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ギリシャ神話

ポントスとは何の神様か|家系図・物語

Πόντος  / ポントス

原初の神

海そのものである原初の神。ガイアがひとりで生んだ、荒れる水。

ポントスとは何の神様か

ポントスはひとことで言えば海そのものです。

大地ガイアが、天ウラノスと同じようにひとりで生んだ存在。父はいません。

のちの海神ポセイドンとは、性格がはっきり違います。ポセイドンは海を治める神ですが、ポントスは海である存在です。姿の描写も、人格も、ほとんど語られません。

ガイアとの間に、五柱をもうけました。

海の老人ネレウス、驚異のタウマス、 傲慢なポルキュス、美しい頬のケト、 鋼の心のエウリュビア

ギリシャ神話の海の怪物は、ほぼ全部この五柱から出ています。 ゴルゴン三姉妹も、エキドナも、スキュラも、たどればここに行き着きます。

黒海の沿岸を指す地名も、この語がそのまま土地の名になったものです。

ポントスのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Πόντος。日本語では「ポントス」で定着しています。

この語は、海を指す普通名詞でもあります。ただしギリシャ語には海を表す語がいくつかあり、それぞれ指すものが違います。

岸から見える海。 塩の水としての海。 そして渡っていく外洋。

ポントスは三つ目にあたります。 道としての海、越えていく水面を指す語です。

この語は、地名のなかに数多く残りました。エーゲ海と黒海をつなぐ細い海峡の名にも、この語が入っています。黒海の南岸を指す地名としても使われ、のちにその地域を治めた王国の名にもなりました。

黒海沿岸に住んだギリシャ系の人々を指す呼び方も、同じ語から来ています。神の名が、そのまま土地と人の名になった例です。

Πόντος(ポントス)

古代ギリシャ語の表記。海、とりわけ外洋を指す普通名詞でもある。岸から見える海ではなく、渡っていく海を指す語。

ポントス(ポントス)

黒海の南岸を指す地名としても使われた。のちにこの地域を治めた王国の名にもなった。

Pontus(ポントゥス)

ラテン語での形。ローマの詩では海そのものを指す語として使われた。

ポントスの物語

  1. ガイアがひとりで生んだ海
  2. 五柱の子 ─ 海の怪物の源流
  3. ポセイドンとの違い ─ 治める神と、海そのもの
  4. 地名としてのポントス ─ 神の名が土地になる

ガイアがひとりで生んだ海

ヘシオドス『神統記』は、世界の始まりをこう語ります。

カオスがあり、次にガイアが生まれ、そしてガイアがひとりで天ウラノスを生みます。続けて山々を生み、そして海を生みました。

ガイアはまた、実らぬ海を生んだ。 荒れ狂う波を持つポントスを。 愛の交わりによらず、ひとりで生んだ。

父はいません。 ウラノスと同じく、大地が単独で生んだ存在です。

「実らぬ」という形容が付いていることに注意が要ります。大地は実りをもたらしますが、海は実りません。 耕せず、住めず、種を蒔けない。ギリシャ人にとって海は、まずそういう場所でした。

