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エジプト神話

オシリスとは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

wsjr  / オシリス

冥界 ヘリオポリス九柱神

殺され、切り刻まれ、蘇って冥界の王となった神。

オシリスの姿を描いた図

「死者の書 ソカル=オシリス」 / パブリックドメイン 出典

オシリスとは何の神様か

オシリスはひとことで言えば戻らなかった神です。

エジプトを治めた最初の王とされ、農耕と文明を人々に教えました。

セトに妬まれ、棺に閉じ込められてナイルへ流されます。イシスが探し出しますが、セトは遺体を見つけて十四に切り刻み、各地へ撒きました。

イシスは断片を集め、包帯で繋ぎ合わせて蘇らせます。 これがミイラの起源とされます。

ただし、完全な復活ではありません。

オシリスは地上へ戻らず、冥界の王となった。

以後、死者を裁く神として君臨します。死者の書の「心臓の計量」で玉座に座っているのがこの神です。

緑色の肌で描かれるのは、再生と植物を表します。

オシリスのヒエログリフの表記と読み方

エジプト語では wsjr、おそらく「ウシル」に近い発音でした。日本語の「オシリス」はギリシャ語形を経由しています。

エジプトの神名は、ギリシャ語形で日本に入ったものが多くあります。

オシリス、イシス、ホルスアヌビス、テュポン。

いずれもギリシャ人の呼び方です。

蘇ったあとの呼び名ウンネフェル(永遠に完全なる者)は、エジプト人が実際に使った名です。

セラピスは特殊で、プトレマイオス朝が政策として作った神です。ギリシャ人とエジプト人の両方が拝めるよう、オシリスと聖牛アピスを合わせ、姿はギリシャ風にしました。

wsjr(ウシル)

ヒエログリフの転写。エジプト語での呼び名。

Ὄσιρις(オシリス)

ギリシャ語形。日本語の「オシリス」はこれを経由している。

wnn-nfr(ウンネフェル)

「永遠に完全なる者」の意。蘇ったあとの呼び名。

Σάραπις(セラピス)

プトレマイオス朝が作った習合神。オシリスとアピス牛を合わせ、ギリシャ人にも受け入れられる姿にした。

オシリスの物語

  1. 最初の王として治める
  2. 棺に閉じ込められる ─ 宴の余興として
  3. 十四に切り刻まれる ─ 二度目の殺害
  4. 蘇る ─ しかし地上へは戻らない
  5. 死者を裁く ─ 誰もがオシリスになる

