レトとアステリアの父。名は「問う」に通じ、天の軸とも解される。
コイオスとは何の神様か
コイオスはひとことで言えば孫たちが有名になった祖父です。
ウラノスとガイアの子で、ティタン神族?の一柱。姉妹のポイベを妻とし、二人の娘をもうけました。
レトからはアポロンとアルテミスが、 アステリアからはヘカテが生まれた。
オリュンポスの弓の二柱と、冥界の魔術の女神が、同じ祖父を持っています。
ところが、この神自身の物語は残っていません。ヘシオドス『神統記』は名を挙げ、妻と娘を書き、それで終わりです。台詞も、行いも、争いもありません。
名の意味もはっきりしません。「問う」「気づく」を意味する語に結びつける説と、天が回る軸を指すとする説があります。ローマの詩人はポロス(極)の名でこの神を呼びました。
ティタノマキア?に敗れ、他のティタンとともに地の底へ落とされたと伝えられます。
コイオスのギリシャ名・ローマ名と読み方
古代ギリシャ語では Κοῖος。日本語では「コイオス」または「コイオース」と書きます。
この名の意味は、はっきり分かっていません。 有力なのは二つです。
一つは「問う」「気づく」を意味する古い動詞に結びつける読み方です。この読みに立つと、コイオスは問いかけそのものを司る神になります。娘レトを通じて神託のアポロンにつながる系譜と、うまく重なります。
もう一つは、ローマの詩人が使ったポロスという呼び名から出た読みです。ポロスは天が回る軸、すなわち極を指します。天球がその周りを回る中心の棒が、この神だという理解です。
どちらが古いのかは決められていません。名の意味が争われていること自体が、この神の記録の乏しさを示しています。
Κοῖος(コイオス)
古代ギリシャ語の表記。「問う」「気づく」を意味する古い動詞に結びつける説があるが、確定していない。
コイオース(コイオース)
長音を残した学術的な表記。
Polus(ポロス)
ローマの詩人がこの神に当てた名。天が回る軸、すなわち極を意味する語で、天球の回転の中心を神格化した読み方にあたる。
コイオスの物語
名の意味 ─ 「問う」か「軸」か
ティタン神族の名の多くは、意味が読み取れます。オケアノスは大洋、ヒュペリオンは高く行く者、ムネモシュネは記憶。ところがコイオスだけは、意味が定まりません。
古代の注釈者は、この名を「問う」「探り当てる」を意味する語に結びつけました。この読みに立つと、神託と探究の神になります。
ローマの詩人たちはポロスと呼びました。天の極、天球が回る軸のことです。
空は一本の軸のまわりを回る。 その軸を神の名で呼んだ。
二つの読みは、まったく別のものに見えます。しかし問いを立てることと、動かない中心を持つことは、古代の考え方では近い場所にありました。
どちらの説も決め手を欠いています。分からない、というのが今の答えです。 名前しか残っていない神の場合、その名前の意味まで分からないことは珍しくありません。
二人の娘 ─ 弓の二柱と魔術の女神の祖父
コイオスとポイベの間に生まれたのは、二人の娘だけです。
レトは、ゼウスの子を宿してヘラに追われ、デロス島でアポロンとアルテミスを産みました。
アステリアは、ゼウスの求めを退けて鶉となり、海へ身を投げて島になりました。その前に、ティタンのペルセスとの間にヘカテを生んでいます。
弓を持つ二柱と、松明を持つ一柱。
光の側と夜の側が、同じ夫婦から二代で分かれています。
この系譜には意味があります。アポロンは神託を、アルテミスは狩りと産を、ヘカテは魔術と交差路を司ります。いずれも境目に立つ神です。
コイオスの名を「問う」と読む立場は、ここを根拠にします。問いを立てる場所に立つ神々が、この祖父から出ているという読み方です。ただし原典がそう書いているわけではありません。
なぜ記録が少ないのか ─ 名を挙げるための神
コイオスの記録が乏しい理由は、はっきりしています。この神は、系譜を成り立たせるために置かれているからです。
ヘシオドス『神統記』の作りを見ると分かります。詩人はまずティタン十二柱の名を並べ、次にそれぞれの子を並べ、そのまた子を並べていきます。名前が一つ欠けると、そこから先の系譜が宙に浮きます。
アポロンとアルテミスに母レトがいる以上、レトにも親が要ります。ヘカテに母アステリアがいる以上、アステリアにも親が要ります。その位置を埋めているのがコイオスとポイベです。
もう一つ、ティタノマキアの敗者であることも効いています。勝った側の神には祭りが残り、祭りがあるところに物語が育ちます。負けた側にはそれがありません。
この神は、忘れられたのではありません。はじめから語られていないのです。 両者は別のことです。
地の底へ ─ 敗れた側の行方
ティタノマキアの結末を、ヘシオドスはこう書きます。
敗れた神々は縛られ、地の底へ送られた。 そこは天から大地までと同じだけ、大地から下った深さにある。
コイオスがこの戦いでどう戦ったかは、書かれていません。名を挙げられているのは、ティタン全体としてだけです。
ローマの詩人ウェルギリウスは、地の底からティタンが天へ攻め上ろうとする場面を描き、そこにコイオスの名を挙げています。本人が動く数少ない場面が、ギリシャではなくローマの詩にあるという珍しい形です。
ただし、この場面はティタンの反抗を並べて見せる箇所で、コイオス独自の物語ではありません。
一方、娘レトはオリュンポスの側に残りました。父は地の底、娘は神々の座という分かれ方になります。原典はこの落差に何の説明も付けていません。
コイオスの家系図と家族
コイオスの性格と人物像
コイオスの性格を語れる材料は、一つもありません。
