星と風の系譜の祖。名は雄羊を指し、春の星座に結ばれた。
クレイオスとは何の神様か
クレイオスのギリシャ名・ローマ名と読み方
古代ギリシャ語では Κρεῖος。日本語では「クレイオス」または「クレイオース」と書きます。
この名は、雄羊を意味するギリシャ語と音が近いところにあります。そこから牡羊座と結びつける読み方が生まれました。春に太陽がこの星座へ入ることが、一年の始まりの目印とされていたためです。
ただし注意が要ります。古代の天文書が「牡羊座はクレイオスである」と書いているわけではありません。名の音の近さから後世に立てられた読み方であり、確定した説明ではないことは押さえておく必要があります。
もう一つ、「支配する」を意味する語に結びつける説もあります。
紛らわしいのが、ムーサ?の一柱クレイオです。歴史を司る女神で、綴りも由来もこのティタンとは別のものです。
Κρεῖος(クレイオス)
古代ギリシャ語の表記。雄羊を意味する語に通じるとされるが、語源は確定していない。「支配する」を意味する語に結びつける説もある。
クレイオース(クレイオース)
長音を残した学術的な表記。
クリオス(クリオス)
雄羊を意味する語の読みに寄せた表記。星座の名としてはこの形が使われる。
クレイオスの物語
雄羊の名 ─ 牡羊座と一年の始まり
古代ギリシャの暦では、春分が一年の区切りでした。太陽がその位置に来るとき、背後にある星座が牡羊座です。
クレイオスの名は、雄羊を指す語と音が近いところにあります。そこから、この星座をティタンの名で読む立場が生まれました。
春に太陽が入る星座が、一年の初めを告げる。
星と暦の系譜を作った神の名が、暦の起点となる星座と重なる という筋書きは、確かによくできています。
ただし、これは後世の読み方です。牡羊座そのものについて、ギリシャ神話は別の説明を持っています。プリクソスとヘレを乗せて飛んだ金の毛の羊で、その毛皮を求めた航海がアルゴナウタイの物語になりました。この羊はクレイオスとは無関係です。
同じ星座に、由来の違う二つの話がぶら下がっている。 星座の名前の由来には、こうした重なりがしばしばあります。
三人の子 ─ 星・力・魔術へ分かれる
クレイオスとエウリュビアの間に生まれた三柱は、それぞれ別の方向へ伸びていきます。
アストライオスは暁の女神エオスを妻とし、四方の風と空のすべての星を生みました。北風ボレアス、西風ゼピュロス、南風ノトス。星の父母がこの夫婦になります。
パラスは冥界の川ステュクスを妻とし、四柱を生みました。
勝利ニケ、力クラトス、暴力ビア、競い心ゼロス。
この四柱はティタノマキアでゼウスの側に付き、以後ずっと最高神の傍らを離れませんでした。父はティタンの側で敗れ、孫はゼウスの側で勝っています。
ペルセスはアステリアとの間にヘカテをもうけました。魔術と交差路の女神です。
星、暴力、魔術。三つの系統が、事績を一つも持たない父から出ていることになります。
なぜ記録が少ないのか ─ 系譜の結び目としての神
クレイオスの物語が無い理由は、コイオスの場合とよく似ています。この神は結び目として置かれているからです。
ヘシオドス『神統記』は、ウラノスの側の血とポントスの側の血を、どこかで合流させる必要がありました。天から出たティタンと、海から出た女神。その接点にクレイオスとエウリュビアの結婚が置かれています。
結び目は、目立たないほうが仕事をします。 二つの系統をつなぐことが役目である以上、そこに独自の物語は要りません。
もう一つ、この神には名を呼ぶ理由が乏しいという事情があります。アストライオスもパラスもペルセスも、父の名を出さずに語れます。祭りの記録も、都市との縁も見つかりませんでした。
それでも名前は消えませんでした。ティタン十二柱の一つという枠が、この神の席を守っています。 枠があるかぎり、名前は残ります。
クレイオスの家系図と家族
クレイオスの性格と人物像
クレイオスの性格は、原典から読み取れません。
台詞も行いも無く、姿の描写もありません。妻と三人の子の名が書かれているだけです。
ただ一つ、周りの神々の顔ぶれから見えてくるものはあります。この家系は、動きの激しい神ばかりを出しています。
風は吹き荒れ、星は巡り、力と暴力は戦場に立ち、魔術は夜の道に立つ。静かな神が一柱もいません。
妻エウリュビアも、ヘシオドスが「鋼の心を胸に持つ」と形容した女神です。この一言以外に記述はありませんが、強い印象を残します。
夫婦そろって記述が乏しく、そろって子が激しい。書かれていないことが、かえって際立つ組み合わせです。
