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ギリシャ神話

ダフネとは何の神様か|家系図・物語・ゆかりの地

Δάφνη  / ダフネ

大地 原初の神

アポロンの求愛を拒み、月桂樹に姿を変えた妖精。名は月桂樹そのもの。

ダフネとは何の神様か

ダフネはひとことで言えば逃げ切った者です。ギリシャ神話で、神に追われて捕まらなかった数少ない一人にあたります。

まず名前です。ダフネというギリシャ語は、そのまま「月桂樹」を指します。 人の名が木になったのではなく、はじめから木の名を持つ人として語られています。

発端は神々の口論でした。アポロンが幼い愛の神を「弓など似合わない」とからかい、報復されます。

黄金の矢はアポロンに、鉛の矢はダフネに射込まれた。 一方は恋に落ち、一方は恋を憎むようになった。

川岸まで追われたダフネは父に願い、姿を変えられました。

足は根になり、腕は枝になり、髪は葉になった。

アポロンはその木を自分の聖木と定めます。月桂冠はここから生まれました。勝者の頭に載る葉は、捕まらなかった者の姿です。

ローマでも名は変わりません。料理に使うローリエも、同じ木の葉です。

ダフネのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Δάφνη。これは人の名であると同時に、「月桂樹」という普通の植物名です。日本語では「ダフネ」で定着しています。

ここが、この物語のいちばん面白いところです。月桂樹になった娘の名が、はじめから月桂樹だった。 変身の結果が、名前によってあらかじめ決まっています。

ローマでも名は置き換わりませんでした。ただしラテン語で月桂樹そのものはラウルスと呼ばれ、こちらから月桂冠や栄誉を指す語が派生しています。日本語で「栄冠」を意味する外来語も、この系統です。

もう一つ、日常に近い名があります。料理に使うローリエ、英語でいうベイリーフは、この木の葉です。煮込み料理の鍋に入れる葉と、勝者の頭に載る葉は、同じ植物です。

Δάφνη(ダフネ)

古代ギリシャ語の表記。「月桂樹」を意味する普通名詞がそのまま名になっている。

Daphne(ダフネ)

ローマでの綴りと読み。名は置き換えられず、そのまま使われた。ラテン語で月桂樹はラウルス(laurus)と呼ばれ、こちらから月桂冠を指す語が派生した。

ローリエ(ローリエ)

料理に使う月桂樹の葉の呼び名。フランス語による。英語ではベイリーフ。神話の木と同じ植物である。

ダプネー(ダプネー)

日本語での別表記。「ダフネー」とも書かれ、翻訳によって使い分けられる。

Πηνειός(ペネイオス)

テッサリアを流れる川の神。オウィディウスはこの神をダフネの父とする。書物によって父が変わる。

ダフネの物語

  1. 矢は二本あった ─ 恋を憎ませる鉛の矢
  2. 追跡の場面 ─ 走りながらの口説き
  3. 書物で話が変わる ─ もう一つのダフネ
  4. 月桂樹になったあと ─ 勝者の冠になる
  5. なぜこの話だけが残ったのか ─ 変身譚の代表になる

矢は二本あった ─ 恋を憎ませる鉛の矢

この物語の発端は、恋ではなく口論です。

オウィディウス『変身物語』第1巻によれば、アポロンは大蛇ピュトンを射たあと、幼い愛の神が弓を持っているのを見て言いました。

子どもの持つ武器ではない。その弓は私に任せておけ。

愛の神は黙って矢筒から二本の矢を取り出します。

一本は黄金で、先が鋭く、恋を起こさせる。 もう一本は鉛で、先が鈍く、恋を追い払う。

黄金の矢はアポロンに、鉛の矢はダフネに射込まれました。

恋は一方通行になるよう、最初から仕組まれています。 気が合わなかったのではなく、合わないように矢が撃たれています。

この設定は重要です。追う側にも逃げる側にも、選択の余地がありません。悲劇の原因を人格ではなく仕掛けに置くのは、オウィディウスがよく使う手法です。

ダフネはもともと、狩りの女神アルテミスに倣って独り身で通したいと願っていました。父に「結婚しないでいたい」と頼んだ場面も書かれています。矢は、その願いをさらに強めただけとも読めます。

