エジプト神話の神一覧|家系図と物語をわかりやすく
エジプト神話に登場する神を62柱収録しています。 物語の流れに沿って読む順番を示し、神どうしのつながりは相関図でたどれます。 ピラミッド・テキストと死者の書で記述が分かれる箇所は、どちらか一方に決めず両方を出典つきで載せています。
エジプト神話とは
エジプト神話とは、古代エジプトで三千年以上にわたって語られ、祀られてきた神々の体系です。わかりやすく言えば、ナイル川と太陽と、死後の旅の物語です。
主要な神は、太陽のラー、冥界の王オシリス、魔術のイシス、王権のホルス、混沌のセト、ミイラ作りのアヌビス。
この神話をほかと分けるのは、まとまった物語の書物がないという点です。
神統記もエッダも古事記も、エジプトには存在しません。
残っているのは、呪文、讃歌、そして死者のための文書です。物語は、その断片から読み取ることになります。
もうひとつの特徴が、死後の世界がきわめて具体的なことです。
心臓を天秤にかけ、羽根と釣り合えば来世へ進む。
釣り合わなければ、心臓は獣に食われ、存在そのものが消えます。
そして、動物の頭を持つ神が多い。これは動物を拝んだのではなく、
その動物の性質を、神の性格として示す表現
でした。
そして、日本でだけ突出して有名になった神もいます。
メジェド。
原典では『死者の書?』に一行しか記述がありませんが、布をかぶって目だけを出した姿が2012年に日本で紹介され、いまではキャラクターとして広く知られています。
エジプト神話は誰がいつ作ったのか|どこの国の神話か
エジプト神話は、特定の誰かが作ったものではありません。 各地の町がそれぞれの神を祀り、それが三千年かけて重なり合ったものです。
いつからあるのか。
先王朝時代(紀元前3500年頃)の土器や化粧板(パレット)に、すでに神の記号が描かれています。第一王朝(紀元前3000年頃)の王妃名にはネイトが含まれます。
ピラミッドが建つ、五百年前。
文字で残る最古の宗教文書はピラミッド・テキスト(紀元前2400年頃)で、
世界最古の宗教文書
とされます。
どこの国の神話か。
古代エジプト、つまり現在のエジプト・アラブ共和国の、ナイル川流域です。南のヌビア(現スーダン)にも広がり、
ヌビアのクシュ王国は、エジプトの神を受け継いだうえでエジプトを征服しました。
何語で書かれたか。
古代エジプト語です。文字はヒエログリフ?(神聖文字)、ヒエラティック(神官文字)、デモティック(民衆文字)と使い分けられました。
最終段階のコプト語は、ギリシャ文字で書かれ、
現在もコプト正教会の典礼で使われています。
なぜ長く残ったのか。
乾燥した気候です。パピルスも、木も、遺体も、砂のなかで残りました。
他の古代文明では失われた種類の資料が、エジプトには残っている。
洗濯物のリストや、職人の欠勤理由まで読むことができます。
ピラミッド・テキストと死者の書の違い
エジプト神話には、物語を語った書物が一冊もありません。
残っているのは、神殿と墓に書かれた実務の文書です。
死者を来世へ送るための呪文集。神を讃える歌。儀式の手引き。
そのため、有名なオシリス神話も、一続きの話としてエジプト語で書かれた文献は存在しません。 断片が各所に散っているだけです。
通しで読める形にしたのは、紀元後100年頃のギリシャ人でした。
この事情を知らないと、エジプト神話の資料は非常に読みにくくなります。
ピラミッド・テキスト(ピラミッド・テキスト)紀元前2400年頃〜
世界最古の宗教文書とされます。第5王朝末のウナス王のピラミッドから始まり、以後の王墓の壁に刻まれました。
内容は、
死んだ王が天へ昇るための呪文。
物語ではありません。手順書です。
「汝は死者として去るのではない。生ける者として去るのだ。」
といった呼びかけが並びます。
当初は王だけのものでした。庶民には来世がありません。
サッカラのウナス王ピラミッドで、青い彩色の残る現物を見ることができます。
棺文書(コフィン・テキスト)(ひつぎもんじょ)紀元前2100年頃〜
死者の書(ししゃのしょ)紀元前1550年頃〜
正しくは「日のもとに出現するための書」といいます。
新王国時代以降、パピルスに書いてミイラとともに納められました。
本屋で買えた。
名前の欄を空けた既製品が売られており、購入者の名を書き入れて使いました。 値段は品質で大きく変わります。
最も有名なのが第125章、
心臓の計量?。
四十二柱の神々の前で「私は盗んでいない」「私は嘘をついていない」と申し立てる否定告白?が記されます。
アニのパピルス(大英博物館、全長23メートル超)が代表的な作例です。
『イシスとオシリスについて』(イシスとオシリスについて)紀元後100年頃
ギリシャの著述家プルタルコス?による論考です。
きわめて重要な文献です。理由は明快で、
オシリス神話が一続きの物語として読めるのは、この書だけだから。
棺に閉じ込められる場面も、遺体が十四に切られる場面も、イシスがビブロスまで探しに行く場面も、
まとまった形ではここにしか残っていません。
ただし注意が要ります。
ギリシャ語で書かれ、神話の成立から二千年以上あとの記録。
著者はエジプト語を読めず、ギリシャ哲学の枠組みで解釈している。
本サイトでは、この書によるものは出典を明記しています。
ロゼッタ・ストーンとヒエログリフ解読(ロゼッタ・ストーン)紀元前196年/解読1822年
エジプト神話が読めるようになったのは、わずか二百年前です。
西暦394年の碑文を最後にヒエログリフは使われなくなり、
千四百年以上、誰も読めませんでした。
1799年、ナポレオンのエジプト遠征でロゼッタ・ストーンが発見されます。同じ内容がヒエログリフ・デモティック・ギリシャ語の三種で刻まれていました。
1822年、シャンポリオンが解読に成功します。
それまで、エジプトの神々の名前すら正確には分からなかった。
現在私たちが読めるエジプト神話は、この解読の上に成り立っています。
石は現在大英博物館にあり、返還を求める議論が続いています。
同じ神の系譜が、都市と時代によって違います。
世界の始まり。 ヘリオポリスではアトゥムが自らを生みました。メンフィスではプタハが心と舌で創造しました。ヘルモポリスでは八柱の神が原初の丘を生み、サイスではネイトが世界を織りました。
どれが正しいということはありません。
アヌビスの親。 プルタルコスはネフティスとオシリスの子とします。古いエジプトの文献ではラーの子とも牝牛バトの子ともされ、系譜が語られないことも多くあります。
神の融合。 アメンとラーが合体してアメン=ラーに、ソベクとラーがソベク=ラーに、ハトホルとセクメトは同じ女神の二つの状態とされます。
こうした食い違いが起きるのは、
エジプトが、三千年続いた文明だからです。
都市ごとに神殿があり、それぞれが自分の神を最上位に置く神学を作りました。中央が統一しませんでした。
本サイトでは、記述が分かれる箇所は両方を出典つきで併記しています。
エジプト神話の世界のしくみ|死後の旅とドゥアト8件
エジプト神話の世界は、天・地・冥界の三層です。
上に女神ヌトの体(天)、下に神ゲブの体(大地)、そのあいだをシューが支える。
地下にはドゥアト?(冥界)が広がります。
重要なのは、死後の世界がきわめて具体的なことです。
門があり、番人がいて、通るには名前を知っていなければならない。
死者の書は、その通行手引きでした。
また、世界の始まりが都市ごとに違います。 以下に主なものを並べます。
ヌン(Nun/原初の水)
世界が始まる前からある、暗く動かない水です。
創造とは、この水から丘が現れることでした。そして世界が終わるとき、
すべては再びヌン?に戻る。
神殿の聖池は、この水を表すとされました。世界の外側は、いまもヌンであると考えられていました。
ベンベン(原初の丘)(Benben/最初の陸地)
ヌンから最初に現れた丘です。アトゥムが立った場所とされます。
ピラミッドの形、オベリスクの先端(ベンベネト)は、この丘を表しています。
ヘリオポリスの神殿には、これを表す石が祀られていました。
毎年、ナイルの増水が引いたあとに現れる泥の丘が、この記憶と重なっています。
ドゥアト(Duat/死者の世界)
地下にある死者の世界です。地獄ではありません。
太陽が夜のあいだ通る場所でもあり、
十二の時間(十二の門)に分かれている。
それぞれに番人がおり、名前を知らなければ通れません。 死者の書は、その名前を教える文書でした。
