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エジプト神話

セクメトとは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

sḫmt  / セクメト

メンフィスの神

獅子の頭を持つ戦の女神。人類を滅ぼしかけ、酒で止められた。

セクメトの姿を描いた図

Jean-François Champollion 「シャンポリオン『エジプトとヌビアの遺跡』」 / CC BY-SA 4.0 出典

セクメトとは何の神様か

セクメトはひとことで言えば止まらなかった力です。

雌ライオンの頭を持つ女性の姿。頭上に日輪を載せます。

名は「強力な女」を意味します。

ラーが人類の反乱に怒り、目を放ったとき、

その目がセクメトとなり、殺戮を始めた。

ラー自身が止めようとしても聞きません。ビールを血に見せかけて飲ませ、酔わせることでようやく止まりました。

この女神が司るのは、

戦い、疫病、そして治癒。

矛盾ではありません。病をもたらす者が、病を止められるという考え方です。

セクメトの神官は、実際の医師でした。

王の軍が進むとき、この女神が先頭で敵を焼くとされました。

カルナックには、この女神の像が数百体並んでいます。

セクメトのヒエログリフの表記と読み方

エジプト語では sḫmt、「ケメト」に近い音でした。

語源は明快です。

sḫm(力・強さ)+ 女性形の語尾 t。

つまり「強力な女」。名前が、そのまま性格です。

別名に「炎の女」(ネセレト)、「虐殺の女主人」などがあります。

称号がすべて物騒。

この女神は「ラーの目」を担う神々の一柱です。ハトホルバステトムートテフヌト、ワジェトなども同じ役目を負います。

「ラーの目」は、特定の一柱ではなく、役割の名。

荒ぶるときはセクメト、穏やかなときはハトホルまたはバステト、という対応で語られます。

ギリシャ人はこの女神を、アルテミスアテナと部分的に重ねました。

sḫmt(セケメト)

ヒエログリフの転写。「強力な女」を意味する。sḫm(力)に女性形の語尾がついた形。

Σαχμις(サクミス)

ギリシャ語形の一つ。

nsr.t(ネセレト)

「炎の女」。この女神の別名の一つ。

セクメトの物語

  1. 目から放たれる ─ 殺戮の開始
  2. 七千壺のビール ─ 赤く染めて止める
  3. 病をもたらし、病を治す ─ 医師の守護神
  4. 七百体の像 ─ アメンホテプ3世の奉納
  5. 軍と王のそばに ─ 戦場の女神

目から放たれる ─ 殺戮の開始

ラーが老いたとき、人間が謀反を企てました。

もう老いた。従う必要はない。

ラーは神々を集めて相談します。ヌンが助言しました。

汝の目を送り、人を討て。

放たれた目はセクメトとなり、砂漠へ降りました。

人を殺し、血を飲んだ。

記述は容赦がありません。荒野が血に染まったとされます。

ラーは、途中で思い直しました。

このままでは、人類が絶える。

呼び戻そうとしても、

女神は聞かない。

止まらないのです。自分が放った力が、自分の手を離れました。

この構図が重要です。

最高神が、制御を失っている。

エジプト神話には、神が万能ではない場面がしばしば現れます。

七千壺のビール ─ 赤く染めて止める

ラーは策を用いました。

エレファンティネから赤い顔料(レッドオーカー)を運ばせ、

大量のビールに混ぜて、血の色にした。

記録では七千壺。それを夜のうちに野へ撒きました。

翌朝、セクメトはそれを見つけます。

血だと思って、飲み干した。

地に映った自分の顔が美しく見えた、とも記されます。

酔って、眠りました。

目覚めたとき、

殺意は消えていた。

そして穏やかなハトホルに戻ります。

この物語は『牝牛の書』(ツタンカーメンの厨子にも刻まれる)に残ります。

重要なのは、

暴力を、暴力で止めていない。

酒と策で止めました。そして毎年、

酔いの祭りとして再現されました。

神話が、社会の年中行事として運用されている例です。

病をもたらし、病を治す ─ 医師の守護神

セクメトは疫病の神でした。

疫病はこの女神の「使者」が運ぶ

とされます。年の変わり目(エパゴメナイの五日)は特に危険で、

セクメトを鎮める呪文が唱えられた。

同時に、この女神は治癒の神でもあります。

病を送る者だけが、病を止められる。

この論理です。

実際、セクメトの神官(ウアブ・セクメト)は医師でした。

医学パピルス(エーベルス・パピルスなど)には、

セクメトの神官が診断を行う

記述があります。脈を診ることも記録されています。

神殿の神官が、医療を担当していた。

古代エジプトの医学は、呪文と実際の処置が混在していました。骨折の固定、傷の縫合、薬草の処方が、呪文とともに記されています。

神話と医療が地続きだったことがよく分かります。

七百体の像 ─ アメンホテプ3世の奉納

カルナック神殿の南、ムート神域には、

黒花崗岩のセクメト像が、大量に並んでいます。

アメンホテプ3世が奉納したもので、

総数は七百体を超えたと推定される。

一説には七百三十体、つまり

一年三百六十五日 × 二体(朝と夕)

