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ギリシャ神話

オリオンとは何の神様か|家系図・物語

Ὠρίων  / オリオン

英雄

海の上を歩いた巨人の狩人。死に方が書物ごとに分かれ、星座になった。

オリオンとは何の神様か

オリオンはひとことで言えば話がまとまらない英雄です。ローマでもオリオンのまま使われました。

父は海神ポセイドン、母はミノス王の孫にあたるエウリュアレとされます。父から与えられたのは、

海の上を、沈まずに歩く力。

並外れた背丈と美しさを持ち、狩りの腕は神に並びました。

生涯は事件続きです。キオス島で王女に求婚したところ、王に酒を飲まされて両目を潰されました。 東へ向かい、昇る太陽の光を浴びて視力を取り戻したと伝えられます。

最期は、書物によってまったく違います。 アルテミスが射殺したとも、思い上がりを罰する巨大な蠍が送られたとも、暁の女神エオスにさらわれたのを神々が妬んだためともいいます。

どの話でも、最後は星座になります。冬のオリオン座です。

蠍の話には、空の上の裏付けがあります。さそり座が東から昇るとき、オリオン座は西へ沈む。 二つの星座は、決して同時に空へ並びません。

オリオンのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Ὠρίων。日本語では「オリオン」で定着しています。

語源は分かっていません。 ギリシャ語のなかに説明のつく語根がなく、外から入った名ではないかとする見方があります。

後代には、名前を説明しようとする話も作られました。子のいない老人ヒュリエウスが神々をもてなした礼に子を授かる話で、そのときの経緯から名が付いたとするものです。ただし、これは名前から逆算して作られた説明と考えられています。

ローマでも綴りが変わるだけで、別の名には置き換わりませんでした。星座の名としても同じ綴りが使われます。

日本では、この星座に固有の呼び名がありました。鼓星です。三つ星と四隅の星が作る形を、鼓に見立てたものです。三つ星という呼び方も各地に残っています。

Ὠρίων(オリオン)

古代ギリシャ語の表記。語源は分かっていない。ギリシャ語で説明のつく語根がなく、外から入った名とする見方がある。

Orion(オリオン)

ローマでの綴り。名は置き換えられず、そのまま使われた。星座名としてもこの綴りが使われる。

Ὠαρίων(オアリオン)

古い形の綴り。抒情詩に現れる。

鼓星(つづみぼし)

日本での呼び名。三つ星と四隅の星の並びを、鼓の形に見立てたもの。

オリオンの物語

  1. 海の上を歩く ─ 父から与えられた力
  2. 目を潰される ─ そして太陽で治す
  3. 死に方が三つある ─ 書物ごとに違う結末
  4. 空の上での追いかけっこ ─ 星座になったあと
  5. なぜ話がまとまらないのか ─ 各地の伝承が集まった