危険な場所であると同時に、再生の場所でもあります。
二つの真理の広間(Hall of Two Truths/最後の審判の間)
アアルの野(イアルの野)(Field of Reeds/来世の楽園)
裁きを通った死者が行く場所です。
驚くべきことに、
エジプトそのものの理想版。
ナイルがあり、畑があり、作物が実ります。死者はそこで農作業をします。
そのため、代わりに働く人形(シャブティ?)が墓に納められました。
「呼ばれたら、私が行きます」と答える呪文が刻まれている。
来世でも労働があると考えていたわけです。
西方(Amenti/日の沈む方角)
死者の国の方角です。太陽が沈む西。
そのため、墓地はナイルの西岸に作られました。ギザも、サッカラも、王家の谷も、すべて西岸です。
東岸が生者の町、西岸が死者の町。
ハトホルは「西方の女主人」、アヌビスは「西方の第一の者」と呼ばれました。
天(ヌトの体)(Nut/星をちりばめた女神)
女神ヌトの体そのものが天です。
夕方に太陽を飲み込み、朝に産み出す。
星も同じように飲まれ、産み直されます。
死者は星になるともされ、
ピラミッドの玄室の天井には星が描かれました。
ケメト(黒い土地)とデシェレト(赤い土地)(Kemet / Deshret/耕地と砂漠)
エジプト人は自国をケメト?(黒い土地)と呼びました。
ナイルの増水が残す、黒く肥沃な泥の色。
対して砂漠はデシェレト(赤い土地)。セトの領分であり、死と異国の場所です。
緑地と砂漠の境が、はっきりしすぎている。
この地形が、エジプトの世界観を決めました。
エジプト神話のあらすじと有名な話をざっくり読む順番
エジプト神話は、一本の物語ではありません。独立したいくつかの筋が並んでいます。
それでも、おおよそ次の順で理解すると全体像がつかめます。
骨格は二つです。太陽の一日の循環と、オシリスをめぐる王位の物語。
前者は毎日繰り返され、後者は一度きり。
この二つが、エジプトの世界観を支えています。
原初の水から丘が現れる ─ 創世
始まりにあったのはヌン、
暗く、動かず、果てのない水。
そのなかでアトゥムが自らを生みました。誰にも作られていません。
立つ場所がないため、水から原初の丘(ベンベン?)が盛り上がります。
ピラミッドの形と、オベリスクの先端は、この丘に由来する。
この場面は、エジプト人が毎年見ていた光景と重なります。
ナイルの増水が引いたあと、水面から泥の丘が現れる。
神話が、目の前の景色から出ています。
ただし、都市ごとに創世神話が違います。 メンフィスではプタハが心と舌で世界を作り、ヘルモポリスでは八柱神が丘を生みました。
天と地が引き離される ─ 世界に隙間ができる
アトゥムは一人でシュー(大気)とテフヌト(湿気)を生みました。最初の男女です。
二柱からゲブ(大地)とヌト(天)が生まれます。
しかし、二柱は抱き合っていました。
あいだに、何もない。
そこへシューが割って入り、
両腕を上げて、ヌトを持ち上げた。
世界に上下ができ、空間が生まれます。
この姿勢に、終わりはありません。
手を離せば、天が落ちて世界が終わる。
ゲブとヌトは互いを求め続け、
ヌトの涙が、雨になった。
注目すべきは、大地が男性で天が女性であることです。世界の多くの神話と逆です。
五日が作られる ─ 主要な神々が生まれる
ゲブとヌトは引き離されたあとも密かに交わり、ヌトが身ごもりました。
ラーは激怒し、禁じます。
一年のどの日にも、産んではならぬ。
当時の一年は三百六十日。逃げ道がありません。
そこでトートが動きます。
月と賭けをして、五日分の光を勝ち取った。
年は三百六十五日になり、新しい五日は「どの日にも属さない日」となりました。
ラーの禁令が及ばない。
ヌトはこの五日に順に産みます。
オシリス、大ホルス、セト、イシス、ネフティス。
エジプト神話の主要人物が、ここでそろいます。
暴力ではなく、計算で禁令を破っている。
トートらしい解決法です。
オシリスが殺される ─ 王位をめぐる争い
オシリスは地上の王となり、人々に農耕と法を教えました。
弟セトが、それを妬みます。
計画は周到でした。
兄の体の寸法をひそかに測り、ぴったり合う豪華な棺を作らせた。
宴の余興として入らせ、蓋を閉じ、鉛を流し込んで封じます。 棺はナイルへ流されました。
イシスが探し出すと、セトは今度は
遺体を十四に切り分け、エジプト中へ撒いた。
イシスはパピルスの舟で沼を巡り、断片を集めます。
一つだけ、魚に食われて見つからなかった。
それでも女神は遺体を繋ぎ、呪文で蘇らせました。
オシリスは地上には戻らず、
冥界の王となります。
ホルスとセトが八十年争う ─ 法廷と決闘
イシスは隠れてホルスを産み、湿地で育てました。
成人したホルスは、王位を要求します。
争いは神々の法廷へ持ち込まれ、
八十年続きました。
ラーはセトを、他の神々はホルスを支持し、決着しません。
法廷の外でも争います。カバに変身しての水中の競争。石の船での競走。そして格闘で、
ホルスは左目を失い、セトは睾丸を失った。
失われた目はトートが癒し、ウジャトの目となります。
もっとも有名なのが、レタスの一件です。
セトはホルスを組み敷いた事実を作り、法廷で「支配した」と主張しようとしました。しかしイシスが先回りし、
息子の種を塗ったレタスを、セトに食べさせた。
法廷でトートが両者の種に呼びかけると、ホルスの種はセトの体のなかから答えます。
主張は完全に逆転し、恥をかいたのはセトのほうでした。
レタスは切ると乳白色の樹液が出るため、生殖の力を象徴する植物とされていました。
最終的に、最も古い女神ネイトの助言が決め手になりました。
玉座はホルスに。セトには財と、二人の異国の女神を与えよ。
ホルスが王となり、以後、
死んだ王はオシリス、新しい王はホルス。
王位の継承そのものが、この神話でした。
太陽が毎日生まれ直す ─ 終わらない循環
心臓が量られる ─ 死後の裁き
死者は冥界を旅し、「二つの真理の広間」に至ります。
中央に天秤があります。
片方に死者の心臓、もう片方にマアト?の羽根。
アヌビスが天秤を扱い、トートが結果を記録し、四十二柱の神々が並びます。
死者は否定告白を行いました。
「私は盗んでいない」「私は嘘をついていない」「私は量りをごまかしていない」「私は水路の水を止めていない」
注目すべきは、問われるのが信仰ではなく行為だということです。
釣り合えば、オシリスの前へ進み、来世が許されます。
釣り合わなければ、アメミットが心臓を食い、
存在そのものが消える。
これを「二度目の死?」といい、
エジプト人が最も恐れたのは、これでした。
信仰が終わる ─ 最後のヒエログリフ
三千年続いた信仰にも、終わりが来ます。
途中、一度だけ大きな断絶がありました。アクエンアテンの改革です。
アテンのみを崇拝し、他のすべての神の信仰を停止した。
しかし王の死後、数年で元に戻ります。
本当の終わりは、ローマ帝国のキリスト教国教化でした。
西暦394年、フィラエ島に刻まれた碑文が、現存最後のヒエログリフ。
西暦536年、同じ島のイシス神殿が閉鎖され、古代エジプトの宗教が終わる。
以後、千四百年、誰もヒエログリフを読めませんでした。
1822年、シャンポリオンが解読に成功します。
私たちがいまエジプト神話を読めるのは、そこからの二百年の成果です。
エジプト神話の神一覧・名前と登場人物62柱
エジプト神話の主神級の神 10柱
物語の骨格を作る神々です。まずここから覚えると全体がつかめます。
エジプト神話の重要な神 16柱
主要な場面で動く神々です。
アテン
ATEN 太陽 テーベの神アトゥム
ATUM 太陽 ヘリオポリス九柱神アペデマク
APEDEMAK 戦 都市の神アペプ
APEP 冥界 守護と冥界の神ウアジェト
WADJET 戦 守護と冥界の神ゲブ
GEB 大地 ヘリオポリス九柱神セクメト
SEKHMET 戦 メンフィスの神セケル
SEKER 冥界 メンフィスの神ソプデト
SOPDET 月 都市の神ヌト
NUT 月 ヘリオポリス九柱神ヌン
NUN 海 ヘリオポリス九柱神ネクベト
NEKHBET 大地 守護と冥界の神プタハ
PTAH 火 メンフィスの神マアト
MAAT 芸 守護と冥界の神ムート
MUT 大地 テーベの神モンチュ
MONTU 戦 テーベの神エジプト神話の関連する神 36柱
特定の場面に現れる神々です。
アヌケト
ANUKET 海 都市の神アマウネト
AMAUNET 大地 テーベの神アメミット
AMMIT 冥界 守護と冥界の神アンプト