で、毎日この女神を鎮めるためだったとされます。

王が病に苦しんだためという説もあります。

像は現在、世界中の博物館に散っています。

大英博物館、ルーヴル、トリノ、ベルリン、そしてカルナック現地。

どれも同じ形式ですが、細部の表情が微妙に異なります。

一体でも十分に威圧的な像が、数百体並ぶ光景。

古代エジプトの奉納の規模を示す、最も分かりやすい例です。

軍と王のそばに ─ 戦場の女神

セクメトは、王の戦いに随伴する神でした。

王の碑文には、

「余はセクメトのごとく敵を討った」

という定型句が繰り返し現れます。

ラメセス2世のカデシュの戦いの記録では、王の馬の前をこの女神が進んだとされます。

王のウラエウス(額のコブラ)も、この女神と結びつけられました。

敵に炎を吐く。

また、メンフィスではプタハの妻とされ、子のネフェルテムと合わせて

メンフィス三柱神

を構成します。

プタハ(創造)、セクメト(破壊)、ネフェルテム(再生)。

作り、壊し、また生まれる。 世界の循環を三柱で表しています。

この家族構成は、エジプト第二の都メンフィスの公式神学でした。

セクメトの家系図と家族

セクメトの親: ラー目から放つ

セクメトのきょうだい: アペデマクともに獅子を器とする戦いの神

セクメトの妻・夫: プタハ夫婦(メンフィス三柱神)

セクメトの子・子孫: ネフェルテム

セクメトの性格と人物像

セクメトは、制御できない力です。

ラーが放ち、ラー自身が止められませんでした。

命じた側が、後悔している。

この構図が、この女神の本質です。

注目すべきは、病と治癒の両方を司ることです。

災いを送る者にしか、災いは止められない。

この発想から、神官が医師を兼ねる制度ができました。神話が、そのまま医療の職制になっています。

そして、鎮め方が独特です。

七千壺のビール。

戦って倒すのではなく、酔わせて眠らせました。

七百体の像も同じ発想です。

毎日、鎮め続ける必要がある。

エジプト人は、この女神を消そうとしませんでした。 力そのものは必要だったからです。

危険なものと、共存する方法を作った。 それがこの信仰でした。

セクメトを祀った神殿と遺跡

セクメト専用の大神殿は多くありません。この女神は、

他の神の神域のなかで祀られる

ことが一般的でした。

カルナックのムート神域(像の群)と、メンフィス(プタハの妻として)が中心です。

特徴的なのは、

祈る場所より、鎮める像の数が重要だった

点です。七百体という規模は、この女神への恐れの大きさを示しています。

カルナックのムート神域(Precinct of Mut, Karnak)

七百体のセクメト像が並ぶ聖域

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カルナックのムート神域の住所: エジプト ルクソール県カルナック

カルナックのムート神域の祀られた神: ムート・セクメト

カルナックのムート神域に残るもの: 聖池(三日月形)・セクメト像群・神殿址

カルナック神殿群の南側にある、女神ムートの神域です。

ここに、

アメンホテプ3世が奉納した黒花崗岩のセクメト像が、大量に並んでいます。

総数は七百体超と推定され、一説には七百三十体(一年 × 朝夕)。

毎日この女神を鎮めるためだったとされます。

聖池が三日月形をしているのが特徴で、イシェル湖と呼ばれます。

多くの像は世界の博物館に散りましたが、

現地にも相当数が立ったまま残っています。

一体でも威圧的な像が並ぶ光景は、カルナックのなかでも異質です。

カルナック本殿の南。通常ルートから外れるため見学には確認が必要。世界遺産。

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ルクソールの現地ツアーや入場券を探せます。

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メンフィス(ミト・ラヒーナ)(Memphis / Mit Rahina)

メンフィス三柱神の都

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メンフィス(ミト・ラヒーナ)の住所: エジプト ギザ県 ミト・ラヒーナ

