本文へ移動

ギリシャ神話

アルテミスとは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

Ἄρτεμις  / アルテミス

オリュンポス十二神

狩りと月の女神。純潔を守り、犯す者を容赦なく罰した。

アルテミスの姿を描いた図

「万民の神話事典」 1874年 / パブリックドメイン 出典

アルテミスとは何の神様か

アルテミスはひとことで言えば踏み込ませない神です。狩り・野生・純潔を司ります。ローマ名はディアナ

ゼウスレトの子で、アポロンの双子の姉(あるいは妹)。生まれた直後に母の出産を助けたとされ、そのため出産の女神でもあります。

幼いころ、父ゼウスに願いを述べました。

永遠の処女でいること。 弓と矢。山と森。そして六十人のニンフの供を。

ゼウスはすべて認めます。

罰は苛烈です。 水浴を見た狩人アクタイオンを鹿に変え、彼自身の猟犬に食い殺させました。 純潔を破った侍女は追放しています。

狩りの神でありながら、野生動物の守り手でもあります。むやみに獲る者は罰せられました。

月の女神セレネとは本来別の神ですが、後世に同一視されました。

アルテミスのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Ἄρτεμις。日本語では「アルテミス」で定着しています。

語源が分かっていません。 ギリシャ語で説明がつかないため、ギリシャ人が来る前からこの地にいた女神が取り込まれたと考えられています。

それを裏づけるのが、エフェソスのアルテミスです。世界七不思議のひとつだったこの神殿の像は、

全身に多数の丸い突起を持ち、狩人の姿をしていない。

乳房とも、雄牛の睾丸とも、琥珀の飾りとも解されます。同じ名で呼ばれながら、まったく別の女神でした。

Ἄρτεμις(アルテミス)

古代ギリシャ語の表記。語源は定まっておらず、ギリシャ語以前の言語に由来する可能性が高い。

Diana(ディアナ)

ローマ名。英語では Diana(ダイアナ)。

Πότνια Θηρῶν(ポトニア・テローン)

「獣の女主人」の意。ホメロスの用いる呼び名で、野生動物を統べる古い性格を示す。

Ἄρτεμις Ἐφεσία(エフェソスのアルテミス)

小アジアで祀られた姿。多数の乳房状の突起を持つ像で、ギリシャ本土の狩人の姿とは大きく異なる。

アルテミスの物語

  1. 生まれてすぐ母を助ける ─ 三歳の願い
  2. アクタイオンを鹿にする ─ 見た者への罰
  3. カリストを追放する ─ 熊になった侍女
  4. オリオンとの関係 ─ 書物で分かれる
  5. イピゲネイアを攫う ─ 生贄の代わりに

生まれてすぐ母を助ける ─ 三歳の願い

ヘラの妨害により、母レトは九日九夜苦しみました。

先に生まれたのがアルテミスです。そして──

生まれたばかりの娘が、母の産婆を務めた。 そうしてアポロンが生まれた。

このため、出産の女神とされます。難産の女性はこの女神に祈りました。

幼いころ、アルテミスは父ゼウスの膝に座って願いを述べます。伝えられるところでは三歳のときでした。

永遠に処女でいること。 アポロンと同じだけの多くの名。弓と矢。膝までの短い衣。六十人のオケアノスの娘たちを供に。そして山と森を。
町は要らない。ただし、女たちが産みの苦しみに私を呼ぶときには行く。

