妊娠十か月目に呼ばれた産の女神。ノーナと対をなす。
デキマとは何の神様か
デキマはひとことで言えば妊娠の10か月目に呼ばれた産の女神です。
名は「10番目」を意味します。ノーナが9番目、デキマが10番目。二柱で一組の名です。
ローマでは、月を月の満ち欠けで数えました。
そのため、出産は10か月目にあたりました。日本語の十月十日という言い方も、同じ数え方から来ています。9か月目と10か月目という二つの月が、出産の時期として意識されていたわけです。
この女神が知られているのは、ゲッリウス『アッティカの夜』第3巻16章によります。パルカすなわち運命の三女神の古い形を、ノーナ・デキマ・モルタと伝える箇所です。
のちには糸の長さを測る役をあてられ、ギリシャの運命の女神ラケシスと重ねられました。
産の場面で呼ばれた名が、そのまま一生の長さを測る役に移されています。
独自の神殿も祭日も伝わっていません。
デキマのローマ名・ギリシャ名と読み方
日本語では「デキマ」「デーキマ」の表記が使われます。ラテン語の読みでは最初の音を長く読む形もあります。
名は、ラテン語で「10番目の」を意味する語です。数を表す言葉が、そのまま神の名になっています。
ノーナと同じ作りの名です。
十分の一税を意味する語も同じ系統で、ローマでは収穫の一部を神に納める習わしがありました。同じ語が、まったく別の場面で使われています。 名前が似ていても、神としてのつながりはありません。
ローマには、役目や数をそのまま名にした神が数多くいます。デキマはその代表格にあたります。
ノーナと対で呼ばれるのが決まりで、片方だけが出てくることはほとんどありません。
Decima(デキマ)
ラテン語の主格。同じ綴りの語が「10番目の」を意味する形容詞にあたる。
Nona Decima(ノーナ・デキマ)
ノーナと対で呼ぶ形。二柱はつねに並べて語られ、片方だけで出てくることが少ない。
Parca(パルカ)
運命の三女神の一柱に数えられたときの呼ばれ方。ゲッリウスがこの形で伝えている。
デキマの物語
10か月目の女神 ─ 太陰月で数えた出産
ローマでは、月を月の満ち欠けで数えました。一か月はおよそ29日半です。
この数え方だと、妊娠の期間は10か月にあたります。いまの暦で数える9か月よりも、一つ多くなります。
十月十日という日本語の言い方も、同じ数え方から来ています。
そのため、ローマ人にとって出産の時期は9か月目と10か月目でした。この二つの月に、それぞれ神の名が置かれています。
デキマは、その10か月目を担います。月が満ちて子が生まれる、そのときの女神です。
なぜ月ごとに神が要るのか。古代の出産は危険なもので、いつ生まれるかが母子の生死を分けました。7か月目に生まれた子は育つが、8か月目の子は育たないといった議論が、古代には真面目に交わされています。
ゲッリウスがこの二柱の名を引いたのも、まさにその議論を紹介する章のなかでした。
神の名は、当時の医学の関心とじかにつながっています。
ノーナとの対 ─ 二柱で一組
デキマは、ノーナとつねに並べて語られます。
9番目と10番目。対になる数が、そのまま対になる神の名になっています。
片方だけが出てくることは、ほとんどありません。
ローマの古い祭祀には、この形がいくつも見られます。名を対にして呼ぶこと、二柱で一つの働きを担うこと。リーベルとリーベラも同じ作りです。
対の神には利点があります。呼び落としを防げるのです。ローマの祈りでは、神の名を取り違えたり呼び忘れたりすることが恐れられました。対で呼べば、片方だけを落とす心配がありません。
一方で、対であることには不都合もあります。それぞれの個性が育ちません。
デキマについて、ノーナと区別される特徴はほとんど伝わっていません。担う月が違うというだけです。
二柱は、最後まで一組のまま残りました。 運命の三女神に組み込まれたときも、二柱そろって移されています。
なぜ独立したページにするのか ─ パルカとの関係
この図鑑では、デキマをパルカとは別のページとして立てています。理由を書いておきます。
第一に、もとが別の神だからです。デキマはギリシャの運命の女神の訳語ではありません。ローマの産の女神として、独立した名と役目を持っていました。
パルカのなかに埋めると、その出発点が消えます。
第二に、呼ばれた場面が違うからです。デキマは出産のときに呼ばれる名で、一生を司る神ではありませんでした。
第三に、組み替えを示す資料としての価値があるからです。糸の長さを測る役は、後からあてられたものです。もとの役目と、あてられた役目の両方を並べて見ることに意味があります。
なお、三柱目のモルタは独立したページにしていません。名がラテン語の「死」そのもので、ギリシャの三柱目の訳語という性格が強く、ローマ独自の祭祀が確かめられないためです。
分けるかどうかの基準は、ローマ側に固有の姿があるかどうかに置いています。
なぜ記録が少ないのか ─ 家のなかの神
デキマについて伝わることは、ごくわずかです。理由はノーナと共通します。
第一に、場面ごとの神だからです。出産のときに名を呼ばれる神は、神殿も祭日も持ちません。