追跡の場面 ─ 走りながらの口説き

『変身物語』のこの場面は、古代の詩のなかでも屈指の描写として知られています。

アポロンは追いながら、走る相手に話しかけ続けます。

そんなに速く走るな。転んで傷を負う。 私は羊飼いでも山の男でもない。 デルフォイもクラロスも、私のものだ。 私は医術の神である。それなのに、恋を癒す薬だけがない。

自分の肩書きを並べて口説くわけです。走りながら。

オウィディウスは、二人の距離を犬と兎にたとえます。

猟犬が野兎を追うように。 犬は歯が届くと思い、兎はもう捕まったと思う。

息が髪にかかるところまで迫られ、力尽きたダフネは川を見て父に叫びます。

助けてください。この姿を変えてください。

言い終わらないうちに、体は木になりました。

胸は薄い樹皮に包まれ、髪は葉に、腕は枝に、 足は根になって地面を掴んだ。顔だけが梢に残った。

逃げ切ったのではなく、逃げ場を失った結果として木になっています。 ここを勝利として読むか、追い詰められた末と読むかで、この物語の印象は変わります。

書物で話が変わる ─ もう一つのダフネ

オウィディウス版ばかりが知られていますが、ギリシャ側には別の筋があります。

そちらでは、まずレウキッポスという若者が登場します。ダフネに恋した彼は、

女の身なりをして、狩りの仲間に加わった。

近づくことに成功しますが、これを面白く思わなかったアポロンが、一行に水浴びを思いつかせます。服を脱いだところで正体が露見し、レウキッポスは殺されました。

そのあとでアポロンが追い、大地に願って姿を消した、あるいは木に変えられたと伝えられます。

この版では、父ではなく大地に願います。 また、話の焦点も違います。オウィディウス版は「追われて木になる」一本ですが、ギリシャ版には先に別の男が死ぬという一段があります。

父についても書物が分かれます。テッサリアの川の神ペネイオスとするもの、アルカディアの川の神ラドンとするもの。土地が違えば、父になる川も変わります。

どれが本来の伝えかを決められる資料はありません。 各地の川の神が、それぞれ自分の娘としてこの話を持っていたと考えるほうが実情に近いでしょう。

月桂樹になったあと ─ 勝者の冠になる

木になったダフネに対して、アポロンは所有を宣言します。

私の妻になれないなら、せめて私の木になれ。 私の髪にも、竪琴にも、矢筒にも、この葉を巻こう。

そして、もう一つ約束を加えました。

お前の葉は、凱旋する将軍の頭を飾るだろう。

これはローマの読者に向けた一行です。ローマでは、戦勝を祝う行進で将軍が月桂冠をかぶりました。神話の由来が、目の前の習慣に接続されています。

月桂樹は、それ以前からアポロンの木でした。デルフォイの神託所では、巫女が月桂樹の葉を噛んで神託を告げたと伝えられます。四年ごとの競技祭では、勝者に月桂冠が授けられました。オリンピアがオリーブの冠を用いたのに対し、デルフォイは月桂樹です。

常緑であることが理由の一つと考えられます。冬にも葉を落とさない木は、変わらないもの、絶えないものの印になりました。

木になった娘が、変わらないことの象徴になる。皮肉のようでもあり、筋が通っているようでもあります。

なぜこの話だけが残ったのか ─ 変身譚の代表になる

ギリシャ神話には、追われた女が姿を変える話がいくつもあります。ニンフのシュリンクスは葦になり、ピテュスは松になったと伝えられます。

それでも、ダフネの話だけが突出して残りました。 理由はいくつか挙げられます。

第一に、変身の瞬間の描写です。オウィディウスは、樹皮が胸を覆い、腕が枝になり、根が足を掴む過程を段階的に書きました。変わっていく途中を描いた文章として、後世の美術がここに集中しました。