ゼウスは笑って、すべて認めました。

自分の生き方を、生まれてすぐに自分で決めた神です。

アクタイオンを鹿にする ─ 見た者への罰

狩人アクタイオンは、森で偶然に泉を見つけました。そこでアルテミスとニンフたちが水浴していました。

意図的ではありません。偶然です。

ニンフたちは女神を囲んで隠そうとしますが、女神の背は高く、隠しきれません。

女神は水をすくい、アクタイオンの顔に浴びせた。
さあ、女神の裸を見たと言いふらすがいい。

頭に角が生え、耳が尖り、腕が脚になり、皮膚が斑の毛皮に変わりました。声は出ません。

そこへ、彼自身の五十頭の猟犬が駆けてきます。

犬たちは主人だと気づかなかった。

アクタイオンは自分の犬に食い殺されました。名を呼ぼうとしても、鹿の口からは声が出ません。

オウィディウス『変身物語』は、この話をこう締めます。

人々の意見は分かれた。 ある者は女神が残酷すぎると言い、ある者は純潔にふさわしい罰だと言った。

カリストを追放する ─ 熊になった侍女

カリストはアルテミスの供のニンフで、女神と同じく純潔を誓っていました。

ゼウスは彼女に近づくため、アルテミス自身の姿に化けます。 信じて近づいたカリストは、そのまま身ごもりました。

数か月後、水浴の場で妊娠が露見します。

アルテミスは、彼女を追放した。

事情は問われませんでした。

さらにヘラが罰を加え、カリストをに変えます。十六年後、成長した息子アルカスが森で熊と出会い、それが母とは知らずに槍を構えました。

見かねたゼウスが、二人を天へ上げます。

おおぐま座とこぐま座。

ヘラは最後まで許さず、海の神に頼んでこの二つの星座が海に沈まないようにしました。北の空を回り続けて休めないようにするためです。

北極星の周りを回る星座は、この罰によります。

オリオンとの関係 ─ 書物で分かれる

巨人の狩人オリオンとの関係は、書物によって大きく異なります。

説その一。 二人は共に狩りをする仲でした。それを快く思わないアポロンが、遠くの海に浮かぶ黒い点を指して「あれを射てるか」と妹を挑発します。アルテミスは射抜きました。

それは、泳いでいたオリオンの頭だった。

説その二。 オリオンが女神を襲おうとしたため、あるいは「すべての獣を狩り尽くす」と豪語したため、大地から蠍が送られて刺し殺されました。

説その三。 女神自身が彼を射た、あるいはガイアが罰した。

いずれの説でも、オリオンは星座になります。そして蠍も星座になりました。

さそり座が空に昇ると、オリオン座は西へ沈む。

今も逃げ続けています。

イピゲネイアを攫う ─ 生贄の代わりに

トロイアへ向かうギリシャ軍は、風が吹かず出航できませんでした。

予言者が告げます。総大将アガメムノンがアルテミスの聖なる鹿を射て、女神の怒りを買ったためだと。

鎮めるには、娘イピゲネイアを生贄に捧げるほかない。

アガメムノンは娘を呼び寄せました。「アキレウスと結婚させる」と偽って。

真実を知った娘は、最後には自ら祭壇へ進みます。

そして刃が振り下ろされた瞬間──

アルテミスは娘を攫い、代わりに牝鹿を置いた。

イピゲネイアはタウリケ(クリミア)の神殿へ運ばれ、女神の巫女になりました。

ただしホメロスはこの救出を語りません。 娘は死んだとする伝えもあります。書物によって、生きているか死んでいるかが違う登場人物です。

この生贄が、のちにアガメムノン殺害と一族の破滅を招きます。

アルテミスの家系図と家族

アルテミスの親: ゼウスレトデロス島で産んだ子。生まれてすぐ母の産を助けたと伝えられる

アルテミスのきょうだい: アポロン双子

アルテミスの性格と人物像

アルテミスは、境界を引く神です。

山と森は自分の領分であり、そこへ踏み込んだ者は罰せられます。意図の有無を問いません。 アクタイオンは偶然見ただけで死に、カリストは騙された被害者でありながら追放されました。

この容赦のなさは、野生そのものの性格でもあります。森は交渉できません。

一方で、守る側にも徹底しています。 出産の女神として難産の女性を助け、若い娘と幼い獣を守り、無闇に獲る狩人を罰しました。

獣の女主人という古い呼び名は、狩る神であると同時に狩られる側の守り手でもあることを示しています。

注目すべきは、この女神が自分で選んだことです。三歳で永遠の処女を願い、町を要らないと言い、山を求めました。

誰にも属さないことを、最初に自分で決めた。 ギリシャの女神のなかで、それができたのはこの神とアテナだけです。

アルテミスを祀った神殿と遺跡

アルテミスの聖域は、町の外にあります。ブラウロンもエフェソスも、市街の中心ではなく境界の外側でした。

山と森を領分とする神にふさわしい配置です。少女が結婚前に町を離れてここへ来る、という通過儀礼の構造とも一致します。

エフェソスのアルテミス神殿(Temple of Artemis, Ephesus)

世界七不思議のひとつ

地図で開く

エフェソスのアルテミス神殿の住所: トルコ イズミル県セルチュク

エフェソスのアルテミス神殿の祀られた神: アルテミス(エフェソス型)

エフェソスのアルテミス神殿に残るもの: 柱1本のみ

古代世界の七不思議に数えられた大神殿です。パルテノンの数倍の規模がありました。

祀られていた像は、ギリシャ本土の狩人の姿とはまったく違います。全身に多数の丸い突起を持つ、東方風の女神像でした。

紀元前356年、ヘロストラトスという男が「名を残したい」という理由だけで放火しました。当局は彼の名を口にすることを禁じましたが、記録に残っています。

再建されたのち、最終的に破壊されました。現在立っているのは柱1本だけです。

エフェソス遺跡とは別の場所にある。像の実物はセルチュクのエフェソス博物館。

現地ツアーをさがす

イズミルの現地ツアーや入場券を探せます。

広告を含みます

ブラウロンの聖域(Brauron)