最初の王として治める

オシリスは、ゲブ(大地)とヌト(天)の長子として生まれました。父から王位を継ぎ、エジプトを治めます。

プルタルコスの記録によれば、この王は人々を野蛮な暮らしから引き上げました。

穀物の育て方、葡萄酒の作り方、法の守り方、神々の敬い方を教えた。

そして武力を使わず、

音楽と説得によって、諸国を従えた。

王が国を離れているあいだ、王妃イシスが政務を執りました。

この時代は理想の統治として語られます。エジプト人にとって、オシリスは「良い王」の原型でした。

しかし弟セトは、これを妬みます。

七十二人の共謀者を集め、計画を立てた。

棺に閉じ込められる ─ 宴の余興として

セトは、兄の体の寸法をひそかに測りました。そして、

その寸法にぴったり合う、豪華な棺を作らせた。

宴の席にそれを運び込み、こう言います。

この棺に体がぴたりと合った者に、これを贈ろう。

客たちは順に入りました。誰も合いません。

最後にオシリスが横たわると──

寸法どおりだった。

その瞬間、共謀者たちが蓋を閉め、釘を打ち、溶かした鉛を流し込んで封じました。

棺はナイルへ流され、海へ出て、遠くビブロス(現在のレバノン)の岸に漂着します。

そこで大木がその棺を包み込んで育ちました。 王がその木を切って宮殿の柱にしたため、

オシリスの棺は、他国の王宮の柱の中にあった。

イシスは、そこまで探しに行きます。

十四に切り刻まれる ─ 二度目の殺害

イシスは柱から棺を取り戻し、エジプトへ持ち帰りました。そして湿地に隠します。

しかし──

セトが夜、狩りの最中に棺を見つけた。

今度は徹底していました。

遺体を十四に切り分け、エジプト中に撒いた。

二度と集められないように。

イシスはパピルスの舟で沼を巡り、断片を一つずつ探し出しました。 見つけた場所ごとに墓を建てたため、

エジプト各地に「オシリスの墓」がある。

これは、複数の都市が「わが町にオシリスの一部がある」と主張した事実を、物語が説明したものと考えられています。

ただし、一つだけ見つかりませんでした。

男根は魚に食われていた。

イシスは代わりのものを作って補い、儀式を行いました。

蘇る ─ しかし地上へは戻らない

イシスは、断片を包帯で繋ぎ合わせました。

ネフティスとアヌビスが手伝い、防腐の処置を施します。

これが、最初のミイラである。

そしてイシスが呪文を唱え、鳥の姿になって遺体の上で羽ばたきました。

オシリスは、息を吹き返した。

このとき身ごもった子が、のちのホルスです。

しかし、ここが決定的です。

オシリスは、地上の王には戻らなかった。

死者となった以上、生者の世界には属しません。代わりに、

冥界(ドゥアト)の王となった。

地上の王位は、成長したホルスが継ぎます。

生きている王はホルス、死んだ王はオシリス。 この二重構造が、以後三千年のエジプト王権を規定しました。

死者を裁く ─ 誰もがオシリスになる

冥界の王となったオシリスは、死者の裁きを司ります。

死者の書に描かれる場面です。

玉座に座るオシリスの前で、アヌビスが心臓を天秤にかける。 反対側にはマアトの羽根。
トートが結果を記録し、アメミットが待っている。

そして重要な変化が起きました。

古い時代、来世へ行けるのは王だけでした。ピラミッド・テキストは王のための呪文です。

それが中王国時代に変わります。

貴族も、やがては庶民も、死後にオシリスになれるようになった。

死者は名前の前に「オシリス」を付けて呼ばれます。「オシリス・○○」という形です。

死ねば、誰もがオシリスになる。

来世の民主化と呼ばれる変化です。棺文書、そして死者の書が広まったのは、この結果でした。

オシリスの家系図と家族

オシリスの親: ゲブヌト

オシリスのきょうだい: セトイシス

オシリスの妻・夫: イシス

オシリスの子・子孫: ホルス

オシリスの性格と人物像

オシリスは、動かない神です。

物語のなかで、この神が自分から何かをする場面はほとんどありません。殺され、切られ、集められ、蘇らされます。 すべて受け身です。

復讐もしません。それは息子ホルスの仕事でした。

注目すべきは、この神が「死そのもの」ではないことです。

死んで、蘇り、しかし戻らない。

この中間の状態こそがオシリスです。冥界にいて、緑の肌をして、そして毎年、麦が芽吹く。

オシリス・ベッド」という副葬品があります。オシリスの形をした木枠に土と麦の種を入れたもので、

墓のなかで芽が出るように作られていた。

死体から芽が出る。 それがこの神の意味するところです。

三千年にわたり、エジプト人が最も強く願ったのは、この神と同じになることでした。

オシリスを祀った神殿と遺跡

オシリスの聖地は、エジプト各地に散らばっています。

遺体が十四に切り刻まれて撒かれたという物語のとおり、

多くの都市が「わが町にオシリスの一部がある」と主張しました。

アビドスに頭、フィラエに脚、ブシリスに背骨。物語が、各地の主張を後から統合した形になっています。

最大の聖地アビドスへは、行けない者が遺体を運ばせるほどでした。

アビドス(Abydos)

オシリス信仰の最大の聖地

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アビドスの住所: エジプト ソハーグ県

アビドスの祀られた神: オシリス

アビドスに残るもの: セティ1世神殿、オシレイオン、王名表

オシリスの頭が埋められた地とされ、エジプト全土から巡礼者が集まりました。

生前に来られなかった者は、遺体や記念碑をここへ運ばせたほどです。

セティ1世神殿は保存状態が非常に良く、彩色が残る浮き彫りで知られます。壁には歴代の王名を並べた「アビドス王名表」があり、エジプト年代学の基礎資料になっています。

ただしこの表からは、ハトシェプスト女王とアクエンアテンが意図的に除かれています。

背後のオシレイオンは、地下水位まで掘り下げた特異な建造物で、オシリスの墓を模したとされます。

ルクソールから車で約3時間。デンデラと合わせて回る一日ツアーが一般的。

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フィラエ島(Philae)

最後まで古代宗教が続いた聖地

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フィラエ島の住所: エジプト アスワン県 アギルキア島(移築後)

フィラエ島の祀られた神: イシス・オシリス

フィラエ島に残るもの: イシス神殿群

イシス神殿が主ですが、オシリスの片脚が埋められたとされ、この神の聖地でもありました。

特筆すべきは、ここが古代エジプト宗教の最後の砦だったことです。

ローマ帝国がキリスト教を国教とした後も信仰が続き、西暦536年、ユスティニアヌス帝の命令でついに閉鎖された。

最後のヒエログリフ碑文(394年)もこの島に残されています。三千数百年続いた文字が、ここで途絶えました。

アスワン・ハイ・ダムで水没するため、隣の島へ移築されています。

アスワンからボートで渡る。夜は音と光のショーが行われる。

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王家の谷(Valley of the Kings)

