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エジプト神話

ウジャトの目(ホルスの目)とは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

wḏꜣt  / ウジャト

太陽 守護と冥界の神

ホルスの失われた目。癒しと守護の護符となった。

ウジャトの目の姿を描いた図

レオン・デュボワ 「エジプト神統記」 1823年 / CC BY-SA 4.0 出典

ウジャトの目とは何の神様か

ウジャトの目はひとことで言えば取り戻されたものです。

神ではなく、物です。しかし、

エジプトの図像で、最も知られたもの。

姿は明確です。

人の目と眉。
下に、涙のような線と、渦を巻く線。

これはハヤブサの顔の模様を写したものとされます。

由来は、ホルスセトの戦いです。

セトがホルスの左目を奪い、バラバラにした。
トートが集めて癒し、完全にした。

そこから、

ウジャト(完全なもの、無傷なもの)

と呼ばれます。

意味するのは、

失われたものが、取り戻される。

護符として大量に作られ、ミイラの包帯にも納められました。

現在も、世界中で使われている図像です。

ウジャトの目のヒエログリフの表記と読み方

エジプト語では wḏꜣt(ウジャト)。「完全な」「無傷な」を意味する語です。

壊れたものが、元通りになった状態。

を指します。

注意が必要なのが、ラーの目」との混同です。

ウジャト(ホルスの目)── 失われて癒された左目。守護と回復の象徴。
ラーの目── ラーが放つ、独立して動く恐ろしい存在。セクメトハトホルが担う。攻撃と破壊。

性格が正反対です。

英語圏で Eye of HorusEye of Ra がしばしば混同され、日本語の解説にもそれが持ち込まれています。

本来は、別のものです。

また、左目が月、右目が太陽とされ、

ウジャトは月の目。

月が欠けて満ちることが、失われて戻ることと重ねられました。

wḏꜣt(ウジャト)

ヒエログリフの転写。「完全なもの」「無傷なもの」を意味する。

jrt-ḥr(イレト・ホル(ホルスの目))

別の呼び名。「ホルスの目」。

Eye of Horus / Eye of Ra(ホルスの目/ラーの目)

英語では両方の呼び名が使われるが、本来は別の概念。

ウジャトの目の物語

  1. 奪われる ─ セトとの戦い
  2. 癒される ─ トートの手仕事
  3. 護符になる ─ 最も多く作られた形
  4. 分数として使う ─ 議論のある説

奪われる ─ セトとの戦い

ホルスとセトの八十年の争い。最も激しい場面で、

セトがホルスの左目を奪いました。

伝えによっては、

六つ、あるいは複数の断片に切り裂かれた

とされます。

同じ戦いで、

ホルスはセトの睾丸を奪っています。

互いに、生殖と視覚を損なったわけです。

この争いは、上下エジプトの対立を反映するという解釈があります。

失われた目は、失われた秩序。

目が戻らないかぎり、

世界は不完全なままでした。

エジプト語で、月が欠けること

「ホルスの目が傷ついた」

と表現しました。天体の現象が、この神話で説明されています。

癒される ─ トートの手仕事

失われた目を集めたのが、トートです。

断片を探し、繋ぎ、癒した。

完全になった目が、

ウジャト(完全なもの)

