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ギリシャ神話

エレボスとは何の神様か|家系図・物語

Ἔρεβος  / エレボス

冥界 原初の神

闇そのものである原初の神。地上と冥界のあいだの暗がりを指す。

エレボスとは何の神様か

エレボスはひとことで言えば神であり、場所でもある存在です。ローマ名もエレブスで変わりません。

ヘシオドス『神統記』では、カオスから夜ニュクスとともに生まれました。世界のもっとも早い時期に属します。

物語はほとんどありません。書かれているのは一つだけです。

闇エレボスと夜ニュクスから、 アイテール(上空の澄んだ空気)とヘメラ(昼)が生まれた。

暗いものから明るいものが生まれる。 ギリシャの創世は、この順で進みます。

もうひとつの顔が、場所としての使われ方です。『オデュッセイア』では、死者が最初に通る地上と冥界のあいだの暗がりを指してこの語が使われます。ハデスの国そのものではなく、その手前にある領域です。

神の名でありながら地名でもある、という二重性は、原初の神に共通します。タルタロスカオスも同じ形をしています。

エレボスのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Ἔρεβος。日本語では「エレボス」で定着しています。

語の意味は「覆われた暗さ」です。単に光がないことではなく、地下の、閉ざされた暗さを指す語でした。同じ語根はセム語系の「日没・西」を意味する語にもさかのぼるとされ、ギリシャ語の外から入った可能性 が指摘されています。

ローマでも綴りが変わるだけで、別の神には置き換えられませんでした。ローマ神話に「闇そのもの」を担う神がいなかったためです。

ニュクスとの違いも押さえておきたいところです。ニュクスは地上に訪れる夜、エレボスは地下の閉ざされた闇。 姉弟であり夫婦でありながら、担当する暗さが違います。

Ἔρεβος(エレボス)

古代ギリシャ語の表記。「覆われた暗さ」を意味する語で、地下の闇を指す。

Erebus(エレブス)

ローマでの綴りと読み。名は置き換えられず、そのまま使われた。

エレボス(エレボス)

日本語表記。ほぼこの形で固定している。

エレボスの物語

  1. 闇から昼が生まれる ─ 創世の順序
  2. 死者が最初に通る場所 ─ 地名としてのエレボス
  3. なぜ物語がないのか ─ 書かれなかった神
  4. 南極の火山になる ─ 船の名から山の名へ

闇から昼が生まれる ─ 創世の順序

『神統記』第123行から125行の記述です。

カオスからエレボスと黒いニュクスが生まれた。 ニュクスからは、アイテールとヘメラが生まれた。 エレボスと交わり、身ごもって生んだのである。

組み合わせを整理すると、こうなります。

闇(エレボス)+夜(ニュクス)→ 澄んだ空気(アイテール)+昼(ヘメラ)

