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ギリシャ神話

ラケシスとは何の神様か|家系図・物語

Λάχεσις  / ラケシス

冥界 ティタン神族

運命の三女神の一人。くじを配り、一生の長さを決める。

ラケシスとは何の神様か

ラケシスはひとことで言えば配る者です。

運命の三女神モイライの一柱で、名は「くじ」「割り当て」を意味する語から作られています。分け前を指す普通名詞と同じ語根です。

受け持ちは長さ。姉クロトが紡ぎ出した糸を測り、その人の一生として割り当てます。

プラトン『国家』の最後に置かれた「エルの物語」で、この女神は生まれ変わる魂たちの前に立ちます。籤を撒き、生き方の見本を並べ、そして告げます。

徳は主を持たない。 敬う者は多く得、軽んじる者は少なく得る。 責めは選んだ者にあり、神に責めはない。

配るのはくじであって、中身を選ぶのは本人です。 運命の女神が、選んだ責任を人の側へ返しています。

持ち物は巻物、あるいは測る杖。三姉妹の中央に置かれることの多い神です。

ラケシスのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Λάχεσις。日本語では「ラケシス」、長音を残して「ラケーシス」とも書きます。

名のもとになったのは、くじを引いて何かを得るという意味の動詞です。ここから作られた名詞は「分け前」「持ち分」を指し、遺産の相続分や戦利品の取り分についても使われました。

つまりこの名は、当たり外れのある「くじ」の語です。 運命は測って与えられるものであると同時に、引き当てるものでもある。その感覚が名前に残っています。

ローマでは三姉妹をパルカと呼び、ラケシスにはデキマを当てました。「十番目」の意味で、妊娠十か月目にちなむ名です。

中南米にすむ大型の毒蛇の学名にも、この女神の名が使われています。噛まれた者の生死が分かれることにちなむと説明されます。

Λάχεσις(ラケシス)

古代ギリシャ語の表記。「くじで得る」を意味する動詞から作られ、「割り当てる女」が原義。

ラケーシス(ラケーシス)

長音を残した学術的な表記。事典類ではこちらの形も使われる。

Decima(デキマ)

ローマで三女神に当てられた名のうちの一柱。「十番目」を意味し、妊娠十か月目にちなむとされる。

モイライ(モイライ)

三姉妹をまとめて呼ぶ名。「割り当て」を意味する語の複数形。

ラケシスの物語

  1. 測って配る ─ 三姉妹の真ん中
  2. エルの物語 ─ くじを撒く女神
  3. 分け前としての運命 ─ ギリシャ語の考え方
  4. 量るのは誰か ─ ゼウスの秤とラケシスのくじ