そのうえで、ガイアはこの息子と交わり、五柱の子をもうけます。天とも交わり、海とも交わる。 大地は両方の相手になりました。

天からティタンが出て、海から海の一族が出ます。ギリシャ神話の二つの大きな系統が、ここで分かれます。

五柱の子 ─ 海の怪物の源流

ポントスとガイアの子は五柱です。それぞれの形容が印象に残ります。

ネレウスは「偽りのない誠実な」海の老人。予言を語り、姿を変えます。娘のネレイス五十柱には、アキレウスの母テティスや、ポセイドンの妻アムピトリテがいます。

タウマスは「驚異」を意味する名。虹の女神イリスと、翼を持つハルピュイアの父です。

ポルキュスは「傲慢な」と形容される老神。妹ケトとの間に、恐ろしい娘たちをもうけました。

ゴルゴン三姉妹。灰色の老女グライアイ。 そして怪物の母エキドナ。

ケトは「美しい頬の」と形容されながら、怪物の母になります。海の怪物を指す語は、この名から作られました。

エウリュビアは「鋼の心を持つ」女神。ティタンのクレイオスと結ばれ、星と力と魔術の系統を生みます。

メドゥーサキマイラもスキュラも、たどればこの五柱に行き着きます。

ポセイドンとの違い ─ 治める神と、海そのもの

ギリシャ神話には、海に関わる神が何柱もいます。役割の違いを整理しておきます。

ポントスは海そのものです。人格がほとんどなく、動きません。原初の存在にあたります。

オケアノスは、世界を取り巻いて流れる大河です。ティタン神族の一柱で、こちらは人格を持ち、娘を数多くもうけました。

ポセイドンは海を治める神です。オリュンポス十二神の一柱で、三叉の矛を持ち、地震を起こし、馬を作りました。

海である神。 海を巡る流れである神。 海を治める神。

三柱は、それぞれ別のものを指しています。

この違いは、神話の層の違いでもあります。ポントスがいちばん古く、次にオケアノス、そしてポセイドンです。新しい層の神ほど人格がはっきりし、物語が増えます。

古い神ほど、姿がなく、動かない。 ギリシャ神話に共通する形です。カオスもガイアもタルタロスも、同じ性質を持っています。

地名としてのポントス ─ 神の名が土地になる

この神の名は、地名として今も生きています。

黒海の南岸一帯は、古くからポントスと呼ばれました。ギリシャ人が植民した土地で、のちにこの地域を治める王国が立ちます。ローマと長く戦った王の名でも知られる国です。

この地域に住んだギリシャ系の人々は、ポントスのギリシャ人と呼ばれました。独自の方言と食文化を保ち、二十世紀の住民交換で多くがギリシャ本土へ移ります。神の名が、二千数百年後の人の呼び名として残っている ことになります。

もう一つ、エーゲ海と黒海をつなぐ細い海峡の名にも、この語が入っています。ヘレという少女が落ちて死んだ海という意味の名で、その「海」の部分がポントスです。

神の名が地名になる例は珍しくありません。しかしポントスの場合、もともと海を指す普通名詞だったという事情があります。

神の名か、ただの海の名か。その境目にある語です。

ポントスの家系図と家族

ポントスの親: ガイアガイアが天ウラノスと同じくひとりで生んだ海

ポントスの子・子孫: エウリュビア原初の海ポントスとガイアの娘ネレウス海の老人ネレウスの父ケト海の怪物の母ケトの父タウマスポルキュス

ポントスの性格と人物像

ポントスには、人格がほとんどありません。

台詞はありません。姿の描写もありません。怒りも恋も書かれていません。ヘシオドスが与えた形容は「実らぬ」「荒れ狂う波を持つ」の二つだけです。

これは、原初の神に共通する性質です。カオスも、ガイアも、タルタロスも、ニュクスも、みな人格が薄いままです。世界の要素そのものである神は、動く必要がありません。

それでも、ポントスには一つ特徴があります。産む力が強いことです。

ガイアとの間に五柱を生み、そこから海の怪物のほぼ全部が出ました。ゴルゴン三姉妹、エキドナ、スキュラ、ハルピュイア。ギリシャ人が恐れたものの多くが、この神の血筋にあります。

一方で、同じ血筋からネレイス五十柱や虹の女神イリスも出ています。恐ろしいものと美しいものが、同じ源から出ている形です。

海は、恵みでもあり脅威でもありました。その両方を、そのまま子の顔ぶれにした神と言えます。

ポントスゆかりの地と遺跡

ポントスを祀った神殿は確かめられませんでした。

原初の神には、まとまった祭祀が残らないのが通例です。カオスにもタルタロスにも神殿はありません。世界の要素そのものである神は、祈る相手というより、そこに在るものとして扱われました。

