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ギリシャ神話

アステリアとは何の神様か|家系図・物語

Ἀστερία  / アステリア

ティタン神族

ゼウスから逃げ、鶉となって海に落ち、島そのものになった女神。

アステリアとは何の神様か

アステリアはひとことで言えば逃げ切って島になった女神です。

コイオスポイベの娘で、レトの姉妹。名は「星の女」を意味します。

ゼウスに求められ、この女神は応じませんでした。鶉に姿を変えて海へ身を投げます。

落ちた場所は漂う岩となり、のちにデロス島と呼ばれました。

そして、その島に、同じくゼウスの子を宿して追われた妹レトが降り立ち、アポロンアルテミスを産みます。

逃げた姉が、逃げた妹の産所になりました。

それ以前に、ティタンのペルセスとの間にヘカテを生んでいます。冥界と魔術の女神の母にあたります。

ゼウスの求めを退けて逃げ切った例は、ギリシャ神話にほとんどありません。ただしその代償に、人の姿を失っています。

アステリアのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Ἀστερία。日本語では「アステリア」または「アステリアー」と書きます。

名は星を意味する語から作られており、「星の女」を指します。父コイオスの家系には星に関わる名が見当たらず、この名がどこから来たのかは分かっていません。

重要なのは、この女神が二つの島の名と重なっていることです。

鶉となって落ちたことから、その島はオルテュギア(鶉の島)と呼ばれました。のちに岩が固定されて姿を現したとき、デロス(はっきり現れたもの)と呼ばれるようになります。名前の変化が、そのまま島の成り立ちを語っています。

紛らわしいのは、シチリア島のシラクサにもオルテュギアという地名があることです。同じ名ですが、こちらはアレトゥーサの泉で知られる別の場所です。

宝石に星形の光が浮かぶ現象を指す言葉も、この語から出ています。

Ἀστερία(アステリア)

古代ギリシャ語の表記。星を意味する語から作られた名で、「星の女」の意。

アステリアー(アステリアー)

長音を残した学術的な表記。

オルテュギア(オルテュギア)

「鶉の島」を意味する古い島の名。デロス島の別名として使われ、この女神が鶉となって落ちた由来と結びつけられる。

デロス(デロス)

「はっきり現れた」を意味する名。漂っていた岩が固定され、目に見える島になったことを指すとされる。

アステリアの物語

  1. 鶉になって落ちる ─ 逃げ切った数少ない女神
  2. 島になる ─ 漂う岩オルテュギア
  3. ヘカテの母 ─ 夜の系譜
  4. 姉妹の対 ─ 逃げた姉と追われた妹

