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ギリシャ神話

ヘスティアとは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

Ἑστία  / ヘスティア

オリュンポス十二神

竈の火の女神。物語を持たず、あらゆる家と国家の中心にいた。

ヘスティアの姿を描いた図

「万民の神話事典」 1874年 / パブリックドメイン 出典

ヘスティアとは何の神様か

ヘスティアはひとことで言えば物語のない神です。

竈(かまど)の火を司る女神。クロノスレアの長女で、ゼウスの姉にあたります。ローマ名はウェスタ

恋愛も、争いも、冒険もしません。アポロンポセイドンに求婚されましたが、いずれも断って永遠の処女を誓いました。

しかし信仰の面では別です。

どの家にも、どの都市にも竈の火があり、それはすべてこの女神だった。

供物は最初にこの女神へ捧げられ、最後もこの女神で締める習わしでした。

ローマではウェスタの巫女が国家の火を守り、火を絶やせば死罪でした。

神話に出てこないのに、生活のなかにはいつもいた神です。

ヘスティアのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Ἑστία。日本語では「ヘスティア」で定着しています。

竈を意味する普通名詞でもあります。ガイア(大地)、ウラノス(天)と同じく、名がそのまま物そのものです。

注目すべきは、ローマでの扱いの重さです。

ギリシャのヘスティアは、神話にほとんど登場しない。
ローマのウェスタは、国家の存亡に関わる神だった。

ウェスタ神殿の火が消えることは、ローマが滅びる予兆とされました。巫女は火を絶やせば死罪であり、貞潔を破れば生き埋めにされました。

同じ神が、渡った先で決定的に重くなった例です。

Ἑστία(ヘスティア)

古代ギリシャ語の表記。「竈」を意味する普通名詞でもある。

Vesta(ウェスタ)

ローマ名。英語では Vesta。ローマではギリシャよりはるかに重視された。

ヘスティアの物語

  1. 最初に呑まれ、最後に出てくる
  2. 求婚を断る ─ 自分で選んだ立場
  3. 席を譲る ─ 十二神から外れる
  4. ウェスタの巫女 ─ 国家の火を守る

最初に呑まれ、最後に出てくる

ヘスティアは、クロノスとレアの長女です。

つまり、最初に呑み込まれた子でした。

ゼウスが父に吐き薬を飲ませたとき、子らは呑まれた順とは逆に出てきました。

最初に呑まれたヘスティアが、最後に出てきた。

このため、

長女であり、同時に末子でもある。

と言われます。

古代の作家はこの点を、最初と最後の両方に捧げ物をする理由と結びつけました。

供物はまずヘスティアに、そして最後もヘスティアに。

宴の始まりと終わり、祈りの冒頭と締め。この女神が両端を押さえています。

物語には出てこないのに、儀式のたびに必ず呼ばれる神でした。

求婚を断る ─ 自分で選んだ立場

アポロンとポセイドンが、同時にこの女神に求婚しました。

二柱とも強力な神です。断れる立場ではありません。

ヘスティアはゼウスの頭に手を置き、誓いを立てます。

永遠に処女でいること。

ゼウスは認め、代わりに特別な名誉を与えました。

家の中央に座り、あらゆる供物の最初の分け前を受ける。
すべての神殿で、この女神も一緒に祀られる。

結婚を断ったことで、すべての家と神殿に居場所を得ました。

アテナアルテミスと並ぶ三柱の処女神の一柱です。ただし他の二柱と違い、

戦わず、狩らず、ただ座っている。

この女神の力は、動かないことにあります。

席を譲る ─ 十二神から外れる

ヘスティアは、オリュンポス十二神に数えられることも、数えられないこともあります。

数え方が二通りあるためです。

ヘスティアを入れる数え方(ハデスは冥界にいるので外す)
ディオニュソスを入れる数え方(ヘスティアが席を譲った)

後者の伝えでは、

ヘスティアが自ら席を降り、ディオニュソスに譲った。

理由は「争いを避けるため」とも、「竈を守るために動けないから」とも説明されます。

この伝えは比較的新しく、古い原典には明記されていません。 ただし、

この女神なら譲るだろう

という性格の理解が、後世にこの話を生んだと考えられます。

十二神の席を降りても、すべての家に居場所がある。 譲っても失うものがない神でした。

ウェスタの巫女 ─ 国家の火を守る

ローマでは、この女神は国家の神でした。

フォロ・ロマーノのウェスタ神殿に、消してはならない火が燃えていました。ローマそのものの命とされた火です。

守ったのがウェスタの巫女(ウェスタリス)です。

6歳から10歳の少女が選ばれ、30年間仕える。

身分は特別でした。父の権威から独立し、財産を持ち、遺言を書け、裁判で証言でき、通りでは執政官すら道を譲りました。

死刑囚が偶然巫女に出会えば、その刑は赦されました。

しかし規律は苛烈です。

火を絶やせば、鞭打ち。
貞潔を破れば、生き埋め。

血を流すことが禁じられていたため、地下室に食料をわずかに置いて閉じ込める方法が取られました。

この制度は約千年続き、西暦394年に終わります。

ヘスティアの家系図と家族

ヘスティアの親: クロノス呑まれた子レア

ヘスティアのきょうだい: ゼウス

ヘスティアの性格と人物像

ヘスティアは、何もしない神です。

それは怠惰ではありません。動かないことが役目です。

竈の火は、移動しません。そこにあり続けることに意味があります。

他の神が争い、恋をし、罰を下すあいだ、この女神は座っていました。神話に登場しないのは、登場する必要がなかったからです。

注目すべきは、それでいて最も頻繁に呼ばれたことです。

供物の最初と最後、宴の始まりと終わり、家を新しく建てるとき、植民市を作るとき。

新しい町を作るときは、母市の竈から火を運んで灯した。

火が繋がっていることが、都市の正統性でした。

物語がないから軽い神なのではありません。物語が要らないほど、生活に埋め込まれていたのです。

ギリシャの神々のなかで、もっとも人々の近くにいた神です。

ヘスティアを祀った神殿と遺跡

ヘスティアの神殿は、独立して建てられることが少ない神です。

理由は明快で、すべての家の竈がこの女神の場所だからです。特別な建物を要しません。

公共の場ではプリュタネイオンが、その役目を果たしました。神殿ではなく、行政の建物です。

ローマの円形神殿は例外的で、竈の形をそのまま建物にしたものでした。

ウェスタ神殿(Temple of Vesta)

