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ギリシャ神話

コロニスとは何の神様か|家系図・物語

Κορωνίς  / コロニス

大地 英雄

アポロンの子を宿しながら人を選び、火葬の炎から子だけを奪われた娘。

コロニスとは何の神様か

コロニスはひとことで言えば医術を産んで死んだ人間です。

テッサリアの王ピレギュアスの娘。アポロンに愛され、その子を宿しました。

ところが出産の前に、人間の若者イスキュスを選びます。見張りの鳥がそれを神に告げました。

白かった羽根は、この報せのために黒く変えられた。

カラスです。「コロニス」という名も、カラスを意味する語から来ています。告げ口をした鳥と、告げられた娘が、同じ名前を分け持っています。

アポロンは怒り、アルテミスの矢がこの娘を射ました。しかし火葬の薪に火が回ったとき、

神は腹から子を引き出し、炎のなかから連れ去った。

その子が医神アスクレピオスです。子は賢者ケイロンに預けられ、死者さえ蘇らせる医術を身につけました。

母の死が、医術の始まりになっています。 殺したのは相手ではなく彼女のほうだった、という点に、この話の後味の悪さがあります。

コロニスのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Κορωνίς。日本語では「コロニス」と書きます。

この名はカラスを意味する語から作られています。「小さなカラス」と読める形です。

物語では、カラスが告げ口をして罰を受け、白から黒になります。 告げ口をした鳥と、告げられた娘が同じ名前を分け持っている。名前が先にあって、そこから話が組み立てられた可能性があります。

もう一つ、この名は曲がったものを意味する語とも近い関係にあります。書物の終わりに付ける飾りの印を指す語も同じ系統で、そこから楽譜や文字の記号の名にもなりました。

母の名は土地によって違います。ペロポネソス半島のメッセニアではアルシノエという別の女性を医神の母としました。医術の神の出身地をめぐる争いが、母の名の違いとして残っています。

Κορωνίς(コロニス)

古代ギリシャ語の表記。カラスを意味する語から作られた名で、「小さなカラス」と読める形をしている。

コローニス(コローニス)

長音を残した学術的な表記。

ピレギュアスの娘(ピレギュアスのむすめ)

テッサリアの王家の出であることを示す呼び方。父は神域を焼いたために罰せられたと伝えられる。

アルシノエ(アルシノエ)

ペロポネソス半島の一部の土地では、アスクレピオスの母をこの名の女性とした。母の名が地域によって違っている。

コロニスの物語

  1. 告げ口をした鳥 ─ 白から黒へ
  2. 火葬の薪から ─ 医術の始まり
  3. どこで生まれたのか ─ 母の名が土地で変わる

告げ口をした鳥 ─ 白から黒へ

オウィディウス『変身物語』第2巻が、この話を詳しく書いています。

アポロンは、この娘に見張りとして一羽の鳥を付けていました。当時、その鳥は銀のように白い羽根をしていたといいます。

鳥は、娘が人間の若者と会っているのを見つけ、報せに飛びます。途中で年老いたカラスが呼び止め、

やめておけ。私も告げ口をして、女神に見放された。

と自分の身の上を語って忠告しました。しかし鳥は聞かず、主人のもとへ飛んで報告します。

結果はこうです。

神は矢を取って娘を射た。 そして鳥の羽根を、白から黒に変えた。

告げ口をした側も罰を受けています。 真実を伝えたのに罰される、という筋書きです。

『変身物語』は、鳥の変色を主題にした一連の話としてこれを配置しています。話の中心は娘の死ではなく、カラスがなぜ黒いのかの説明でした。

ピンダロスの古い詩では、鳥の登場しない版が語られます。そちらでは、アポロンは自分の知恵で全てを見抜いています。

火葬の薪から ─ 医術の始まり

娘は射られて倒れます。ここからが、この話の核心です。

死ぬ間際、娘は言った。 私は罰を受けるにしても、腹の子には罪がない。

アポロンは自分の矢を悔やみます。神でありながら、射たものを生き返らせることができません。

遺体は薪に積まれ、火がつけられました。炎が回ったとき、

神は炎のなかへ手を入れ、子を引き出した。

生まれたのがアスクレピオスです。母の火葬が、そのまま出産になっています。

子は山へ運ばれ、賢者ケイロンに預けられました。ケイロンは薬草の知識で知られ、この子に医術を教えます。

育った子は、やがて死者を蘇らせるところまで腕を上げました。冥界の秩序が崩れることを恐れたゼウスが、雷でこれを撃ち殺します。

母は蘇生できず、その子は蘇生の術を身につけ、そのために殺された。 この家系は、生き返らせることをめぐって二代続けて罰を受けています。

どこで生まれたのか ─ 母の名が土地で変わる

医神アスクレピオスは、ギリシャ全土で祀られた人気のある神です。そのため、どこで生まれたかが土地の誇りになりました。

テッサリアの版では、母はコロニスで、生まれたのは北の平原です。

エピダウロスの版では、身重の娘が父とともにこの地へ来て山中で産み、

捨てられた赤子に山羊が乳を与え、犬が番をしていた。

と語られます。医療の聖域として最も名高い土地が、自分たちを生誕地としています。

さらにペロポネソス半島のメッセニアでは、母の名がアルシノエという別の女性になります。パウサニアスは、この食い違いをはっきり書き残しました。

ある人はコロニスと言い、ある人はアルシノエと言う。

神託にうかがった者がいた、という話まで伝えられています。

母の名が三つに割れているのは、資料が乏しいからではありません。 医神の出身地を主張したい土地が複数あったからです。神話の異説が、その土地の利害から生まれることを、はっきり示す例です。