ANPUT 冥界 守護と冥界の神イヒ
IHY 芸 都市の神ウァジ・ウェル
WADJ-WER 海 都市の神ウジャトの目
WADJET-EYE 太陽 守護と冥界の神ウプウアウト
WEPWAWET 戦 守護と冥界の神クヌム
KHNUM 大地 守護と冥界の神ケプリ
KHEPRI 太陽 ヘリオポリス九柱神コンス
KHONSU 月 テーベの神サテト
SATET 海 都市の神サフ
SAH 月 都市の神シャイ
SHAI 冥界 守護と冥界の神シュー
SHU 大地 ヘリオポリス九柱神セシャト
SESHAT 芸 守護と冥界の神セルケト
SERQET 冥界 守護と冥界の神ソベク
SOBEK 海 守護と冥界の神ソペド
SOPDU 戦 都市の神タウエレト
TAWERET 大地 守護と冥界の神テフヌト
TEFNUT 海 ヘリオポリス九柱神ネイト
NEITH 戦 守護と冥界の神ネフェルテム
NEFERTUM 大地 メンフィスの神ネフティス
NEPHTHYS 冥界 ヘリオポリス九柱神ネベトヘテペト
NEBET-HETEPET 大地 ヘリオポリス九柱神ハトメヒト
HATMEHIT 海 都市の神ハピ
HAPI 海 守護と冥界の神ヘケト
HEQET 大地 守護と冥界の神ヘリシェフ
HERYSHAF 大地 都市の神ベス
BES 芸 守護と冥界の神ミン
MIN 大地 都市の神メジェド
MEDJED 冥界 守護と冥界の神メスケネト
MESKHENET 大地 守護と冥界の神メルセゲル
MERETSEGER 冥界 守護と冥界の神メンヒト
MENHIT 戦 都市の神レネネト
RENENUTET 大地 守護と冥界の神エジプト神話の家系図・相関図・関係図(わかりやすい系譜)
神を押すと、その神につながる線だけが残ります。山吹色の破線は本によって話がちがう箇所です。 この図には、物語の筋の中心になる35柱を置いています。 収録している62柱それぞれの相関図は、各神のページにあります。
エジプト神話の最高神・最初の神・最強の神・太陽神
エジプト神話の最高神は誰か
時代によって違います。 これがエジプト神話の答えにくいところです。
古王国時代はラー(太陽)。新王国時代はアメン=ラー。メンフィスの神学ではプタハ、サイスではネイトが最初の神です。
都市が力を持てば、その都市の神が最高神になった。
アメンが典型です。テーベの一地方神でしたが、テーベの王家がエジプトを再統一したことで、エジプト史上最大の神殿を持つ神になりました。
一般に「エジプト神話の最高神」と言われるのは、
太陽神ラー(またはアメン=ラー)
です。ただし、唯一の正解ではありません。
なお「最も古い」という意味なら、答えはヌン(原初の水)になります。問いの立て方で答えが変わります。
エジプト神話で最初に生まれたのは誰か
これも都市によって違います。
ヘリオポリス── アトゥムが原初の水ヌンのなかで自らを生んだ。
メンフィス── プタハが心で思い、舌で言葉にして世界を作った。アトゥムさえその思考から生まれた。
ヘルモポリス── 八柱の神(水・闇・無限・不可視の四組の男女)が原初の丘と卵を生んだ。
サイス── ネイトが原初の水から現れ、世界を織り、ラーを生んだ。
どれかが正しいのではありません。
並存していました。
中央が統一する権威を持たなかったためです。三千年、矛盾したまま続きました。
エジプト神話で最強は誰か
目的によって答えが変わります。
制御できない破壊力でいえばセクメトです。ラーが放ち、
ラー自身が止められませんでした。
七千壺のビールで酔わせて眠らせるしかなかった。
暴力でいえばセトです。大蛇アペプに対抗できるのはこの神だけとされ、毎夜、船首で槍を突いています。
知恵でいえばイシスです。毒蛇の策で、
最高神ラーから真の名を奪いました。
倒せない存在でいえばアペプ。毎晩倒されて、毎晩また現れます。
エジプト神話には「最強の一柱」がいません。
エジプト神話の悪神は誰か
「悪神」と呼ばれるのは、ふつうセトです。
兄オシリスを棺に封じ、遺体を十四に切り刻みました。
ただし注意が要ります。
セトが悪神とされたのは、末期王朝時代以降です。
それ以前は王権の一部で、セティ1世のように王が名に冠しました。太陽の船に乗り、大蛇アペプを槍で突く役目も担っています。
この神がいなければ、朝は来ません。
本当の意味で「敵」なのはアペプです。
神殿がなく、祀られず、毎日呪われた。
混沌そのものであり、秩序を壊しに来る存在でした。
アメミット(心臓を食う獣)も恐れられましたが、
こちらは秩序の執行者。規則どおりに動くだけです。
エジプト神話は、神を善悪で分けていません。
エジプトの神はなぜ動物の頭を持つのか
動物を拝んだのではありません。
その動物の性質を、神の性格として示す表現
でした。
ジャッカル(アヌビス)── 墓地に現れて遺体を掘り返す。だから墓の守り手にした。
トキ(トート)── 長く湾曲したくちばしが、書記の筆に似ている。
ワニ(ソベク)── 実際に人を襲う脅威。神にして味方につけた。
フンコロガシ(ケプリ)── 玉を転がす。太陽を押し上げる者と見た。
共通するのは、
恐れるもの、役に立つものを、そのまま神の形にしている
ことです。
なお、姿は固定ではありません。 同じ神が人の姿でも、動物の姿でも描かれます。
エジプト神話の女神一覧と女神の名前10柱
エジプト神話の女神一覧です。行動する神が多いのが特徴です。
イシスは国境を越えて夫を探し、宮廷に潜り込み、最高神から真の名を奪いました。
セクメトは人類を滅ぼしかけ、ラーですら止められませんでした。
ネイトは八十年続いた争いに決着をつけました。
もうひとつの特徴が、
穏やかな面と荒ぶる面が、同じ女神のものである
ことです。ハトホルとセクメトは同じ女神の二つの状態にすぎません。
「ラーの目」という役割を、複数の女神が交代で担いました。
エジプト神話の神器と武器|王冠・杖・護符12点
エジプト神話の持ち物と記号は、そのほとんどが
実際に王が身につけ、儀式で使ったもの
です。神話上の武器ではありません。
王冠、杖、笏、護符。
神が持っているものを、王が同じ形で持ちました。
王が神の姿を再現していた。
ヘカとネケク(曲杖と殻竿)(ḥqꜣ / nḫḫ/王権の笏)
胸の前で交差させて持つ二つの笏。羊飼いの杖と、脱穀の道具に由来するとされ、統治と豊穣を表す。オシリスとファラオの標準的な持ち物。
関わる神: オシリス
カノポス壺(Canopic jars/内臓を納める壺)
肝臓・肺・胃・腸を納める四つの壺。ホルスの四人の子が担当し、イシス・ネフティス・ネイト・セルケトが守る。心臓だけは体内に残される。
関わる神: アヌビス
シャブティ(šwbtj/代わりに働く人形)
来世で死者の代わりに農作業をする小さな人形。「呼ばれたら、私が行きます」と答える呪文が刻まれた。裕福な墓には365体以上納められた例もある。
関わる神: オシリス
エジプト神話に登場する動物・怪物・幻獣一覧19件
エジプト神話の動物と怪物は、他の神話と性格が違います。
倒すべき怪物が、ほとんどいません。
英雄が退治する物語がないためです。
かわりに、
神の姿として動物が現れ、実在の動物がそのまま神聖視されました。
合成獣も少なく、代表はアメミットとスフィンクスくらいです。
アメミット(ꜥm-mwt/死者を貪り食う者)
ワニの頭、ライオンの上半身、カバの下半身。天秤に負けた心臓を食い、存在そのものを消す。三種とも古代エジプトで実際に人を殺した動物。
関わる神: アメミット
スフィンクス(šsp-ꜥnḫ/人面獣身の像)
ライオンの体に人(多くは王)の頭。ギザの大スフィンクスは全長約73メートル。ギリシャのスフィンクスと違い、謎かけはしない。守護者である。
関わる神: ラー
ウロボロス(mḥn/尾を噛む蛇)
自分の尾を噛んで円をなす蛇。時間の循環と再生を表す。エジプトの図像(ツタンカー?メンの厨子など)が現存最古の例とされ、のちにギリシャの錬金術へ伝わった。
関わる神: ラー
セト動物(šꜣ/正体不明の獣)
セトの姿として描かれる獣。長い鼻先と角ばった耳を持つ。ツチブタ、オリックス、ロバなど候補が挙がるが特定されておらず、異質さを表すために作られた姿とする見方が有力。
関わる神: セト
ホルスの四人の子(msw-ḥr/カノポス壺の守護)
イムセティ(人・肝臓)、ハピ(ヒヒ・肺)、ドゥアムトエフ(ジャッカル・胃)、ケベフセヌエフ(隼・腸)。四つのカノポス壺?をそれぞれ守る。
関わる神: ホルス
