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北欧神話

エインヘリャルとは何の神様か|家系図・物語・ゆかりの地

Einherjar  / エインヘリャル

英雄

戦死者の魂。毎日殺し合い、毎晩よみがえって宴を開く。

エインヘリャルとは何の神様か

エインヘリャルはひとことで言えば終末に備えて蓄えられた軍勢です。戦って死んだ勇者の魂で、「死せる戦士たち」とも呼ばれます。

ワルキューレに選ばれてヴァルハラへ運ばれ、そこで日々を送ります。その日課が独特です。昼のあいだ庭で殺し合い、日が暮れるとすべての傷が癒えて、そろって宴の席に着きます。

食べるのは、毎日煮られては翌朝よみがえる猪セーフリームニル。料理人はアンドフリームニル、鍋はエルドフリームニルです。飲むのは牝山羊ヘイズルーンが出す蜜酒で、これも尽きません。

なぜそんなことをするのか。ラグナロクの日に、オーディンの側に立って戦うためです。 主神が戦死者を集め続けた理由が、ここにあります。

エインヘリャルの名前の表記と読み方

古ノルド語では einherjareinn(一つ・ただ一人)と herr(軍勢)から成りますが、前半の解釈が定まっていません。

「ひとりで戦う者たち」と読む説、「ただ一つの軍勢に属する者たち」と読む説、「傑出した戦士たち」と読む説があります。

日本語ではエインヘリャル、エインヘルヤル、アインヘリヤルなど表記が分かれます。単数形の einheri は、トールの別名としても使われました。

Einherjar(エインヘリャル)

古ノルド語の複数形。einn(一つ・ただ一人)と herr(軍勢)から成る。

Einheri(エインヘリ)

単数形。トールの別名としても使われる。

Valhǫll(ヴァルホル)

「戦死者の館」。この者たちが集められる場所。

エインヘリャルの物語

  1. 五百四十の扉
  2. 昼は殺し合い、夜は飲む
  3. 半分はフレイヤのもとへ

五百四十の扉

古エッダ『グリームニルの言葉』は、ヴァルハラの規模をこう歌います。

ヴァルハラには五百四十の扉がある。一つの扉から八百人のエインヘリャルが並んで出る、狼と戦いに行くときに。

単純に掛ければ四十三万二千人になります。

数を挙げることに意味があります。 神々が終末に備えて、どれほどの軍勢を蓄えたかを示す一行だからです。

そしてこれだけの軍勢を集めてもなお、ラグナロクで神々は勝ちません。数え上げた大きさが、そのまま無力さを際立たせています。

昼は殺し合い、夜は飲む

新エッダは、この者たちの一日をこう書きます。

彼らは毎日、身支度をして庭へ出て戦い、互いを討ち取る。それが彼らの遊びである。
朝食の時が近づくと馬で戻り、席に着いて飲む。

傷はすべて癒え、討たれた者も起き上がります。

戦うこと自体が報酬になっている世界です。天国の楽しみが、殺し合いと酒であるという点に、この社会が何を良しとしたかがはっきり出ています。

農民の死者はトールのもとへ、溺れた者はラーンの網へ。行き先はいくつもありましたが、選ばれることが誉れだったのはヴァルハラでした。

半分はフレイヤのもとへ

見落とされがちですが、戦死者の全部がヴァルハラへ行くわけではありません。

古エッダ『グリームニルの言葉』第14節はこう歌います。

フレイヤは戦場へ赴くたび、殺された者の半分を得る。残る半分はオーディンのものである。

女神フレイヤの館フォールクヴァングへ、半数が迎えられます。

新エッダはさらに踏みこみ、フレイヤが先に選ぶと書きます。愛の女神が、主神より先に戦死者を選び取ることになります。

二つの書物で順序の記述が違うため、どちらが古い形かは決着していません。

エインヘリャルの家系図と家族

エインヘリャルの性格と人物像

エインヘリャルには、個々の名前がありません。

シグムンドシグルズが迎えられたという記述はありますが、基本的には数として扱われます。四十三万二千という数字が、この者たちの正体そのものです。

そこがこの存在の鋭いところでしょう。選ばれた誉れある死者が、集まった途端に頭数になる。

しかも、その頭数をもってしても、ラグナロクで神々は敗れます。 オーディンが片目を捧げ、自らを木に吊るし、世界中に鴉を飛ばして集めた知恵と軍勢が、結局は間に合わない。