第二に、結果が身近に残ったことです。月桂冠は、その後二千年にわたって使われ続けました。話を知らなくても、冠は見ています。

第三に、題材として扱いやすいことです。追う者と逃げる者、変化の瞬間。彫刻にも絵画にも音楽にも向いています。

ベルニーニの大理石像は、指先から葉が生え始めた瞬間を彫りました。17世紀のローマで作られたこの像は、いまも同じ場所で見ることができます。

そして、現存するもっとも古い歌劇とされる作品の題も、この娘の名です。1598年に上演されました。歌劇という形式は、この物語から始まっています。

ダフネの家系図と家族

ダフネの性格と人物像

ダフネの人物像を語る材料は、多くありません。

台詞は数えるほどで、いちばん長いのが父への願いです。「結婚しないでいたい」と頼み、追われては「この姿を変えてください」と叫ぶ。自分から何かを始める場面がありません。

それでも、この娘には一貫した意志があります。独り身でいたい。 狩りの女神に倣い、森を歩き、髪も結わずに過ごしていたと書かれます。求婚者は多くいましたが、すべて断りました。

オウィディウスは、父ペネイオスの言葉を添えています。「孫の顔が見たい」と迫る父に、娘は腕にすがって願いを通しました。当時の読者にとって、これは相当に異例な娘の姿だったはずです。

近代以降、この物語の読まれ方は大きく変わりました。求愛を断ることが、人であることを捨てなければ成立しないという点に、目が向けられるようになったためです。

木になったのは救いなのか、それとも敗北なのか。原典は、その問いに答えを書いていません。 顔だけが梢に残り、風に揺れた、とだけ書かれています。

ダフネゆかりの地と遺跡

ダフネを祀った神殿はありません。 神ではなく、物語の登場人物だからです。

かわりに残ったのは、木そのものでした。月桂樹はアポロンの聖木として、その聖域に植えられました。

もっともはっきり確かめられるのがデルフォイです。巫女が月桂樹の葉を噛んで神託を告げたと伝えられ、競技祭の勝者には月桂冠が授けられました。 ただしこれはアポロンの聖域であって、この娘を祀った場所ではありません。

伝承の舞台とされる場所は、一つに定まっていません。 テッサリアのペネイオス川岸とするもの、アルカディアのラドン川岸とするもの、シリアの近郊とするもの。父となる川の神が書物ごとに変わるためです。

どれが本来の土地かを決められる資料は残っていません。 ここは「わかっていない」と書くほかありません。

デルフォイ(Delphi)

月桂樹をアポロンの聖木とした神託所

地図で開く

デルフォイの住所: ギリシャ フォキス地方 デルフォイ遺跡

デルフォイの祀られた神: アポロン(ダフネを祀った施設ではない)

デルフォイに残るもの: アポロン神殿の基壇と柱、劇場、競技場

デルフォイのご利益: 神託

ギリシャでもっとも重んじられた神託所です。ダフネを祀った場所ではありません。 アポロンの聖域です。

ただし、月桂樹がこの神の木であることを、目に見える形で確かめられる場所がここになります。

巫女は月桂樹の葉を噛んで神託を告げたと伝えられ、四年ごとの競技祭では勝者に月桂冠が授けられました。オリンピアがオリーブの冠を用いたのに対し、この地は月桂樹でした。

