「道を開く者」。軍とファラオの前を進む狼の神。

ウプウアウトとは何の神様か
ウプウアウトのヒエログリフの表記と読み方
エジプト語では wp-wꜣwt。
wp(開く)+ wꜣwt(道)
で、「道を開く者」。役目がそのまま名前です。
日本語ではウプウアウト、ウェプワウェトなどと表記されます。
アヌビスとの区別が問題になります。
どちらもイヌ科の姿。
見分ける手がかりは、
色── アヌビスは黒、ウプウアウトは灰色または白。
姿勢── アヌビスは伏せた姿が多く、ウプウアウトは立っている。
持ち物── ウプウアウトは軍旗(スタンダード)の上に立つ姿で描かれる。
ギリシャ人はアシュートをリュコポリス(狼の町)と呼びました。
ジャッカルではなく、狼と見た。
現在の研究では、エジプトのイヌ科はアフリカン・ゴールデンウルフとされ、
ギリシャ人の見立てのほうが近かった
ことになります。
wp-wꜣwt(ウプ・ウアウト)
ヒエログリフの転写。「道を開く者」を意味する。
Ὀφόις(オフォイス)
ギリシャ語形。
Λυκόπολις(リュコポリス)
信仰の中心地アシュートのギリシャ語名。「狼の町」。
ウプウアウトの物語
軍旗になる ─ 実際に先頭を進む
ウプウアウトは、実務の神でした。
軍旗(スタンダード)の上に、この神の像が載せられる。
それを掲げた者が、
軍列の先頭を歩きました。
ナルメルのパレット(エジプト統一を記録した最古級の資料)にも、
王の前を進む軍旗の列
が描かれています。そのなかにこの神の旗が含まれます。
エジプトが国家になった時点で、すでにいた。
王のセド祭(在位三十年の記念祭)でも、
ウプウアウトの旗が先導しました。
王権の儀礼に、必ず先頭にいる神です。
重要なのは、
神殿で祈られるだけでなく、実際に持ち運ばれた
ことです。
物理的に、道の先にいた。
冥界の道を開く ─ アヌビスとの分業
死者は、冥界を旅します。
道は暗く、危険で、門が連なっている。
そこで、
ウプウアウトが、先に立って道を開きます。
アヌビスとの役割の違いが明確です。
ウプウアウト── 道を開き、先導する。
アヌビス── 遺体を処理し、天秤を扱う。
進む段階と、裁かれる段階で分かれています。
ピラミッド・テキストには、
ウプウアウトが天への道を開き、王が昇る
記述があります。
また、「開口の儀式?」にも関わりました。
ミイラの口を開き、来世で食べ、話せるようにする。
儀式の道具の一つが、
ウプウアウトの名を持つ器具
でした。
道を開き、口を開く。
「開く」ことが、この神の一貫した働きです。
アビドスの祭 ─ 行列の先頭で
アビドスでは、毎年オシリスの祭が行われました。
オシリスの神像が舟に乗せられ、行列で運ばれる。
殺害、埋葬、復活が、外で再現される。
民衆が参加できる、数少ない公開の祭でした。
この行列の先頭を進んだのがウプウアウトです。
記録には、
「ウプウアウトが出御し、敵を退けた」
という表現が繰り返し現れます。
祭の途中で、
オシリスの敵との模擬戦
が行われました。実際に参加者が争ったとする記述もあります。
アビドスの祭に参加することは、
死後の来世を確実にする
と信じられ、
参加できない者は、アビドスに石碑を建てて代わりとしました。
大量の奉納碑が出土しています。
アシュート ─ 狼の町
アシュート(古代のサウティ)は、
ウプウアウト信仰の中心地
です。ギリシャ人はリュコポリス(狼の町)と呼びました。
この町は、
上エジプトと下エジプトの、ほぼ中間
に位置します。交通の要衝であり、
砂漠の隊商路の起点
でもありました。
「道を開く者」を祀る町が、交通の要にある。
偶然とは考えにくい配置です。
第一中間期には、
アシュートの支配者が、テーベの勢力と激しく争いました。
墓に刻まれた自伝から、当時の内戦の様子が分かります。
近くのジェベル・アシュートの岩窟墓群には、
中王国時代の高官の墓
が並びます。
現在のアシュートは中エジプト最大級の都市で、
古代の遺構は市街地の下にあります。
ウプウアウトの家系図と家族
ウプウアウトの性格と人物像
ウプウアウトは、先に行く神です。
戦いでも、祭でも、冥界でも、先頭。
自分が主役になりません。
誰かが通るための、道を作る。
それだけです。
注目すべきは、この神が
実際に持ち運ばれた
ことです。軍旗に載せられ、行列で掲げられ、
物理的に、人より先に進みました。
神殿で待っている神ではありません。
そして、
アヌビスとよく似ていて、混同されます。
しかし役割は明確に分かれています。
ウプウアウトが道を開き、アヌビスが裁きの場に立つ。
始まりと終わりを、二柱で分担していました。
エジプト最古級の神の一柱でありながら、目立たない。
先導者とは、そういうものです。
ウプウアウトを祀った神殿と遺跡
ウプウアウトの中心はアシュートですが、
現在は市街地の下で、見学は困難です。
かわりに、
アビドス
でこの神の役割を知ることができます。行列を先導する神として、祭の記録に繰り返し登場します。
また、軍旗に載せられた神であるため、
神殿の壁の王の行列の場面
