ヘカテの父。名は「破壊する者」。事績は一つも伝わらない。
ペルセスとは何の神様か
ペルセスはひとことで言えば娘だけが残った神です。
クレイオスとエウリュビアの子。ヘシオドス『神統記』は、この神について一言だけ形容を添えています。
すべての者のなかで、知恵において傑出していた。
それ以外に記述はありません。台詞も、行いも、争いもありません。
アステリアとの間に、冥界と魔術の女神ヘカテをもうけました。『神統記』はヘカテに異例の長さを割いており、その父としてこの神の名が残っています。
名は「破壊する」を意味する語に由来します。ところが原典では、この神が何かを壊した場面は一つもありません。名前と性格が結びつかない珍しい例です。
同じ名を持つ別の人物が神話に複数おり、混同が起きやすい神でもあります。
ペルセスのギリシャ名・ローマ名と読み方
古代ギリシャ語では Πέρσης。日本語では「ペルセス」または「ペルセース」と書きます。
名は「破壊する」「略奪する」を意味する語に由来するとされます。ところがこの神には、何かを壊した記録がありません。ヘシオドスが添えた形容は「知恵において傑出していた」で、名の意味とは逆の方向を向いています。
この名で気をつけたいのは、同じ名の別人が複数いることです。
英雄ペルセウスとアンドロメダの子ペルセス。 ヘシオドス『仕事と日』で詩人が呼びかける弟ペルセス。 コルキス王アイエテスの兄弟ペルセス。
いずれもこのティタンとは別の存在で、血のつながりもありません。事典でも取り違えが起こる箇所です。
娘ヘカテは、父の名から作られたペルサイアという添え名で呼ばれることがあります。
Πέρσης(ペルセス)
古代ギリシャ語の表記。「破壊する」「略奪する」を意味する語に由来するとされる。
ペルセース(ペルセース)
長音を残した学術的な表記。
ペルサイオス(ペルサイオス)
ヘカテの添え名「ペルサイア」の元になる形。父の名から作られた呼び名で、詩のなかでヘカテを指すときに使われる。
ペルセスの物語
知恵に傑出した者 ─ 一行だけの記述
ヘシオドス『神統記』で、クレイオスとエウリュビアの子が並べられる場面があります。
エウリュビアはアストライオスとパラスを産み、 またペルセスを産んだ。 この者はすべての者のなかで、知恵において傑出していた。
この一行がすべてです。 以後、この神が何かをする場面はありません。
形容が付いているだけ、他のティタンよりは恵まれています。イアペトスにもコイオスにも、詩人は何も添えませんでした。
ただし、その内容が問題です。「破壊する者」という名を持つ神に、「知恵に傑出した」という形容が付いています。 噛み合っていません。
古代の注釈者もこの食い違いを扱いましたが、決着した説明は残っていません。名前のほうが古く、形容が後から付いたという読み方もあります。
分かるのは、詩人がこの神を頭の働く神として置いたということだけです。そしてその知恵がどう使われたかは、一度も書かれていません。
ヘカテの父 ─ 特権を奪われなかった娘
ペルセスはアステリアと結ばれ、ヘカテをもうけました。
『神統記』のなかで、ヘカテに割かれた部分は異例の長さです。四十行以上にわたって、この女神の力が数え上げられます。
ゼウスは彼女から何も取り上げなかった。 天と地と海の三つにわたって、分け前を与え続けた。
ティタン神族?の血でありながら、罰を受けなかった。それどころか特権を保ったままオリュンポスの体制に組み込まれた。これはティタンの子として、まったく例外的な扱いです。
父ペルセスがどうなったかは書かれていません。地の底へ落とされたとも、残ったとも記されていません。
ヘカテは父の名から作られたペルサイアという添え名で呼ばれることがあります。父の名は、娘を指す言葉として生き残りました。
娘の記述が長く、父の記述が一行。 この落差自体が、この神の位置を示しています。
同じ名の別人たち ─ 混同を解く
ギリシャ神話には、ペルセスという名の人物が複数います。取り違えが起こりやすいので、整理しておきます。
一人目は、このティタンです。クレイオスとエウリュビアの子で、ヘカテの父にあたります。
二人目は、英雄ペルセウスとアンドロメダの子です。歴史家ヘロドトスは、ペルシャ人がこの人物の名から出たと記しました。
三人目は、詩人ヘシオドスの弟です。『仕事と日』は、遺産をめぐって争ったこの弟に呼びかける形で書かれています。ヘシオドスは弟に「働け」と説き続けます。
四人目は、コルキスの王アイエテスの兄弟です。姪メデイアに関わる伝えに出てきます。
名が同じでも、血はつながっていない。
神話の人名は使い回されるため、同名は珍しくありません。 ペルセスの場合、四人がそれぞれ別の物語に属しています。
ティタンのペルセスを指すときは、「ヘカテの父」と添えるのが確実です。
なぜ記録が少ないのか ─ 父の欄を埋める神
この神の記録が乏しい理由は、系譜の作りを見ると分かります。
ヘカテは、ヘシオドスが特別に扱った女神です。長い讃美の一段があり、天と地と海にわたる力が数え上げられます。その女神に、父と母が必要でした。
母アステリアは、デロス島の由来を担う女神として別の物語を持っています。ところが父の側には、埋めるべき神がいませんでした。
そこに置かれたのがペルセスです。名前と、一行の形容だけを持って現れます。
こうした「欄を埋める神」は、ティタンの世代に多く見られます。コイオスもクレイオスも同じ役目を負っています。
ただしペルセスには、他と違う点が一つあります。形容が付いていることです。 詩人はこの神を「知恵に傑出した」と書きました。埋めるだけなら、その一言は要りません。
