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ギリシャ神話

セレネとは何の神様か|家系図・物語

Σελήνη  / セレネ

ティタン神族

月そのものである女神。眠り続ける美青年を毎夜訪ねた。

セレネとは何の神様か

セレネはひとことで言えば月そのものである女神です。ローマ名はルナ

ティタン神族ヒュペリオンテイアの娘で、太陽神ヘリオスの妹、暁の女神エオスの姉妹にあたります。

姿は、頭に三日月を戴き、二頭立ての銀の馬車で夜空を渡ります。兄が四頭立て、妹が二頭立てという対比です。

この女神の物語は、ほぼ一つに絞られます。エンデュミオンへの恋です。

ラトモス山で眠る美青年に恋をしたセレネは、ゼウスに願いました。この人が年を取らないようにしてほしい。

願いは叶えられた。ただし、永遠に眠り続けるという形で。

女神は毎夜、山へ降りて眠る青年のそばに座りました。目を合わせることは、二度とありませんでした。

アルテミスと同じ神ではありません。 狩りの女神アルテミスが月と結び付けられるのは後の時代のことで、原典では別の神です。

セレネのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Σελήνη。日本語では「セレネ」「セレーネー」の両方が使われます。

語源は「輝き」を意味する語にさかのぼります。兄ヘリオスの名が「太陽」そのものであるのに対し、こちらは「光るもの」に由来します。 月が自ら光っていないことを古代人が知っていたわけではありませんが、名の作りは違います。

ローマ名ルナは、ラテン語で「月」です。この語からは、英語で気がふれることを指す語が生まれました。月が人の心を狂わせるという古い考え方の名残で、いまも法律用語や医学史のなかに残っています。

元素セレンは、1817年に発見された際、隣り合う元素テルル(地球の意)との対比でこの女神の名が付けられました。月と地球の関係が、そのまま元素名になっています。

Σελήνη(セレネ)

古代ギリシャ語の表記。「月」を意味する普通名詞そのもの。語源は「輝き」を意味する語にさかのぼる。

Luna(ルナ)

ローマ名。ラテン語で「月」を意味する。英語で気がふれることを指す語(lunatic)はここから来ている。

Μήνη(メネ)

「月」を指す別の古い語で、この女神を呼ぶときにも使われた。

セレーネー(セレーネー)

日本語での別表記。長音をそのまま写した形。

セレネの物語

  1. 空を分ける三きょうだい ─ 太陽と月と暁
  2. エンデュミオン ─ 眠らせるという願いのかけ違い
  3. アルテミスとの混同 ─ いつ、なぜ重なったのか
  4. なぜ神殿が見つからないのか ─ 記録に残る場所