に、この神の旗を探すことができます。エジプト各地の神殿で見られます。
アシュート(リュコポリス)(Asyut / Lycopolis)
ウプウアウト信仰の中心地
アシュート(リュコポリス)の住所: エジプト アシュート県アシュート
アシュート(リュコポリス)の祀られた神: ウプウアウト
アシュート(リュコポリス)に残るもの: 岩窟墓群(ジェベル・アシュート)
ウプウアウト信仰の最大の中心地です。ギリシャ語名リュコポリス(狼の町)。
位置が重要です。
上エジプトと下エジプトのほぼ中間。砂漠の隊商路の起点。
「道を開く者」を祀る町が、交通の要にある。
第一中間期には、この町の支配者がテーベの勢力と争いました。 墓の自伝からその様子が読み取れます。
ジェベル・アシュートの岩窟墓群には、中王国時代の高官の墓が並びます。
現在のアシュートは中エジプト最大級の都市で、
古代の遺構の多くは市街地の下
にあります。観光整備はされていません。
カイロ南方約375km。治安上の理由で訪問には確認が必要。
アビドス(Abydos)
オシリスの祭で行列を先導した聖地
オシリス信仰の最大の聖地です。
毎年のオシリスの祭で、
ウプウアウトが行列の先頭を進みました。
記録には「ウプウアウトが出御し、敵を退けた」という表現が繰り返し現れます。
祭は民衆が参加できる数少ない公開行事で、
参加することが来世を確実にする
と信じられました。参加できない者は石碑を建てて代わりとしたため、
大量の奉納碑
が出土しています。
セティ1世神殿の浮き彫りは彩色がよく残り、エジプト美術の最高水準とされます。
ルクソールから車で約3時間。デンデラと合わせた一日ツアーが一般的。
ウプウアウトが現代に残した痕跡
ウプウアウトの姿は、軍旗と行列の図として残りました。
ナルメルのパレット: エジプト統一を記録した最古級の資料。王の前を進む軍旗の列にこの神が含まれる。
軍旗(スタンダード): 棒の上にこの神の像を載せた旗。実際に軍列と行列の先頭で掲げられた。
アビドスの奉納碑: オシリスの祭に参加できない者が建てた石碑。祭の記録にウプウアウトの先導が繰り返し記される。
リュコポリス(狼の町): アシュートのギリシャ語名。ギリシャ人はこの神を狼と見た。現代の研究でエジプトのイヌ科がオオカミの一種と判明し、見立ての正確さが再評価されている。
ウプウアウトが司るもの
道を開く
名がそのまま役目。軍・行列・冥界の旅、あらゆる場面で先頭を進む。
戦勝
軍旗に像が載せられ、実際に軍列の先頭を進んだ。
王権の儀礼
セド祭など王の儀礼で必ず行列を先導した。ナルメルのパレットにも旗が描かれる。
死者の先導
冥界の道を開き、天への道を開く。「開口の儀式」の道具にも名がある。
ウプウアウトが登場するゲーム・アニメ
アヌビスに吸収されて扱われることがほとんどです。
原典では役割が明確に分かれています。
ウプウアウトが道を開き、アヌビスが裁きの場に立つ。
また、
実際に軍旗として持ち運ばれた
という点は、他の神にない特徴ですが、まず触れられません。
ウプウアウトが登場するゲーム
ウプウアウトが登場するアニメ・漫画・映像
古代エジプト展
軍旗を持つ神の像として展示されることがあります。
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ウプウアウトについてよくある質問
ウプウアウトは何の神様ですか。
「道を開く者」を意味する神です。軍の先頭、王の行列の先頭、そして死者の冥界の旅の先頭を進みます。
ウプウアウトとアヌビスの違いは何ですか。
役割が異なります。ウプウアウトは道を開いて先導し、アヌビスは遺体を処理して天秤を扱います。姿では、アヌビスが黒く伏せた姿、ウプウアウトは灰色または白で立っている姿が多く、軍旗の上に立つ形で描かれます。
ウプウアウトは狼ですか、ジャッカルですか。
ギリシャ人はアシュートを「狼の町(リュコポリス)」と呼びました。近年の研究でエジプトに生息するイヌ科がアフリカン・ゴールデンウルフ(オオカミの一種)と判明し、ギリシャ人の見立てのほうが近かったことになります。
軍旗としての神とはどういうことですか。
棒の上にこの神の像を載せた旗が作られ、実際に軍列と王の行列の先頭で掲げられました。ナルメルのパレットにも描かれており、エジプトが国家になった時点ですでに存在していました。
アビドスの祭でウプウアウトは何をしたのですか。
オシリスの神像を運ぶ行列の先頭を進みました。記録には「ウプウアウトが出御し、敵を退けた」という表現が繰り返し現れます。
ウプウアウトの神殿はどこにありますか。
中心地はアシュート(リュコポリス)ですが、現在は市街地の下で見学は困難です。この神の役割はアビドスの祭の記録や、各地の神殿の行列の場面で確認できます。
ウプウアウトと併せて覚えたい言葉・用語
開口の儀式(かいこうのぎしき)
ミイラの口を道具で開き、来世で食べ、話せるようにする儀式。使う道具は彫刻家の道具だった。像に命を吹き込む技術が、そのまま死者に用いられている。