前の意味は何ですか。

「力」「強さ」です。トールの館スルーズヴァング(強き者の野)にも同じ語根が入っています。

どんな物語がありますか。

まとまった物語はほとんど残っていません。トールの娘を奪おうとする話がいくつか伝わりますが、その娘の名がスルーズだと明記されているとは限りません。

スルーズと併せて覚えたい言葉・用語

ヴァルハラ(Valhöll)

オーディンの館。「戦死者の館」の意。選ばれた戦士が毎日戦い毎晩よみがえって、ラグナロクに備える。

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

エインヘリャル(Einherjar)

ヴァルキュリャに選ばれてヴァルハラへ迎えられた戦死者たち。ラグナロクでオーディンの軍勢となる。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。