戦死者の魂。毎日殺し合い、毎晩よみがえって宴を開く。
エインヘリャルとは何の神様か
エインヘリャルの名前の表記と読み方
古ノルド語では einherjar。einn(一つ・ただ一人)と herr(軍勢)から成りますが、前半の解釈が定まっていません。
「ひとりで戦う者たち」と読む説、「ただ一つの軍勢に属する者たち」と読む説、「傑出した戦士たち」と読む説があります。
日本語ではエインヘリャル、エインヘルヤル、アインヘリヤルなど表記が分かれます。単数形の einheri は、トールの別名としても使われました。
Einherjar(エインヘリャル)
古ノルド語の複数形。einn(一つ・ただ一人)と herr(軍勢)から成る。
Einheri(エインヘリ)
単数形。トールの別名としても使われる。
Valhǫll(ヴァルホル)
「戦死者の館」。この者たちが集められる場所。
エインヘリャルの物語
五百四十の扉
古エッダ?『グリームニルの言葉』は、ヴァルハラの規模をこう歌います。
ヴァルハラには五百四十の扉がある。一つの扉から八百人のエインヘリャルが並んで出る、狼と戦いに行くときに。
単純に掛ければ四十三万二千人になります。
数を挙げることに意味があります。 神々が終末に備えて、どれほどの軍勢を蓄えたかを示す一行だからです。
そしてこれだけの軍勢を集めてもなお、ラグナロクで神々は勝ちません。数え上げた大きさが、そのまま無力さを際立たせています。
昼は殺し合い、夜は飲む
新エッダ?は、この者たちの一日をこう書きます。
彼らは毎日、身支度をして庭へ出て戦い、互いを討ち取る。それが彼らの遊びである。
朝食の時が近づくと馬で戻り、席に着いて飲む。
傷はすべて癒え、討たれた者も起き上がります。
戦うこと自体が報酬になっている世界です。天国の楽しみが、殺し合いと酒であるという点に、この社会が何を良しとしたかがはっきり出ています。
農民の死者はトールのもとへ、溺れた者はラーンの網へ。行き先はいくつもありましたが、選ばれることが誉れだったのはヴァルハラでした。
半分はフレイヤのもとへ
見落とされがちですが、戦死者の全部がヴァルハラへ行くわけではありません。
古エッダ『グリームニルの言葉』第14節はこう歌います。
フレイヤは戦場へ赴くたび、殺された者の半分を得る。残る半分はオーディンのものである。
女神フレイヤの館フォールクヴァングへ、半数が迎えられます。
新エッダはさらに踏みこみ、フレイヤが先に選ぶと書きます。愛の女神が、主神より先に戦死者を選び取ることになります。
二つの書物で順序の記述が違うため、どちらが古い形かは決着していません。
エインヘリャルの家系図と家族
エインヘリャルの性格と人物像
エインヘリャルゆかりの地と遺跡
エインヘリャルそのものを祀った場所はありません。 祀られる側ではなく、迎えられる側だからです。
かわりに、戦士の墓が北欧各地に残りました。武器を副葬した墓、船に遺体を納めた船葬、そしてガムラ・ウプサラのような王の墳丘。死後の行き先を用意するという考え方が、実際の埋葬の形になっています。
ガムラ・ウプサラの王塚(Gamla Uppsala högar)
六世紀。スウェーデン最大級の王の墳丘
ガムラ・ウプサラの王塚の住所: スウェーデン ウプサラ県ウプサラ市ガムラ・ウプサラ
ガムラ・ウプサラの王塚に残るもの: 大型の墳丘三基と墓域
北欧でもっともよく知られた王の墳丘です。三基の大きな塚が並び、六世紀のものとされます。
中世の年代記は、ここに大きな神殿があり、九年ごとに大がかりな犠牲祭が行われたと伝えます。ただし神殿の建物そのものは見つかっておらず、記述をどこまで信じるかは議論が続いています。
戦って死んだ者を手厚く葬る習わしを、規模の面から実感できる場所です。
屋外の墳丘で見学できる。隣接して博物館がある。
エインヘリャルが現代に残した痕跡
この言葉と、その背景にある死生観は、いまも北欧の文化に跡を残しています。
ヴァルハラという語: 「英雄の殿堂」の比喩として、スポーツや音楽の分野で世界的に使われている。
武器を副葬する墓: ヴァイキング時代の墓に剣・槍・盾が納められる例が多い。死後も戦うという考え方の表れとされる。
船葬: ノルウェーのオセベリ船やゴクスタ船のように、船に遺体を納めて葬る形が残る。
エインヘリャルが司るもの
死後の栄誉
戦って死んだ者だけが選ばれ、ヴァルハラへ迎えられる。
戦い
毎日戦い続け、終末の日に主神の側に立つために蓄えられている。
勇気
死を恐れずに戦うことが、そのまま選ばれる条件とされた。
エインヘリャルについてよくある質問
エインヘリャルとは何ですか。
戦って死んだ勇者の魂です。ワルキューレに選ばれてヴァルハラへ迎えられ、ラグナロクの日に主神の側で戦うために蓄えられています。
ヴァルハラでは何をしているのですか。
昼は庭で殺し合い、日が暮れると傷が癒えて宴を開きます。毎日それを繰り返します。
戦死者は全員ヴァルハラへ行きますか。
行きません。半分は女神フレイヤの館フォールクヴァングへ迎えられます。新エッダはフレイヤが先に選ぶと記します。
エインヘリャルは何人いますか。
古エッダは、五百四十の扉から八百人ずつ出ると歌います。単純に掛ければ四十三万二千人になります。
エインヘリャルと併せて覚えたい言葉・用語
エインヘリャル(Einherjar)
ヴァルキュリャに選ばれてヴァルハラへ迎えられた戦死者たち。ラグナロクでオーディンの軍勢となる。
ヴァルハラ(Valhöll)
オーディンの館。「戦死者の館」の意。選ばれた戦士が毎日戦い毎晩よみがえって、ラグナロクに備える。
ラグナロク(Ragnarök)
北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。
古エッダ(こエッダ)
詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。
新エッダ(しんエッダ)
1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。