暗い両親から、明るい子が生まれています。

この順序は偶然ではありません。ギリシャの創世は「分かれること」で進みます。何もない状態から、闇と夜が分かれ、そこからさらに光と昼が分かれる。

一つだったものが、二つに割れていく。

カオス(口を開けた隙間)という最初の語も、分かれ目を含意していました。

光が闇に打ち勝ったのではありません。 闇のなかから、光がもう一つの側として出てきただけです。ここが、後の一神教の創世記述と大きく違う点です。

死者が最初に通る場所 ─ 地名としてのエレボス

『オデュッセイア』第11歌。オデュッセウスは、キルケーに言われて冥界へ向かいます。

世界の果て、大洋オケアノスを渡った先に、

キンメリオイ人の土地と町がある。 霧と雲に覆われ、太陽が一度も彼らを照らさない。

ここで穴を掘り、羊を屠って血を注ぐと、死者たちが集まってきました。

この領域を指す語がエレボスです。ハデスの館そのものではなく、その手前にある、光の届かない領域 を指します。

死者はまずエレボスへ下り、そこからハデスの国へ入る。

死後の世界は、一枚ではなく層になっています。エレボス(暗がり)、ハデスの国(死者の国)、そしてタルタロス(罰を受ける者の底)。

神の名が、そのまま地層の名になりました。ギリシャ神話では、場所と存在が分かれていません。 タルタロスも、神であると同時に、神々が投げ落とされる場所です。

なぜ物語がないのか ─ 書かれなかった神

エレボスには、台詞も、行動も、姿の描写もありません。

生まれ、ニュクスと交わり、二柱を生んだ。書かれているのはそれだけです。以後、系譜の中にすら出てきません。

ニュクスがひとりで生んだ子らの列挙は長い。 エレボスとの子は、アイテールとヘメラの二柱だけである。

妻のほうが、圧倒的に多く語られています。

理由は、担当する範囲の狭さにあります。夜は毎日訪れ、人の生活と接します。地下の闇は、人が日常で出会うものではありません。

それでも、この神が置かれた意味はあります。ハデスの国が成り立つ前に、闇という条件が要るからです。死者の国を置く場所として、まず闇が必要でした。

資料が乏しいのは、失われたからではありません。はじめから、役割のためだけに置かれた神だからです。

南極の火山になる ─ 船の名から山の名へ

この神の名は、意外な形で現代の地図に残りました。南極大陸の活火山エレバス山です。

経緯は次のとおりです。

1839年から1843年にかけて、イギリスの探検隊が南極海を調査しました。使われた二隻の船の名が、

エレバス号とテラー号。

いずれも「暗黒」と「恐怖」を意味する名で、もとは砲艦でした。1841年、隊は南極大陸で二つの火山を発見し、自分たちの船の名を付けました。

エレバス山テラー山です。エレバス山はいまも活動を続け、火口に溶岩湖を持つ、世界でも数少ない火山です。

二隻はその後、北極の航路探索に向かい、乗員全員が消息を絶ちました。 船体が発見されたのは2014年と2016年のことです。

地下の闇の神の名が、地球の南の果てで燃え続ける山に付いている。この対比は、命名した側の意図にはなかったはずです。

エレボスの家系図と家族

エレボスの親: カオスカオスから生じる

エレボスのきょうだい: ニュクスともにカオスから生じる

エレボスの妻・夫: ニュクス

エレボスの子・子孫: ヘメラニュクスとの間に生んだ娘

エレボスの性格と人物像

エレボスに、性格と呼べるものはありません。

言葉を発した記録がなく、他の神と関わった場面もなく、争いにも加わっていません。ヘシオドスが与えたのは「生んだ」という一つの動詞だけです。

では、この神を語る意味はどこにあるのか。「書かれていない」こと自体が、この神の性質を示しています。

ギリシャの原初の神々には、二つの型があります。

ガイアウラノスのように、物語を持つ神。 カオスやエレボスのように、条件としてだけ置かれた神。

前者は世代交代の物語に加わり、後者は世界の枠組みを用意して退場します。

エレボスは後者の代表です。闇がなければ、死者の国は置けません。 その一点のために置かれ、役目を終えると系譜から消えました。

現象そのものである神は、人格を持ちません。 これは資料の欠落ではなく、そういう神として作られたということです。

エレボスゆかりの地と遺跡

エレボスを祀った神殿も祭壇も、確認できていません。

原初の神のなかでも、この神は特に記録が乏しく、祭儀に関する言及そのものが残っていません。

これは珍しいことではありません。カオス、アイテール、ヘメラにも神殿はありません。現象そのものである神は、ギリシャでは祀られませんでした。

地名としてのエレボスは、大洋オケアノスを渡った先、光の届かない領域とされます。『オデュッセイア』はそこをキンメリオイ人の土地とも呼びますが、実在のどこかを指すのかは分かっていません。黒海の北とする説が古代からありましたが、確かめる手段はありません。

ゆかりの地として挙げられるものが無いことを、そのまま書いておきます。

エレボスが現代に残した痕跡

エレボスの名は、南極の火山と船の名として現代に残りました。

エレバス山(南極大陸): 1841年にイギリスの探検隊が発見した活火山。船の名にちなんで命名された。火口に溶岩湖を持つ、世界でも数少ない火山として知られる。

エレバス号: イギリス海軍の探検船。1845年に北極の航路探索へ向かい消息を絶ったが、2014年に船体が発見された。

「エレボス的」という形容: 深い闇や地下の暗さを表す語として、英語の文章語に残っている。

小惑星エレボス: 小惑星の一つにこの神の名が与えられている。

エレボスが司るもの

地下の閉ざされた闇そのものを司る。祈願の対象として祀られた記録は残っていない。

エレボスが登場するゲーム・アニメ

創作では、神としてよりも「闇」を指す語として使われることが大半です。 原典に行動が一切ないため、登場人物として立てにくいためです。

名前の響きが強いこともあり、地名・技名・組織名として借用される例が目立ちます。

神話そのものより、南極のエレバス山と探検船の物語のほうが、現代では広く知られています。

エレボスが登場するゲーム

女神転生シリーズ

原初の闇を表す存在として、名が用いられています。

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Hades(ハデス)

冥界の領域名として言及されます。

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各種ロールプレイングゲームの闇属性

闇を意味する語として、技名や地名に転用されることが多くあります。

エレボスが登場するアニメ・漫画・映像

各種の神話解説書

ギリシャ神話の系譜図では、必ずカオスの直下に置かれます。

南極探検を扱った記録作品

エレバス号の遭難と発見は、繰り返し取り上げられてきた題材です。

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エレボスについてよくある質問

エレボスは何の神様ですか。

闇そのものである原初の神です。カオスから夜ニュクスとともに生まれ、ニュクスと結ばれて上空の澄んだ空気アイテールと昼ヘメラを生みました。

エレボスとニュクスの違いは何ですか。

ニュクスは地上に訪れる夜、エレボスは地下の閉ざされた闇を指します。姉弟であり夫婦でもありますが、担当する暗さが違います。

エレボスは場所の名前でもあるのですか。

そうです。『オデュッセイア』では、死者が最初に通る、地上と冥界のあいだの暗がりを指してこの語が使われます。ハデスの国そのものではなく、その手前の領域です。

エレボスを祀った神殿はありますか。

確認できていません。神殿も祭壇も、祭儀に関する言及そのものが残っていません。現象そのものである原初の神は、ギリシャではほとんど祀られませんでした。

南極のエレバス山とは関係がありますか。

名前の由来がこの神です。1839年から南極海を調査したイギリスの探検船エレバス号が、1841年に火山を発見して自分たちの船名を付けました。船名のほうが、この神から取られています。

エレボスと併せて覚えたい言葉・用語

タルタロス(Τάρταρος)

冥界よりさらに深い奈落。神々に逆らった者が落とされる。ティタン神族が封じられている。青銅の金床を天から落とせば大地まで九日、大地からここまでさらに九日かかるとされる。