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エジプト神話

ケプリとは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

ḫprj  / ケプリ

太陽 ヘリオポリス九柱神

朝日を運ぶ黄金虫(スカラベ)の神。再生の象徴。

ケプリの姿を描いた図

「トートとケプリ(イメンエムサウフのパピルス)」 / パブリックドメイン 出典

ケプリとは何の神様か

ケプリはひとことで言えば朝の太陽です。

姿はスカラベ(フンコロガシ)。または、甲虫の頭を持つ人として描かれます。

発想の元は、実際の観察でした。

フンコロガシは、自分より大きな糞の玉を、後ろ足で転がして運ぶ。

これを見たエジプト人は、

同じように、誰かが太陽を東の地平線へ押し上げているのだ

と考えました。

さらに、

糞玉から子虫が出てくる。

卵を産みつけていることを知らなかったため、

何もないところから、自然に生まれた

と見えました。

名は「生じる者」「存在するようになる者」を意味します。

スカラベの護符は、エジプトで最も大量に作られた工芸品

です。現在も土産物として売られています。

ケプリのヒエログリフの表記と読み方

エジプト語では ḫprj。動詞 ḫpr生じる、なる、存在するようになる)から作られた名です。

重要なのは、

スカラベの記号が、そのまま「生じる」という動詞を書くのに使われた

ことです。

文字と神が、同じ記号でした。

そのため、王名にもよく使われます。

トトメス3世の即位名「メンケペルラー」(ラーの顕現は永続する)
ツタンカーメンの即位名「ネブケペルウラー」

カルトゥーシュのなかに、必ず甲虫が入っています。

日本語ではケプリ、ケペラヘプリなどと表記されます。

ḫprj(ケペリ)

ヒエログリフの転写。動詞 ḫpr(生じる・なる)に由来する。

Χεπρι(ケプリ)

ギリシャ語形。

ḫpr(ケペル)

「生じる」「〜になる」を意味する動詞。スカラベの記号でこの語を書いた。

ケプリの物語

  1. 糞玉を転がす虫 ─ 観察から生まれた神
  2. 太陽の三つの姿 ─ 朝・昼・夕
  3. 心臓スカラベ ─ 裁きで沈黙させる護符
  4. 印章になる ─ 実用品としてのスカラベ