です。

重要なのは、

元通りになった、という点。

新しく作ったのではありません。壊れたものを、修復しました。

これが護符の意味になります。

病が治る。傷がふさがる。失ったものが戻る。

月の満ち欠けとも重なります。

欠けた月が、また満ちる。

トートは月の神でもあるので、

月を司る神が、月の目を治した。

という構造です。

さらに、ホルスは

この目を、父オシリスに捧げました。

オシリスは、それによって力を得ます。

以後、神に供物を捧げる行為はすべて「ホルスの目を捧げる」と呼ばれました。

護符になる ─ 最も多く作られた形

ウジャトの目は、

エジプトで最も大量に作られた護符

の一つです。

素材は、

ファイアンス(青緑の釉薬をかけた焼き物)、金、ラピスラズリ、カーネリアン。

用途は多岐にわたります。

ミイラの包帯に納める。
首飾り、指輪、腕輪。
船の舳先に描く。
棺の側面に描く。

棺の目には、特別な意味がありました。

死者は横向きに寝かされ、ちょうど目の位置に外向きの目が来る。
中から外が見える。

という発想です。

ミイラの防腐処理で切開した箇所を覆う金属板にも、この目が刻まれました。

傷を、完全なものにする。

意味と用途が、正確に対応しています。

分数として使う ─ 議論のある説

ウジャトの目には、有名な説があります。

目の各部分が、分数を表している。
眉=1/8、瞳=1/4、目尻=1/2、目頭=1/16、涙の線=1/32、渦の線=1/64。

合計すると、

63/64。

1に足りません。

そして、

残る 1/64 は、トートが補う。

と説明されます。完全にするのは神であるという筋です。

これらの分数は、実際に

穀物の量を測る単位(ヘカト)

の表記に使われました。

ただし、

この説は近年、再検討されています。

記号の起源が別である可能性が指摘され、古代エジプト人自身がこの対応を意識していたかは不確かとされます。

いずれにせよ、

エジプト人が分数を高度に扱っていたことは確かです。

リンド数学パピルスに、複雑な計算問題が並んでいます。

ウジャトの目の家系図と家族

ウジャトの目の親: ホルス失われた左目

ウジャトの目の性格と人物像

ウジャトの目は、神ではありません。

意志も、性格も、物語の主体性もない。

奪われ、癒され、捧げられる。

常に受け身です。

しかし、この「物」が意味するものは明確です。

完全であること。壊れたものが元に戻ること。

エジプト人が最も願ったのは、

失ったものを取り戻すこと

でした。

死者が生き返る。病が治る。傷がふさがる。欠けた月が満ちる。

すべて同じ構造です。

そして、この目は

一度、確実に壊れています。

最初から完全だったのではありません。

壊れて、直された。だから「完全」と呼ばれる。

傷を経ていることが、この図像の力の源です。

ウジャトの目を祀った神殿と遺跡

ウジャトの目は神ではないため、専用の神殿はありません。

由来を見るならエドフ、実物を見るなら博物館。

この図像は、

世界中のエジプト・コレクションに、必ずあります。

出土数が膨大なためです。

大英博物館、ルーヴル、メトロポリタン、そして日本の各館でも見ることができます。

エドフのホルス神殿(Temple of Edfu)

目を奪われる戦いが刻まれた神殿

地図で開く

エドフのホルス神殿の住所: エジプト アスワン県エドフ

エドフのホルス神殿の祀られた神: ホルス

エドフのホルス神殿に残るもの: 塔門・列柱室・祭儀劇の浮き彫り

エジプトで最も保存状態の良い神殿です。屋根まで残っています。

壁には、

ホルスとセトの戦いが、場面を追って刻まれています。

台詞と動作の指示まであり、

実際に上演された祭儀劇の台本

と考えられています。

目を奪われ、取り戻す過程も、この一連の場面に含まれます。

毎年、王権の正統性を確認する儀式が行われた。

入口には二重冠をかぶった巨大な隼の花崗岩像が立ちます。

ウジャトの目の由来を、まとまった形で見られる場所です。

ナイルクルーズの定番寄港地。

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ツタンカーメンの装身具(大エジプト博物館)(Jewellery of Tutankhamun)

ウジャトの目を用いた装身具の最高峰

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ツタンカーメンの装身具(大エジプト博物館)の住所: エジプト ギザ県 大エジプト博物館