測って配る ─ 三姉妹の真ん中

三姉妹の仕事は、糸を三段階で扱う形に整理されています。

クロトが紡ぎ出し、ラケシスが測って配り、 アトロポスが切る。

ラケシスは真ん中です。もとになる糸も、終わらせる鋏も持っていません。手にしているのは、どれだけを割り当てるかという一点だけです。

図像では、巻物を広げるか、細い杖で球を指す姿で描かれます。ローマ時代の石棺では中央に座り、書き付けを読んでいることが多くなります。

「書いてある」という言い方が付いてまわるのが、この女神の特徴です。 クロトは手を動かし、アトロポスは刃を入れますが、ラケシスは読み上げます。

ヘシオドス『神統記』は、三姉妹をまとめてこう書きます。

人が生まれたとき、善いことと悪いことを分け与える。

分け与えるという言い方が、そのままラケシスの名になっています。三姉妹の性格を一柱で代表しているのは、この女神です。

エルの物語 ─ くじを撒く女神

プラトン『国家』の第10巻は、戦死したはずの男エルが生き返り、あの世で見たことを語る場面で終わります。ギリシャ哲学のなかでも、とりわけよく知られた一段です。

生まれ変わりを待つ魂たちが集められ、預言者がラケシスの膝からくじと生き方の見本を取り上げて告げます。

一日かぎりの魂たちよ。 死すべき種族の、新しい一巡りが始まる。 神が籤で当てるのではない。おまえたちが選ぶのだ。

くじの順番は籤で決まりますが、何を選ぶかは魂に任されています。

徳は主を持たない。 敬う者は多く得、軽んじる者は少なく得る。 責めは選んだ者にあり、神に責めはない。

運命の女神が「神に責めはない」と言い渡す場面です。

選び終えた魂は、クロトの手の下を通って選択を固め、アトロポスの手で取り消せないものにされます。三姉妹が順に念を押していく形です。

この筋立ての影響は大きく、運命と自由な選択を両立させる説明の原型になりました。

分け前としての運命 ─ ギリシャ語の考え方

ギリシャ語で運命を指す言葉は、「分け前」の系統でできています。

三姉妹の総称モイラは「割り当て」、ラケシスの名のもとになった語は「くじ」「持ち分」。どちらも、もとは財産や戦利品を分けるときの言葉でした。

誰にどれだけ渡すか。 ギリシャの運命は、この形で語られる。

ホメロスの詩では、この語が神の名ではなく普通名詞として何度も出てきます。「それが彼の分け前だった」という言い方で、死や敗北が説明されます。

運命は、上から降ってくる力ではなく、配られる量として考えられていました。 誰かが多く取れば、誰かの分は減ります。

この考え方は、報いの女神ネメシスにもつながります。ネメシスの名も「分け与える」という動詞から来ており、取りすぎた者から余分を回収する働きを持ちます。

配る神と、配り直す神。ギリシャの運命観は、分配の言葉で組み立てられています。 日本語の「身の程」「分をわきまえる」に近い感覚が、神の名の側にあると考えるとつかみやすくなります。

量るのは誰か ─ ゼウスの秤とラケシスのくじ

運命を決めているのは誰なのか。原典を読むと、答えが一つに定まりません。

『イリアス』では、ゼウスが黄金の秤を取り出し、二人の死の運命を載せて吊るします。沈んだ方がその日に死ぬ。ここでは最高神が量っているように見えます。

ところが同じ詩の別の場面で、ゼウスは息子サルペドンを助けたいと言い出し、ヘラに止められます。

定めのとおりに死ぬはずの者を、 死から解こうというのですか。 ほかの神も同じことをしはじめますよ。

最高神ですら、勝手には動かせない。 ゼウスは血の雨を降らせて悲しむだけで終わります。

量るのはゼウス、割り当てるのはラケシス。 二つの説明が並んだまま、どちらも消されていません。

ヘシオドスは『神統記』で、ゼウスが三姉妹をもっとも尊んだと書きました。命じるのでも従うのでもなく、尊ぶという言葉が選ばれています。この一語に、両者の関係の落ち着きどころが表れています。

ラケシスの家系図と家族

ラケシスの親: テミスゼウスとの間に生んだモイライの一柱ゼウステミスとの間の娘。もっとも尊んだと記されるニュクス父を持たずに生んだとする別の系譜

ラケシスのきょうだい: クロト三姉妹。糸を紡ぐ者と、長さを配る者アトロポス三姉妹。長さを配る者と、糸を切る者

ラケシスの性格と人物像

ラケシスは、三姉妹のなかで唯一、まとまった台詞が伝わる女神です。

それもプラトンの筆によるもので、内容は「選ぶのはおまえたちだ」という宣告でした。運命の女神のことばとしては、意外なほど突き放しています。

情に流される場面はありません。恨みも、ひいきもありません。配るときの基準は書かれておらず、なぜその長さなのかは説明されないままです。

それでいて、この女神には不当さの印象がありません。 くじという形を取っているからです。誰かに恵まれ、誰かに厳しいのではなく、引いた順に配られていきます。

古代の人がこの神に見たのは、理由のなさだったと言えます。理由が無いことを理不尽と呼ぶか、公平と呼ぶかは、受け取る側の問題でした。

もう一つ、この女神はやり直しを認めません。 エルの物語では、選び終えた魂がクロトとアトロポスの手を順に通り、決定が固められていきます。選ばせはするが、選び直させない。 そこだけは姉妹三人に共通しています。

ラケシスゆかりの地と遺跡

ラケシスだけを祀った神殿は確かめられませんでした。

モイライは三姉妹まとめて祀られるのがふつうで、単独の社は伝わっていません。パウサニアスは各地でモイライの祭壇や像を見たと記していますが、その位置を現在の地図の上で確定できる資料は見つかりませんでした。