糞玉を転がす虫 ─ 観察から生まれた神

スカラベ(タマオシコガネ)は、実在する昆虫です。

動物の糞を丸め、後ろ足で押して運ぶ。

自分の体より大きな玉を、まっすぐに転がします。

近年の研究で、

この虫は、天の川の光を頼りに方向を保っている

ことが分かりました。昆虫で初めて確認された天体ナビゲーションです。

エジプト人はこの行動を見て、

朝、東の空へ太陽を押し上げる者がいる

と考えました。天体と虫が、直接つながっています。

さらに、

転がした玉から、あとで子虫が出てくる。

実際には、雌が別の玉に卵を産みつけます。しかし当時それは知られておらず、

無から生命が生じる

と解されました。

「生じる者」という名は、ここから来ています。

観察は正確で、解釈だけが違っていた。

太陽の三つの姿 ─ 朝・昼・夕

太陽は、時刻によって別の神とされました。

朝=ケプリ(甲虫)── 昇る太陽。生まれたばかり。
昼=ラー(隼)── 天頂。最も強い。
夕=アトゥム(老人)── 沈む太陽。これから冥界へ。

死者の書』第17章には、

「私は朝にケプリ、昼にラー、夕にアトゥムである」

という有名な一文があります。

イシスがラーの真の名を奪う場面でも、ラーはまずこの三段階を並べて答えました。

偽の名として。

つまり、これは誰でも知っている公開情報だったわけです。

一日を三つに分けて別の神を当てるという発想は、

太陽が毎日生まれ変わる

という考え方に基づいています。同じ太陽が空を横切っているのではありません。

心臓スカラベ ─ 裁きで沈黙させる護符

スカラベの護符には、特別な用途がありました。

心臓スカラベ

です。

石を彫って甲虫の形にし、裏に呪文を刻みます。 それをミイラの心臓の上に置きました。

刻まれるのは『死者の書』第30B章

「私の母の心臓よ、私に敵対して立つな。
裁きの場で、私に不利な証言をするな。」

死者は、自分の心臓が真実を語ることを恐れていたわけです。

なぜスカラベの形なのか。

「生じる」神だから。

死んだ者が再び生じることを願う形でした。

大量に出土しています。 素材は緑色の石(緑玄武岩、蛇紋石)が好まれました。

緑は再生の色。

護符としてのスカラベは、エジプトで最も多く作られた工芸品とされます。

印章になる ─ 実用品としてのスカラベ

スカラベは、護符であると同時に実用品でした。

底面に文字や紋様を刻み、印章として使った。

粘土に押して、文書や壺を封じます。

中王国時代以降、

官職名、王名、幾何学模様

を刻んだスカラベが大量に作られました。当時の役人の名前が、これで分かることも多くあります。

さらに、記念スカラベというものもありました。

アメンホテプ3世は、大型のスカラベに

「王は十年間で百二頭のライオンを射た」
「王妃ティイの父母の名は〜」

といった記録を刻み、各地に配りました。

官報のような使われ方。

ハート型のスカラベ(心臓形)、翼のあるスカラベ(棺の装飾)など、形も多様です。

神の姿が、日用品として何十万個も作られた。

これはエジプト以外ではあまり例がありません。

ケプリの家系図と家族

ケプリの性格と人物像

ケプリは、観察から生まれた神です。

虫の行動を見て、宇宙の仕組みを説明した。

発想としては素朴ですが、論理は一貫しています。

玉を転がす → 太陽を押す。玉から虫が出る → 無から生じる。

そして名前が「生じる者」。

再生の神として、死者の護符に使われ続けました。

注目すべきは、この神が

単独の物語をほとんど持たない

ことです。冒険しません。戦いません。

かわりに、

形として、あらゆる場所にあります。

王の名前のなか、印章、護符、棺の装飾、装身具。

エジプトの遺物で、最も数が多い神の姿。

物語がないぶん、物として残った神といえます。

ケプリを祀った神殿と遺跡

ケプリ専用の神殿は、知られていません。

この神は、

太陽神ラーの一側面

として祀られたためです。

かわりに、

この神の姿は、物として大量に残りました。

護符、印章、装身具、棺の装飾。世界中の博物館のエジプト部門に、必ずスカラベがあります。

神殿を持たないが、最も数の多い神。

カルナックの巨大スカラベ像(Scarab of Amenhotep III, Karnak)

聖池のほとりに立つ巨大スカラベ

地図で開く

カルナックの巨大スカラベ像の住所: エジプト ルクソール県カルナック

カルナックの巨大スカラベ像の祀られた神: ケプリ・アメン

カルナックの巨大スカラベ像に残るもの: 花崗岩製の大型スカラベ像

カルナック神殿の聖池のほとりに、

台座に載った巨大な花崗岩のスカラベ像

が立っています。アメンホテプ3世が作らせたものです。

もとは王の葬祭殿にあり、のちにここへ移されました。

現在では、

像の周りを回ると願いが叶う

という俗説が広まり、観光客が列を作っています。

古代の習慣ではありません。 近年生まれたものです。

それでも、

三千数百年前の再生の神が、いまも「願かけ」の対象になっている。

カルナックで最も写真に撮られる像の一つです。

カルナック神殿の聖池南側。見学ルート上にある。世界遺産。

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ルクソールの現地ツアーや入場券を探せます。

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ヘリオポリス(マタリーヤ)(Heliopolis / Iunu)