呼ばれる場面が来たときにだけ、名が唱えられます。
第二に、家のなかの祭祀だからです。産の場に立ち会うのは女性たちで、公の暦や碑文に載る道筋がありませんでした。ローマの記録を書いたのは、ほとんどが男性の著述家です。
第三に、対の神だからです。ノーナと並べて書けば足りるため、デキマだけを詳しく書く必要がありませんでした。
第四に、組み替えられたからです。運命の女神として扱われるようになったあと、書き手はギリシャ側の名と物語を書けば済むようになりました。
それでも名が残ったのは、ゲッリウスが古い記録を引いたからです。
一つの章の数行が、この女神を今に伝えています。 記録の少なさは、信仰の薄さを意味しません。
デキマの家系図と家族
デキマの性格と人物像
デキマには、性格を語る材料がありません。
姿の描写も、物語も、像も伝わっていません。あるのは名と、その名が意味する数だけです。
10番目。それがこの女神のすべてです。
ノーナと区別される特徴も、担う月が違うという以外には見あたりません。二柱は一組として扱われ続けました。
研究のうえでは、この女神はローマの出産にかかわる信仰と、神々の組み替えという二つの主題で引かれます。とくに、糸の長さを測る役をあてられた点が注目されます。
月を数える女神が、一生の長さを測る女神になった。 数えるという働きは同じままで、対象が変わりました。
訳語をあてる作業が、どのように行われたのかが見える一柱です。 ローマ人は、手あたりしだいに名を借りたわけではありません。働きの似た神を選んで、あてはめていました。
デキマを祀った神殿と遺跡
デキマを祀った神殿も祭日も、伝わっていません。
これは資料が失われたためというより、そういう祀られ方をしなかったためとみられます。
出産の場で名を呼ばれる神には、建物が要りませんでした。
ローマの祭祀には、神殿と祭日を持つ神と、場面ごとに名を唱えられるだけの神があります。デキマは後者にあたります。
家のなかで行われた祭祀であり、公の暦や碑文に載る道筋がありませんでした。記録の残り方の違いであって、信じられていなかったわけではありません。
そのため、この節に挙げられる場所はありません。推し量って座標を書くことはしません。
名が今日まで伝わったのは、ゲッリウスが古い記録を引いて書き留めたおかげです。
デキマが現代に残した痕跡
デキマの名は、数を意味する言葉として残りました。
ゲッリウスの記録: アッティカの夜の第3巻16章に、古い運命の三柱の一柱として名が挙げられている。
十月十日: 妊娠の期間を10か月と数える言い方。月の満ち欠けで数えた古い数え方の名残にあたる。
ノーナとの対: 9番目と10番目という対の名が、ローマの神の作り方をよく表す例として引かれる。
糸の長さを測る役: 運命の三女神のうち、一生の長さを決める役をあてられたことが後の図像に受け継がれた。
デキマが司るもの
無事な出産
妊娠の10か月目に呼ばれ、月が満ちて子が生まれることを守るとされた。
時が満ちること
月を数え終える名を持ち、機が熟することに結びつけられた。
一生の長さ
のちに運命の三女神の一柱に数えられ、糸の長さを測る役をあてられた。
デキマが登場するゲーム・アニメ
デキマを主題にした作品は、ほとんどありません。
姿が伝わっていないため、描きようがないという事情があります。
運命の三女神を描いた作品では、ギリシャ側の名が使われることがほとんどです。糸の長さを測る女神として描かれる場合も、名はそちらで通ります。
近年、ローマの出産にかかわる信仰が取り上げられる場面が増え、その文脈で名が引かれるようになりました。暮らしの歴史のほうから知られていく神です。
デキマが登場するゲーム
神話を題材にしたカードゲーム
運命の三柱の一柱として名が使われることがあります。
古代を舞台にした育成ゲーム
出産や成長にかかわる神として扱われる例があります。
デキマが登場する古代の文学
アッティカの夜
古い運命の三柱の名を伝える、この女神のいちばん重要な資料です。
古代の医学書
妊娠の月数をめぐる議論のなかで、月ごとの神の名が引かれます。
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デキマについてよくある質問
デキマはどんな女神ですか。
名は「10番目」を意味し、妊娠の10か月目に呼ばれた産の女神です。ノーナと対をなします。のちに運命の三女神の一柱に数えられ、糸の長さを測る役をあてられました。
なぜ10か月目なのですか。
ローマでは月を月の満ち欠けで数えたため、妊娠の期間が10か月にあたったからです。日本語の十月十日という言い方も同じ数え方から来ています。9か月目にはノーナが呼ばれました。
パルカとどう違うのですか。
パルカは運命の三女神をまとめて呼ぶ名で、デキマはもともとローマの産の女神です。ギリシャの運命の女神が入ってきたとき、すでにあったノーナとデキマがその枠にはめ込まれました。
デキマの神殿はありますか。
伝わっていません。祭日もありません。出産の場で名を呼ばれる神であり、神殿を必要としない祀られ方でした。家のなかの祭祀は公の記録に残りにくいという事情もあります。