三姉妹が呼ばれるのは、人生の変わり目です。 子が生まれるとき、婚礼のとき、そして死ぬとき。日々参る神ではなく、節目ごとに立ち会う神でした。

一方、彫られた例は数え切れません。ローマ時代の石棺には、巻物を読む中央の女神が繰り返し現れます。祀られた記録より、彫られた記録のほうがはるかに多い神です。

ラケシスが現代に残した痕跡

ラケシスの名は、生物の学名くじという発想に残りました。

毒蛇の学名: 中南米にすむ大型の毒蛇の属名に、この女神の名が使われている。噛まれた者の生死が分かれることにちなむと説明される。

小惑星の名: 三姉妹の名はそれぞれ別の小惑星に付けられており、その一つ。

くじとしての運命: 運命を「引き当てるもの」として考える見方は、この女神の名の語源にそのまま残っている。分け前・持ち分を指す語と同じ系統である。

ローマのデキマ: ローマではラケシスにデキマを当てた。「十番目」を意味し、妊娠十か月目にちなむ名である。

ラケシスが司るもの

一生の長さ

糸を測って割り当てる役目を持ち、どれだけ生きるかを受け持つ。

寿命

三姉妹のうち、長さを決める一柱にあたる。

運命

名がそのまま「割り当て」を意味し、分け前としての定めを司る。

決断

エルの物語では、魂たちに生き方を選ばせ、責めは選んだ者にあると告げる。

定めを受け入れる

配られた分を引き受けるという古代の感覚を代表する神。

ラケシスが登場するゲーム・アニメ

創作でのラケシスは、三人のうち「話す役」を割り当てられることが多い神です。 プラトンが台詞を与えたのがこの女神だけだったことが、そのまま尾を引いています。

持ち物は作品ごとに揺れます。巻物、杖、物差し、天秤。測るための道具であれば何でもよいという扱いで、鋏を持つアトロポスほど図像が固まっていません。

ラケシスが登場する絵画・彫刻

三女神を彫った石棺

中央に座り、巻物を読む姿で彫られます。三人のうち、書き付けを手にしているのがこの女神です。

近代の寓意画

人の一生を三人に割り振る主題で、糸を測る役として描かれます。手にする道具は巻物・杖・物差しと定まりません。

ラケシスが登場するゲーム・創作

運命の三姉妹が出る作品

長さを配る役として、三人のうち中央に置かれます。判断を下す立場に割り当てられることが多くなります。

選択を扱う物語

「選ぶのはおまえだ」という筋立ての場面で、この女神の名が引かれることがあります。

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ラケシスについてよくある質問

ラケシスはどんな神ですか。

運命の三女神モイライの一柱で、姉クロトが紡いだ糸を測り、その人の一生として割り当てます。名は「くじ」「割り当て」を意味する語から作られています。

エルの物語とは何ですか。

プラトン『国家』第10巻の終わりに置かれた話です。戦死したはずの男エルが生き返り、あの世で見たことを語ります。生まれ変わる魂たちの前でラケシスがくじと生き方の見本を配り、「責めは選んだ者にあり、神に責めはない」と告げる場面が知られています。

ラケシスの親は誰ですか。

ヘシオドス『神統記』が二通りに書いています。夜の女神ニュクスが父を持たずに生んだとする箇所と、ゼウスと掟の女神テミスの娘とする箇所です。決着はついていません。

毒蛇の名前になっているというのは本当ですか。

中南米にすむ大型の毒蛇の属名に、この女神の名が使われています。噛まれた者の生死が分かれることにちなむと説明されます。

ラケシスを祀った神殿はありますか。

この女神だけを祀った神殿は確かめられませんでした。モイライは三姉妹まとめて祀られるのがふつうで、パウサニアスが各地で祭壇や像を見たと記していますが、位置を確定できる資料は見つかりませんでした。

ラケシスと併せて覚えたい言葉・用語

モイライ(Μοῖραι)

運命の三女神。クロトが命の糸を紡ぎ、ラケシスが長さを測り、アトロポスが断つ。ゼウスですら逆らえない。