人類に火を与えたティタン。罰として毎日肝臓を食われた。

「プロメテウス」 / パブリックドメイン 出典
プロメテウスとは何の神様か
プロメテウスはひとことで言えば人類の側に立った神です。
ティタン神族?でありながら、ティタノマキア?ではゼウスの側につきました。 名は「先に考える者」を意味します。
人間を土から作ったとも伝わります。神々への供物を分けるとき、
骨を脂で包んで良く見せ、ゼウスに選ばせた。
怒ったゼウスは人間から火を取り上げます。プロメテウスは茴香の茎に火を隠して盗み出し、人間に与えました。
罰は苛烈でした。
カウカソス山の岩に鎖でつながれ、毎日、鷲が来て肝臓を食う。肝臓は夜のうちに再生し、翌日また食われる。
これが何百年も続きます。のちにヘラクレスが鷲を射て解放しました。
人間の側にも罰が下されました。最初の女性パンドラです。
プロメテウスのギリシャ名・ローマ名と読み方
古代ギリシャ語では Προμηθεύς。日本語では「プロメテウス」で定着しています。
名の意味が重要です。
プロ(先に)+ メーティス(考える)= 先に考える者
対して弟の名エピメテウスは、
エピ(後で)+ メーティス(考える)= 後で考える者
兄弟の名が、そのまま性格です。兄は先を読んで火を盗み、弟は後先を考えずにパンドラを受け取りました。
ギリシャ神話には、名前が性格を説明する例が多くあります。この兄弟はその典型です。
Προμηθεύς(プロメテウス)
古代ギリシャ語の表記。「先に(プロ)」+「考える(メーティス)」で「先に考える者」の意。
Ἐπιμηθεύς(エピメテウス)
弟の名。「後で考える者」の意。兄と対になる名で、パンドラを受け取ってしまう。
Prometheus(プロメテウス)
ラテン語表記。ローマ固有の名は持たない。
プロメテウスの物語
骨を脂で包む ─ 供物をめぐる詐術
神々と人間が、供物の分け前を決める会合を持ちました。仲介したのがプロメテウスです。
牛を屠り、二つの山に分けました。
一方は、肉と内臓を、牛の胃袋で包んだ。 見た目は悪い。
もう一方は、骨を白い脂で包んだ。 見た目は良い。
ゼウスに選ばせます。
ゼウスは、脂で包まれたほうを選んだ。
開けてみれば、骨だけでした。
『神統記』はここで、ゼウスは見抜いていたと書きます。分かっていながら選び、怒る口実にしたというのです。
人間は、以後この分け方で神に供えるようになった。
つまり骨と脂を焼いて捧げ、肉は自分たちが食べる。 実際の犠牲の作法が、この話で説明されています。
怒ったゼウスは、人間から火を取り上げました。
火を盗む ─ 茴香の茎に隠して
火を失った人間は、肉を焼くことも、暖を取ることもできません。
プロメテウスは動きました。
茴香(ういきょう)の茎のなかに火を隠し、盗み出して人間に与えた。
茴香の茎は、外は湿っていても内側に燃えやすい髄があるため、火を運ぶのに使われました。実際の道具です。
火の意味は大きいものでした。アイスキュロスの悲劇『縛られたプロメテウス』で、本人がこう語ります。
私は人間に数を教え、文字を教え、家の建て方を、船の作り方を、薬を、占いを、金属の掘り方を教えた。
人間の技術はすべて、プロメテウスによる。
火は単なる暖ではなく、文明そのものでした。
ゼウスの怒りは、そこにあります。人間が神に近づいたからです。
鷲に肝臓を食われる ─ 終わらない罰
罰は、終わらないように設計されていました。
カウカソス山の断崖に、砕けない鎖で縛りつけられた。
そして、
毎日、鷲が来て肝臓を食う。
夜のうちに肝臓は再生し、翌日また食われる。
肝臓が選ばれたのは、再生する臓器として知られていたからです。古代ギリシャ人はそれを観察で知っていました。
死なせない罰。
期間は伝えによって異なり、三万年とも、何世代もとも記されます。
アイスキュロスの悲劇では、プロメテウスは屈しません。
私は憎まれる。だが、私は正しい。
そして、ゼウス自身が父を倒したことを持ち出し、
お前もいずれ倒される。その秘密を私は知っている。