海への祈りは、後の時代にはポセイドンに向けられます。岬に神殿が建ち、船を出す前に供えが行われました。ポントスの名で呼ばれる社は、その流れのなかに見当たりません。

ゆかりの地を挙げるとすれば、名がそのまま残った土地になります。黒海の南岸一帯は古くからポントスと呼ばれ、そこに住んだギリシャ系の人々も同じ名で呼ばれました。

神殿ではなく、地名として残った神です。そこは正直に書いておきます。

ポントスが現代に残した痕跡

ポントスの名は、黒海沿岸の地名として今も使われています。

黒海南岸の地名: この一帯は古くからポントスと呼ばれた。ギリシャ人が植民し、のちに同じ名の王国が立ってローマと長く戦った。

ポントスのギリシャ人: 黒海沿岸に住んだギリシャ系の人々の呼び名。独自の方言と食文化を保ち、二十世紀の住民交換で多くがギリシャ本土へ移った。

海峡の名に残る語: エーゲ海と黒海をつなぐ細い海峡の名に、この語が入っている。少女ヘレが落ちて死んだ海という意味の名である。

海を指す普通名詞: この語は、渡っていく外洋を指す普通名詞でもある。岸から見える海ではなく、越えていく水面を指す言葉だった。

ポントスが司るもの

海そのものである原初の神。ガイアがひとりで生んだ存在にあたる。

海の恵み

子ネレウスの娘たちは、船を守る海のニンフとして親しまれた。

ヘシオドスは「荒れ狂う波を持つ」と形容した。渡っていく外洋を指す名である。

航海の安全

古代の航海は、この神の上を渡ることだった。恵みと脅威の両方を持つ。

万物の生成

海の一族のほぼ全部がこの神の血筋から出ている。恐ろしいものも美しいものも同じ源にある。

ポントスが登場するゲーム・アニメ

創作でのポントスは、ポセイドンに吸収されがちです。海の神といえばポセイドンという理解が強く、その前にいた海そのものの神は知られていません。

原典に沿って描くなら、姿も台詞もない海そのものになります。物語には向きませんが、海の怪物の系譜をたどる場面では必ず名が出ます。

ポントスが登場する絵画・彫刻

海を擬人化したモザイク

髭を蓄え、海藻や蟹の鋏を頭に付けた男性像として表されることがあります。テテュスと並べて描かれる例が知られています。

系譜図としての図像

近世の神話事典に載る系譜図のなかに、海の一族の起点として名が置かれます。

ポントスが登場するゲーム・創作

ギリシャ神話を題材にした作品

原初の神の一柱として名が挙がります。海そのものとして描かれることがあります。

海の怪物を扱う作品

怪物たちの起源をたどる場面で名が出ます。

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ポントスについてよくある質問

ポントスはどんな神ですか。

海そのものである原初の神です。大地ガイアが天ウラノスと同じくひとりで生みました。ガイアとの間に、ネレウス・タウマス・ポルキュス・ケト・エウリュビアの五柱をもうけています。

ポセイドンとはどう違うのですか。

ポセイドンは海を治める神で、ポントスは海である神です。ポントスには人格の描写がほとんどなく、動きません。両者の間には、世界を取り巻く流れであるオケアノスもいます。

海の怪物はみんなこの神の子孫ですか。

ほとんどがそうです。ポルキュスとケトの間にゴルゴン三姉妹やエキドナが生まれ、そこからメドゥーサやキマイラ、スキュラへとつながります。一方で虹の女神イリスやネレイス五十柱も同じ血筋です。

黒海のポントスと関係がありますか。

同じ語です。黒海の南岸一帯は古くからポントスと呼ばれ、その地域を治めた王国の名にもなりました。この語はもともと、渡っていく外洋を指す普通名詞でもあります。

ポントスを祀った神殿はありますか。

確かめられませんでした。原初の神にはまとまった祭祀が残らないのが通例です。海への祈りは後の時代にポセイドンへ向けられ、この神の名は神殿ではなく地名として残りました。

ポントスと併せて覚えたい言葉・用語

ティタン神族(ティタンしんぞく)

ウラノスとガイアの子である十二柱の神々。クロノスを王とし、ゼウスとの十年戦争に敗れてタルタロスへ落とされた。「タイタン」とも表記する。

オリュンポス十二神(オリュンポスじゅうにしん)

オリュンポス山に住む主要な神々。ゼウス、ヘラ、ポセイドン、デメテル、アテナ、アポロン、アルテミス、アレス、アフロディーテ、ヘファイストス、ヘルメスの十一柱は確実で、残り一枠をヘスティアとディオニュソスが争う。

タルタロス(Τάρταρος)

冥界よりさらに深い奈落。神々に逆らった者が落とされる。ティタン神族が封じられている。青銅の金床を天から落とせば大地まで九日、大地からここまでさらに九日かかるとされる。