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ギリシャ神話

イアペトスとは何の神様か|家系図・物語

Ἰαπετός  / イアペトス

大地 ティタン神族

四人の息子がそろって罰を受けたティタン。人間の側の血筋の始まり。

イアペトスとは何の神様か

イアペトスはひとことで言えば息子たちに語らせた父です。

ウラノスガイアの子で、ティタン神族の一柱。ヘシオドス『神統記』はこの神の名を挙げ、オケアノスの娘クリュメネを妻としたと書き、四人の子の名を並べます。それだけです。本人が何かをした場面は、原典に一つもありません。

ところが、その四人がそろって神話の大きな場面を占めます。

アトラスは天を担ぎ、メノイティオスは雷に撃たれた。 プロメテウスは岩に縛られ、エピメテウスパンドラを迎えた。

四人とも、ゼウスとの関わりで罰を負うか、失敗しています。イアペトスの家系は、負ける側の系譜です。

そしてギリシャ人は、洪水のあとの人類をプロメテウスとエピメテウスの子から出たものと考えました。人間はこの血筋につながることになります。

イアペトスのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Ἰαπετός。日本語では「イアペトス」で定着しています。

名の意味は分かっていません。「投げる」「突き刺す」を意味する語に結びつける説がありますが、確かめられてはいません。

古くから注目されてきたのは、旧約聖書に出てくるノアの子ヤペテと音が似ていることです。十七世紀以降のヨーロッパでは、この二つを同じ存在とみなす議論がくり返されました。どちらも「人類の祖」の位置に置かれているためです。 ただし、言語のうえで両者がつながるという証拠は示されていません。

土星の衛星イアペトゥスにこの名が残っています。片面が明るく片面が暗い、二色に分かれた衛星です。

Ἰαπετός(イアペトス)

古代ギリシャ語の表記。語源ははっきりしない。「投げる」「突き刺す」を意味する語に結びつける説がある。

イアペトース(イアペトース)

長音を残した学術的な表記。

イアペトゥス(イアペトゥス)

ラテン語読みに近い形。土星の衛星の名として使われるのはこちらである。

イアペトスの物語

  1. 名を挙げるための神 ─ 『神統記』の書きぶり
  2. 四人の息子 ─ 罰の家系
  3. なぜ記録が少ないのか ─ 父より子が大きくなった系譜
  4. 人間の祖 ─ ギリシャ人が数えた血筋

名を挙げるための神 ─ 『神統記』の書きぶり

ヘシオドス『神統記』で、ウラノスとガイアの子が並べられる場面があります。

オケアノス、コイオスクレイオスヒュペリオン、イアペトス、 テイアレアテミスムネモシュネポイベ、テテュス、そして末子クロノス

十二柱のティタンのうち、詩人が形容の言葉を添えた神は限られます。イアペトスには何も添えられていません。

次に名が出るのは、ずっと後の系譜の段です。「イアペトスはクリュメネを妻とし」と書かれ、四人の息子が並びます。

このあとホメロスが一度だけ触れます。『イリアス』第8歌、ゼウスが従わない神を脅す場面です。

従わぬなら、地の下のいちばん深いところへ落とす。 そこにはイアペトスとクロノスが座っている。

ティタンの代表として名を呼ばれた二柱の一方が、この神でした。 事績は無くとも、位は高かったことになります。

四人の息子 ─ 罰の家系

生まれた四人には、はっきりした共通点があります。全員がゼウスとの関わりで行き詰まることです。

アトラスは天を担ぐ罰を受け、 メノイティオスは驕りのために雷で撃たれてエレボスへ落とされた。 プロメテウスは火を盗んで岩に縛られ、 エピメテウスは忠告を忘れてパンドラを迎えた。

