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ギリシャ神話

スキュラとは何の神様か|家系図・物語

Σκύλλα  / スキュラ

原初の神

六つの首で船乗りをさらう海の怪物。反対側には渦のカリュブディス。

スキュラとは何の神様か

スキュラはひとことで言えば避けられない損害です。この怪物の意味は、単独ではなく対になる存在との組み合わせにあります。

狭い海峡の一方の岩に潜みます。

首が六つ、それぞれに三重の歯。 足は十二本。腰から下は洞窟の奥に隠れている。

通る船から一度に六人をさらい、岩の上で食います。

反対側の岩の下には、大渦カリュブディスがいます。日に三度、海水ごと呑み込み、船があれば船ごと沈めます。

海峡は狭く、両方を避けることはできません。 キルケーはオデュッセウスにこう言いました。

カリュブディスへ寄れば、全員が死ぬ。 スキュラへ寄れ。六人を失うが、それだけで済む。

どちらを選んでも損をするが、選ばなければもっと損をする。 この構図がそのまま言い回しになり、ヨーロッパ各国語に残りました。

スキュラのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Σκύλλα。日本語では「スキュラ」で定着しています。

語源は定まっていません。「引き裂く」を意味する動詞と結び付ける説と、子犬の鳴き声を表す語と結び付ける説があります。後者は、この怪物の描写と合います。

その声は、生まれたばかりの子犬の鳴き声のようであった。

恐ろしい姿に、か細い鳴き声を組み合わせる。 ホメロスはこの落差を書きました。

名は地名になりました。イタリア半島の先端、メッシーナ海峡に面した町シッラは、この怪物の名を引き継いでいます。

Σκύλλα(スキュラ)

古代ギリシャ語の表記。「引き裂く」を意味する語や、犬の鳴き声を表す語と結び付ける説がある。

Scylla(スキュラ)

ローマでの綴り。英語では「シラ」に近い読みになる。

シッラ(シッラ)

イタリア南部カラブリア州の町の名。この怪物の名が地名として残ったもの。

Χάρυβδις(カリュブディス)

対になる大渦の名。スキュラと必ず一組で語られる。

スキュラの物語

  1. 海峡の両側 ─ 二つを同時に避けられない
  2. 六人がさらわれる ─ 隠して進んだ理由
  3. もとはニンフだった ─ オウィディウス版
  4. 言い回しとして残る ─ 前門の虎、後門の狼

