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ギリシャ神話

タレイアとは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

Θάλεια  / タレイア

原初の神

喜劇の仮面と羊飼いの杖を持つムーサ。名は「花咲き茂る」。

タレイアとは何の神様か

タレイアはひとことで言えば笑いと実りの女神です。

ゼウスと記憶の女神ムネモシュネの娘で、九柱のムーサの一柱。名は「盛んに茂る」「花ひらく」を意味する動詞から作られています。

後世の整理では喜劇と牧歌を受け持ち、笑う口の仮面、羊飼いの曲がった杖、蔦の冠を持つ姿で描かれます。この分担はローマ時代以降のもので、ヘシオドスの段階では九柱はまとめて歌う一団でした。

アポロドーロスは、アポロンとの間にコリュバンテスを生んだと記します。武具を打ち鳴らしながら踊り、大地母神に付き従う者たちです。

笑いの女神から、盾を叩いて踊る者たちが生まれた。

もう一つ、必ず添えておかねばならないことがあります。優美の三女神カリスにも、まったく同じ名の一柱がいます。 名も語源も同じですが、別の存在です。

タレイアのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Θάλεια。日本語では「タレイア」「タレイアー」「タリア」と書かれます。

名の元になったのは「茂る」「栄える」を意味する動詞です。若い枝が伸び、花が開き、実が付く。植物が盛んになる状態を一語で表す言葉でした。

そこから「宴の賑わい」「祝いの席の華やぎ」という意味も生まれます。喜劇に結び付けられたのは、この方向の意味からです。

同じ語根から作られた名が、ギリシャ神話には三つあります。 ムーサのタレイア、カリスのタレイア、そして海のニンフの一人タレイアです。どれも「栄える」の名を持ちます。

日本語で読むときにいちばん間違えやすいのが、この重複です。 喜劇の仮面を持つならムーサ、輪になって踊る三姉妹の一人ならカリス、と持ち物で見分けるのが確実です。

Θάλεια(タレイア)

古代ギリシャ語の表記。「盛んに茂る」「花ひらく」を意味する動詞から作られた名。

タレイアー(タレイアー)

長音を残した学術的な表記。

タリア(タリア)

ラテン語を経た読みにもとづく表記。演劇史の書物ではこちらも使われる。

タレイア(カリスの一柱)(タレイア)

優美の三女神カリスにも同名の一柱がいる。母はエウリュノメで、こちらは花と実りの側に立つ。別の存在である。

タレイアの物語

  1. なぜ喜劇なのか ─ 茂る名と祭りの騒ぎ
  2. コリュバンテスの母 ─ 盾を打ち鳴らす子たち
  3. 二人のタレイア ─ 同じ名の別の女神

なぜ喜劇なのか ─ 茂る名と祭りの騒ぎ

喜劇はギリシャ語で「コモイディア」と言います。前半の「コモス」は、酔って歌いながら練り歩く一団を指す語でした。

ディオニュソスの祭りで、面をかぶって騒ぎ歩く行列。

そこから生まれた劇が喜劇です。だから喜劇はもともと、豊作と生殖の祭りと切り離せません。

タレイアの名が「盛んに茂る」を意味することを思い出すと、この割り当ては筋が通っています。実りの言葉と、祭りの騒ぎと、笑いの劇は、ギリシャでは一続きでした。

持ち物の蔦の冠も、ディオニュソスの印です。羊飼いの杖が加わるのは、この女神が牧歌も受け持つとされたためです。牧歌は羊飼いが歌う体裁の詩で、田園の暮らしを歌います。

喜劇と牧歌。どちらも、都のまじめな場所から少し離れたところにあるものです。 実りと騒ぎと田園。この三つが、一柱の女神のもとに集められました。

コリュバンテスの母 ─ 盾を打ち鳴らす子たち

アポロドーロスは、この女神とアポロンの間に生まれた者たちを記しています。コリュバンテスです。

コリュバンテスは、武具を身につけ、盾を打ち鳴らしながら激しく踊る一団です。小アジアの大地母神キュベレに付き従い、その行列を先導しました。

太鼓と鉦、そして盾を叩く音。 踊り手は我を忘れ、痛みを感じなくなる。

クレタ島で赤子のゼウスを守ったクレテスとよく混同されます。こちらも武具を打ち鳴らして音を立て、父クロノスに泣き声を聞かせませんでした。古代の書き手も、二つの集団をしばしば混ぜて語っています。