コロニスの家系図と家族

コロニスの妻・夫: アポロンアポロンに愛され、子を宿した

コロニスの子・子孫: ヒュギエイア医神の家系。コロニスの孫にあたるアスクレピオス火葬の炎から子が取り出された

コロニスの性格と人物像

コロニスは、弁明を与えられなかった人です。

人間の若者を選んだ理由を、原典はほとんど説明しません。オウィディウスは一行、「若さゆえの過ち」とだけ書きます。神を捨てた理由が語られないまま、罰だけが下されています。

ただし、死ぬ間際の一言は残りました。自分の罰は受けるが、腹の子に罪はないという言葉です。この一言のために、子は助かりました。

ピンダロスは別の見方を示します。この娘は、

手にあるものを見ずに、遠くにあるものを求めた

のだと批評しました。神という最高の相手を得ていながら、そこにないものへ向かった。古代の詩人は、それを人間の愚かさの典型として扱っています。

性格として語れる材料は少ないものの、この娘は物語の分岐点にいます。 選ばなければ死なず、死ななければ火葬もなく、火葬がなければ医神の誕生もありません。

間違いを犯したことで、結果として医術を世に出した人物という、収まりの悪い位置に置かれています。

コロニスゆかりの地と遺跡

コロニスを祀った神殿は確かめられませんでした。

この娘は神ではなく、罰を受けて死んだ人間として語られます。祀られたのは息子のアスクレピオスであり、母の名は由来として呼ばれるだけでした。

ただし、エピダウロスにはこの娘にまつわる伝えがあります。身重の娘が父とともにこの地へ来て山中で子を産み、捨てられた赤子に山羊が乳を与え、犬が番をしていたと伝えられます。医療の聖域として最も名高い土地が、自分たちを医神の生誕地としていました。

テッサリアには、この一族の名を負う土地の伝えが残ります。またペロポネソス半島のメッセニアでは、母の名そのものが別人になります。

母の名と生誕地が土地ごとに違うこと自体が、この娘の位置を示しています。

コロニスが現代に残した痕跡

コロニスの名は、鳥の色の由来記号の名として残りました。

カラスが黒い理由: この娘を告げ口した鳥が、罰として白から黒に変えられたという話。『変身物語』の鳥の変身譚のなかでも、よく知られたものにあたる。

書物の終わりの飾り: 同じ語根から、巻物の終わりに付ける飾りの印を指す語が作られた。そこから楽譜や文字の記号の名にもなっている。

医神の母という位置: 医療の聖域はどこもこの一族との縁を語った。母の名が土地によって違うのは、生誕地を主張したい土地が複数あったためである。

小惑星コロニス: 1876年に発見された小惑星158番の名。似た軌道を持つ一群は、この名で呼ばれている。

コロニスが司るもの

母子

死の間際に腹の子の助命を願い、その一言で医神が生まれたと伝えられる。

子の誕生

火葬の炎のなかから子が取り出されるという、異例の出産譚を持つ。

医術

この娘の死が、医神アスクレピオスの誕生と医術の始まりにつながっている。

過ちを繰り返さないこと

手にあるものを見ずに遠くを求めた例として、古代の詩人が戒めに引いた。

コロニスについてよくある質問

コロニスはどんな人ですか。

テッサリアの王ピレギュアスの娘です。アポロンに愛されて医神アスクレピオスを身ごもりましたが、出産の前に人間の若者を選び、そのために射殺されました。

なぜカラスは黒くなったのですか。

この娘の行いをアポロンに告げ口したためです。もとは白い鳥でしたが、報せを受けた神が怒り、羽根を黒く変えたとオウィディウスは書いています。真実を伝えた側も罰を受けた形になります。

アスクレピオスはどうやって生まれたのですか。

火葬の薪に火が回ったとき、アポロンが炎のなかへ手を入れて胎児を引き出しました。子は賢者ケイロンに預けられ、そこで医術を身につけます。

母の名が違う話があるのはなぜですか。

医神アスクレピオスの生誕地を主張したい土地が複数あったためです。ペロポネソス半島のメッセニアでは母をアルシノエという別の女性とし、パウサニアスはその食い違いを書き残しています。

祀られた場所はありますか。

確かめられませんでした。祀られたのは息子のアスクレピオスで、母の名は由来として呼ばれるだけです。エピダウロスには、この娘が山中で子を産み、山羊が乳を与えたという伝えが残ります。