メンフィス(ミト・ラヒーナ)の祀られた神: プタハ・セクメト・ネフェルテム

メンフィス(ミト・ラヒーナ)に残るもの: 巨大なラメセス2世像・アラバスターのスフィンクス・プタハ神殿址

エジプト最初の都とされる古代都市です。

ここでは、セクメトはプタハの妻ネフェルテムの母とされました。

プタハ(創造)、セクメト(破壊)、ネフェルテム(再生)。

この三柱で、世界の循環を表します。メンフィスの公式神学でした。

遺跡には、

横たわった巨大なラメセス2世像

と、アラバスター製の大スフィンクスがあります。

かつての大都市ですが、建材が後世に持ち去られ、地表に残るものは限られます。

それでも、サッカラとギザの中間に位置し、合わせて訪れやすい場所です。

カイロ南方。サッカラ・ダハシュールと組み合わせるのが一般的。世界遺産。

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セクメトが現代に残した痕跡

セクメトの像は、世界中の博物館に散りました。

七百体のセクメト像: アメンホテプ3世の奉納。一年365日×朝夕の二体という説がある。大英博物館、ルーヴル、トリノなど各地に所蔵。

『牝牛の書』: 人類滅亡未遂とビールによる鎮静を記した文書。ツタンカーメンの黄金の厨子にも刻まれている。

ウアブ・セクメト(セクメトの神官): 実際の医師を兼ねた職。医学パピルスに診断を行う記述が残る。

メンフィス三柱神: プタハ(創造)・セクメト(破壊)・ネフェルテム(再生)。世界の循環を家族構成で表した神学。

セクメトが司るもの

戦い・勝利

王の戦いに随伴する。「余はセクメトのごとく敵を討った」が碑文の定型句。

疫病

疫病はこの女神の「使者」が運ぶとされた。年の変わり目に鎮める呪文が唱えられた。

治癒・医療

病を送る者だけが病を止められるという論理。神官は実際の医師を兼ねた。

王の守護

王の額のウラエウス(コブラ)と結びつけられ、敵に炎を吐くとされた。

セクメトが登場するゲーム・アニメ

「戦いの女神」として扱われることがほとんどです。

原典で重要なのは、

病をもたらし、同時に治す

という両面と、神官が医師だったという制度面ですが、これはまず描かれません。

また、ハトホルと同一であることも、作品によって扱いが分かれます。

セクメトが登場するゲーム

女神転生シリーズ

戦いの女神として登場します。

Amazonでゲームを探す

Assassin's Creed オリジンズ

カルナックのセクメト像が再現されています。

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Smite

エジプト神話勢のキャラクターとして実装されています。

セクメトが登場するアニメ・漫画・映像

ライオン頭の女神が登場する作品

エジプトを扱った作品では、戦闘的な存在としてしばしば引用されます。

古代エジプト展

セクメト像は展示の目玉になることが多く、日本の展覧会でも複数回来日しています。

Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。

セクメトについてよくある質問

セクメトは何の神様ですか。

戦い・疫病・治癒を司る女神です。雌ライオンの頭を持ち、名は「強力な女」を意味します。ラーが人類に怒って放った目が、この女神になりました。

セクメトはどうやって止められたのですか。

ラーが七千壺のビールに赤い顔料を混ぜて血の色にし、野に撒きました。セクメトは血と思って飲み干し、酔って眠ります。目覚めたときには殺意が消えていました。

セクメトとハトホルの関係は何ですか。

同じ女神の二つの状態です。荒ぶるときがセクメト、穏やかなときがハトホル。「ラーの目」は特定の一柱ではなく役割の名で、バステトやムートも担いました。

なぜ疫病の神が治癒の神でもあるのですか。

病を送る者だけが病を止められるという考え方によります。この論理から、セクメトの神官が実際の医師を務める制度ができました。

セクメト像はなぜ数百体もあるのですか。

アメンホテプ3世の奉納です。一説には七百三十体で、一年三百六十五日の朝夕に一体ずつ、毎日この女神を鎮めるためだったとされます。

メンフィス三柱神とは何ですか。

プタハ(創造)、セクメト(破壊)、ネフェルテム(再生)の三柱です。作り、壊し、また生まれるという世界の循環を家族構成で表した、メンフィスの公式神学です。

セクメトと併せて覚えたい言葉・用語

ケメト(Kemet/黒い土地)

古代エジプト人が自国を呼んだ名。ナイルの増水が残す黒く肥沃な泥の色による。対して砂漠は「デシェレト(赤い土地)」でセトの領分とされた。

カー(kꜣ/生命力)

人と一緒に生まれ、死後も供物を受け取る生命力。クヌムがろくろで人を作るとき、肉体とカーの二体を同時に形作った。

エパゴメナイ(Epagomenai/どの日にも属さない五日)

トートが月との賭けで勝ち取り、一年に足した五日。ラーの禁令が及ばないため、ヌトはこの五日にオシリスら五柱を産んだ。年の最後に置かれ、危険な日ともされた。

ウラエウス(jꜥrt/額のコブラ)

王冠の額に立つコブラ。敵に炎を吐いて王を守る。アトゥムが自分の目を額に置いたことが起源とされる。