鶉になって落ちる ─ 逃げ切った数少ない女神

アポロドーロス『ギリシャ神話』第1巻は、短くこう書きます。

アステリアは鶉の姿になってゼウスから逃れ、 身を海に投げた。 かつてこの島はアステリアと呼ばれた。

これだけです。ゼウスがどう迫り、女神がどう断ったのかは書かれていません。

しかし、この短い一段の意味は小さくありません。ギリシャ神話で、ゼウスの求めを退けて逃げ切った例はほとんどないからです。

ダプネは月桂樹になった。 カリストは熊にされた。 シュリンクスは葦になった。

逃げ切るには、人の姿を捨てるしかありませんでした。

アステリアも同じです。鶉になり、海に落ち、島になりました。逃げ切ってはいますが、女神の姿には戻っていません。

なお、ゼウスではなくポセイドンから逃げたとする伝えもあります。追った神の名は原典によって揺れますが、逃げて島になったという筋は共通しています。

島になる ─ 漂う岩オルテュギア

落ちた場所にできたのは、根を持たない岩でした。海の上を漂い、大地に数えられません。

この島は、はじめオルテュギアと呼ばれました。鶉の島という意味です。落ちた姿がそのまま名前になりました。

漂っていることには、のちに大きな意味が生まれます。ヘラが「日の当たる土地はレトを受け入れるな」と命じたとき、この岩だけが命令の外にいたからです。

根の無い岩は、土地ではない。

レトを受け入れたあと、島は海底から立ち上がった柱で固定され、漂うのをやめました。そのときデロス、すなわち「はっきり現れたもの」と呼ばれるようになったとされます。

姉が海に落ちてできた岩が、妹の産所になり、ギリシャ最大の聖地の一つになりました。

この島は後の時代、生まれることも死ぬことも禁じられる特別な場所になります。産気づいた者と重い病人は、隣の島へ移されました。

ヘカテの母 ─ 夜の系譜

島になる前、アステリアはティタンのペルセスと結ばれ、一柱の娘を生んでいます。ヘカテです。

ヘシオドス『神統記』は、この女神に異例の長さを割きました。ティタンの側の血でありながら、ゼウスは特権を取り上げなかったと書きます。

天と地と海の三つにわたって、 ゼウスはこの女神に分け前を残した。

ヘカテは三叉路に立ち、松明を持ち、魔術と夜を司ります。姉レトの子が光の側へ、姉妹アステリアの子が夜の側へ分かれました。

同じ祖父母から、アポロン・アルテミスとヘカテが出ています。弓の二柱と松明の一柱です。

この分かれ方には、母たちの結末が重なって見えます。レトは追われて産み、オリュンポスの母になりました。アステリアは逃げて姿を失い、夜の女神の母になりました。

受け入れた側と、拒んだ側。 二人の姉妹の道は、子の代までまっすぐ続いています。

姉妹の対 ─ 逃げた姉と追われた妹

アステリアとレトの物語は、同じ形をなぞりながら反対の結末に向かいます。

二柱ともゼウスに求められました。姉は断り、妹は受け入れました。

二柱とも居場所を失いました。姉は身を投げ、妹は大地から締め出されました。

姉は場所そのものになり、 妹はその場所に迎え入れられた。

拒んだ女神が土地になり、受け入れた女神がそこで産む。 この対比は偶然の産物ではなく、デロス島の由来を語るために組み立てられたものだと考えられます。

ギリシャの島には、たいてい成り立ちの物語があります。神が投げた岩、怪物の死体、逃げた女神。デロスの場合はこの三つ目にあたります。

そして、この島がギリシャ世界の中心の一つになったことで、アステリアの名も残りました。事績は一つしかありませんが、その一つが土地そのものになっています。

姿を失う代わりに、消えない場所を得た女神と言えます。

アステリアの家系図と家族

アステリアの親: コイオスデロス島になった娘アステリアの父

アステリアの妻・夫: ペルセスティタンのペルセスと結ばれた

アステリアの子・子孫: ヘカテー魔術と交差路の女神ヘカテの母

アステリアの性格と人物像

アステリアについて分かっているのは、一度だけ、はっきり断ったことです。

台詞は伝わっていません。断る理由も書かれていません。ただ姿を変えて逃げ、海に落ちたと書かれるだけです。

それでも、この一つの行いは重い意味を持ちます。ギリシャ神話で、最高神の求めを退けて捕まらなかった女神は、ほとんどいません。

ダプネは月桂樹になり、カリストは熊にされ、レトは追われ続けました。逃げ切ったと言えるのはアステリアだけです。ただし、その代償に人の姿を失っています。

もう一つ目を引くのは、この女神が誰かを恨んでいないことです。ゼウスへの呪いも、ヘラへの訴えもありません。落ちたあとの島は、追ってきた神の子を産む場所になります。

拒んだ相手の子を、自分の体の上で産ませている。

断ることと、拒み続けることは別だ。 そう読める形になっています。原典は何の説明も付けていませんが、この落差はこの女神の物語のいちばん静かな部分です。

アステリアゆかりの地と遺跡

アステリアを祀った神殿は確かめられませんでした。

この女神には、独立した祭祀の記録がありません。理由ははっきりしています。この女神自身が場所になったからです。 祀る対象ではなく、祀りが行われる土地の側に回りました。