空を分ける三きょうだい ─ 太陽と月と暁

ヘシオドス『神統記』は、ティタン神族ヒュペリオンとテイアの子を三柱挙げます。

ヘリオス(太陽)、セレネ(月)、エオス(暁)。

空の時間が、三きょうだいで分担されています。 暁が先に出て道を開け、太陽が渡り、日が沈むと月が出る。

馬車の頭数も違います。

ヘリオスは四頭立て。セレネは二頭立て。

光の強さの差が、そのまま馬の数になっています。セレネの馬は白い牝馬とも、牛とも伝えられます。牛の場合、角が三日月に見立てられました。

ホメロス風讃歌はこの女神をこう描きます。

大洋で身を清め、輝く衣をまとい、 額から光を放って、月半ばの夜にもっとも明るく輝く。

満月を「この女神がもっとも美しい夜」として描く形は、ここから来ています。

姿の描写は多いのに、行動の記録は少ない神です。

エンデュミオン ─ 眠らせるという願いのかけ違い

セレネの物語は、ほぼこれ一つです。

ラトモス山(小アジア、今のトルコ西部)で羊飼いの青年エンデュミオンが眠っていました。空を渡っていたセレネがそれを見て、恋に落ちます。

女神はゼウスに願い出ました。伝わっている願いの中身は、書物によって少しずつ違います。

ある伝えでは、セレネが「年を取らないように」と願った。 別の伝えでは、エンデュミオン自身が「望みを一つ」与えられ、永遠の眠りを選んだ。

いずれにせよ、結果は同じです。

青年は洞窟で眠り続け、老いることも死ぬこともなくなった。

セレネは毎夜、山へ降りて眠る相手のそばに座りました。言葉を交わした記録は、どの書物にもありません。

二人のあいだに五十人の娘が生まれたと伝える書もあります。四年ごとの競技会の回数と結び付ける解釈がありますが、確かなことは分かっていません。

永遠に失わないために、永遠に届かなくなった。 この話の型は、ギリシャ神話でもここだけです。

アルテミスとの混同 ─ いつ、なぜ重なったのか

現在「月の女神」と言えばアルテミスの名が先に出ます。しかし原典では別の神です。

ヘシオドスもホメロスも、アルテミスを月と結び付けていません。アルテミスは狩りと野生と純潔の女神です。

重なりが進むのは紀元前5世紀ごろからで、決定的になるのはローマ期です。ローマではディアナ(アルテミス)とルナ(セレネ)が同じ女神として扱われるようになりました。

同じことが太陽側でも起きている。ヘリオスがアポロンに吸収された。

兄妹そろって、後発の神に役割を明け渡しました。

理由の一つは、物語の量です。アルテミスには狩りの逸話も罰の話も多くありますが、セレネにはエンデュミオンしかありません。語ることの多い神のほうへ、性質が吸い寄せられていきました。

さらに後には、魔術の女神ヘカテーも加わって「三相の女神」という考え方が生まれます。これは近代の秘教的な伝統が整えたもので、古代ギリシャにその形の信仰があったわけではありません。

なぜ神殿が見つからないのか ─ 記録に残る場所

セレネを主神として祀った神殿は、遺構としては確認されていません。

記録には残っています。旅行家パウサニアスはエリスの地でこの女神への祭壇に触れ、古代の地名事典にはセレネの聖域という名も載っています。ところが、

その所在は「不明」と記録されている。

場所が分からないまま名前だけ伝わっている わけです。

理由はいくつか考えられます。まず、月の祭りは神殿ではなく屋外で行われたという点です。月を見るのに屋根は要りません。

もう一つは、アルテミスへの吸収です。ローマ期以降、月への祈りはディアナの神殿で行われるようになりました。セレネ単独の施設を建てる必要が薄れていきます。

記録が少ないのは、資料が失われたからだけではありません。建物として残る形の信仰ではなかったということです。ここは「見つかっていない」と書くにとどめます。

セレネの家系図と家族

セレネの親: ヒュペリオンテイア月セレネの母

セレネのきょうだい: ヘリオスきょうだい。空の時間を分担する

セレネの性格と人物像

セレネは、待つ神です。

争わず、罰さず、企みません。恋の相手を眠らせたまま、毎夜そばに座り続けます。

この女神には、自分から何かを奪った場面がありません。 ギリシャの神々は、気に入った相手をさらい、断られれば罰し、嫉妬すれば呪います。セレネはそのどれもしていません。

ただし、結果として相手の一生を奪っています。年を取らないようにという願いが、永遠に眠るという形で叶えられたからです。願い方を間違えた、という読み方もできますし、そもそも神が人に関わることの帰結だという読み方もできます。

もう一つの特徴は、役割を譲ってしまったことです。アルテミスに月を明け渡し、記録も神殿も薄れていきました。抵抗した形跡はありません。

兄ヘリオスもまた、アポロンに太陽を譲っている。

現象そのものである神は、物語を持つ神に負けます。 セレネの静かさは、そのまま信仰の消え方でもありました。

セレネゆかりの地と遺跡

セレネを主神として祀った神殿の遺構は、確認されていません。

記録には残ります。旅行家パウサニアスはエリスの地でこの女神への祭壇に触れており、古代の地名の記録にはセレネの聖域という名も見えます。しかし、その所在は「不明」として扱われています。