四人の名を並べると、罰の見本のようになります。担ぐ、撃たれる、縛られる、だまされる。

ヘシオドスはこの家系を語るとき、調子がひときわ厳しくなります。イアペトスの子らは、人間の苦しみがどこから来たのかを説明するために置かれている と読めます。

もう一つ見落とせないのは、四人の母がティタンではなくオケアノスの娘クリュメネだという点です。天の血と海の血が合わさった家系にあたります。

なお、母をクリュメネではなくアシアとする伝えもあります。原典によって名が入れ替わる箇所です。

なぜ記録が少ないのか ─ 父より子が大きくなった系譜

イアペトス本人の物語が無い理由は、いくつか考えられます。

一つは、ティタノマキアの敗者だからです。勝った側の神は語られ、負けた側は名前だけが残ります。コイオスもクレイオスも同じ扱いで、これはこの世代に共通した形です。

もう一つは、子が大きくなりすぎたからです。プロメテウスもアトラスも単独で語られる神で、父の名を借りる必要がありません。ヘシオドスはプロメテウスを「イアペトスの子」と呼びますが、これは血筋を示す枕詞であって、父の物語ではありません。

父の記録が薄いのではなく、父を語る必要が無くなった という順序です。

三つ目に、この神には妻と子以外の関わりがありません。恋の話も、争いの話も、都市との縁もない。祀った記録も見つかりませんでした。

書かれなかったのではなく、書くことが無かった。 ティタン神族の多くが、この形をしています。

人間の祖 ─ ギリシャ人が数えた血筋

プロメテウスの子デウカリオンは、大洪水を生き延びた男です。その妻ピュラは、エピメテウスとパンドラの娘でした。

二人は肩ごしに石を投げた。石は人になった。

洪水のあとの人類は、この夫婦から出たとされます。つまり父方をたどってもイアペトス、母方をたどってもイアペトスに行き着くことになります。

デウカリオンの子ヘレンの名から、ギリシャ人は自らを「ヘレネス」と呼びました。自分たちの血筋の根に、罰を受けた家系を置いたことになります。

ゼウスの血ではなく、ゼウスに逆らって罰せられた側の血。ギリシャ人の自己認識として、これは軽い選び方ではありません。

イアペトスの名が、事績を一つも持たないまま残り続けたのは、この位置のためだと考えられます。系譜の起点は、物語が無くても消えません。

イアペトスの家系図と家族

イアペトスの親: ウラノスウラノスとガイアの子として生まれた

イアペトスの妻・夫: クリュメネオケアノスの娘クリュメネを妻とした

イアペトスの子・子孫: プロメテウス四人の息子の一人。火を盗んで岩に縛られたエピメテウス四人の息子の一人。パンドラを妻に迎えたメノイティオス四人の息子の一人。雷に撃たれて闇の底へ送られた

イアペトスの性格と人物像

イアペトスには、性格を語る材料がありません。

台詞が一つも伝わっていません。怒った場面も、助けた場面もありません。分かっているのは、ウラノスとガイアの子であること、クリュメネを妻としたこと、四人の子をもうけたこと、そして地の底に座っていることだけです。

それでもこの神については、四人の息子の性格を並べると、父の輪郭がうっすら見えてくる という読み方があります。

天を担ぎ続ける忍耐(アトラス)、抑えのきかない力(メノイティオス)、先を読む知恵(プロメテウス)、後から気づく愚かさ(エピメテウス)。耐えることと、突っ走ること。 この家系は、その二つを分け持っています。

ただしこれは後世の読み方であって、原典に書かれてはいません。この神について確かに言えるのは、名前と系譜だけです。 分からないことを分からないままにしておくほうが、この神の場合は正確です。

イアペトスゆかりの地と遺跡

イアペトスを祀った神殿は確かめられませんでした。

ティタン神族のうち、独立した祭祀がはっきり確かめられるのはごく一部です。オリュンポスの側に残ったテミスやヘカテには社がありますが、地の底へ落とされた神々には、まとまった祭りの記録がありません。

イアペトスの名が現れるのは、系譜の一段と、地の底に座っているという一節だけです。神殿ではなく、詩の系譜のなかに置かれた神と言えます。

ゆかりの地を挙げるとすれば、息子たちに結びついた場所になります。天を担ぐアトラスの名を持つ北アフリカの山地、プロメテウスが縛られたとされるカウカソスの山。いずれも父ではなく、子の場所です。