海の上を歩く ─ 父から与えられた力

オリオンの生まれについて、アポロドーロスは短く書きます。

ポセイドンとエウリュアレの子である。 父から、海の上を歩く力を与えられた。

母エウリュアレは、クレタ王ミノスの娘とされます。海の神と、島の王家の血を引く巨人です。

この「海を歩く力」は、後の話で実際に使われます。目を潰されて島から出るとき、この英雄は船を使いません。歩いて海を渡りました。

姿については、『オデュッセイア』に手がかりがあります。冥界でオデュッセウスが見た場面です。

巨大なオリオンが、獣を追い立てていた。 手には、決して壊れることのない青銅の棍棒を持っていた。

武器は弓ではなく、棍棒だと書かれています。 星座の絵では弓や棍棒を持った姿で描かれますが、原典で明示されているのは棍棒のほうです。

狩りの腕は並外れていました。同時に、その腕が身を滅ぼすことになります。獣を狩り尽くすと豪語したために罰を受けた、という伝えがあるからです。

生まれの話にも別の伝えがあります。ボイオティアの老人ヒュリエウスが神々をもてなした礼に授かった子だ、というものです。

目を潰される ─ そして太陽で治す

オリオンの生涯で最も奇妙な事件が、キオス島で起こります。

この島の王オイノピオンの娘メロペに、オリオンは求婚しました。王は承知したふりをして、条件を出し続けます。島の獣を退治しろ、と。

すべて片付けても、王は娘を渡しませんでした。しびれを切らしたオリオンは、酒に酔って強引に振る舞います。

報復は苛烈でした。

王はオリオンを酔わせ、眠っているあいだに目を潰し、 海辺に捨てた。

盲目になった巨人が、そこから東を目指します。 鍛冶の神ヘファイストスの工房にたどり着き、案内役として若者ケダリオンを貸してもらいました。

オリオンはケダリオンを肩に乗せ、その指す方角へ歩いた。

海の上を歩き、東の果てへ向かいます。そして、

昇る太陽の光を目に浴びて、視力を取り戻した。

盲目の巨人が、肩に乗せた少年に導かれて朝日へ向かう。 この場面は近代の画家に好まれ、繰り返し描かれました。

視力を取り戻したオリオンは、王に復讐しようと戻ります。しかし王は地下に隠れており、見つけられませんでした。

死に方が三つある ─ 書物ごとに違う結末

この英雄の最期は、古代からまとまっていません。 アポロドーロスは複数の説を並べて記しています。

一つ目。アルテミスが射殺した。 理由も分かれます。この女神に挑んだためとも、女神の従者に手を出したためとも、別の女に心を移したためともいいます。

二つ目。蠍に刺された。 獣を狩り尽くすと豪語したため、大地が巨大な蠍を送ったとする伝えです。

三つ目。エオスにさらわれた。 『オデュッセイア』第5歌に、この筋があります。

暁の女神がオリオンを連れ去ったとき、神々は妬んだ。 ついにアルテミスが、その矢で彼を射た。

三つとも、女神が関わっている点は共通しています。

もう一つ、後代に語られた話があります。アポロンが、妹アルテミスとオリオンの仲を快く思わず、遠くの海に浮かぶ黒い点を指して「あれを射てみろ」と挑発した、というものです。射抜かれたのはオリオンの頭でした。

この話は原典に確かめられず、後の時代に整えられた筋と考えられます。

結末が定まらないこと自体が、この英雄の特徴です。各地に別々の伝承があり、一つにまとめられないまま星座になりました。

空の上での追いかけっこ ─ 星座になったあと

死後、オリオンは天に上げられて星座になりました。さそり座も同時に上げられたとされます。

ここに、この神話のいちばん面白い部分があります。

さそり座が東の空から昇ってくるとき、オリオン座は西の空へ沈んでいく。

二つの星座は、決して同時に空へ並びません。 地上で刺された巨人が、空の上でも蠍から逃げ続けている、と説明されました。

実際の天文で言えば、この二つは天球のほぼ反対側にあります。だから同時に見えません。先に空の事実があり、それを説明する話が作られたと考えるのが自然です。

オリオン座は、冬の空でもっとも見つけやすい星座です。中央に並ぶ三つ星が目印になります。赤いベテルギウスと青白いリゲルという色の違う一等星を二つ持つのは、この星座だけです。

三つ星の下にはオリオン大星雲があり、いまも新しい星が生まれている場所として知られています。

一方、『オデュッセイア』は、この英雄が冥界にいるとも書きます。

死者たちのあいだで、なお獣を追い立てていた。

空にいるのか、冥界にいるのか。 ここも、ひとつにまとまっていません。

なぜ話がまとまらないのか ─ 各地の伝承が集まった

オリオンの伝承は、互いに食い違ったまま並んでいます。

生まれは、ポセイドンの子とも、老人ヒュリエウスが授かった子とも。 死因は、女神の矢とも、蠍とも、神々の妬みとも。 死後は、星座になったとも、冥界で狩りを続けているとも。

理由は、もともと別々の土地の話だったからと考えられています。

ボイオティアには、ヒュリエウスの子とする話がありました。キオス島には、目を潰された話があります。クレタには、アルテミスとともに狩りをした話が伝わります。デロス島にも関わる伝えがあります。

同じ名の英雄について、各地が別の物語を持っていました。 それを後の書物がまとめようとしたため、複数の説が並記されることになったのです。

アポロドーロスのような書物は、どれかを選ばずに全部書くという方針を取りました。おかげで、私たちは食い違いをそのまま読むことができます。

もう一つの理由は、星座が先にあった可能性です。目立つ星の並びに名前が付き、後から物語が付けられたとすれば、複数の話が生まれるのは自然です。

どれが本当かを決められる資料はありません。 決められないことを、そのまま書いておきます。

オリオンの家系図と家族

オリオンの親: ポセイドン海の上を歩く力を与える

オリオンの性格と人物像

オリオンには、英雄らしい徳がありません。

ヘラクレスには難業があり、ペルセウスには怪物退治があり、オデュッセウスには知恵があります。オリオンにあるのは、背が高く、狩りが上手いということだけです。

行動を並べると、印象はさらに悪くなります。求婚を断られて酒に酔い、強引に振る舞って目を潰される。獣を狩り尽くすと豪語する。功績よりも、失敗と傲慢のほうが多く記録されています。

それでも、この英雄が語り継がれたのはなぜか。

一つは、目を潰されてから朝日で治すまでの場面の強さです。盲目の巨人が、肩に少年を乗せて東へ歩く。この絵は、近代の画家たちを引きつけました。

もう一つは、空にいることです。冬の夜、誰でも見上げれば見つけられます。物語がまとまらなくても、姿は毎年きちんと現れます。

『オデュッセイア』の冥界の場面が、この人物をよく表しています。死んでもなお、獣を追い続けている。やっていることが、生きていたときと変わりません。

反省も、悔いも、成長もない。ただ狩りをする存在として、空と冥界の両方に置かれています。

オリオンゆかりの地と遺跡

オリオンを祀った神殿はありません。 神ではなく英雄であり、信仰の対象になった記録もほとんど残っていません。

旅行家パウサニアスは、ボイオティアのタナグラにオリオンの墓があると記しています。しかし、場所を特定できる資料が手元にありません。 ここでは挙げないでおきます。

ゆかりの土地として名が挙がるのは、生まれた地とされるボイオティア、目を潰されたキオス島、狩りをしたとされるクレタなどです。いずれも物語の舞台であって、祀られた場所ではありません。