理由として考えられるのは二つです。

一つは、月の祭りが屋外で行われたこと。月を仰ぐのに建物は要りません。

もう一つは、アルテミス(ローマではディアナ)への吸収です。月への祈りはそちらの神殿で行われるようになり、単独の施設が建てられなくなりました。

住所を確かめられた場所が無いため、この欄は空にしてあります。分かっていないことを、分かっていないまま書いておきます。

セレネが現代に残した痕跡

セレネの名は、元素・言葉・天文として現代に残りました。

セレン(元素): 1817年に発見された元素。隣り合う元素テルル(地球の意)との対比で、月の女神の名が付けられた。

ルナティック(気がふれた): ローマ名ルナから作られた語。月が人の心を狂わせるという古い考え方に由来し、いまも法律用語や医学史に残る。

月探査機の名: 日本の月周回衛星をはじめ、各国の月探査計画にこの女神やローマ名ルナの名が用いられてきた。

月曜日: ローマの「ルナの日」がフランス語 lundi、イタリア語 lunedì になった。英語 Monday も同じく月の日である。

月の鉱物名: 月の石から見つかった鉱物に、この女神にちなむ名が与えられている。

セレネが司るもの

月そのものを司る。満月の夜にもっとも力を発するとされた。

眠り

エンデュミオンを永遠の眠りに置いた女神として語られる。

暦と時

月の満ち欠けは、古代ギリシャの暦の基礎だった。月ごとの区切りはこの女神の運行による。

セレネが登場するゲーム・アニメ

創作では、ほぼアルテミスに置き換わっています。 「月の女神」として登場するのはアルテミスかディアナで、セレネの名が出ることは多くありません。

理由は原典の分量です。アルテミスには狩りの逸話も罰の話も多く、動かしやすい。セレネにはエンデュミオンの一件しかありません。

ただし、眠り続ける相手を毎夜訪ねるという構図そのものは、絵画で繰り返し描かれてきました。動かない題材は、物語より絵に向いていたということです。

セレネが登場するゲーム

女神転生シリーズ

月の女神として登場します。

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Fate シリーズ

月に関わる神格として言及されます。

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スマイト

ギリシャの神々を操作する作品で、月の性質を持つ神として扱われます。

セレネが登場するアニメ・漫画・映像

各種の月をめぐる創作

「月の女神」という型そのものが、この女神とアルテミスの混同を出発点にしています。

ポワシエやジロデの絵画

眠るエンデュミオンに月光が差す構図は、18世紀以降の西洋絵画で繰り返し描かれました。

各種の神話解説書

アルテミスとの違いを説明する項目で必ず取り上げられます。

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セレネについてよくある質問

セレネは何の神様ですか。

月そのものである女神です。ティタン神族ヒュペリオンとテイアの娘で、太陽神ヘリオスの妹にあたります。二頭立ての銀の馬車で夜空を渡ります。

セレネのローマ名は何ですか。

ルナ(Luna)です。ラテン語で「月」を意味します。英語で気がふれることを指す語は、この名から作られました。

セレネとアルテミスは同じ神ですか。

原典では別の神です。セレネは月そのもの、アルテミスは狩りと野生と純潔の女神です。同一視が進むのは紀元前5世紀ごろからで、決定的になるのはローマ期にディアナとルナが重ねられてからです。

エンデュミオンの話はどういうものですか。

セレネがラトモス山で眠る美青年に恋をし、年を取らないよう願ったところ、永遠に眠り続けるという形で叶えられた話です。女神は毎夜そばに座りましたが、言葉を交わした記録はどの書物にもありません。

セレネの神殿はどこにありますか。

主神として祀った神殿の遺構は確認されていません。古代の記録には「セレネの聖域」という名が見えますが、所在は不明として扱われています。月の祭りが屋外で行われたこと、アルテミスに役割が吸収されたことが理由と考えられます。

元素のセレンは、この女神が由来ですか。

そうです。1817年の発見時、隣り合う元素テルル(地球の意)との対比で月の女神の名が付けられました。月と地球の関係が、そのまま元素名になっています。

セレネと併せて覚えたい言葉・用語

ティタン神族(ティタンしんぞく)

ウラノスとガイアの子である十二柱の神々。クロノスを王とし、ゼウスとの十年戦争に敗れてタルタロスへ落とされた。「タイタン」とも表記する。