少女たちが「熊」として仕えた聖域

地図で開く

ブラウロンの聖域の住所: ギリシャ アッティカ地方 ヴラヴロナ

ブラウロンの聖域の祀られた神: アルテミス

ブラウロンの聖域に残るもの: 柱廊と神殿の基壇

アテネの少女たちが、結婚前に一定期間ここで女神に仕える習わしがありました。

少女たちは「アルクトイ(熊たち)」と呼ばれ、黄色い衣をまとって踊りました。カリストが熊に変えられた物語と結びついています。

通過儀礼の場であり、少女から女性へ移る境目を女神に守ってもらう場所でした。

出産で無事だった女性は、ここに衣を奉納しました。逆に亡くなった女性の衣も納められました。その記録が石に刻まれて残っています。

アテネから東へ車で約1時間。併設博物館に奉納品がある。

現地ツアーをさがす

アッティカの現地ツアーや入場券を探せます。

広告を含みます

デロス島(Delos)

アポロンとともに生まれた島

地図で開く

デロス島の住所: ギリシャ キクラデス諸島

デロス島の祀られた神: アポロン・アルテミス・レト

デロス島に残るもの: アルテミス神殿の基壇

アルテミスの生誕地です。双子の弟アポロンより先に生まれ、母の出産を助けました。

島はアポロンの聖地として有名ですが、アルテミス神殿も並んで建っていました。 実際には、アポロン神殿より古い時代の遺構が確認されています。

島全体が聖域で、出産と埋葬が禁じられていました。生まれた島で、以後の出産が禁じられたという皮肉な場所です。

ミコノス島から船で約30分。無人島のため日中のみ。

現地ツアーをさがす

キクラデスの現地ツアーや入場券を探せます。

広告を含みます

アルテミスが現代に残した痕跡

アルテミスの名は、星座・宇宙開発・言葉に残りました。

アルテミス計画: アメリカの有人月面着陸計画。かつてのアポロ計画の名に対し、その双子の姉であり月の女神であるアルテミスの名が選ばれた。

おおぐま座・こぐま座: 侍女カリストとその子アルカスが星座になったもの。ヘラの願いにより海に沈まず、北の空を回り続ける。

オリオン座とさそり座: 同時に空に見えることがない。オリオンが蠍から逃げ続けているためとされる。

ダイアナという名: ローマ名ディアナに由来し、英語圏の女性名として広く使われる。

アルテミスが司るもの

狩猟

弓と矢を持ち、山と森を領分とする。狩人の守護神。

出産

生まれた直後に母の出産を助けたことによる。難産の女性が祈った。

純潔

永遠の処女を誓い、若い娘たちを守る。破る者への罰は苛烈。

野生動物の保護

「獣の女主人」と呼ばれる。むやみに獲る者を罰した。

アルテミスが登場するゲーム・アニメ

「月の女神」として描かれることが多い神ですが、原典では月の女神はセレネであり、アルテミスは狩りと野生の神でした。同一視は後世のものです。

罰の苛烈さ(アクタイオンを自分の犬に食わせるなど)は、創作ではほとんど描かれません。

アルテミスが登場するゲーム

Hades(ハデス)

恩恵を与える神の一柱。会心の一撃に関わる力を与えます。

Amazonでゲームを探す

God of War シリーズ

ギリシャ編に登場します。

Amazonでゲームを探す

女神転生シリーズ

月と狩りの女神として登場します。

Amazonでゲームを探す

アルテミスが登場するアニメ・漫画・映像

聖闘士星矢

神々の一柱として言及されます。

プライム・ビデオで探す

ギリシャ悲劇「タウリケのイピゲネイア」

エウリピデス作。生贄にされかけて女神に救われた娘のその後を描きます。

Amazonで本・漫画を探す

Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。

アルテミスについてよくある質問

アルテミスは何の神様ですか。

狩り・野生・純潔を司る女神です。生まれた直後に母の出産を助けたため、出産の女神でもあります。

アルテミスのローマ名は何ですか。

ディアナ(Diana)です。英語ではダイアナ。

アルテミスは月の女神ですか。

本来は違います。月の女神はセレネという別の神で、アルテミスは狩りと野生の神でした。後世に同一視され、現在は月の女神として知られています。

アクタイオンはなぜ鹿にされたのですか。

狩りの途中で偶然、水浴中のアルテミスを見てしまったためです。意図的ではありませんでしたが罰せられ、鹿に変えられて自分の猟犬五十頭に食い殺されました。

おおぐま座はアルテミスと関係がありますか。

あります。侍女カリストがゼウスに騙されて身ごもり、アルテミスに追放されたのち、ヘラによって熊に変えられました。のちにゼウスが天へ上げておおぐま座になっています。

アルテミス計画の名前の由来は何ですか。

この女神です。かつての月面着陸計画がアポロン(アポロ)の名だったため、その双子の姉であり月の女神とされるアルテミスの名が選ばれました。

アルテミスと併せて覚えたい言葉・用語

ニンフ(Νύμφη)

山・森・泉・木に宿る若い女神たち。神ではあるが不死ではなく、宿る木や泉が滅べば死ぬとされた。ギリシャ神話で最も数の多い存在。