もっとも深いゆかりの地はデロス島です。エーゲ海のキクラデス諸島にあり、アポロンの聖域として古代ギリシャ世界の中心の一つでした。島全体が遺跡として世界遺産に登録されています。

ただし、島にアステリアの名を持つ建物があったかどうかは確かめられませんでした。神殿はアポロンとレトのもので、この女神の名は島の来歴のなかにあります。

祀られた形跡が無いことと、忘れられたことは別です。島の名の由来として、この女神の名は残り続けました。

アステリアが現代に残した痕跡

アステリアの名は、島の名の由来と、星形の光を指す言葉として残りました。

デロス島の由来: この女神が鶉となって落ちた場所が島になったとされる。かつてアステリア、次にオルテュギア、のちにデロスと呼ばれた。

宝石の星形の光を指す言葉: 球面に磨いた宝石の表面に、星形の光が浮かんで見える現象がある。この光を指す言葉は、星を意味する同じ語から作られている。

ヘカテの母としての位置: 魔術と交差路の女神ヘカテの母にあたる。アポロン・アルテミスとは従兄妹の関係になる。

オルテュギアという地名: 「鶉の島」を意味するこの名は、シチリア島のシラクサにも残る。ただしそちらはアレトゥーサの泉で知られる別の場所である。

アステリアが司るもの

名は「星の女」を意味する。父の家系に星の名は他になく、由来は分かっていない。

逃れる者の守り

ゼウスの求めを退けて逃げ切った、ギリシャ神話でほとんど例の無い女神。

変化

鶉に姿を変え、さらに島になった。二段階の変身を経ている。

土地の由来

この女神が落ちた場所がデロス島になったとされる。島の成り立ちそのものを担う。

後世の伝えでは、夜と夢に関わる神格として語られることがある。

アステリアが登場するゲーム・アニメ

創作でのアステリアは、星の女神として描かれることが多いのですが、原典にその記述はありません。 名前の意味だけが手がかりになっています。

原典に沿って描くなら、鶉となって逃げ、島になった女神です。姿を失う変身譚として扱われることは少なく、名前の響きから作られた造形のほうが広く出回っています。

アステリアが登場する絵画・彫刻

ゼウスの求愛を描いた図像

鳥に変わって逃げる女神を描いた作品がありますが、この女神と特定できるものは確かめられませんでした。

デロス島の遺跡

島そのものがこの女神の物語の痕跡にあたります。アポロンの聖域と聖なる池が残ります。

アステリアが登場するゲーム・創作

ギリシャ神話を題材にした作品

レトの姉妹、ヘカテの母として名が挙がります。星に関わる役を与えられることがあります。

名前として使われる例

星を意味する響きから、人名や作品名として使われることがあります。

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アステリアについてよくある質問

アステリアはどんな神ですか。

コイオスとポイベの娘で、レトの姉妹にあたります。名は「星の女」を意味します。ゼウスに求められて鶉に姿を変えて逃げ、海に身を投げてデロス島になったと伝えられます。

アステリアとデロス島はどんな関係ですか。

この女神が落ちた場所が漂う岩となり、のちにデロス島になったとされます。はじめアステリア、次に鶉の島を意味するオルテュギア、そして固定されたのちデロスと呼ばれました。

レトとはどんな関係ですか。

姉妹です。二柱ともゼウスに求められましたが、アステリアは拒んで島になり、レトは受け入れて追われました。そのレトが、姉の体である島でアポロンとアルテミスを産みます。

ヘカテの母というのは本当ですか。

ヘシオドス『神統記』がそう書いています。ティタンのペルセスとの間に生まれた娘がヘカテで、ゼウスはこの女神からだけは特権を取り上げなかったと記されています。

アステリアを祀った神殿はありますか。

確かめられませんでした。この女神自身が島になったため、祀る対象ではなく祀りが行われる土地の側に回っています。デロス島の神殿はアポロンとレトのものです。