と告げます。知っていて、言わない。 この対決が悲劇の核です。
パンドラが送られる ─ 人間への罰
ゼウスは、人間の側にも罰を用意しました。
ヘファイストスに命じ、土と水から乙女を作らせます。
神々がそれぞれ贈り物をしました。
アテナは織物の技を、アフロディーテは魅力を、ヘルメスは偽りの言葉と盗みの心を。
名はパンドラ。「すべての贈り物」を意味します。
プロメテウスは弟に警告していました。ゼウスからの贈り物は受け取るな。
しかし弟エピメテウスは「後で考える者」です。
受け取ってしまった。
パンドラは壺の蓋を開けます。
あらゆる災いが飛び出した。 病、老い、労苦、悲しみ。
慌てて閉じたとき、ただひとつ「エルピス」が残りました。
この語は「希望」とも「予兆(先を見通す力)」とも訳せます。
希望だけが残ったのか、予知能力だけが人間に与えられなかったのか。
二千年、議論が続いています。
ヘラクレスに解放される ─ そして和解
何百年ののち、ヘラクレスが十一番目の難業のためにカウカソス山を通りかかりました。
矢を放ち、鷲を射落とした。
そしてゼウスの許しを得て、鎖を解きます。
ゼウスが許した理由は、二つ伝えられます。
一つ。 自分の子ヘラクレスの功績が高まることを喜んだ。
二つ。 プロメテウスが、隠していた秘密を明かしたから。
秘密とはこうです。
海の女神テティスが産む子は、父を超える。
ゼウスはテティスに関心を持っていました。知らずに交われば、自分が倒されていたのです。
テティスは人間ペレウスと結婚させられ、生まれたのがアキレウスでした。
その婚礼で、エリスが黄金の林檎を投げ入れる。
トロイア戦争?は、ここから始まります。
プロメテウスの秘密が、次の物語を生みました。
プロメテウスの家系図と家族
プロメテウスの性格と人物像
プロメテウスは、負けると分かっていて選ぶ神です。
ゼウスに勝てないことは、最初から知っていました。先を見通す名を持つ神です。それでも人間の側につきました。
注目すべきは、この神が何も得ていないことです。
人間に火と技術を与え、自分は三万年鎖につながれました。見返りはありません。
アイスキュロスの悲劇で、この神ははっきり述べます。
私は自ら進んで、進んで過ちを犯した。否定はしない。 人間を助けて、私は自分に苦しみを招いた。
過ちだと認めながら、後悔していません。
もうひとつが、沈黙です。ゼウスを倒す秘密を知りながら、拷問のなかで言いませんでした。最後に自分の判断で明かします。
知識を持つ者が、それをいつ使うかを自分で決める。
近代以降、この神が反逆者の象徴として繰り返し引用された理由は、ここにあります。
プロメテウスを祀った神殿と遺跡
プロメテウスを祀った神殿はほとんどありません。 神々に逆らった神だからです。
例外がアテネのアカデメイアで、ここでは火をもたらした神として祀られ、松明競走が行われました。
職人と学者の町が、この神を選んだ。
アテネが技術と学問の都市を自認していたことの表れです。
アカデメイアのプロメテウス祭壇(Academy of Athens)
松明競走が行われた聖域
アカデメイアのプロメテウス祭壇の住所: ギリシャ アテネ アカデミア・プラトノス
アカデメイアのプロメテウス祭壇の祀られた神: プロメテウス・アテナ・ヘファイストス
アカデメイアのプロメテウス祭壇に残るもの: 聖域の跡(発掘区)
アテネ郊外のアカデメイア(プラトンが学園を開いた地)に、この神の祭壇がありました。
ここを起点に松明競走(ランパデドロミア)が行われました。走者が火を絶やさずリレーする競技です。
火をもたらした神の祭に、火を運ぶ競走。
火を消してしまった走者は失格でした。
オリンピックの聖火リレーの遠い先祖にあたる行事とされます。
現在は公園として整備され、発掘区を見学できます。
アテネ中心部から地下鉄とバスで行ける。入場無料。
カウカソス山(コーカサス山脈)(Caucasus)
鎖につながれたとされる山