トキとヒヒ(ḥbj / jꜥn/トートの聖獣)
トキはくちばしが書記の筆に似ることから、ヒヒは夜明けに鳴く習性から、それぞれトートの姿とされた。トゥーナ・エル・ゲベルからは数百万体のミイラが出土している。
関わる神: トート
ハヤブサ(隼)(bjk/ホルスの聖鳥)
ホルスの姿。鳥頭の神として最も多く描かれる。エドフ神殿の入口には、二重冠をかぶった巨大な花崗岩の隼像が立つ。ラー=ホルアクティも同じ姿をとる。
関わる神: ホルス
フクロウ(m/文字としての梟)
エジプトでは神の姿ではなく、子音「m」を表すヒエログリフとして使われた。碑文にきわめて頻繁に登場する記号。知恵の象徴とするのはギリシャ(アテナの梟)の発想。
関わる神: トート
ウェネト(ウサギの女神)(wnwt/ヘルモポリスのウサギ)
ヘルモポリス(ウサギ州)の地方女神。ウサギの頭を持つ姿で描かれる。記録は少なく、詳しい神話は伝わっていない。州の紋章としてのウサギの記号がよく知られる。
関わる神: トート
エジプト神話のその他の神々|タウエレト・ネフェルテム・ムート8件
主要な神以外にも、役割の明確な神々が多数います。エジプトの神は、判明しているだけで千五百柱を超えるとされます。
ここでは、よく名前が挙がるものをまとめます。
タウエレト(Taweret/出産を守るカバの女神)
妊婦のようなカバの姿に、ライオンの手足とワニの背を持つ女神です。
出産と、母子を守る。
ベスと並び、庶民の家で最も広く祀られました。 護符、ベッド、化粧道具に姿が刻まれています。
カバは古代エジプトで最も人を殺した動物とされ、危険の象徴でもありました。
その動物を、守り手にしている。
エジプトらしい発想です。
ネフェルテム(Nefertem/蓮から生まれた神)
青い蓮の花を頭に載せた姿で描かれます。
原初の水から最初に咲いた蓮から、太陽が生まれた。
という神話に基づき、香りの神でもありました。
メンフィス三柱神の一柱で、プタハとセクメトの子。
プタハ(創造)、セクメト(破壊)、ネフェルテム(再生)。
ツタンカーメンの墓からは、蓮から顔を出す少年王の像が出土しています。
ムート(Mut/テーベの母なる女神)
コンス(Khonsu/月の神)
名は「渡る者」を意味し、月が空を渡ることを表します。
アメンとムートの子で、テーベ三柱神の一柱。
横に垂らした「若者の髪」と、三日月と満月を組み合わせた冠が特徴です。
治癒の力
があるとされ、遠く外国の王女の病を治したという物語(ベンドレスの碑文)が残っています。
カルナックに保存の良いコンス神殿があります。
ヘカ(Heka/魔法そのものの神)
魔法・呪力を神格化した存在です。
重要なのは、
ヘカは、悪い意味の「魔術」ではありません。
世界を動かす力そのものであり、
神々もこの力を使って創造を行った。
とされます。ラーの船に同乗し、医療の呪文もこの神の力によります。
エジプトでは、魔法と医学と宗教が分かれていませんでした。
レネヌテト(Renenutet/収穫のコブラの女神)
コブラの姿、またはコブラの頭を持つ女性で描かれます。
収穫と、穀物倉を守る。
ファイユームでソベクと並んで祀られました。
また、
生まれた子に名前と運命を与える
役目も持ちます。ヘビが穀物倉の鼠を食べることから、豊穣と結びついたと考えられます。
イムホテプ(Imhotep/神になった実在の人物)
実在の人物が神になった、エジプトで数少ない例です。
第3王朝、ジェセル王の宰相であり、
世界最古の大規模石造建築「階段ピラミッド」の設計者。
死後に神格化され、プタハの子とされました。
医術の神として信仰され、ギリシャ人はアスクレピオスと重ねます。
建築家が、千年以上たって神になった。
映画で有名な「呪われたミイラ」とはまったく別です。
「エジプト神話の天使」について(有翼の女神との混同)
エジプト神話に天使はいません。 キリスト教の概念です。
ただし、混同されやすい図像があります。
翼を広げてミイラを守るイシスとネフティス。
カノポス厨子の四隅に立つ、翼のある四女神。
これらの翼を広げた守護の姿は、後世の天使像と構図が似ています。
直接の影響関係は証明されていませんが、地中海世界で有翼の守護者という図像が広く流通していたことは確かです。
エジプト神話の神を属性でさがす
「太陽神」「冥界の神」「戦いの神」のように、司るものから神を探すこともできます。
主なものを挙げます。
太陽神── ラー(太陽神ラー)、ケプリ、アトゥム、アテン
月の神── コンス、トート
創造神── アトゥム、プタハ、ネイト、クヌム
冥界の神・死の神── オシリス、アヌビス、ウプウアウト
戦いの神・軍神── セクメト、ネイト、モントゥ
破壊神── セクメト、セト
豊穣神── ミン、オシリス、ハピ、レネヌテト
知恵の神── トート、プタハ
水の神── ヌン、ハピ、クヌム、ソベク
空の神・星の神── ヌト、ホルス、ソプデト
夜の神・闇の神── ヌト、ケク(八柱神の闇)
美の神── ハトホル
時の神── トート、コンス
雷神にあたる神は、エジプトにはほとんどいません。雷がめったに鳴らない土地だからです。かわりに嵐と砂漠を司るセトが近い位置にいます。
エジプト神話では、同じ領域を複数の神が担うことが非常に多くあります。
太陽は、朝がケプリ、昼がラー、夕がアトゥム。
創造神は、都市ごとにアトゥム・プタハ・ネイト。
これは矛盾ではなく、併存です。
エジプト神話の大地の神:
エジプト神話の火の神:
エジプト神話ゆかりの地と、いま行ける神殿8件
エジプト神話は、遺跡がそのまま残っています。
神殿、王墓、ピラミッド、そして神像。
乾燥した気候のおかげで、三千年前の彩色が残っている場所さえあります。
以下は、神話とのつながりがはっきりしている土地です。
ルクソール(カルナック・王家の谷)(Luxor)
ルクソール(カルナック・王家の谷)の場所: エジプト ルクソール県
ルクソール(カルナック・王家の谷)と神話のつながり: アメンの都テーベ。エジプト史上最大の神殿と王墓が集まる
古代のテーベ。アメン=ラーの都です。
東岸にカルナック神殿(総面積約100ヘクタール、大列柱室の柱は134本)とルクソール神殿。
西岸に王家の谷、ハトシェプスト女王葬祭殿、デイル・エル・メディーナ(職人の村)。
東岸が生者の町、西岸が死者の町。
この配置が、そのまま残っています。
ツタンカーメンの墓(KV62)も王家の谷にあります。
エジプト観光の中心地であり、神話を体感するなら最初に行くべき場所。
ギザ(Giza)
ギザの場所: エジプト ギザ県
ギザと神話のつながり: 三大ピラミッドと大スフィンクス
クフ王の大ピラミッド(もとの高さ約146メートル、四千年以上世界一高い建造物だった)を含む三大ピラミッドと、大スフィンクス(全長約73メートル)があります。
ピラミッドの形は、
原初の丘ベンベン
を表すとされます。創世神話が、建築になっているわけです。
隣接して大エジプト博物館が建てられ、ツタンカーメンの副葬品を全点まとめて展示しています。
カイロ市街から近く、空港からのアクセスもよい場所です。
サッカラ(Saqqara)
サッカラの場所: エジプト ギザ県
サッカラと神話のつながり: 階段ピラミッドと、動物ミイラのカタコンベ
ジェセル王の階段ピラミッド(紀元前2650年頃)。世界最古の大規模石造建築とされ、設計者はイムホテプです。
ピラミッド・テキストが最初に刻まれたウナス王のピラミッドもここにあります。
さらに、
セラペウム── アピス牡牛を葬った地下岩窟。二十トン超の石棺が並ぶ。
アヌビエイオン── 七百万体を超える犬のミイラ。
ブバステイオン── 猫のカタコンベ。
エジプトの動物ミイラ信仰の実態を、最もよく知ることができる場所。
発掘が現在も続いています。
アビドス(Abydos)
アビドスの場所: エジプト ソハーグ県
アビドスと神話のつながり: オシリスの墓とされた最大の聖地
オシリス信仰の最大の聖地です。オシリスの頭が葬られたとされました。
毎年オシリスの祭が行われ、
神像が行列で運ばれ、殺害と復活が再現された。
民衆が参加できる数少ない公開の祭で、参加すれば来世が確実になると信じられました。参加できない者は石碑を建てて代わりとしたため、大量の奉納碑が出土しています。
セティ1世神殿の浮き彫りは彩色がよく残り、エジプト美術の最高水準とされます。王名表(歴代の王の名を並べた一覧)もここにあります。
背後のオシレイオンは、巨大な花崗岩を用いた地下建築です。