神殿の基壇と柱、劇場、競技場が斜面に沿って残っています。併設の博物館には、この地から出土した彫刻が収蔵されています。

所在はユネスコ世界遺産の登録情報(デルフォイの考古遺跡)で確認した。

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ダフネが現代に残した痕跡

ダフネの名は、冠・料理・植物名・音楽として現代に残りました。

月桂冠: 勝者と栄誉の印。古代の競技祭とローマの凱旋式で用いられ、いまも紋章や賞のしるしとして使われている。

ローリエ(ベイリーフ): 煮込み料理に使う香りづけの葉。神話の月桂樹と同じ植物である。勝者の冠と鍋の中の葉が同じものだという点は、あまり知られていない。

ジンチョウゲ属の学名: 香りの強い低木の一群に、この娘の名が属名として与えられている。

ベルニーニ「アポロンとダフネ」: 1620年代の大理石像。指先から葉が生え、足が根に変わり始めた瞬間を彫っている。ローマのボルゲーゼ美術館が所蔵する。

現存最古とされる歌劇の題: 1598年に上演された作品の題が、この娘の名である。歌劇という形式そのものが、この物語から始まったとされる。

「栄冠」を意味する外来語: ラテン語で月桂樹を指す語から派生し、詩人や受賞者に冠する称号としてヨーロッパ各国語に定着した。

ダフネが司るもの

純潔

狩りの女神アルテミスに倣い、独り身で通すことを願った。求愛を拒み続けた存在として語られる。

勝利

月桂樹となったことで、その葉が勝者と凱旋する将軍の冠に用いられるようになった。

アポロンの聖木となり、竪琴と詩の神の持ち物に葉が巻かれた。

神託

デルフォイの神託所では、巫女が月桂樹の葉を噛んで神託を告げたと伝えられる。

ダフネが登場するゲーム・アニメ

創作では、月桂樹に変わる場面だけが取り出されることがほとんどです。 矢が二本あったこと、恋が仕組まれたものだったことは、あまり描かれません。

もう一つ落ちるのが、ギリシャ側の別の筋です。女装した若者レウキッポスが先に殺されるという一段は、まず採られません。オウィディウス版のほうが一本筋で扱いやすいためです。

近年は、求愛を断るために人であることを捨てたという読み方が前面に出る作品も増えました。

ダフネが登場するゲーム

Fate シリーズ

月桂樹に変わる逸話が、能力や関係の説明に引かれます。

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女神転生シリーズ

木に姿を変えた存在として登場します。

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各種ロールプレイングゲームの「ダフネ」という名

植物や自然に関わる人物の名として繰り返し使われています。

ダフネが登場するアニメ・漫画・映像

各種の変身譚の翻案

追われて姿を変えるという筋は、変身を扱う物語の原型として繰り返し引かれます。

歌劇「ダフネ」

1938年に初演された作品をはじめ、この題材の歌劇は複数書かれています。最初期の歌劇の題材でもありました。

「ダフネ」という人物名

英語圏の作品では女性名として広く使われており、神話から離れて定着しています。

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ダフネについてよくある質問

ダフネとは何者ですか。

川の神の娘とされる妖精です。アポロンの求愛から逃れるため月桂樹に姿を変えました。神ではなく、物語の登場人物です。

ダフネのローマ名は何ですか。

ローマでも同じくダフネ(Daphne)です。名は置き換えられませんでした。ただしラテン語で月桂樹そのものはラウルス(laurus)と呼ばれ、月桂冠や栄誉を指す語はこちらから派生しています。

ダフネという名前の意味は何ですか。

ギリシャ語で「月桂樹」です。人の名が木になったのではなく、はじめから木の名を持つ人として語られています。変身の結果が、名前によってあらかじめ決まっている形です。

なぜアポロンはダフネを追ったのですか。

幼い愛の神をからかった報復として、恋を起こす黄金の矢を射込まれたためです。同時にダフネには恋を追い払う鉛の矢が射込まれました。二人が結ばれないよう、最初から仕組まれています。

月桂冠はダフネと関係がありますか。

あります。月桂樹になったダフネに対し、アポロンが「私の木になれ」と宣言し、その葉が凱旋する将軍の頭を飾ると約束したためです。デルフォイの競技祭でも勝者に月桂冠が授けられました。

料理に使うローリエは月桂樹ですか。

同じ植物です。煮込み料理に入れる香りづけの葉と、勝者の頭に載る冠は、どちらも月桂樹の葉です。

ダフネの話には別の筋がありますか。

あります。ギリシャ側の伝えでは、女装してダフネに近づいた若者レウキッポスが、アポロンの仕掛けで正体を暴かれて殺されます。そのあとでアポロンが追い、ダフネは大地に願って姿を消したとされます。父となる川の神も、書物によって変わります。

ダフネと併せて覚えたい言葉・用語

ニンフ(Νύμφη)

山・森・泉・木に宿る若い女神たち。神ではあるが不死ではなく、宿る木や泉が滅べば死ぬとされた。ギリシャ神話で最も数の多い存在。