王がオシリスになるための墓

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王家の谷の住所: エジプト ルクソール西岸

王家の谷の祀られた神: オシリス・ラー

王家の谷に残るもの: 60基以上の岩窟墓

新王国時代の王墓が集まる谷です。ツタンカーメン王墓の発見(1922年)で知られます。

墓の壁には、死者が冥界を旅して復活するための書が刻まれています。

アムドゥアト書、門の書、洞窟の書、天の牝牛の書。

いずれもオシリスとラーの神話を、実用の手引きとして使ったものです。

王の遺体はミイラにされ、

腕を胸で交差させ、オシリスと同じ姿勢

で納められました。王がオシリスになることが、埋葬の目的そのものでした。

ルクソール西岸。入場券で3基まで見学でき、ツタンカーメン墓は別料金。

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オシリスが現代に残した痕跡

オシリスの名は、ミイラという習俗と、最後の碑文に残りました。

ミイラ: イシスがオシリスの遺体を包帯で繋ぎ合わせたのが起源とされる。エジプト人がミイラを作り続けたのは、この神と同じになるためだった。

「オシリス・○○」という呼び名: 死者は名前の前にこの神の名を付けて呼ばれた。誰もが死ねばオシリスになるという考え方による。

オシリス・ベッド: 神の形をした木枠に土と麦の種を入れた副葬品。墓のなかで芽が出るように作られた。

セラピス信仰: プトレマイオス朝が政策として作った習合神。ギリシャ人とエジプト人の両方が拝めるようにしたもので、ローマ帝国全域に広まった。

オシリスが司るもの

再生・来世

死んで蘇った神。死者は「オシリスになる」ことで来世へ進む。

農耕

穀物の育て方を人に教えた。麦が芽吹くことと、この神の復活が重ねられる。

死者の裁き

冥界の王として、心臓の計量を司る。

正しい統治

武力を用いず、音楽と説得で諸国を従えた理想の王とされる。

オシリスが登場するゲーム・アニメ

ミイラの怪物という形で、この神話は世界中の創作に影響を与えました。ただし原典のミイラは怪物ではなく、復活のための準備です。

呪いで蘇って人を襲うという筋書きは、19世紀以降の西洋の創作によるものです。

オシリスが登場するゲーム

女神転生シリーズ

冥界の神として登場します。

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Assassin's Creed オリジンズ

来世をテーマにした追加内容で、この神の信仰が中心に据えられます。

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Age of Mythology

エジプト勢力の神として選択できます。

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オシリスが登場するアニメ・漫画・映像

遊☆戯☆王

「オシリスの天空竜」として登場します。日本でこの名が広く知られた要因です。

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映画「ハムナプトラ」シリーズ

ミイラと復活を扱った作品として、この神話の枠組みが下敷きになっています。

プライム・ビデオで探す

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オシリスについてよくある質問

オシリスは何の神様ですか。

冥界の王であり、再生と農耕の神です。エジプトを治めた最初の王とされ、弟セトに殺されたのち蘇って冥界を治めました。

オシリスはどうやって殺されたのですか。

弟セトが体の寸法に合わせた棺を作り、宴の余興として入らせて封じ、ナイルへ流しました。妻イシスが取り戻したあと、セトは遺体を十四に切り分けて各地へ撒いています。

オシリスは復活したのですか。

しました。ただし地上には戻らず、冥界の王になりました。地上の王位は息子ホルスが継ぎます。生きている王はホルス、死んだ王はオシリスという二重構造が、以後の王権を規定しました。

ミイラはオシリスと関係がありますか。

あります。イシスが切り刻まれた遺体を包帯で繋ぎ合わせたのがミイラの起源とされます。エジプト人がミイラを作り続けたのは、この神と同じように復活するためでした。

なぜオシリスは緑色なのですか。

再生と植物を表すためです。麦が芽吹くことと、この神の復活が重ねられました。神の形の木枠に麦を植えた「オシリス・ベッド」という副葬品もあります。

「オシリスになる」とはどういう意味ですか。

死者が復活して来世へ進むことです。古い時代は王だけの特権でしたが、中王国時代以降は貴族や庶民にも広がりました。死者は名前の前に「オシリス」を付けて呼ばれます。

オシリスと併せて覚えたい言葉・用語

心臓の計量(しんぞうのけいりょう)

死者の心臓とマアトの羽根を天秤にかける冥界の裁き。アヌビスが天秤を扱い、トートが記録する。釣り合えば来世へ、釣り合わなければアメミットが心臓を食い、存在そのものが消える。死者の書第125章。

死者の書(ししゃのしょ)

正しくは「日のもとに出現するための書」。冥界を通るための呪文集で、パピルスに書いてミイラとともに納めた。名前の欄を空けた既製品が売られており、購入者の名を書き入れて使った。

プルタルコス(Plutarch)

ギリシャの著述家。『イシスとオシリスについて』を書いた。オシリス神話が一続きの物語として読めるのはこの書だけだが、ギリシャ語で、神話の成立から二千年以上あとの記録である点に注意が要る。

ドゥアト(Duat/冥界)

地下にある死者の世界。地獄ではない。太陽が夜のあいだ通る場所でもあり、十二の門に分かれる。それぞれに番人がおり、名前を知らなければ通れない。

ヒエログリフ(Hieroglyph/神聖文字)

古代エジプトの絵文字。エジプト語では「神の言葉(メドゥ・ネチェル)」と呼ばれた。子音だけを書き母音は書かないため、当時の正確な発音は分かっていない。西暦394年の碑文を最後に使われなくなり、1822年にシャンポリオンが解読するまで千四百年以上読めなかった。

カー(kꜣ/生命力)

人と一緒に生まれ、死後も供物を受け取る生命力。クヌムがろくろで人を作るとき、肉体とカーの二体を同時に形作った。