天の神。子らを地中に閉じ込め、その子に討たれた最初の支配者。

「ウラノス習作(夜の帳を運ぶ)」 / パブリックドメイン 出典
ウラノスとは何の神様か
ウラノスはひとことで言えば最初に倒された支配者です。
天そのものである神。母ガイアが一人で生み、そのガイアの夫となりました。
自分と等しい大きさに、自分をすっかり覆うように生まれた。
生まれた子(ティタン神族?、キュクロプス、ヘカトンケイル)を憎み、
生まれるそばから、大地の底へ押し込めた。
苦しんだガイアは鎌を作り、末子クロノスに渡します。クロノスは待ち伏せて父の体を切り落とし、海へ投げました。
その泡から、愛の女神アフロディーテが生まれる。
落ちた血からは復讐の女神エリニュスと巨人ギガンテスが生まれました。
天王星(Uranus)の名はこの神によります。世代交代が暴力で起きるというギリシャ神話の型は、ここから始まりました。
ウラノスのギリシャ名・ローマ名と読み方
古代ギリシャ語では Οὐρανός。日本語では「ウラノス」で定着しています。
天そのものを指す普通名詞でもあります。ガイア(大地)と同じく、神の名がそのまま自然の名です。
天王星(Uranus)は1781年に発見されました。命名の経緯が興味深いところです。
他の惑星がすべてローマ名(ユピテル、マルス、ウェヌス)であるのに、
天王星だけがギリシャ名である。
ローマ名カエルスがほとんど使われていなかったためです。
元素ウラン(uranium)は、この惑星の発見直後に見つかったため、その名にちなんで命名されました。
Οὐρανός(ウラノス)
古代ギリシャ語の表記。天そのものを意味する普通名詞でもある。
Caelus(カエルス)
ローマ名。ただしローマではほとんど信仰されなかった。
Uranus(ウラヌス)
ラテン語形。天王星の名として使われる。
ウラノスの物語
母から生まれ、母の夫になる
ガイアは、配偶者なしにウラノスを生みました。
星をちりばめた天を生んだ。自分と等しい大きさに、自分をすっかり覆うように。 至福の神々の、永遠に揺るぎない座となるように。
天は大地を覆うために生まれました。 そして、その天が大地の夫になります。
二柱の間に生まれたのが、
十二柱のティタン神族、一つ目の巨人キュクロプス三体、百の腕を持つヘカトンケイル三体。
ヘカトンケイルの描写は異様です。
百の腕が肩から伸び、五十の頭が肩の上に乗っていた。
ウラノスはこれらの子を見て、憎みました。
『神統記』は理由を明示しませんが、恐れたためとも、醜さを嫌ったためとも読めます。
子を押し込める ─ 大地の内側へ
ウラノスの対処は単純でした。
生まれてくるそばから、大地の奥深い隠れ場所へ押し込め、光のもとへ出さなかった。
そしてその悪行を喜んでいた。
押し込められた先は、ガイア自身の体のなかです。
ガイアは内側から満たされ、苦しみに呻いた。
これが反乱の直接の原因になります。ウラノスの罪は「子を憎んだこと」ではなく、
妻の体のなかに、子を詰め込み続けたこと
です。
この構図は重要です。ギリシャ神話の世代交代は三度起きますが、三度とも「子を閉じ込めた者」が倒されます。
ウラノスは子を大地へ、クロノスは子を自分の腹へ、ゼウスはティタンをタルタロスへ。
ゼウスだけが、倒されずに済みました。 母ガイアの三度目の反乱は失敗したからです。
鎌で討たれる ─ 一度目の世代交代
ガイアは白い硬い金属で大きな鎌を作り、子らを集めました。
父に報いてくれる者はいないか。
誰も答えません。 皆、父を恐れていました。
ただ一人、末子クロノスが進み出ます。
母よ、私がやりましょう。 あの父を、私は敬いません。先に恥ずべきことを企てたのはあちらです。
ガイアは息子を待ち伏せの場所に隠し、鎌を握らせました。
夜が来て、ウラノスが夜とともに降りてきて、大地を覆って横たわったとき、
クロノスは左手を伸ばして父を掴み、右手の巨大な鎌で切り落とし、後ろへ投げ捨てた。
『神統記』は、投げた手から目を背けたと記します。
一度目の世代交代です。以後、天と大地は離れました。