何か伝えがあったのかもしれません。あったとしても、残りませんでした。 そう書いておくのが正確です。
ペルセスの家系図と家族
ペルセスの性格と人物像
ペルセスの性格を語れる材料は、ヘシオドスの一行だけです。
すべての者のなかで、知恵において傑出していた。
この形容がどこから来たのかは分かりません。何をして知恵者とされたのか、原典は一つも例を挙げていません。
名は「破壊する者」、形容は「知恵に傑出した者」。 一柱の神のなかで、この二つが噛み合わないまま残されています。
古代の注釈者もこの食い違いを扱いましたが、決着した説明はありません。
娘ヘカテを見ると、少しだけ手がかりがあります。魔術と交差路の女神で、力の性質は知恵に近く、しかし夜と死に隣り合っています。壊す力と、知る力を併せ持つ神格です。
父の名と形容が、そのまま娘に分けて渡されたようにも読めます。ただしこれは後世の読み方で、原典に書かれてはいません。
この神について確かなのは、名前と、両親と、妻と、娘と、一行の形容だけです。 それ以上を書くと、推測になります。
ペルセスゆかりの地と遺跡
ペルセスを祀った神殿は確かめられませんでした。
この神には独立した祭祀の記録がありません。都市との縁も、祭りの名も見つかりませんでした。
ゆかりの地を挙げるとすれば、娘ヘカテに関わる場所になります。三叉路、家の戸口、月の無い夜の道。ヘカテは神殿よりも、道の分かれ目や境目に祀られた女神でした。
古代ギリシャでは、月の終わりに三叉路へ食べ物を置く習わしがあり、これはヘカテへの供えとされました。父の名で呼ばれる場所は、その周辺にも見つかりません。
祀られていないことを、そのまま書いておきます。 名前しか残っていない神に、無理に場所を結びつける必要はありません。
ペルセスが現代に残した痕跡
ペルセスの名は、娘ヘカテの添え名として残りました。
ヘカテの添え名ペルサイア: 父の名から作られた呼び名。詩のなかでヘカテを指すときに使われる。父の名は娘を指す言葉として生き残った。
同名の人物との混同: 英雄ペルセウスの子、ヘシオドスの弟、コルキス王の兄弟にも同じ名がある。いずれもこのティタンとは別の存在で、事典でも取り違えが起こる。
名と形容の食い違い: 名は「破壊する者」を意味するが、ヘシオドスは「知恵に傑出した」と形容する。この食い違いは決着していない。
三柱の兄弟: 星の父アストライオス、力の神々の父パラスと兄弟にあたる。星・暴力・魔術がこの三人から分かれた。
ペルセスが司るもの
知恵
ヘシオドスは「すべての者のなかで知恵において傑出していた」と記す。
魔術
娘ヘカテは魔術と交差路の女神。父の名から作られた添え名で呼ばれることがある。
闇
娘を通じて夜と冥界の系譜につながる。
災いを退ける力
名は「破壊する」を意味する語に由来する。ただし何かを壊した記録は残っていない。
血筋をつなぐこと
クレイオスとエウリュビアの子で、ヘカテの父。系譜の要としてだけ名が残る。
ペルセスが登場するゲーム・アニメ
この神が創作に出るとき、名前の意味だけを手がかりにした造形になります。「破壊する者」という語感から、荒々しい神として描かれることが多くなっています。
原典の形容は「知恵に傑出した」であり、破壊の場面は一つもありません。 名前が独り歩きした例と言えます。
また、英雄ペルセウスや同名の人物と混ぜた設定も見かけます。血のつながりはありません。
ペルセスが登場する絵画・彫刻
ヘカテの図像
三つの体を持つ姿で表されるヘカテの像は数多く残りますが、父を描いた作品は確かめられませんでした。
ティタノマキアの図像
ティタンの群れの一人として描かれることがあります。名の特定はできません。
ペルセスが登場するゲーム・創作
ギリシャ神話を題材にした作品
ヘカテの父として名が挙がります。破壊を司る役を与えられることがあります。
同名の人物との取り違え
ペルセウスやペルシャ王家に結びつけた設定が見られますが、原典では別の存在です。
Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。
ペルセスについてよくある質問
ペルセスはどんな神ですか。
クレイオスとエウリュビアの子で、ティタン神族の一柱です。アステリアとの間に魔術の女神ヘカテをもうけました。ヘシオドスは「すべての者のなかで知恵において傑出していた」と記していますが、それ以外の記述はありません。
名前の意味と性格が合わないのはなぜですか。
名は「破壊する」を意味する語に由来しますが、ヘシオドスの形容は「知恵に傑出した」です。この食い違いは古代から扱われてきましたが、決着した説明は残っていません。
英雄ペルセウスと関係がありますか。
ありません。ペルセウスとアンドロメダの子にペルセスという名の人物がいますが、このティタンとは別の存在で血のつながりもありません。ヘシオドスの弟にも同じ名の人物がいます。
ヘカテはなぜ罰せられなかったのですか。
原典は理由を書きません。ヘシオドス『神統記』は、ゼウスがこの女神から何も取り上げず、天と地と海の三つにわたって分け前を与え続けたと記しています。ティタンの子としては例外的な扱いです。
ペルセスを祀った神殿はありますか。
確かめられませんでした。都市との縁も祭りの名も見つかっていません。ゆかりの地として挙げられるのは、娘ヘカテが祀られた三叉路や戸口など、いずれも娘に結びついた場所です。
ペルセスと併せて覚えたい言葉・用語
ティタン神族(ティタンしんぞく)
ウラノスとガイアの子である十二柱の神々。クロノスを王とし、ゼウスとの十年戦争に敗れてタルタロスへ落とされた。「タイタン」とも表記する。