間に合わないと知りながら備え続ける。 北欧神話の主神の姿勢が、この軍勢に形を与えています。

エインヘリャルゆかりの地と遺跡

エインヘリャルそのものを祀った場所はありません。 祀られる側ではなく、迎えられる側だからです。

かわりに、戦士の墓が北欧各地に残りました。武器を副葬した墓、船に遺体を納めた船葬、そしてガムラ・ウプサラのような王の墳丘。死後の行き先を用意するという考え方が、実際の埋葬の形になっています。

ガムラ・ウプサラの王塚(Gamla Uppsala högar)

六世紀。スウェーデン最大級の王の墳丘

地図で開く

ガムラ・ウプサラの王塚の住所: スウェーデン ウプサラ県ウプサラ市ガムラ・ウプサラ

ガムラ・ウプサラの王塚に残るもの: 大型の墳丘三基と墓域

北欧でもっともよく知られた王の墳丘です。三基の大きな塚が並び、六世紀のものとされます。

中世の年代記は、ここに大きな神殿があり、九年ごとに大がかりな犠牲祭が行われたと伝えます。ただし神殿の建物そのものは見つかっておらず、記述をどこまで信じるかは議論が続いています。

戦って死んだ者を手厚く葬る習わしを、規模の面から実感できる場所です。

屋外の墳丘で見学できる。隣接して博物館がある。

現地ツアーをさがす

ウプサラの現地ツアーや入場券を探せます。

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エインヘリャルが現代に残した痕跡

この言葉と、その背景にある死生観は、いまも北欧の文化に跡を残しています。

ヴァルハラという語: 「英雄の殿堂」の比喩として、スポーツや音楽の分野で世界的に使われている。

武器を副葬する墓: ヴァイキング時代の墓に剣・槍・盾が納められる例が多い。死後も戦うという考え方の表れとされる。

船葬: ノルウェーのオセベリ船やゴクスタ船のように、船に遺体を納めて葬る形が残る。

エインヘリャルが司るもの

死後の栄誉

戦って死んだ者だけが選ばれ、ヴァルハラへ迎えられる。

戦い

毎日戦い続け、終末の日に主神の側に立つために蓄えられている。

勇気

死を恐れずに戦うことが、そのまま選ばれる条件とされた。

エインヘリャルについてよくある質問

エインヘリャルとは何ですか。

戦って死んだ勇者の魂です。ワルキューレに選ばれてヴァルハラへ迎えられ、ラグナロクの日に主神の側で戦うために蓄えられています。

ヴァルハラでは何をしているのですか。

昼は庭で殺し合い、日が暮れると傷が癒えて宴を開きます。毎日それを繰り返します。

戦死者は全員ヴァルハラへ行きますか。

行きません。半分は女神フレイヤの館フォールクヴァングへ迎えられます。新エッダはフレイヤが先に選ぶと記します。

エインヘリャルは何人いますか。

古エッダは、五百四十の扉から八百人ずつ出ると歌います。単純に掛ければ四十三万二千人になります。

エインヘリャルと併せて覚えたい言葉・用語

エインヘリャル(Einherjar)

ヴァルキュリャに選ばれてヴァルハラへ迎えられた戦死者たち。ラグナロクでオーディンの軍勢となる。

ヴァルハラ(Valhöll)

オーディンの館。「戦死者の館」の意。選ばれた戦士が毎日戦い毎晩よみがえって、ラグナロクに備える。

ラグナロク(Ragnarök)

北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。

古エッダ(こエッダ)

詩の形で伝わる北欧神話の歌謡集。13世紀の写本に収められたが、成立はさらに古い。作者は不明。

新エッダ(しんエッダ)

1220年頃にアイスランドのスノッリ・ストゥルルソンが著した散文の書。神話を体系的に整理しており、現在の北欧神話の理解はこの書に多くを負う。