デンデラ(Dendera)
デンデラの場所: エジプト ケナ県
デンデラと神話のつながり: ハトホルの大神殿。天井の彩色が残る
ハトホルの神殿です。
最大の見どころが、
清掃によって現れた、天井の彩色。
紺と金の星空、黄道帯、ヌト女神の図が当時の色のまま残っています。エジプトで当時の色を実感できる、数少ない場所です。
柱頭の四方にハトホルの顔を彫ったハトホル柱が並びます。
外壁には、
クレオパトラ7世とカエサリオンの浮き彫り
があり、現存する数少ないクレオパトラの図像として知られます。
屋上に上がれるのも特徴です。
エドフ(Edfu)
エドフの場所: エジプト アスワン県
エドフと神話のつながり: ホルス神殿。屋根まで残る最良の保存状態
エジプトに現存する神殿のなかで、最も保存状態が良い建物です。
屋根まで残っている。
内部は薄暗く、古代の神殿がどういう空間だったかを体感できます。
壁にはホルスとセトの戦いが、台詞と動作の指示まで刻まれ、
実際に上演された祭儀劇の台本
と考えられています。毎年、王権の正統性を確認する儀式が行われました。
入口の巨大な隼の花崗岩像は、写真でよく知られています。
アスワン(フィラエ・エレファンティネ)(Aswan)
アスワン(フィラエ・エレファンティネ)の場所: エジプト アスワン県
アスワン(フィラエ・エレファンティネ)と神話のつながり: 古代エジプト宗教が最後まで続いた地
エジプトの南の国境であり、ナイルの第一急湍の地点です。
フィラエ神殿(イシス)は、
古代エジプト宗教が最後まで続いた聖地。
西暦394年の最後のヒエログリフ碑文、そして西暦536年の神殿閉鎖。ここで三千数百年の信仰が終わりました。
エレファンティネ島にはナイロメーター?(水位計)が残り、
増水の高さで、その年の税率が決まった。
アブ・シンベル神殿(ラメセス2世)もアスワンから行けます。
年に二回、朝日が至聖所の奥まで差し込む設計。
アマルナ(Amarna)
アマルナの場所: エジプト ミニヤー県
アマルナと神話のつながり: アクエンアテンがアテン信仰のために建てた新都
どの神とも関わりのない土地に、ゼロから建設された都です。
わずか数年で完成し、十数年で放棄された。
そのため、
一つの時代だけの都市が、そのまま残っている。
古代エジプトの都市計画を知る最重要の遺跡です。労働者の住区、貴族の邸宅、工房まで発掘されています。
大アテン神殿は屋根がなく、
本物の太陽に向かって祈る構造。
貴族墓には大アテン讃歌が刻まれ、ネフェルティティの胸像もこの地の工房跡から出土しました。
観光客は少なく、静かに見学できます。
エジプト神話の神の名前の読み方と原語表記
エジプトの神の名は、ほとんどがギリシャ語形で日本に伝わっています。英語表記も、同じギリシャ語形をローマ字にしたもの(Ra, Isis, Horus, Anubis)がそのまま使われます。
エジプト語の「ヘル」が、ギリシャ語で「ホロス」になり、日本語で「ホルス」になった。
さらに問題があります。
ヒエログリフには、母音が書かれていません。
子音だけが記されるため、当時どう発音したかは正確には分かりません。 学者は便宜的に子音のあいだに「e」を入れて読んでいます。
「ラー」も「アメン」も、推定音です。
以下が主な対応です。エジプト語名/ギリシャ語名(日本語表記)の順で示します。
ラー(rꜥ)/ラー・レー: 太陽神。「レー」と表記されることもある。太陽そのものを意味する語。
アセト(ꜣst)/イシス(Ἶσις): 「玉座」を意味する。王が座る玉座そのものがこの女神とされた。
ウシル(wsjr)/オシリス(Ὄσιρις): 冥界の王。エジプト語の読みは「ウシル」「アサル」など諸説あり確定していない。
ヘル(ḥr)/ホルス(Ὧρος): 「遠くにある者」「高みにある者」。空を飛ぶ隼にふさわしい名。
セテク(stẖ)/セト(Σήθ): ギリシャ人は混沌の怪物テュポーンと同一視した。時代により「セテク」「ステフ」と読みが変わる。
インプウ(jnpw)/アヌビス(Ἄνουβις): ミイラ作りの神。ギリシャ人はヘルメスと結びつけ「ヘルマヌビス」という神を生んだ。
ジェフティ(ḏḥwtj)/トート(Θώθ): ギリシャ人はヘルメスと同一視し、「ヘルメス・トリスメギストス」の名がルネサンス思想に影響を与えた。
イメン(jmn)/アンモン(Ἄμμων): 「隠された者」。日本語ではアメン・アモン・アムンと揺れる。アンモニア、アンモナイトの語源。
プタハ(ptḥ)/フタ(Φθά): ギリシャ人はヘパイストスと同一視。神殿名「フウト・カー・プタハ」が「エジプト」という国名の語源。
ネベト・ヘト(nbt-ḥwt)/ネフティス(Νέφθυς): 「家の女主人」。イシス(玉座)と対をなす名。
フウト・ヘル(ḥwt-ḥr)/ハトホル(Ἁθώρ): 「ホルスの家」。天空をホルスが住む家と見た表現。ギリシャ人はアプロディテと重ねた。
セケメト(sḫmt)/サクミス: 「強力な女」。sḫm(力)に女性形の語尾がついた形。名前がそのまま性格。
ネイト(njt)/ネイト(Νηΐθ): ギリシャ人はアテナと同一視。プラトンは、アテナイの名がサイスのネイトに由来するとするエジプト神官の話を記した。
セベク(sbk)/スーコス(Σοῦχος): ワニの神。ギリシャ人は信仰の中心地を「クロコディロポリス(ワニの町)」と呼んだ。
アアペプ(ꜥꜣpp)/アポピス(Ἄποφις): 太陽を襲う大蛇。地球接近小惑星「アポフィス」の名はここから取られた。
マアト(mꜣꜥt)/マアト: 真理・正義・秩序・調和をまとめて意味する語であり、同時に女神の名。日本語に一語で訳せない。
ヒエログリフの読み方について: ヒエログリフは子音のみを書き、母音を書きません。そのため「ntr(神)」は「ネチェル」と便宜的に読まれますが、実際の発音は不明です。コプト語(ギリシャ文字で書かれた最終段階のエジプト語)が、母音を推定する手がかりになっています。
日本語表記の揺れについて: アメン/アモン/アムン、テフヌト/テフネト、アペプ/アポフィスなど、表記が複数あります。ギリシャ語形を経由するか、エジプト語の転写に近づけるかで変わるためで、どれが間違いということはありません。
英語での呼び方: Ra, Osiris, Isis, Horus, Set(Seth), Anubis, Thoth, Ma'at, Hathor, Sekhmet, Bastet, Sobek。日本語のカタカナはこの英語・ギリシャ語形とほぼ対応しており、そのまま検索に使えます。
エジプト神話の星と天文|シリウスとオリオン7件
現在の88星座の多くはギリシャ由来ですが、
エジプトには、独自の天文体系がありました。
星座の区切りも、名前も、ギリシャとは別です。
そして、
エジプトの天文は、実用でした。
暦を決め、時刻を測り、税を計算するためのものです。神殿の天井に描かれた図が、そのまま観測記録でした。
以下は、エジプトの天文で重要なものです。
ソプデト(シリウス)(Sopdet / Sirius)
エジプトの暦の起点です。
七十日ほど姿を消していたシリウスが、
日の出直前に、東の空へ再び現れる。
この日(ヘリアカル・ライジング)が、ナイルの増水の到来とほぼ一致しました。
一年の始まり。
女神ソプデト?として神格化され、のちにイシスと同一視されます。
エジプトの暦は365日でしたが、実際の一年は約365.25日。四年で一日ずれるため、1460年で一周しました。 この周期を「ソティス周期」といいます。
サフ(オリオン座)(Sah / Orion)
メスケティウ(北斗七星)(Meskhetiu / Big Dipper)
北斗七星はメスケティウと呼ばれ、
牡牛の前脚
の形と見られました。セトと結びつけられます。
重要なのが、
この星が、決して沈まないこと。
周極星(沈まない星)を、エジプト人は
「滅びざる者たち」
と呼びました。死者が目指す不滅の状態の象徴です。
「開口の儀式?」で使う道具の一つも、この形をしていました。
デカン(Decans/十日ごとの星)
エジプト独自の星の区分です。
空を三十六の星群に分け、それぞれが十日間ずつ夜明け前に昇る。
36 × 10 = 360日。これがエジプト暦の基礎になりました。
さらに、
夜のあいだに昇るデカン?を数えて、時刻を知った。
一晩を十二に分けるという発想がここから生まれ、
一日24時間
の起源になったとされます。
