星と風の父。暁の女神エオスとの間に、四方の風と星々を生んだ。
アストライオスとは何の神様か
アストライオスはひとことで言えば星と風の父です。
クレイオスとエウリュビアの子で、名は「星の男」を意味します。
暁の女神エオスを妻とし、次の子らを生みました。
北風ボレアス、西風ゼピュロス、南風ノトス。 そして、天に輝くすべての星。
夜明けと星の父母が夫婦である という組み合わせは、朝が来ると星が消える光景を、そのまま神話にしたものです。
明けの明星ポスポロスも、この夫婦の子とされます。夜明けの直前に東の空へ上がる星で、母エオスの先ぶれにあたります。
この神自身が動く場面は、原典にありません。四方の風アネモイの父として、名を呼ばれるだけです。
ティタン神族?の一柱に数えられますが、地の底へ落とされたという記述も見当たりません。
アストライオスのギリシャ名・ローマ名と読み方
古代ギリシャ語では Ἀστραῖος。日本語では「アストライオス」または「アストライオース」と書きます。
名は星を意味する語から作られています。同じ語根を持つ神が神話に複数おり、区別が要ります。
星の女アステリア。 正義の女神アストライア。 そしてこの星の男アストライオス。
三柱とも「星」の語を共有しますが、系譜も物語も別々です。
アストライアは正義の女神で、人の世を見限って天に上り、乙女座になったと伝えられます。アステリアはこの神の兄弟ペルセスの妻で、デロス島になった女神です。
星を意味するこの語根は、現代の言葉にも数多く残りました。天文に関わる語、宇宙に関わる語の多くが、ここから作られています。
Ἀστραῖος(アストライオス)
古代ギリシャ語の表記。星を意味する語から作られた名で、「星の男」の意。
アストライオース(アストライオース)
長音を残した学術的な表記。
アストラエウス(アストラエウス)
ラテン語読みに近い形。西欧の文献ではこの形で記されることがある。
アストライオスの物語
暁と星の夫婦 ─ 朝が来ると星が消える
ヘシオドス『神統記』は、この夫婦の子を並べます。
エオスはアストライオスに、心強い風たちを産んだ。 澄み渡らせるゼピュロス、速く走るボレアス、ノトス。 そして明けの明星と、天を飾るすべての星を産んだ。
暁の女神と星の男。 この組み合わせには、はっきりした理屈があります。
夜のあいだ星が輝き、明け方が近づくと一つずつ消えていきます。最後に残るのが明けの明星で、それも日の出とともに見えなくなります。
星が消える瞬間に、暁が来る。この交替を、夫婦として神話にしています。
風が同じ夫婦から生まれることにも理由があります。古代の人にとって、風は方角と結びついたものでした。そして方角を知る手立ては、星と日の出です。
星と風と夜明けは、方角という一つの事柄でつながっています。 この家族構成は、その理解を映しています。
四方の風 ─ 生まれた子ら
ヘシオドスが挙げる風は三柱です。
ボレアスは北風。冷たく激しく吹き、トラキアの方角から来るとされました。アテナイの娘オレイテュイアをさらって妻にした話が伝わります。
ゼピュロスは西風。春に吹く穏やかな風で、花を開かせる風とされました。ただし気性は穏やかとは限らず、円盤の向きを変えてヒュアキントスを死なせた話もあります。
ノトスは南風。湿った重い風で、夏の終わりに嵐を運びます。
東風エウロスは、ヘシオドスの並びに入っていません。後の時代に加えられ、四方がそろいました。
良い風はこの三柱から出る。 残りの風は、テュポンから出る荒れた風である。
ヘシオドスは、風を二種類に分けました。 方角を持つ風は神の子で、方角を持たない突風は怪物の子です。
船を出す人にとって、この区別は生死に関わるものでした。
明けの明星 ─ 一つの星に二つの名
この夫婦の子には、ポスポロス(光をもたらす者)がいます。夜明け前の東の空に上がる星です。
この星には、もう一つの名がありました。夕方の西の空に見えるときのヘスペロス(宵の星)です。
朝に東へ出る星と、夕に西へ沈む星。 長いあいだ、別々の星だと考えられていた。
同じ一つの星だと気づいたのは、古代ギリシャの天文学者たちでした。 この発見は、後の哲学でもたびたび引き合いに出されます。名前が二つあっても、指しているものは一つだという例としてです。
いま金星と呼ばれるこの星は、ローマでは美の女神の名で呼ばれました。日本語の「明けの明星」「宵の明星」という言い方は、ギリシャの二つの名とちょうど同じ構造をしています。
アストライオスとエオスの子として、この星は夜と朝の境目に置かれました。父の側の星であり、母の側の先ぶれでもあります。
なぜ本人の場面が無いのか ─ 生む側の神
アストライオス本人が動く場面は、原典に一つもありません。
理由は、この神の位置にあります。風も星も、子のほうがそれぞれ独立した神だからです。
ボレアスは娘をさらい、ゼピュロスは花を開かせ、明けの明星は空を渡ります。子たちがそれぞれ働いているので、父が出ていく場面がありません。
もう一つ、この神には司る対象が無いという事情があります。ヒュペリオンには太陽の道があり、オケアノスには大洋があります。アストライオスにあるのは「星の男」という名だけで、星そのものではありません。星は子のほうです。
ティタン神族に数えられますが、ティタノマキア?で戦った記録も、地の底へ落とされた記録もありません。戦いの場面から名前が抜けています。
妻エオスがオリュンポスの側の女神であることが関わっているのかもしれませんが、原典は何も説明していません。分からないままにしておきます。
アストライオスの家系図と家族
アストライオスの性格と人物像