天が大地から離れたのは、この一撃による。
血と泡から生まれるもの
切り落とされた体からは、さらに神々が生まれました。
落ちた血が大地に染み込み、
復讐の女神エリニュス(三姉妹)、巨人ギガンテス、トネリコのニンフ?が生まれた。
エリニュスは血族殺しを追い立てる女神です。父殺しの血から、父殺しを罰する神が生まれました。
ギガンテスは、のちにガイアがゼウスへ差し向けることになります。
一方、海へ投げられた体の周りには白い泡が立ち、
そのなかで乙女が育ち、キプロス島へ流れ着いた。アフロディーテである。
愛の女神が、暴力から生まれています。
この対比は偶然ではありません。『神統記』は、暴力と愛が同じ一撃から生まれたことを、そのまま並べて記しています。
予言を残す ─ 呪いのように
去り際、ウラノスは子らに名を与えました。
父は彼らを「ティタン(伸ばす者)」と呼んだ。大それたことに手を伸ばし、恐ろしい行いをしたから、と。
そして予言します。
その報いは、いずれ来るだろう。
この言葉どおり、クロノスは自分の子に倒されました。
さらにウラノスは、ガイアとともにクロノスの運命を告げます。
お前は、自分の子に倒される。
この予言があったからこそ、クロノスは子を呑み込みました。そして呑み込んだからこそ、レアが反発してゼウスを隠しました。
予言を避けようとした行動が、予言を成就させた。
この構造は、北欧神話のラグナロク?とも共通します。ギリシャでは、ウラノスの最後の言葉からそれが始まりました。
ウラノスの家系図と家族
ウラノスの性格と人物像
ウラノスには、言葉がほとんどありません。
『神統記』でこの神が語るのは、子らを「ティタン」と名づけて報いを予言する場面だけです。
行動も一つだけ。子を押し込め、それを喜んでいた。
その悪行を喜んでいた(テルペト)。
この一語が、この神の性格をすべて表します。恐れたのでも、やむを得ずでもなく、楽しんでいたのです。
注目すべきは、この神が最初の支配者でありながら、まったく統治していないことです。世界を治めた形跡がありません。ただ大地を覆い、子を押し込めていただけです。
支配とは何かという問いが、ここから始まります。
クロノスは同じことを繰り返し、ゼウスは違うやり方を選びました。ゼウスが倒されなかったのは、閉じ込めた相手(ティタン)に対して、番人を置きつつも和解の道を残したからとも読めます。
最初の支配者は、支配の仕方を知らなかった。
書物によってウラノスの記述が異なるところ
ギリシャ神話は一冊にまとまっていません。ウラノスについても、 書物によって記述が分かれる箇所が1件あります。 どちらか一方に決めず、両方を出典つきで載せています。
記述が分かれるところ
神統記紀元前700年頃
第139〜146行
- ウラノス ─ 三兄弟として生まれる ─ キュクロプス
ヘシオドス『神統記』のキュクロプスは、ウラノスとガイアの子である三兄弟である。ブロンテス、ステロペス、アルゲスといい、腕のよい鍛冶としてゼウスの雷霆を鍛えた。
イリアス・オデュッセイア紀元前8世紀頃
オデュッセイア 第9歌
- ポセイドン ─ ポリュペモスの父 ─ キュクロプス
ホメロス『オデュッセイア』のキュクロプスは、法も掟も持たない羊飼いの一族として描かれる。その一人ポリュペモスはポセイドンの子であり、鍛冶とはまったく結び付かない。同じ名で別の一族が語られている。
ウラノスを祀った神殿と遺跡
ウラノスを祀った神殿はありません。
ギリシャでは、倒された前の世代の神に神殿を建てません。 信仰されるのは今の秩序を握っている神です。
残っているのは、その事件の跡地とされる島の名前です。
キティラ島(Κύθηρα)
アフロディーテが最初に流れ着いた島
クロノスに切り落とされたウラノスの体の一部が海に落ち、その泡からアフロディーテが生まれました。
父を倒した事件から、美の女神が生まれる。
ヘシオドスは、その女神が最初にこの島へ、次にキプロスへ流れ着いたと書いています。アフロディーテの別名キュテレイアはこの島名に由来します。