現在の時間の区切りが、エジプトの星から来ています。
ヌトの体と星時計(Nut / Ramesside Star Clocks)
王墓の天井には、
弓なりに反り返るヌトの体に沿って、星座と時刻の表
が描かれました。
「星時計」と呼ばれ、
どの星が昇れば夜の何時か
を読み取るための実用的な天文表です。
セティ1世の墓(KV17)とラメセス6世の墓(KV9)のものが代表的で、
現存する最古級の天文天井
とされます。
デンデラの黄道帯(Dendera Zodiac)
デンデラ神殿の天井にあった円形の星座図です。
注目すべきは、
エジプト独自の星座と、ギリシャ由来の黄道十二宮が、混ざって描かれている
ことです。プトレマイオス朝〜ローマ時代の作で、
文化が混ざった瞬間の記録。
1821年にフランスへ持ち出され、現在はルーヴル美術館にあります。神殿には複製が置かれています。
持ち出しの経緯には批判があります。
メルケトとバイ(観測器具)(Merkhet / Bay)
エジプト人は、実際に器具で観測していました。
メルケト── 錘を下げた水平器。子午線を出す。
バイ── 中央に切れ込みのある棕櫚の葉柄。星を照準する。
二人一組で使い、
星が特定の位置に来た時刻を記録した。
神殿を建てるときの方位決めにも使われました。
ギザの大ピラミッドは、真北からのずれが0.05度未満です。器具による測量の精度を示しています。
エジプト神話が描かれた壁画・彫刻・イラストと、その場面6件
エジプト美術には、他の文明と決定的に違う点があります。
三千年、様式がほとんど変わらなかった。
顔は横向き、目は正面、肩は正面、腰から下は横向き。この描き方が、紀元前3000年から紀元後まで続きました。
理由は、
美しく見せるためではなく、正確に記録するため
だったからです。それぞれの部分を、最もよく分かる角度で描く。
もうひとつ重要なのが、残り方です。
エジプト神話は、額に入った絵画ではなく、神殿と墓の壁画・浮き彫りとして残りました。
ギリシャ神話がルネサンス以降のタブロー(板絵・油彩)で伝わったのに対し、エジプトは
三千年前に描かれた壁画そのものが、いまも現地にあります。
唯一の大きな断絶が、アマルナ時代です。
以下は、とくに知られている作例です。
ツタンカーメンの黄金のマスク(紀元前1323年頃/新王国時代)
ツタンカーメンの黄金のマスクが描く場面: 死んだ王がオシリスとして永遠の姿になった状態
ツタンカーメンの黄金のマスクの所蔵: エジプト ギザ県 大エジプト博物館
世界で最も知られた古代の遺物です。重さ約10キロの金に、ラピスラズリ、カーネリアン、トルコ石が象嵌されています。
額には、
ハゲワシ(上エジプト)とコブラ(下エジプト)。
統一エジプトの王であることを示します。付け髭はオシリスの姿を表します。
背面と肩には、死者の書第151章の呪文が刻まれています。
少年王の墓が見つかったのは、その存在が歴史から消されていたためでした。
アマルナ期の王として王名表から削除され、忘れられた結果、盗掘を免れました。
ネフェルティティの胸像(トトメスの工房/紀元前1345年頃)
ネフェルティティの胸像が描く場面: アクエンアテンの王妃
ネフェルティティの胸像の所蔵: ドイツ ベルリン 新博物館
アマルナ美術の代表作です。1912年、アマルナの彫刻家トトメスの工房跡から発見されました。
特徴的なのが、
左目に、目が入っていない。
未完成なのか、意図的なのか、議論が続いています。工房の見本(マスターピース)だったとする説が有力です。
名は「美しき者が来た」を意味します。
この像は、
エジプトへの返還を求める議論が最も長く続いている遺物
の一つでもあります。
ナルメルのパレット(紀元前3100年頃/先王朝末〜第1王朝)
ナルメルのパレットが描く場面: 上下エジプトの統一
ナルメルのパレットの所蔵: エジプト カイロ エジプト考古学博物館
エジプトが国家になった瞬間を記録した、最古級の資料です。ヒエラコンポリス(隼の町)から出土しました。
片面で王が白冠(上エジプト)をかぶって敵を打ち据え、もう片面で赤冠(下エジプト)をかぶって行進します。
統一の宣言。
王の勝利の上に隼(ホルス)が描かれ、
この時点で、すでにホルスが王権を保証している。
また、
エジプト美術の描き方の原則が、この一枚ですでに完成しています。
以後三千年、ほとんど変わりませんでした。
アニのパピルス(死者の書)(紀元前1250年頃/新王国時代)
アニのパピルス(死者の書)が描く場面: 心臓の計量
アニのパピルス(死者の書)の所蔵: イギリス ロンドン 大英博物館
死者の書の作例として、世界で最も有名なものです。書記アニのために作られ、全長は23メートルを超えます。
第125章の計量図が特に知られ、
天秤、アヌビス、トート、マアトの羽根、四十二柱の神々、そしてアメミット
がすべて描かれています。彩色がよく残り、細部まで判別できます。
エジプト美術の図版として、最も多く複製された一枚。
1888年にウォリス・バッジが入手しました。持ち出しの経緯には批判があります。
展示は保存の都合で入れ替え制です。
大スフィンクス(紀元前2500年頃/古王国時代)
大スフィンクスが描く場面: 王の顔を持つ守護獣
大スフィンクスの所蔵: エジプト ギザ県 ギザ台地
全長約73メートル、高さ約20メートル。 一つの岩盤を掘り出して作られました。
顔はカフラー王とされますが、確定していません。
鼻が失われている理由
について「ナポレオン軍が撃った」という話が広く知られていますが、
ナポレオンより前の図版にすでに鼻がありません。 この説は成り立ちません。
前足のあいだには「夢の碑文」が立ちます。トトメス4世が砂に埋もれたスフィンクスの夢を見て掘り出した、という内容です。
ギリシャのスフィンクスと違い、謎かけはしません。 守護者です。
カノポス厨子の四女神(ツタンカーメン墓出土/紀元前1323年頃)
カノポス厨子の四女神が描く場面: 王の内臓を守る四柱の女神
カノポス厨子の四女神の所蔵: エジプト ギザ県 大エジプト博物館
内臓を納めたカノポス壺を収める厨子の四隅に、
イシス、ネフティス、ネイト、セルケトが翼を広げて立っています。
特徴的なのが姿勢です。
顔を横に向け、振り返るような形。
正面を向かず、外に向かって警戒している構図で、
エジプト彫刻の最高傑作の一つ
とされます。
三千年変わらなかったエジプト美術のなかで、この像の柔らかさは例外的です。アマルナ期の影響が残っているためと考えられています。
エジプト神話が登場するアニメ・ゲーム・漫画・映画
エジプト神話は、「見た目」で創作に使われることが多い神話です。
ピラミッド、ミイラ、ジャッカルの頭、ヒエログリフ。
図像の完成度が高いため、中身より先に姿が引用されます。
ここでは、原典との関係がはっきりしている作品に絞って挙げます。
エジプト神話が登場するゲーム
Assassin's Creed オリジンズ
プトレマイオス朝末期のエジプトが広範囲に再現されています。カルナック、ギザ、ファイユーム、シワまで実際に歩け、神殿や墓の内部も作り込まれています。学習用の「ディスカバリーツアー」モードもあり、資料性が高い作品です。
女神転生シリーズ
エジプトの神々が多数登場します。ホルス、アヌビス、セト、イシス、トートなど。
Age of Mythology
エジプト・ギリシャ・北欧の神話勢力で戦う戦略ゲームです。エジプト勢はラー、イシス、セトなどを主神に選べます。
遊☆戯☆王
古代エジプトの王権とウジャトの目の意匠が、作品全体の背景になっています。「千年アイテム」のデザインはホルスの目に基づいています。
メジェドが登場する作品・グッズ
布をかぶって目だけを出した姿がキャラクターとして扱いやすいため、ゲーム、ぬいぐるみ、文具、ガチャガチャなどに繰り返し商品化されています。日本だけの現象です。
エジプト神話が登場する映画・ドラマ
「ハムナプトラ」シリーズ
1999年。イムホテプが呪われたミイラとして登場します。実在のイムホテプは階段ピラミッドを設計した宰相で、のちに医術の神になった人物です。作中の設定は完全な創作です。
「キング・オブ・エジプト」
2016年。ホルスとセトの争いを下敷きにしています。ホルスが目を奪われる展開は原典に沿っていますが、セトを単純な悪役にした点は原典と異なります。
ドラマ「ムーンナイト」
2022年。コンス、アメミット、タウエレトなど、通常あまり扱われない神が主要な役割で登場します。