もっとも、これは並びから受ける印象であって、この神自身の性格ではありません。クレイオスについて確かなのは、名前と、妻と、三人の子だけです。 分からないことを埋めずにおきます。
クレイオスゆかりの地と遺跡
クレイオスを祀った神殿は確かめられませんでした。
この神には、独立した祭祀の記録がありません。都市との縁も、祭りの名も見つかりませんでした。地の底へ落とされたティタンに共通する形です。
ゆかりの地を挙げるとすれば、空のほうになります。名を結びつけられた牡羊座は、秋から冬の夜に南の空へ上がります。地上に場所を持たず、星座として指し示される神と言えます。
ただし、牡羊座とこの神を結ぶ古代の文献は確かめられませんでした。名の音が近いことから立てられた読み方であり、そこは正直に書いておく必要があります。
クレイオスが現代に残した痕跡
クレイオスの名は、星座をめぐる読み方と、三つに分かれた系譜に残りました。
牡羊座との結びつけ: 名が雄羊を意味する語に近いことから、この星座と結びつける読み方がある。古代の文献がそう書いているわけではない。
四方の風の祖父: 子アストライオスと暁の女神エオスの間に、北風・西風・南風が生まれた。風の系譜はこの神から二代目にあたる。
ゼウスの傍らに立つ四柱の祖父: 子パラスとステュクスの間に、勝利・力・暴力・競い心の四柱が生まれた。ゼウスの玉座を離れない神々である。
ムーサのクレイオとの混同: 歴史を司るムーサのクレイオと名が似ているため、事典でも取り違えが起こる。由来の違う別の存在である。
クレイオスが司るもの
星
子アストライオスは星々の父。星の系譜はこの神から出ている。
春
名を牡羊座に結びつける読み方があり、春分と一年の始まりに重ねられてきた。
時と暦
太陽が牡羊座へ入ることは、古代の暦で年の区切りとされた。
家畜の守り
名は雄羊を意味する語に通じる。群れを率いる雄羊は、古代の牧畜で特別に扱われた。
血筋をつなぐこと
天から出たティタンと海から出た女神をつなぐ結び目にあたる。
クレイオスが登場するゲーム・アニメ
この神が創作に出るとき、牡羊座との結びつけを手がかりにした造形が多くなります。原典に根拠は乏しく、名の音から生まれた読み方が広がった形です。
名前しか残っていない神ほど、後の時代に自由に描かれる という傾向があります。クレイオスはその典型で、作品ごとに人物像が大きく違います。
クレイオスが登場する絵画・彫刻
ティタノマキアの図像
落ちるティタンの一人として描かれます。名を特定できる作品は確かめられませんでした。
星座図の牡羊
近世の星図に描かれた雄羊の姿。この神と結びつけて描いたものかどうかは確かめられませんでした。
クレイオスが登場するゲーム・創作
ギリシャ神話を題材にした作品
ティタンの一人として名が挙がります。星や暦に関わる役を与えられることがあります。
星座を扱う作品
牡羊座と結びつけた設定で名が使われることがあります。
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クレイオスについてよくある質問
クレイオスはどんな神ですか。
ウラノスとガイアの子で、ティタン神族の一柱です。海の女神エウリュビアを妻とし、アストライオス・パラス・ペルセスの三柱をもうけました。本人の事績は原典に書かれていません。
クレイオスは牡羊座のことですか。
そう読む立場がありますが、確定した説明ではありません。名が雄羊を意味する語に近いことから生まれた読み方で、古代の文献がはっきり書いているわけではありません。牡羊座そのものには、金の毛の羊という別の由来があります。
クレイオスの子は誰ですか。
星と風の父アストライオス、力の神々の父パラス、ヘカテの父ペルセスの三柱です。星・暴力・魔術という別々の系統が、この三人から枝分かれしていきます。
ムーサのクレイオと同じですか。
別の存在です。クレイオは歴史を司るムーサ九柱の一人で、綴りも由来もこのティタンとは異なります。名が似ているため、事典でも取り違えが起こります。
クレイオスを祀った神殿はありますか。
確かめられませんでした。都市との縁も祭りの名も見つかっていません。地の底へ落とされたティタンには、まとまった祭祀の記録が残っていないのが通例です。
クレイオスと併せて覚えたい言葉・用語
ティタノマキア(Titanomachia)
ゼウス率いるオリュンポスの神々と、クロノス率いるティタン神族の戦争。十年続き、解放されたキュクロプスとヘカトンケイルの加勢で決着した。
ムーサ(Μοῦσαι)
学問と芸術を司る九人の女神。英語ではミューズ。museum(ムーサの神域)と music(ムーサの技)の語源。