太陽の三つの姿が体系化された地

地図で開く

ヘリオポリス(マタリーヤ)の住所: エジプト カイロ県 マタリーヤ地区

ヘリオポリス(マタリーヤ)の祀られた神: ラー・アトゥム・ケプリ

ヘリオポリス(マタリーヤ)に残るもの: センウセレト1世のオベリスク

太陽神学の中心地です。

朝=ケプリ、昼=ラー、夕=アトゥム

という三段階は、ここで整えられました。

ベンベンが祀られ、オベリスクの形の起源になっています。

現在は市街地の一角で、

センウセレト1世のオベリスクが一本、原位置に立っています。

エジプトで現存最古の、その場に立つオベリスクです。

ケプリ専用の神殿は知られていません。この神は、

太陽信仰の一部として、ラーの神殿で祀られた

と考えられます。

カイロ市内マタリーヤ地区。オベリスク公園として整備されている。

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カイロの現地ツアーや入場券を探せます。

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ケプリが現代に残した痕跡

スカラベの形は、現在も作られ続けています。

心臓スカラベ: 死者の書第30B章を刻み、ミイラの心臓の上に置いた護符。緑色の石が好まれた。

印章スカラベ: 底面に名前や紋様を刻んだ実用品。当時の役人の名を知る資料になっている。

記念スカラベ: アメンホテプ3世が狩りの記録や王妃の家系を刻んで各地に配った大型のもの。官報のような使われ方をした。

スカラベの天体ナビゲーション: 実際のフンコロガシが天の川の光を頼りに直進することが近年の研究で判明。昆虫で初めて確認された例。

ケプリが司るもの

再生・復活

名は「生じる者」。死者が再び生じることを願い、心臓スカラベがミイラに納められた。

朝の太陽

昇る太陽を押し上げる。太陽の三つの姿のうち、朝を担当する。

護符・魔除け

スカラベ形の護符はエジプトで最も多く作られた工芸品とされる。

王権

王の即位名に頻繁に使われた。トトメス3世「メンケペルラー」など。

ケプリが登場するゲーム・アニメ

「気持ち悪い虫」として描かれることが多く、原典の

再生と誕生の象徴

という性格とは正反対です。

映画の影響で、スカラベ=人を食う虫というイメージが定着しました。

実際のフンコロガシは糞しか食べません。

ケプリが登場するゲーム

女神転生シリーズ

甲虫の姿の神として登場します。

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Assassin's Creed オリジンズ

スカラベの護符や意匠が随所に登場します。

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ケプリが登場するアニメ・漫画・映像

映画「ハムナプトラ」

人を襲うスカラベの群れが登場します。原典の再生の神とはまったく異なる扱いです。

プライム・ビデオで探す

エジプト土産のスカラベ

現在も最も定番の土産物で、古代と同じ形が売られています。

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ケプリについてよくある質問

ケプリは何の神様ですか。

朝の太陽と再生を司る神です。スカラベ(フンコロガシ)の姿で、名は「生じる者」を意味します。

なぜフンコロガシが太陽の神なのですか。

この虫が自分より大きな糞の玉を後ろ足で転がすのを見て、同じように誰かが太陽を東の地平線へ押し上げていると考えたためです。

ケプリとラーとアトゥムの関係は何ですか。

同じ太陽の三つの姿です。朝がケプリ(甲虫)、昼がラー(隼)、夕がアトゥム(老人)。死者の書第17章に「私は朝にケプリ、昼にラー、夕にアトゥムである」とあります。

心臓スカラベとは何ですか。

「私に不利な証言をするな」という呪文(死者の書第30B章)を刻み、ミイラの心臓の上に置いた護符です。死者が再び生じることを願ってスカラベの形が選ばれました。

スカラベはなぜ大量に作られたのですか。

護符であると同時に印章としても使われたためです。底面に名前や紋様を刻み、粘土に押して文書や壺を封じました。エジプトで最も多く作られた工芸品とされます。

ケプリの神殿はどこにありますか。

専用の神殿は知られていません。太陽神ラーの一側面として祀られました。カルナック神殿の聖池のほとりには、アメンホテプ3世が作らせた巨大なスカラベ像があります。

ケプリと併せて覚えたい言葉・用語

カー(kꜣ/生命力)

人と一緒に生まれ、死後も供物を受け取る生命力。クヌムがろくろで人を作るとき、肉体とカーの二体を同時に形作った。

カルトゥーシュ(Cartouche/王名を囲む枠)

王の名前を囲む楕円形の枠。縄を結んだ形で、「太陽が巡るすべて」を意味する。ロゼッタ・ストーン解読の手がかりになった。

死者の書(ししゃのしょ)

正しくは「日のもとに出現するための書」。冥界を通るための呪文集で、パピルスに書いてミイラとともに納めた。名前の欄を空けた既製品が売られており、購入者の名を書き入れて使った。

ベンベン(Benben/原初の丘)

ヌンから最初に現れた丘。ピラミッドの形と、オベリスクの先端(ベンベネト)はこれを表す。毎年ナイルの増水が引いたあとに泥の丘が現れる光景と重なっている。