この系譜は、タレイアの性格を思わぬ方向へ広げます。笑いの女神が、我を忘れる激しい踊りの親でもあることになるからです。

実際、喜劇の合唱も、祭りの行列も、我を忘れる要素を持っていました。行儀のよい笑いではなく、箍が外れる笑いのほうが、この女神の領分に近いのかもしれません。

二人のタレイア ─ 同じ名の別の女神

ギリシャ神話でいちばん紛らわしい同名のひとつが、この名です。

ムーサのタレイアは、ゼウスとムネモシュネの娘。喜劇の仮面を持ちます。

カリスのタレイアは、ゼウスとエウリュノメの娘。アグライア、エウプロシュネと並ぶ優美の三女神の一柱で、輪になって踊る姿で描かれます。

父は同じゼウス。母が違う。

名の意味はどちらも「盛んに茂る」で、由来も同じです。同じ言葉から、別の系譜に、別の女神が立ち上がったことになります。

見分ける方法は持ち物です。仮面と杖ならムーサ、裸身で輪になって踊る三人の一人ならカリスです。

さらにもう一柱、ネレイスと呼ばれる海のニンフのなかにも同じ名があります。ヘシオドスが五十人の名を並べる箇所に出てきます。

古代ギリシャでは、こうした名前の重なりは珍しくありません。 神の名は多くが普通の単語だったので、同じ語が別々の場所で名になったのです。この図鑑では、カリスのタレイアは独立の記事にせず、カリスの項でまとめて扱っています。

タレイアの家系図と家族

タレイアの親: ムネモシュネ記憶の女神が生んだ九柱の一人ゼウスムーサ九柱の父

タレイアのきょうだい: エウテルペムーサ九柱のきょうだいメルポメネムーサ九柱のきょうだい

タレイアの妻・夫: アポロン武具を打ち鳴らして踊るコリュバンテスの親とされる

タレイアの性格と人物像

タレイアには、単独で動いた記録がほとんどありません。

怒った場面も、嘆いた場面もありません。九柱そろっての罰の話には数えられますが、この女神ひとりの行いとしては書かれていません。

残っているのは、名前持ち物と、子の系譜の三つです。しかしこの三つは、ばらばらではなく一つの方向を指しています。

名は茂ること。持ち物は笑う仮面と羊飼いの杖。子は盾を打ち鳴らして踊る者たち。どれも、静かに整うことではなく、勢いよくあふれることを表しています。

姉妹と並べると、その位置がよく分かります。悲劇のメルポメネ抑えることを担うとすれば、この女神が担うのは放つことです。二つの仮面が対にして掲げられるのは、単に劇の二種類を並べたからではありません。

もう一つ、この女神には格の高さを主張する場面がありません。 喜劇は、ギリシャでも悲劇より下に見られていました。牧歌も同じです。

下に見られる領分を持たされて、それを苦にした記録がない神。 そこにこの女神の性格を読むこともできます。笑いは、格を気にしないところにしか生まれないからです。

タレイアを祀った神殿と遺跡

タレイアひとりを祀った神殿は確かめられませんでした。 ムーサは九柱そろって祀られるのが古代の形です。

代表となるのが、ボイオティア地方ヘリコン山麓のムーサの谷で、祭壇・劇場・柱廊の跡が残ります。

注意したいのは、喜劇の上演はムーサの聖域ではなく、ディオニュソスの祭りで行われたことです。劇場に立てられた祭壇は、ムーサではなくディオニュソスのものでした。

同名のカリスのタレイアには、ボイオティア地方のオルコメノスに古い聖所があったとパウサニアスが伝えますが、その位置を確定できる資料は見つかりませんでした。

ムーサの聖域(ムーサのせいいき)