台詞がなく、行いがなく、姿の描写もありません。恋の話も争いの話もなく、祀られた記録も見つかりませんでした。
分かるのは三つだけです。ウラノスとガイアの子であること。姉妹ポイベを妻としたこと。娘が二人いること。
それでも、この神には位置による性格があります。問いを立てる神々の祖父であり、動かない軸として呼ばれた神である という位置です。
孫のアポロンは、デルフォイで問いに答える神になりました。もう一人の孫ヘカテは、三叉路に立って行き先を選ばせる神になりました。どちらへ進むかを決める場面に、この家系の神がいます。
これは後世の読み解きであって、原典の記述ではありません。しかし、名の意味をめぐる二つの説がどちらも「中心」と「問い」に関わることは、偶然ではないのかもしれません。
分かっていないことが多い神です。 そう書いておくのが、いちばん正確です。
コイオスゆかりの地と遺跡
コイオスを祀った神殿は確かめられませんでした。
この神には、独立した祭祀の記録がありません。ティタノマキアに敗れて地の底へ送られたティタンには、共通してその傾向があります。
ゆかりの地として挙げられるのは、いずれも娘と孫の場所です。娘レトが子を産んだデロス島、孫アポロンのデルフォイ、孫ヘカテが立つとされた三叉路。父の名で呼ばれる場所は、一つも見つかりませんでした。
ローマの詩人がこの神を天の極の名で呼んだことから、天球儀や星図のなかに位置を持つ神と考えることはできます。ただしそれは祭祀とは別のことです。分からないことは、分からないままにしておきます。
コイオスが現代に残した痕跡
コイオスの名は、天の軸を指す呼び名と、孫たちの系譜のなかに残りました。
天の極を指す呼び名: ローマの詩人はこの神を極の名で呼んだ。天球が回る中心の軸を神格化した読み方にあたる。
問いを意味する語との結びつき: 名を「問う」「気づく」の語に結びつける説が古代からある。神託の神アポロンの祖父という系譜と重ねて語られる。
三柱の孫: アポロン・アルテミス・ヘカテがそろって孫にあたる。神話でもっとも名の通った三柱が、記録の無い神から二代で出ている。
ローマの詩に残る反抗の場面: 地の底からティタンが天へ攻め上ろうとする場面に、この神の名が挙げられている。
コイオスが司るもの
知識
名を「問う」「気づく」の語に結びつける説がある。問いを立てることを司る神という読み方になる。
天文
ローマの詩人はこの神を天の極の名で呼んだ。天球が回る軸そのものとされた。
神託
孫アポロンはデルフォイの神託を司った。問いに答える神の系譜の起点にあたる。
血筋をつなぐこと
アポロン・アルテミス・ヘカテの祖父。本人の事績は無いが、系譜の要になっている。
学問
問いかけを名に持つ神として、探究そのものに結びつけられてきた。
コイオスが登場するゲーム・アニメ
この神が創作で使われるとき、原典の裏づけはほとんどありません。 名前と「ティタンである」という一点だけを借りて、作り手が中身を決める形になります。
書かれていないことは、書き足す余地がある とも言えます。近年の作品では、知恵や予見を担う役に置かれることが増えています。原典のコイオスにその記述は無く、名の意味をめぐる説から来た造形だと考えられます。
コイオスが登場する絵画・彫刻
ティタノマキアの図像
落ちていくティタンの群れの一人として描かれます。名を特定できる作品は確かめられませんでした。
天球を表す図
天の軸を擬人化する図が近世の天文書にありますが、この神と結びつけて描いたものかは確かめられませんでした。
コイオスが登場するゲーム・創作
ギリシャ神話を題材にした作品
ティタンの一人として名が挙がります。知恵や予見の役を与えられることがあります。
ティタンを敵役にする作品
地の底に封じられた存在として名が使われます。
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コイオスについてよくある質問
コイオスはどんな神ですか。
ウラノスとガイアの子で、ティタン神族の一柱です。姉妹のポイベを妻とし、レトとアステリアという二人の娘をもうけました。アポロン・アルテミス・ヘカテの祖父にあたります。
コイオスという名の意味は何ですか。
はっきり分かっていません。「問う」「気づく」を意味する古い動詞に結びつける説と、天が回る軸すなわち極を指すとする説があります。ローマの詩人は極を意味する名でこの神を呼びました。
なぜコイオスの物語が残っていないのですか。
系譜を成り立たせるために置かれた神だからだと考えられます。アポロンやヘカテの母に親が必要である以上、その位置を埋める神が要ります。加えてティタノマキアの敗者には祭祀が残らず、祭祀が無いところに物語は育ちません。
コイオスの娘と孫は誰ですか。
娘はレトとアステリアです。レトからアポロンとアルテミスが、アステリアからヘカテが生まれました。光の側と夜の側が、同じ夫婦から二代で分かれたことになります。
コイオスを祀った神殿はありますか。
確かめられませんでした。ゆかりの地として挙げられるのは、娘レトのデロス島や孫アポロンのデルフォイなど、いずれも子や孫に結びついた場所です。
コイオスと併せて覚えたい言葉・用語
ティタン神族(ティタンしんぞく)
ウラノスとガイアの子である十二柱の神々。クロノスを王とし、ゼウスとの十年戦争に敗れてタルタロスへ落とされた。「タイタン」とも表記する。
ティタノマキア(Titanomachia)
ゼウス率いるオリュンポスの神々と、クロノス率いるティタン神族の戦争。十年続き、解放されたキュクロプスとヘカトンケイルの加勢で決着した。