ゆかりの地として確かめられるものが無いことを、そのまま書いておきます。

この英雄の居場所は、地上ではなく冬の夜空にあります。三つ星を目印にすれば、誰でも見つけられます。

オリオンが現代に残した痕跡

オリオンの名は、星座と天文として現代にはっきり残りました。

オリオン座: 冬の空でもっとも見つけやすい星座。中央に三つ星が並ぶ。色の違う一等星を二つ持つ、めずらしい星座でもある。

オリオン大星雲: 三つ星の下に見える星雲。いまも新しい星が生まれている場所として知られ、天体観測の入門的な対象になっている。

さそり座との位置関係: さそり座が昇るときオリオン座は沈む。蠍に刺されたという伝えは、この位置関係の説明にもなっている。

鼓星という和名: 日本での呼び名。三つ星と四隅の星が作る形を鼓に見立てたもの。地方によって別の呼び方も残る。

プーサンの絵画「日の出に向かう盲目のオリオン」: 1658年の作品。肩に少年を乗せた巨人が朝日へ向かう場面を描いたもので、近代絵画におけるこの英雄の代表作とされる。

オリオンが司るもの

祈願の対象ではありません

神ではなく英雄であり、祀られた記録はほとんど残っていない。墓があると伝える記述はあるが、遺構は特定されていない。

オリオンが登場するゲーム・アニメ

創作では、原典の人物より「星座の名」として使われる回数のほうが圧倒的に多い存在です。 艦船、機体、組織、商品。冬の空でいちばん目立つ星座であることが、そのまま名前の強さになっています。

人物として描かれるときは、弓の名手とされることがほとんどです。ただし『オデュッセイア』が明示するのは青銅の棍棒であり、弓は星座の絵から来た後代の姿です。

また、死に方が三つあるという点は、ほぼ採られません。作品では一つに絞られます。

オリオンが登場するゲーム

女神転生シリーズ

狩人として登場します。

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Fate シリーズ

弓の名手として登場し、アルテミスとの関係が設定に用いられています。

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各種作品の名称

星座名としての知名度が高く、艦船や機体、組織の名に使われる例が非常に多くあります。

オリオンが登場するアニメ・漫画・映像

星座を題材にした作品

オリオン座の由来として、必ずこの英雄が紹介されます。

聖闘士星矢

星座を冠した登場人物の一人として扱われます。

プライム・ビデオで探す

各種の神話解説書

アルテミスとの関係と、蠍に刺された話が並べて説明されるのが定型です。

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オリオンについてよくある質問

オリオンは何の神様ですか。

神ではなく、巨人の狩人です。海神ポセイドンとエウリュアレの子とされ、父から海の上を歩く力を与えられました。神話ではめずらしく、功績よりも失敗と傲慢のほうが多く記録されています。

オリオンのローマ名は何ですか。

ローマでも同じくオリオン(Orion)です。名は置き換えられませんでした。ローマ側に対応する英雄がいなかったためで、星座の名としてもこの綴りがそのまま使われています。

オリオンはどうやって死んだのですか。

書物によって違います。アルテミスが射殺したとも、獣を狩り尽くすと豪語したため大地が巨大な蠍を送ったとも、暁の女神エオスにさらわれたのを神々が妬んだためともいいます。アポロドーロスは複数の説を並べて記しており、どれが本来の話かは決まっていません。

オリオンとアルテミスはどういう関係ですか。

伝えが分かれます。ともに狩りをした仲だったとも、この女神に挑んで射殺されたとも、女神の従者に手を出して罰せられたともいいます。アポロンが妹を騙してオリオンを射させたという話もありますが、これは後の時代に整えられた筋と考えられます。

オリオン座とさそり座はなぜ同時に見えないのですか。

天球のほぼ反対側にあるためです。さそり座が東から昇るとき、オリオン座は西へ沈みます。古代の人はこれを、蠍に刺された巨人が空の上でも逃げ続けているためだと説明しました。

オリオンはなぜ目を潰されたのですか。

キオス島の王オイノピオンの娘メロペに求婚し、承知されないまま酒に酔って強引に振る舞ったためです。王は彼を酔わせて眠らせ、目を潰して海辺に捨てました。オリオンは東へ歩き、昇る太陽の光を浴びて視力を取り戻したと伝えられます。

オリオンの武器は何ですか。

『オデュッセイア』が明示しているのは、決して壊れない青銅の棍棒です。冥界で獣を追う場面にそう書かれています。弓を持った姿は、星座の絵から広まった後代のものです。