島には古代の聖域跡があり、フェニキア人がもたらした女神信仰の痕跡とする説もあります。
観光地として整備された「ヴィーナス誕生の地」ではありません。 静かな島です。
アテネから空路またはネアポリからフェリー。便数は少ない。
ケルキラ島(コルフ島)(Κέρκυρα)
古名が「鎌」を意味する島
ケルキラ島(コルフ島)の住所: ギリシャ コルフ島
ケルキラ島(コルフ島)に残るもの: 島名
この島の古名はドレパネ(Δρεπάνη)、意味は「鎌」です。
ウラノスを切った鎌がここに埋められたから、という伝承があります。アポロニオスの『アルゴナウティカ』に記されています。
島の形が鎌に似ているから、という説明も並んでいる。
どちらが先かは決められません。 地形から名がついて後から神話が結びついたのか、逆なのか。神話の地名にはこの種の順序の分からなさがよくあります。
島には古代のアルテミス神殿の跡があり、そのゴルゴン破風はコルフ考古学博物館にあります。
空港があり便数も多い。旧市街は世界遺産。
ウラノスが現代に残した痕跡
ウラノスの名は、惑星と元素に残りました。
天王星 Uranus: 1781年に発見された惑星。他の惑星がローマ名であるのに対し、これだけギリシャ名である。ローマ名カエルスがほとんど使われていなかったため。
元素ウラン uranium: 1789年に発見された元素。天王星の発見直後だったため、その名にちなんで命名された。
ネプツニウム・プルトニウムとの並び: ウラン(天王星)の次の元素がネプツニウム(海王星)、その次がプルトニウム(冥王星)。惑星の並びがそのまま元素の名になっている。
「天と地の分離」という型: もともと重なっていた天と地が引き離されて世界ができる、という筋は世界各地の神話に見られる。ギリシャでは鎌の一撃がそれを起こした。
ウラノスが司るもの
天
天そのもの。大地を覆う存在として、世界の枠を作る。
始まりの秩序
ティタン神族の父。以後の神々の系譜はここから伸びる。
ウラノスが登場するゲーム・アニメ
創作での登場はほとんどありません。 台詞も行動も少なく、物語の起点として名前が出るだけの扱いが大半です。
惑星の名として知られているほうが圧倒的に多い神です。
ウラノスが登場するゲーム
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ウラノスについてよくある質問
ウラノスは何の神様ですか。
天そのものである神です。母ガイアが単独で生み、そのガイアの夫となってティタン神族の父になりました。
ウラノスはなぜ倒されたのですか。
生まれた子を憎み、大地の奥深くへ押し込め続けたためです。押し込められる先はガイア自身の体のなかであり、苦しんだガイアが鎌を作って末子クロノスに討たせました。
ウラノスから何が生まれましたか。
切り落とされた体から愛の女神アフロディーテが海の泡から生まれ、落ちた血からは復讐の女神エリニュス、巨人ギガンテス、トネリコのニンフが生まれました。
天王星の名前はウラノスですか。
そうです。他の惑星はローマ名(ユピテル=木星など)ですが、天王星だけギリシャ名が使われています。ローマ名カエルスがほとんど用いられていなかったためです。
ティタンという名前の由来は何ですか。
ウラノスが子らに与えた名です。「伸ばす者」を意味し、大それたことに手を伸ばして恐ろしい行いをしたから、と説明されています。
ウラノスと併せて覚えたい言葉・用語
ティタン神族(ティタンしんぞく)
ウラノスとガイアの子である十二柱の神々。クロノスを王とし、ゼウスとの十年戦争に敗れてタルタロスへ落とされた。「タイタン」とも表記する。
ニンフ(Νύμφη)
山・森・泉・木に宿る若い女神たち。神ではあるが不死ではなく、宿る木や泉が滅べば死ぬとされた。ギリシャ神話で最も数の多い存在。
ラグナロク(Ragnarök)
北欧神話の終末。神々と巨人が戦い、双方がほぼ全滅して世界が焼け落ち、海に沈む。そののち新しい大地が浮かび上がる。