ツタンカーメンの装身具(大エジプト博物館)の祀られた神: ホルス・ウジャト

ツタンカーメンの装身具(大エジプト博物館)に残るもの: 胸飾り・護符・指輪

ツタンカーメンの墓からは、

百四十点を超える護符

がミイラの包帯のあいだから見つかりました。

そのなかに、

ウジャトの目

が複数含まれます。

また、胸飾り(ペクトラル)には、

ウジャトの目、スカラベ、蓮、コブラ

を組み合わせた精巧な意匠が用いられています。金、ラピスラズリ、カーネリアン、トルコ石。

エジプト工芸の頂点。

黄金のマスクにも、

目の周囲の意匠にウジャトの構成要素

が見られます。

大エジプト博物館でまとめて展示されています。

ギザのピラミッドに隣接。ツタンカーメン副葬品を全点展示。

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ウジャトの目が現代に残した痕跡

ウジャトの目は、現在も使われ続けている図像です。

護符・装身具: エジプトで最も多く作られた形の一つ。現在も土産物やアクセサリーとして世界中で作られている。

棺に描かれた目: 横向きに寝かされた死者の目の位置に外向きの目を描き、中から外が見えるようにした。

ホルスの目の分数: 各部分に1/2〜1/64を割り当てた説。合計63/64で、残りをトートが補うとされる。近年は起源が再検討されている。

船の目: 舳先に目を描く習慣。地中海地域の漁船に現在も同型の目が描かれることがある。

ウジャトの目が司るもの

守護・魔除け

エジプトで最も多く作られた護符の一つ。ミイラの包帯や装身具に用いられた。

治癒・回復

失われたものが取り戻される象徴。防腐処理の切開部を覆う金属板にも刻まれた。

完全性

名は「完全なもの」「無傷なもの」。壊れたものが元に戻った状態を指す。

航海の安全

船の舳先に描かれた。現在も地中海の漁船に同型の目が描かれることがある。

ウジャトの目が登場するゲーム・アニメ

由来が知られないまま図像だけが使われる代表例です。

特に多いのが、

アメリカ紙幣などの「プロビデンスの目」(三角形のなかの目)との混同

です。あちらはキリスト教とフリーメイソンの文脈で、エジプトのウジャトとは別系統です。

また、

「ラーの目」との混同

も頻繁に見られます。性格は正反対です。

ウジャトの目が登場するゲーム

遊☆戯☆王

「千年アイテム」の意匠がこの目に基づいており、作品全体の象徴になっています。

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Assassin's Creed オリジンズ

装飾や護符として随所に登場します。

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女神転生シリーズ

アイテムや意匠として使われます。

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ウジャトの目が登場するアニメ・漫画・映像

オカルト・陰謀論の題材

「プロビデンスの目」(三角形のなかの目)と混同されることが非常に多いですが、別系統の図像です。

アクセサリー・タトゥー

エジプトの象徴として、現在も最も使われるデザインの一つです。

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ウジャトの目についてよくある質問

ウジャトの目とは何ですか。

ホルスがセトとの戦いで失い、トートが癒して完全にした左目です。「完全なもの」「無傷なもの」を意味し、失われたものが取り戻される象徴として護符になりました。

ホルスの目とラーの目は同じですか。

違います。ホルスの目(ウジャト)は失われて癒された左目で、守護と回復の象徴です。ラーの目はラーが放つ独立して動く存在で、セクメトやハトホルが担う攻撃と破壊の力です。性格が正反対です。

なぜ護符として使われたのですか。

「壊れたものが元に戻る」ことを意味するからです。病が治る、傷がふさがる、失ったものが戻るという願いに対応し、ミイラの包帯や装身具、防腐処理の切開部を覆う金属板に用いられました。

ウジャトの目の分数とは何ですか。

目の各部分に1/2から1/64を割り当てた表記です。合計は63/64で、残る1/64はトートが補うとされます。ただしこの説は近年、記号の起源が別である可能性が指摘され、再検討されています。

ウジャトの目は月と関係がありますか。

あります。左目が月とされ、月が欠けることを「ホルスの目が傷ついた」と表現しました。欠けた月がまた満ちることと、失われた目が戻ることが重ねられています。

アメリカ紙幣の目とは関係がありますか。

ありません。あちらは「プロビデンスの目」といい、キリスト教とフリーメイソンの文脈の図像です。混同が非常に多いですが、別系統です。

ウジャトの目と併せて覚えたい言葉・用語

ウジャトの目(wḏꜣt/完全なもの)

セトに奪われ、トートが癒して完全にしたホルスの左目。「失われたものが取り戻される」象徴として、最も多く作られた護符の一つ。ラーの目(攻撃と破壊)とは性格が正反対。

カー(kꜣ/生命力)

人と一緒に生まれ、死後も供物を受け取る生命力。クヌムがろくろで人を作るとき、肉体とカーの二体を同時に形作った。