ドラマ「スターゲイト SG-1」
ラー、アポフィス、アヌビスなどの名が敵勢力として使われ、「アポフィス」という名を広く知らしめました。
エジプト神話が登場するアニメ・漫画
王家の紋章
1976年連載開始。古代エジプトへタイムスリップする少女の物語で、日本でエジプトへの関心を広げた作品の一つです。
ジョジョの奇妙な冒険 第3部
エジプトを最終目的地とし、ホルス、アヌビス、セト、トート、バステトなど多数の神の名がスタンド名に使われています。
ヒストリエ・古代文明を扱った作品
歴史漫画では、エジプトの宗教が政治とどう結びついていたかが描かれることがあります。
エジプト神話が登場するその他
遊☆戯☆王(遊戯王/カード・アニメ)
「千年アイテム」の意匠はホルスの目に基づき、作品全体が古代エジプトの王権を背景にしています。日本でエジプトの図像がもっとも広く知られた要因の一つです。
神話クイズ・雑学系のコンテンツ
「アヌビスは何の神か」「心臓を量る神は誰か」といった形で、テレビのクイズ番組や検定でしばしば出題されます。
博物館のグッズ
アンク、ウジャトの目、スカラベ、そしてメジェド。図像の完成度が高いため、そのまま商品になります。
エジプト神話のおすすめの本・漫画(マンガ)・絵本
エジプト神話の本は、選び方に注意が要ります。
「物語」として書かれた本は、多くがプルタルコスの再構成に基づいています。
それが悪いわけではありませんが、原典に一続きの物語がないことを知らずに読むと、後で混乱します。
また、俗説を含む本が他の神話より多い分野です。ピラミッドの建造法、スフィンクスの年代、オリオン相関説など。
著者と出版社を確認したほうがよい分野
といえます。
目的別に言えば、
簡単に全体をつかみたいなら、図解の多いわかりやすい本。
ストーリーとして読みたいなら、物語形式にまとめた本。
正確に知りたいなら、原典の翻訳。
目的が違えば、選ぶ本も変わります。
はじめての一冊(入門・おすすめ)
『エジプト神話』(矢島文夫ほか・各社)
物語としてまとまった入門書が複数出ています。まず全体の筋を知るのに向いています。
図解つきのエジプト神話事典
神の姿と持ち物が図で分かるものを選ぶと、美術館や遺跡で見分けがつくようになります。
原典を読む
『死者の書』(各社・翻訳あり)
呪文集であり物語ではありませんが、エジプト人が死をどう考えていたかが直接分かります。第125章(心臓の計量と否定告白)だけでも読む価値があります。
プルタルコス『イシスとオシリスについて』(『モラリア』所収)
オシリス神話が一続きで読める唯一の古典です。ただしギリシャ語で、神話成立から二千年以上あとの記録である点を踏まえて読む必要があります。
『ピラミッド・テキスト』『棺文書』の翻訳
世界最古の宗教文書です。読みやすくはありませんが、王の来世観がどう庶民へ広がったかが分かります。
歴史と考古学から知る
古代エジプト史の概説書
神話は歴史と切り離せません。アメンが最高神になった経緯も、アクエンアテンの改革も、政治の話です。王朝の流れを一度押さえると理解が深まります。
ヒエログリフ入門書
簡単な王名やアンク、ウジャトの記号が読めるようになるだけで、遺跡と博物館の見え方が変わります。
小説・物語で読む
『エジプト神話物語百科』ほか物語形式の本
神話を通しの物語として読ませる形式の本です。原典に一続きの物語がないため、著者が構成し直している点は踏まえて読む必要があります。
古代エジプトを舞台にした歴史小説
クレオパトラ、ツタンカーメン、アクエンアテンを主人公にした作品が複数あります。神話そのものではありませんが、宗教が政治とどう結びついていたかが分かります。
文庫で手に入る神話関連書
ちくま学芸文庫、講談社学術文庫、岩波文庫などに、エジプト宗教や『死者の書』の翻訳が入っています。持ち歩けるのが利点です。
子どもと読む・漫画で読む
児童向けのエジプト神話・古代エジプトの本
ミイラ、ピラミッド、ヒエログリフは子どもの関心を引きやすい題材です。図解の多いものが向いています。
『王家の紋章』ほか漫画作品
物語として親しみやすい一方、創作部分が多いことは押さえておく必要があります。
キャラクター化された入門書
神々をかわいいイラストで紹介する本も出ています。姿と役割を覚える最初の一歩には向いていますが、原典の記述との差は別途確認したほうが確実です。
どれか一冊だけ選ぶなら、図解の多い入門書です。エジプト神話は、
文章より、姿を覚えるほうが早い。
ジャッカルの頭ならアヌビス、トキならトート、雌ライオンならセクメト。見分けがつくようになると、遺跡も博物館も一気に読めるようになります。
そのうえで、博物館へ行く前に『死者の書』第125章を読むことをおすすめします。心臓の計量の図が、どこの館にも必ずあります。
エジプト神話についてよくある質問
エジプト神話とは何ですか。
古代エジプトで三千年以上にわたって語られ、祀られてきた神々の体系です。太陽のラー、冥界のオシリス、魔術のイシス、王権のホルス、混沌のセトなどが登場します。
エジプト神話の神様は何柱いますか。
判明しているだけで千五百柱を超えるとされます。都市ごとに神がおり、時代によって融合したり分かれたりするため、正確な数は決められません。本サイトでは主要な31柱を収録しています。
エジプト神話の最高神は誰ですか。
時代によって違います。古王国時代はラー、新王国時代はアメン=ラー。メンフィスの神学ではプタハ、サイスではネイトが最初の神です。都市が力を持てば、その都市の神が最高神になりました。
エジプト神話の原典は何ですか。
物語をまとめた書物は存在しません。残っているのはピラミッド・テキスト、棺文書、死者の書といった呪文・葬祭文書です。オシリス神話が一続きで読めるのは、紀元後100年頃にギリシャ語で書かれたプルタルコスの記録だけです。
なぜエジプトの神は動物の頭を持つのですか。
動物を拝んだのではなく、その動物の性質を神の性格として示す表現でした。墓地に現れるジャッカルは墓の守り手に、人を襲うワニは味方につけるべき神に、玉を転がすフンコロガシは太陽を押し上げる者になりました。
心臓の計量とはどういうものですか。
死者の心臓とマアトの羽根を天秤にかける儀式です。アヌビスが天秤を扱い、トートが記録します。釣り合えば来世が許され、釣り合わなければアメミットが心臓を食い、存在そのものが消えます。死者の書第125章に描かれています。
エジプト神話に世界の終わりはありますか。
あります。棺文書第1130節で、アトゥムが「私が創ったものはすべて滅び、世界は再びヌンの水に戻る。残るのは私とオシリスだけ」と語ります。戦いによる終末ではなく、静かに元の状態へ戻る形です。
なぜミイラを作ったのですか。
来世で必要だからです。エジプト人は人がカー(生命力)、バー(人格)、名前、影、遺体などからできていると考え、そのすべてが保たれて初めて来世へ進めるとしました。心臓だけは裁きで量られるため体内に残されます。
ピラミッドは神話と関係がありますか。
あります。ピラミッドの形は、原初の水から最初に現れた丘「ベンベン」を表すとされます。オベリスクの先端も同じ形です。創世神話が、そのまま建築になっています。
古代エジプトの宗教はいつ終わったのですか。
西暦536年、フィラエ島のイシス神殿が閉鎖されたときです。最後のヒエログリフ碑文(394年)も同じ島にあります。以後千四百年、誰もヒエログリフを読めず、1822年にシャンポリオンが解読しました。
ヒエログリフはどう読むのですか。
子音のみが書かれ、母音は書かれません。そのため当時の正確な発音は分かっておらず、学者は便宜的に子音のあいだに「e」を入れて読んでいます。「ラー」も「アメン」も推定音です。
エジプト神話とギリシャ神話は関係がありますか。
あります。ギリシャ人はエジプトの神を自分たちの神と対応させました。トート=ヘルメス、ハトホル=アプロディテ、ネイト=アテナ、セト=テュポーン。イシス信仰はローマ帝国全域へ広まり、フィラエ神殿の閉鎖まで続きました。
アヌビスとウプウアウトの違いは何ですか。
どちらもイヌ科の姿ですが役割が違います。ウプウアウトは道を開いて先導し、アヌビスは遺体を処理して天秤を扱います。姿では、アヌビスが黒く伏せた姿、ウプウアウトは灰色または白で立っている姿が多くあります。
ホルスの目とラーの目は同じですか。