国家の火を守った円形神殿

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ウェスタ神殿の住所: イタリア ローマ フォロ・ロマーノ

ウェスタ神殿の祀られた神: ウェスタ(ヘスティア)

ウェスタ神殿に残るもの: 円形の基壇と一部復元された柱

フォロ・ロマーノにある円形の神殿です。ギリシャ・ローマの神殿は長方形が普通なので、円形は例外的です。

竈の形をそのまま建物にしたとされます。屋根には煙を逃がす穴がありました。

内部に神像はありません。火そのものが神体でした。

隣接してウェスタの巫女の家の遺構があり、中庭を囲む建物と、歴代の巫女長の像の台座が並んでいます。

フォロ・ロマーノの入場券で見学できる。

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各都市のプリュタネイオン(Prytaneion)

都市の公共の炉が置かれた建物

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各都市のプリュタネイオンの住所: ギリシャ各地(アテネ、オリンピア、プリエネなど)

各都市のプリュタネイオンの祀られた神: ヘスティア

各都市のプリュタネイオンに残るもの: 建物跡(各地の遺跡内)

ギリシャの各都市にはプリュタネイオンと呼ばれる公共の建物があり、そこに都市の炉がありました。

この火は、絶やしてはならない。

新しい植民市を作るときは、母市の炉から火を運んで灯しました。 火が繋がっていることが、都市としての正統性を示したのです。

ここでは外国の使節や、競技祭の勝者が公費で食事を供されたとも記録されています。

ソクラテスが裁判で「自分にふさわしい刑罰は、プリュタネイオンでの食事だ」と言ったのは、この制度を指しています。

オリンピア遺跡やプリエネ遺跡で建物跡を確認できる。

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ヘスティアが現代に残した痕跡

ヘスティアの名は、言葉と天体に残りました。

小惑星ベスタ: 1807年に発見された、小惑星帯で最も明るい天体。ローマ名ウェスタによる。

マッチの商標「ヴェスタ」: 19世紀のイギリスで、携帯用マッチの一般名として vesta が使われた。火の女神の名による。

「聖火」という発想: 絶やしてはならない火という考え方は、この女神の信仰に由来する。オリンピックの聖火リレーもこの系譜にある。

新しい町へ火を運ぶ習俗: 植民市を作るとき母市の炉から火を運んだ。都市の正統性を火の連続で示す発想。

ヘスティアが司るもの

家庭・家内安全

竈の火を司る。家の中心にいる神とされた。

国家の安寧

都市の公共の炉を守る。ローマでは国家の存亡に関わる神とされた。

供物の最初と最後

あらゆる祈りの冒頭と締めに名を呼ばれる。

ヘスティアが登場するゲーム・アニメ

原典に物語がないため、創作では自由に性格が与えられます。 近年の作品では、穏やかで面倒見のよい神として描かれることが多くあります。

原典で確かなのは、求婚を断って永遠の処女を誓ったことと、あらゆる供物の最初と最後を受けることだけです。

ヘスティアが登場するゲーム

Hades(ハデス)

恩恵を与える神の一柱として登場します。

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ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか

主人公が属する眷族の主神として登場します。日本でこの女神が知られた最大の要因です。

プライム・ビデオで探す

女神転生シリーズ

女神として登場します。

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ヘスティアが登場するアニメ・漫画・映像

古代美術

像がほとんど残っていません。座った姿で表されることが多く、動きのない造形のため作例が少ないとされます。

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ヘスティアについてよくある質問

ヘスティアは何の神様ですか。

竈の火を司る女神です。家の中心にあり、都市の公共の炉も守ります。あらゆる供物の最初と最後に名を呼ばれました。

ヘスティアのローマ名は何ですか。

ウェスタ(Vesta)です。ローマではギリシャよりはるかに重視され、国家の火を守る神とされました。

ヘスティアはオリュンポス十二神ですか。

数え方によります。ヘスティアを入れてハデスを外す数え方と、ディオニュソスに席を譲ったとしてヘスティアを外す数え方があります。

ヘスティアの神話が少ないのはなぜですか。

竈の火は動かないことに意味があるためです。恋も争いも冒険もせず、家の中心に座り続けます。物語が要らないほど生活に埋め込まれていました。

ウェスタの巫女とは何ですか。

ローマで国家の火を守った女性の神官です。6〜10歳で選ばれて30年仕え、特別な地位を与えられる一方、火を絶やせば鞭打ち、貞潔を破れば生き埋めという苛烈な規律がありました。

ヘスティアと併せて覚えたい言葉・用語

オリュンポス十二神(オリュンポスじゅうにしん)

オリュンポス山に住む主要な神々。ゼウス、ヘラ、ポセイドン、デメテル、アテナ、アポロン、アルテミス、アレス、アフロディーテ、ヘファイストス、ヘルメスの十一柱は確実で、残り一枠をヘスティアとディオニュソスが争う。