カウカソス山(コーカサス山脈)の住所: ジョージア/ロシア(黒海とカスピ海のあいだ)
カウカソス山(コーカサス山脈)に残るもの: 伝承
プロメテウスが鎖につながれたとされる山脈です。ギリシャ人にとって世界の東の果てでした。
ジョージアには、これと重なるアミラニという英雄の伝説があります。神に逆らって岩に縛られ、鷲に襲われるという筋です。
どちらが先か、影響関係は決着していません。
現地のカズベク山には、アミラニが縛られたとされる洞窟の伝承があります。
特定の遺跡ではなく、山脈全体が伝承の舞台。
プロメテウスが現代に残した痕跡
プロメテウスの名は、元素・文学・比喩に残りました。
元素プロメチウム(61番): 1945年に確認された放射性元素。「火を盗んだ神」の名は、核エネルギーへの警告の意味も込められている。
「現代のプロメテウス」: メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』の副題。人間が創造の領域に踏み込む物語として、この神の名が冠された。
松明リレー: アテネのアカデメイアで行われた松明競走が、火を運ぶ行事の古い例。オリンピックの聖火リレーの遠い先祖とされる。
「プロメテウス的」: 権威に反抗して人類に利益をもたらす行為を指す形容として、政治・思想の分野で使われる。
プロメテウスが司るもの
火・技術
人間に火を与え、数・文字・建築・医術・冶金を教えたとされる。
先見
名が「先に考える者」を意味する。未来を見通す力を持つ。
人類の守護
一貫して人間の側に立った。犠牲を払って助けた神。
プロメテウスが登場するゲーム・アニメ
「権威に逆らった者」の象徴として、近代以降とくに引用が増えました。ゲーテ、シェリー、マルクスがそれぞれこの神に言及しています。
原典では、ゼウスと和解して解放されることも重要です。反逆者として死んだのではありません。
プロメテウスが登場するゲーム
プロメテウスが登場するアニメ・漫画・映像
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プロメテウスについてよくある質問
プロメテウスは何の神様ですか。
ティタン神族の一柱で、人類に火と技術を与えた神です。名は「先に考える者」を意味します。
なぜ火を盗んだのですか。
供物の分け方でゼウスを欺いたため、罰として人間から火が取り上げられたからです。プロメテウスは茴香の茎に火を隠して盗み出し、人間に返しました。
プロメテウスの罰はどんなものですか。
カウカソス山の岩に鎖でつながれ、毎日鷲に肝臓を食われました。肝臓は夜のうちに再生するため、罰は終わりません。三万年続いたとも伝えられます。
プロメテウスは解放されたのですか。
されました。ヘラクレスが鷲を射落とし、ゼウスの許しを得て鎖を解いています。プロメテウスが隠していた秘密(テティスの子が父を超える)を明かしたためとも伝えられます。
パンドラの壺に残った「希望」とは何ですか。
原語エルピスは「希望」とも「予兆・先を見通す力」とも訳せます。希望だけが残ったのか、予知能力だけが人間に与えられなかったのか、二千年議論が続いています。
エピメテウスとはどんな関係ですか。
弟です。名は「後で考える者」を意味し、兄の警告を忘れてパンドラを受け取ってしまいました。名前がそのまま性格になっている兄弟です。
プロメテウスと併せて覚えたい言葉・用語
ティタノマキア(Titanomachia)
ゼウス率いるオリュンポスの神々と、クロノス率いるティタン神族の戦争。十年続き、解放されたキュクロプスとヘカトンケイルの加勢で決着した。
ティタン神族(ティタンしんぞく)
ウラノスとガイアの子である十二柱の神々。クロノスを王とし、ゼウスとの十年戦争に敗れてタルタロスへ落とされた。「タイタン」とも表記する。
トロイア戦争(トロイアせんそう)
ギリシャ軍とトロイアの十年に及ぶ戦争。パリスがスパルタ王妃ヘレネを連れ去ったことから始まった。ホメロス『イリアス』はその十年目を描く。