違います。ホルスの目(ウジャト)はセトに奪われトートが癒した左目で、守護と回復の象徴です。ラーの目はラーが放つ独立して動く存在で、セクメトやハトホルが担う攻撃と破壊の力です。性格が正反対です。
エジプトの神殿は今も見られますか。
見られます。エドフのホルス神殿は屋根まで残り、デンデラのハトホル神殿は天井の彩色が残っています。カルナックはエジプト史上最大の宗教建築で、王家の谷では王墓の内部を見学できます。
アクエンアテンの一神教とは何ですか。
アメンホテプ4世が行った改革で、太陽円盤アテンのみを崇拝し、他のすべての神の信仰を停止しました。「人類最初の一神教」と呼ばれますが、他の神の存在を否定したのかは議論があります。王の死後、数年で元に戻りました。
エジプト神話の女神で有名なのは誰ですか。
イシスが最も知られています。夫オシリスの遺体を集めて蘇らせ、最高神ラーから真の名を奪い、ローマ帝国全域へ信仰が広まりました。ほかにハトホル、セクメト、バステト、マアト、ネフティス、ネイトがいます。
スフィンクスはエジプトの神様ですか。
神そのものではなく、ライオンの体に王の頭を持つ守護の像です。ギリシャのスフィンクスと違い、謎かけはしません。ギザの大スフィンクスは全長約73メートルで、顔はカフラー王とされますが確定していません。
エジプト神話のタトゥーによく使われる図案は何ですか。
アンク(生命の記号)、ウジャトの目、スカラベ、アヌビスの頭などが多く使われます。なお古代エジプトでも入れ墨は実際に行われており、ベス神やタウエレト、幾何学模様を体に入れたミイラが見つかっています。
エジプト神話を学ぶには何から読めばいいですか。
図解の多い入門書からをおすすめします。エジプト神話は文章より姿を覚えるほうが早く、ジャッカルの頭ならアヌビス、トキならトートと見分けがつくようになると、博物館も遺跡も読めるようになります。
メジェドとは何ですか。
『死者の書』第17章に一行だけ現れる神です。全身を布で覆い、目だけを出した姿で描かれます。2012年の「大英博物館 古代エジプト展」で日本に紹介され、その見た目からSNSで広まりました。エジプト本国ではほとんど知られていません。
鳥の頭を持つ神は誰ですか。
ハヤブサの頭ならホルス(またはラー=ホルアクティ)、トキの頭ならトートです。猫の頭ならバステト、雌ライオンの頭ならセクメト、ジャッカルの頭ならアヌビス。頭の動物で見分けるのが最も確実です。
エジプト神話とギリシャ神話の違いは何ですか。
最大の違いは、エジプトに物語をまとめた書物がないことです。ギリシャには『神統記』『イリアス』がありますが、エジプトに残るのは呪文と葬祭文書です。また、エジプトは都市ごとに創世神話が併存し、神が融合したり性格が変わったりします。
エジプト神話と日本神話に共通点はありますか。
いくつかあります。太陽神が中心にいること、兄弟姉妹の争いが王権の物語になっていること、死者の国(ドゥアト/黄泉の国)が地下にあること。一方、エジプトには死後の裁きがあり、日本にはありません。
エジプト神話の物語はどこで読めますか。
原典に一続きの物語がないため、日本語では入門書や神話集を通して読むことになります。オシリス神話に限れば、プルタルコス『イシスとオシリスについて』(『モラリア』所収)が唯一まとまった古典です。
セトが懐妊したというのは本当ですか。
通常の意味での懐妊ではありません。イシスがホルスの種を塗ったレタスをセトに食べさせたため、種がセトの体内に入りました。法廷でトートが呼びかけると、その種は黄金の円盤となってセトの額から現れます。トートはそれを自分の頭に載せました。この場面が「セトが懐妊した」と要約されることがあります。パピルス『ホルスとセトの争い』に記されています。
エジプト神話で面白い話は何ですか。
神々が法廷で口論し、席を立ち、八十年も決着しない『ホルスとセトの争い』が代表的です。ほかに、イシスが毒蛇を作ってラーから真の名を奪う話、トートが月と賭けて一年を五日増やす話、セクメトを七千壺のビールで酔わせて人類滅亡を止める話などが知られます。
エジプト神話の基本用語
死者の書(ししゃのしょ)
正しくは「日のもとに出現するための書」。冥界を通るための呪文集で、パピルスに書いてミイラとともに納めた。名前の欄を空けた既製品が売られており、購入者の名を書き入れて使った。
ヒエログリフ(Hieroglyph/神聖文字)
古代エジプトの絵文字。エジプト語では「神の言葉(メドゥ・ネチェル)」と呼ばれた。子音だけを書き母音は書かないため、当時の正確な発音は分かっていない。西暦394年の碑文を最後に使われなくなり、1822年にシャンポリオンが解読するまで千四百年以上読めなかった。
心臓の計量(しんぞうのけいりょう)
死者の心臓とマアトの羽根を天秤にかける冥界の裁き。アヌビスが天秤を扱い、トートが記録する。釣り合えば来世へ、釣り合わなければアメミットが心臓を食い、存在そのものが消える。死者の書第125章。
否定告白(ひていこくはく)
死者が四十二柱の神々の前で、それぞれに罪を犯していないと申し立てる形式。「私は盗んでいない」「私は量りをごまかしていない」など内容が具体的で、信仰ではなく行為を問う点が特徴。
プルタルコス(Plutarch)
ギリシャの著述家。『イシスとオシリスについて』を書いた。オシリス神話が一続きの物語として読めるのはこの書だけだが、ギリシャ語で、神話の成立から二千年以上あとの記録である点に注意が要る。
ドゥアト(Duat/冥界)
地下にある死者の世界。地獄ではない。太陽が夜のあいだ通る場所でもあり、十二の門に分かれる。それぞれに番人がおり、名前を知らなければ通れない。
ヌン(Nun/原初の水)
世界が始まる前からある、暗く動かない水。ここから原初の丘が現れて創造が始まり、世界が終わるときはすべてここへ戻る。
シャブティ(šwbtj/代わりに働く人形)
来世で死者の代わりに農作業をする小さな人形。「呼ばれたら、私が行きます」と答える呪文が刻まれた。来世(アアルの野)にも労働があると考えられていたことを示す。
ケメト(Kemet/黒い土地)
古代エジプト人が自国を呼んだ名。ナイルの増水が残す黒く肥沃な泥の色による。対して砂漠は「デシェレト(赤い土地)」でセトの領分とされた。
ベンベン(Benben/原初の丘)
ヌンから最初に現れた丘。ピラミッドの形と、オベリスクの先端(ベンベネト)はこれを表す。毎年ナイルの増水が引いたあとに泥の丘が現れる光景と重なっている。
マアト(mꜣꜥt/真理・秩序)
真理・正義・秩序・調和・均衡をまとめて意味する語であり、同時にそれを体現する女神の名。日本語に一語で訳せない。王の務めは「マアトを保つこと」と定義された。対義語はイスフェト(混沌)。
二度目の死(にどめのし)
心臓を食われて存在そのものが消えること。エジプト人が最も恐れた事態で、墓に名を刻み続けた理由でもある。
ラグナロク(Ragnarök)
北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。
アンク(ꜥnḫ/生命の記号)
輪のついた十字形。「生命」を意味する。神が王の鼻先に差し出す場面が神殿に繰り返し刻まれた。
カー(kꜣ/生命力)
人と一緒に生まれ、死後も供物を受け取る生命力。クヌムがろくろで人を作るとき、肉体とカーの二体を同時に形作った。
カノポス壺(Canopic jars/内臓を納める壺)
ミイラを作るとき、肝臓・肺・胃・腸を納める四つの壺。ホルスの四人の子が担当し、イシス・ネフティス・ネイト・セルケトが守る。心臓だけは裁きで量られるため体内に残される。
ナイロメーター(Nilometer/水位計)
ナイルの増水の高さを測る施設。階段状の井戸に目盛りが刻まれ、その年の税率がこの数値で決まった。エレファンティネ島やカイロのロダ島に現存する。
ソプデト(Sopdet/シリウス)
シリウスが日の出直前に再び現れる日が、ナイルの増水の到来とほぼ一致した。エジプトの暦の起点であり、女神として神格化され、のちにイシスと同一視された。
開口の儀式(かいこうのぎしき)
ミイラの口を道具で開き、来世で食べ、話せるようにする儀式。使う道具は彫刻家の道具だった。像に命を吹き込む技術が、そのまま死者に用いられている。
デカン(Decans/十日ごとの星)
空を三十六の星群に分け、それぞれが十日間ずつ夜明け前に昇るとしたエジプト独自の区分。36×10=360日が暦の基礎になり、一晩を十二に分ける発想から一日24時間が生まれたとされる。