アストライオスには、性格を語る材料がありません。
台詞はありません。行いもありません。怒りも恋も書かれていません。分かるのは、クレイオスとエウリュビアの子であること、エオスを妻としたこと、風と星を生んだことだけです。
それでも、この神には一つ目を引く点があります。罰を受けていないことです。
ティタン神族の男神の多くは、地の底へ落とされました。イアペトスもコイオスもクレイオスも同じです。ところがアストライオスには、その記録がありません。戦った記録も、落とされた記録も、残った記録も無い。名簿から抜け落ちたような位置にいます。
妻エオスは、太陽の姉妹で、オリュンポスの側に数えられる女神です。ティタンの男神とオリュンポス側の女神という組み合わせは、レトとゼウスの関係にも似ています。
争いに関わらなかった神は、記録にも残らない。 この神の場合、それが徹底しています。
静かな神ですが、その静けさが記録の空白と重なっているだけかもしれません。そこは分かっていません。
アストライオスゆかりの地と遺跡
アストライオスを祀った神殿は確かめられませんでした。
この神には独立した祭祀の記録がありません。ティタン神族の多くと同じで、系譜のなかにだけ位置を持つ神です。
一方、子である風の神々には祭祀がありました。北風ボレアスはアテナイで祀られ、ペルシャの艦隊を嵐で散らしたとして感謝の祭壇が築かれたと伝えられます。父ではなく、子が祀られています。
アテネの市街には、八方の風を彫った塔が残っています。八つの面にそれぞれの風の姿が浮き彫りにされた建物で、風を方角として捉えたギリシャの考え方をよく示しています。
ただし、そこに父の名はありません。この神の名で呼ばれる場所は、見つかりませんでした。
アストライオスが現代に残した痕跡
アストライオスの名は、星を意味する語根として現代の言葉に残りました。
星を意味する語根: この名の元になった語は、天文や宇宙に関わる現代語のなかに数多く残っている。星に関する言葉の多くがこの語根から作られている。
四方の風の父: 北風・西風・南風の父。東風は後の時代に加えられ、四方がそろった。方角を持つ風は良い風とされた。
明けの明星と宵の明星: 子ポスポロスは夜明け前の星、ヘスペロスは夕方の星とされ、長く別の星だと考えられていた。同じ星だと分かったのは古代の天文学者による。
同じ語根を持つ神々: アステリア、アストライアと語根を共有する。三柱とも星に関わる名を持つが、系譜も物語も別である。
アストライオスが司るもの
星
天に輝くすべての星を、暁の女神エオスとの間に生んだ。
風
北風ボレアス、西風ゼピュロス、南風ノトスの父。方角を持つ風はこの神から出ている。
夜明け
妻は暁の女神エオス。星が消える瞬間と夜明けの交替を、夫婦として表している。
天文
名は「星の男」を意味する。星を数え、名づける営みに結びつけられる。
航海
古代の航海は星と風を頼りにした。その両方がこの神の子にあたる。
アストライオスが登場するゲーム・アニメ
創作でのアストライオスは、星空そのものを司る神として描かれることが多くなっています。原典では星を生んだ父であって、星を動かす神ではありません。
生む側と司る側の区別は、後の作品ではあまり保たれていません。 名前の意味が分かりやすいため、設定を作りやすい神でもあります。
アストライオスが登場する絵画・彫刻
風の塔の浮き彫り
アテネに残る塔の八面に、それぞれの風の姿が彫られています。子である風の神々の図像にあたります。
暁の女神を描いた図像
妻エオスが馬車で空を渡る場面は多く描かれますが、夫を伴う作品は確かめられませんでした。
アストライオスが登場するゲーム・創作
ギリシャ神話を題材にした作品
風と星の父として名が挙がります。星空を司る役を与えられることがあります。
星や天体を扱う作品
名前の響きから、星に関わる登場人物や施設の名として使われます。
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アストライオスについてよくある質問
アストライオスはどんな神ですか。
クレイオスとエウリュビアの子で、名は「星の男」を意味します。暁の女神エオスを妻とし、北風・西風・南風と、天に輝くすべての星を生みました。本人が動く場面は原典にありません。
なぜ暁の女神と夫婦なのですか。
夜明けが近づくと星が一つずつ消えていくためです。星と暁の交替を夫婦の関係として表しています。また、風の方角を知る手立てが星と日の出であることも関わっています。
生まれた風は何柱ですか。
ヘシオドスが挙げるのは北風ボレアス、西風ゼピュロス、南風ノトスの三柱です。東風エウロスは後の時代に加えられて四方がそろいました。方角を持たない突風は、怪物テュポンの子とされます。
明けの明星との関係は何ですか。
明けの明星ポスポロスは、この夫婦の子とされます。夕方に見えるヘスペロスと同じ星だと分かったのは古代の天文学者によるもので、いま金星と呼ばれる星のことです。
アストライオスを祀った神殿はありますか。
確かめられませんでした。一方で子である北風ボレアスにはアテナイで祭壇が築かれ、アテネには八方の風を彫った塔が残っています。祀られたのは父ではなく子のほうです。
アストライオスと併せて覚えたい言葉・用語
ティタン神族(ティタンしんぞく)
ウラノスとガイアの子である十二柱の神々。クロノスを王とし、ゼウスとの十年戦争に敗れてタルタロスへ落とされた。「タイタン」とも表記する。
ティタノマキア(Titanomachia)
ゼウス率いるオリュンポスの神々と、クロノス率いるティタン神族の戦争。十年続き、解放されたキュクロプスとヘカトンケイルの加勢で決着した。