イアペトスが現代に残した痕跡

イアペトスの名は、天体の名として現代に残りました。

土星の衛星イアペトゥス: 片面が明るく片面が暗い、二色に分かれた衛星。赤道に沿って高い尾根が走ることでも知られる。

ヤペテとの比較: 旧約聖書のノアの子ヤペテと音が似ているため、近世のヨーロッパで同一視の議論がくり返された。言語のうえでのつながりは示されていない。

プロメテウスの枕詞: ヘシオドスは「イアペトスの子」という呼び方をくり返し使う。父の名は、子を指す言葉として残った。

ティタンの代表としての名: 『イリアス』でゼウスが地の底を語るとき、クロノスと並んで名が挙がる。ティタン全体を代表する二柱の一方に数えられた。

イアペトスが司るもの

血筋をつなぐこと

本人の事績は無いが、四人の息子を通じて神話の主要な場面につながる。

忍耐

息子アトラスは天を担ぎ続け、プロメテウスは岩の上で耐え続けた。

定めを受け入れる

敗れて地の底に座り、抗った記録が残っていない。

人間の創造

ギリシャ人は洪水のあとの人類を、この家系から出たものと考えた。

大地

ウラノスとガイアの子で、ティタン神族の一柱にあたる。

イアペトスが登場するゲーム・アニメ

創作でこの神が単独の登場人物になることは、ほとんどありません。原典に姿も台詞も無いため、借りるものが無いからです。

代わりに、名前は天体としてよく使われます。土星の衛星イアペトゥスは特徴のある姿をしており、宇宙を扱う作品に登場する機会が増えています。

イアペトスが登場する絵画・彫刻

ティタノマキアを描いた図像

落ちていくティタンの群れとして描かれます。個々の名は特定されないことがほとんどです。

天球を担ぐアトラス像

息子の像は数多く残りますが、父の姿を彫った作品は確かめられませんでした。

イアペトスが登場するゲーム・創作

ギリシャ神話を題材にした作品

ティタンの一人として名が挙がります。役を与えられることはまれです。

宇宙を扱う作品

土星の衛星の名として出てくることのほうが多くなっています。

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イアペトスについてよくある質問

イアペトスはどんな神ですか。

ウラノスとガイアの子で、ティタン神族の一柱です。オケアノスの娘クリュメネを妻とし、アトラス・メノイティオス・プロメテウス・エピメテウスの四人をもうけました。本人の事績は原典に書かれていません。

なぜイアペトスの物語が残っていないのですか。

ティタノマキアの敗者であることに加え、息子たちが単独で語られる大きな神になったためだと考えられます。プロメテウスもアトラスも父の名を借りる必要がなく、父の名は血筋を示す枕詞として残りました。

イアペトスと人類はどう関係しますか。

大洪水を生き延びたデウカリオンはプロメテウスの子、その妻ピュラはエピメテウスとパンドラの娘です。洪水のあとの人類はこの夫婦から出たとされるため、父方も母方もイアペトスに行き着きます。

土星の衛星イアペトゥスとの関係は何ですか。

土星の衛星にはティタン神族の名が付けられており、そのうちの一つがこの神の名です。片面が明るく片面が暗い二色の衛星で、赤道に沿って高い尾根が走っています。

イアペトスを祀った神殿はありますか。

確かめられませんでした。地の底へ落とされたティタンには、まとまった祭祀の記録が残っていません。ゆかりの地として挙げられるのは、いずれも息子たちに結びついた場所です。

イアペトスと併せて覚えたい言葉・用語

ティタン神族(ティタンしんぞく)

ウラノスとガイアの子である十二柱の神々。クロノスを王とし、ゼウスとの十年戦争に敗れてタルタロスへ落とされた。「タイタン」とも表記する。

ティタノマキア(Titanomachia)

ゼウス率いるオリュンポスの神々と、クロノス率いるティタン神族の戦争。十年続き、解放されたキュクロプスとヘカトンケイルの加勢で決着した。