海峡の両側 ─ 二つを同時に避けられない

『オデュッセイア』第12歌が、この場所を詳しく描きます。

海峡の両側に岩が立っています。一方は雲を突く高い岩で、その中ほどの洞窟にスキュラがいます。

洞窟は暗く、下から矢を射ても届かない。 六つの首を伸ばして、通る船から漁をする。

もう一方の岩は低く、その下でカリュブディスが海を呑みます。

日に三度、黒い水を吐き出し、三度呑み込む。 呑み込むときに近づけば、大地を揺るがす者でさえ救えない。

二つの岩の間隔は、矢の届く距離しかありません。つまり、片方を避ければ必ずもう片方に近づきます。

キルケーは選択を明示しました。カリュブディスは全損、スキュラは六人。より小さい損害を選べ、と。

数の問題として提示されている点が、この場面の冷たさです。

六人がさらわれる ─ 隠して進んだ理由

オデュッセウスは、キルケーの助言を部下にそのまま伝えませんでした。

スキュラのことは黙っていた。 話せば、恐れて漕ぐ手を止めると思ったからである。

そして自分は武装し、槍を構えて船首に立ちます。キルケーは「戦うな、逃げろ」と言っていたのに、です。

通過の瞬間、

六つの首が同時に伸び、六人をさらった。 彼らは名を呼びながら、宙で足をばたつかせた。

オデュッセウスはこう書き残します。

海で見たもののうち、これがもっとも哀れであった。

指揮官は、六人が死ぬと知りながら、その六人に知らせずに進みました。 全員を助ける道はなく、知らせれば混乱して全滅すると判断したためです。

『オデュッセイア』は、この判断の是非を論じません。ただ、主人公自身に「もっとも哀れだった」と言わせています。

もとはニンフだった ─ オウィディウス版

「もとは美しい娘だった」という筋は、ローマの詩人オウィディウスが書いたものです。『変身物語』第14巻にあります。

スキュラは海辺で遊ぶニンフでした。海神グラウコスに求愛されますが、これを拒みます。

グラウコスは魔女キルケーのもとへ行き、彼女の心を得る薬を求めました。ところが、

キルケー自身が、グラウコスに恋をしていた。

断られた魔女は、スキュラが水浴びする入り江に薬を注ぎ込みます。

腰から下が、吠える犬の頭の群れに変わった。 逃げようとしても、それは自分の体であった。

スキュラは絶望のあまり岩と一体になり、以後、船を襲う怪物になったとされます。

ここでも、罰を受けたのは求愛を断った側です。 メドゥーサと同じ型で、ローマ期に繰り返し書かれた筋です。

ホメロスの『オデュッセイア』には、この前史は一切ありません。はじめから怪物として登場します。

言い回しとして残る ─ 前門の虎、後門の狼

この場面から、ヨーロッパ各国語に共通の言い回しが生まれました。

スキュラとカリュブディスのあいだ。

意味は「どちらを選んでも損をする状況」です。日本語の「前門の虎、後門の狼」「進退きわまる」に近い使われ方をします。

ただし、ニュアンスに違いがあります。

日本語の言い回しは、どちらも同じくらい危険という含みが強い。 ギリシャ語のこの言い回しは、片方のほうが被害が小さいという含みを持つ。

キルケーの助言が「六人で済むほうを選べ」だったからです。選べない状況ではなく、損を計算して選ぶ状況を指します。

中世以降、この言い回しは説教や政治論で多用されました。二つの誤りのあいだで、より小さいほうを選ぶ、という論の型です。

現代でも、経営や政策の議論で使われ続けています。

スキュラの家系図と家族

スキュラの親: ポルキュス父とする伝えがある

スキュラのきょうだい: セイレーンともに帰路をふさぐ難所として並べられる

スキュラの性格と人物像

スキュラには、性格を語れる材料がほとんどありません。

ホメロスの描写にあるのは、姿と、鳴き声と、獲物を取る動作だけです。話しません。交渉もしません。洞窟から出ることもありません。

この怪物は、動かない障害物として置かれています。追ってきたり、企んだりはしません。そこにいて、通る者から一定数を取る。それだけです。

だからこそ「損害」の比喩として機能しました。悪意ではなく、避けられない条件として書かれているためです。

オウィディウスが加えた前史は、この点をまったく変えました。求愛を断り、嫉妬され、体を変えられ、逃げようとして逃げられない。動かない障害物が、突然、被害者になります。

近代の絵画や文学がスキュラを扱うとき、参照されるのはほぼオウィディウス版です。ホメロスの、何も語らない障害物としてのスキュラは、あまり描かれません。

スキュラゆかりの地と遺跡

スキュラを祀った神殿はありません。 怪物であり、信仰の対象ではないからです。

伝承の舞台は、古代からイタリア半島とシチリア島のあいだのメッシーナ海峡とされてきました。海峡には実際に強い潮流と渦があり、帆船の時代には難所でした。

イタリア側の町シッラ(カラブリア州)は、この怪物の名を地名として引き継いでいます。

ただし、ホメロスが実在のメッシーナ海峡を指して書いたという確実な証拠はありません。 同一視は後代の地理書によるもので、古代のうちから議論がありました。ここは「そう考えられてきた」と書くにとどめます。

スキュラが現代に残した痕跡

スキュラの名は、言い回し・地名・生物名として現代に残りました。

「スキュラとカリュブディスのあいだ」: どちらを選んでも損をする状況を指す言い回し。ヨーロッパ各国語で使われ、より小さい損を選ぶという含みを持つ。

シッラ(イタリア・カラブリア州): メッシーナ海峡に面した町。怪物の名がそのまま地名として残った。海に突き出た岩の上に城が建つ。

カニの一群の学名: ワタリガニ科の一属にこの怪物の名が与えられている。

ターナー「グラウコスとスキュラ」: 1841年の絵画。オウィディウス版の場面を描いたもので、アメリカのキンベル美術館が所蔵する。

スキュラが司るもの

祈願の対象ではありません

怪物であり、古代に祀られた記録はない。航海の安全を願う相手は、この怪物ではなくポセイドンなどの海の神であった。

スキュラが登場するゲーム・アニメ

創作では、カリュブディスと切り離されて単独の敵として出ることが多くなりました。 しかし原典では、二つで一組であることに意味があります。

片方だけでは「強い敵」にしかなりません。両方あってはじめて「選ばざるを得ない」という状況が成立します。

六人を見殺しにして進む、という指揮官の判断まで描いた作品は、多くありません。

スキュラが登場するゲーム

God of War シリーズ

多数の首を持つ海の敵として登場します。

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アサシン クリード オデッセイ

古代ギリシャの海を舞台にした作品で、伝承として言及されます。

女神転生シリーズ

海の怪物として登場します。

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スキュラが登場するアニメ・漫画・映像

各種のオデュッセイア翻案作品

海峡の通過は、航海譚の見せ場として必ず取り上げられます。

パーシー・ジャクソンシリーズ

カリュブディスとともに海の難所として登場します。

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スキュラについてよくある質問

スキュラは何の怪物ですか。

狭い海峡の岩に潜み、六つの首で通る船から一度に六人をさらう海の怪物です。反対側の大渦カリュブディスと一対で語られます。

スキュラとカリュブディスの違いは何ですか。

スキュラは六つの首を持つ怪物で、船から六人を取ります。カリュブディスは日に三度海水を呑み込む大渦で、近づけば船ごと沈みます。海峡の両側にいて、どちらか一方を選ぶしかありません。

オデュッセウスはどちらを選びましたか。

スキュラの側です。キルケーの助言に従い、全員を失うより六人で済むほうを選びました。ただし部下にはスキュラのことを伝えないまま進んでいます。

スキュラはもともと人間だったのですか。

書物によって違います。ホメロス『オデュッセイア』でははじめから怪物です。ローマのオウィディウス『変身物語』では、もとは海のニンフで、海神グラウコスの求愛を断ったところ、彼に恋していた魔女キルケーに薬を盛られて姿を変えられたとされます。

「スキュラとカリュブディスのあいだ」とはどういう意味ですか。

どちらを選んでも損をする状況を指す言い回しです。日本語の「前門の虎、後門の狼」に近い意味ですが、より小さい損を選ぶという含みを持つ点が違います。

スキュラの海峡は実在しますか。

古代からイタリアとシチリアのあいだのメッシーナ海峡とされてきました。実際に強い潮流と渦がある難所です。ただし、ホメロスがこの海峡を指して書いたという確実な証拠はなく、同一視は後代の地理書によるものです。

スキュラと併せて覚えたい言葉・用語

ニンフ(Νύμφη)

山・森・泉・木に宿る若い女神たち。神ではあるが不死ではなく、宿る木や泉が滅べば死ぬとされた。ギリシャ神話で最も数の多い存在。