ヘシオドスが歌ったムーサ九柱の聖域

地図で開く

ムーサの聖域の住所: ギリシャ ボイオティア地方 ヘリコン山麓 ムーサの谷

ムーサの聖域の祀られた神: ムーサ九柱

ムーサの聖域に残るもの: 祭壇・劇場・柱廊の跡

ヘリコン山の北側の谷にある聖域です。九柱はここでまとめて祀られました。

聖域には劇場があり、数年ごとに詩と音楽の競技が開かれたとパウサニアスは書いています。

タレイアひとりを祀った祭壇は、この聖域にも伝わっていません。 喜劇そのものは、ここではなくディオニュソスの祭りの場で上演されました。

古代の町テスピアイの跡が近くにある。

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タレイアが現代に残した痕跡

タレイアの名は、演劇の看板として現代に残りました。

喜劇の仮面: 笑う口の仮面と泣く口の仮面を対にした図案は、劇場と演劇そのものを表す印になった。笑う側がこの女神を表す。

劇場・劇団の名: ヨーロッパ各地の劇場や劇団に、この女神の名が付けられている。

小惑星タレイア: 1852年に発見された小惑星23番の名。

ヘロドトスの巻の名: 『歴史』全九巻に付けられたムーサの名のうち、第三巻がこの女神の名を負う。

タレイアが司るもの

笑い

喜劇を受け持つとされる。喜劇は祭りの練り歩きから生まれた劇である。

喜び

名は「盛んに茂る」を意味し、宴の賑わいを指す語でもあった。

演劇

笑う口の仮面は、悲劇の仮面と対にされて演劇そのものの印になった。

花と実り

名の元は植物が盛んになる状態を表す動詞である。

タレイアが登場するゲーム・アニメ

タレイアは、人物としてより「笑う仮面」という図案として広がりました。 悲劇のメルポメネと対にされ、二つ並べば演劇を意味する記号になります。

原典に単独の物語がないため、登場人物としてはほとんど使われません。名前だけが劇場と劇団に残っています。

タレイアが登場する絵画・彫刻

ローマ時代のムーサ像群

喜劇の仮面を手にし、羊飼いの杖を持つ立像として、九柱そろいの彫刻群に置かれます。

ムーサを描いた壁画

ヘルクラネウムなどの遺跡から、九柱を一柱ずつ描いた壁画が見つかっています。

タレイアが登場する演劇・創作

二つの仮面の図案

劇場の緞帳や看板に使われる笑いと泣きの仮面は、タレイアとメルポメネの対から生まれた図案です。

喜劇を扱う作品の女神像

舞台裏や劇場のロビーに、仮面を持つ女神像が置かれることがあります。

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タレイアについてよくある質問

タレイアはどんな神ですか。

ムーサ九柱の一柱で、ゼウスと記憶の女神ムネモシュネの娘です。名は「盛んに茂る」を意味し、後世の整理では喜劇と牧歌を受け持つとされます。

カリスのタレイアと同じ神ですか。

別の存在です。カリスのタレイアはゼウスとエウリュノメの娘で、優美の三女神の一柱です。名も語源も同じですが、系譜も持ち物も違います。

タレイアの子は誰ですか。

アポロンとの間にコリュバンテスを生んだとアポロドーロスは記します。武具を打ち鳴らしながら踊り、大地母神キュベレに付き従った者たちです。

喜劇と牧歌はなぜ同じ女神なのですか。

どちらも実りと田園に結びつくためです。喜劇は祭りの練り歩きから生まれ、牧歌は羊飼いが歌う体裁の詩でした。名が「盛んに茂る」を意味することとも通じています。

タレイアを祀った神殿はありますか。

この女神ひとりを祀った神殿は確かめられませんでした。九柱そろってのムーサの聖域で祀られ、ボイオティア地方ヘリコン山麓のムーサの谷にその跡が残ります。

タレイアと併せて覚えたい言葉・用語

ニンフ(Νύμφη)

山・森・泉・木に宿る若い女神たち。神ではあるが不死ではなく、宿る木や泉が滅べば死ぬとされた。ギリシャ神話で最も数の多い存在。

ムーサ(Μοῦσαι)

学問と芸術を司る九人の女神。英語ではミューズ。museum(ムーサの神域)と music(ムーサの技)の語源。