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ギリシャ神話

キマイラとは何の神様か|家系図・物語・ゆかりの地

Χίμαιρα  / キマイラ

原初の神

獅子と山羊と蛇が一体になった怪物。口から火を吐く。

キマイラとは何の神様か

キマイラはひとことで言えば三つの動物が一体になった怪物です。テュポーンエキドナの子で、姉妹にヒュドラとスフィンクスがいます。

『イリアス』第6歌の描写が、もっとも古い形です。

前は獅子、後ろは蛇、中は山羊。 恐ろしい火の勢いを吹き出していた。

神の血筋であって、人間の生き物ではないとホメロスははっきり書いています。

住んだのは小アジアのリュキア(今のトルコ南西部)。土地を焼き、家畜を奪いました。

討ったのはベレロフォンです。天馬ペガサスにまたがって空から近づき、

槍の先に鉛を付けて、口の中へ投げ入れた。 鉛は火の熱で溶け、内臓を焼いた。

火を吐く力が、そのまま死因になりました。

名は現代語に残りました。生物学のキメラは、一つの個体に異なる遺伝情報の細胞が混じった状態を指します。

キマイラのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Χίμαιρα。日本語では「キマイラ」と「キメラ」の両方が使われます。

原義は「山羊」です。 正確には「一冬を越した雌の山羊」を指す、家畜の年齢を表す普通の言葉でした。三体一身の怪物のうち、真ん中の山羊がそのまま名になっています。

日本語では、神話の怪物は「キマイラ」、生物学の用語は「キメラ」と使い分ける習慣があります。同じ語のギリシャ語読みと英語読みです。

遺伝子の異なる細胞が一つの体に混じった状態を指す「キメラ」は、20世紀の生物学がこの怪物の名を借りたものです。

Χίμαιρα(キマイラ)

古代ギリシャ語の表記。もとは「一冬を越した雌の山羊」を意味する普通名詞である。

Chimaera(キマエラ)

ローマでの綴り。英語では「カイミラ」に近い読みになる。

キメラ(キメラ)

日本語での別表記。生物学・医学の用語としてはこの形が定着している。

キマイラ山(キマイラさん)

リュキアにある山の名。ふもとの岩から天然ガスが噴き出して燃え続けており、怪物の名がそのまま付いている。

キマイラの物語

  1. どんな姿だったのか ─ 三体一身の組み方
  2. ベレロフォンの遠征 ─ 死ねという命令
  3. 鉛を溶かす ─ 火を弱点にする
  4. 燃え続ける山 ─ いまも火が出ている場所

どんな姿だったのか ─ 三体一身の組み方

書物によって、体の組み方が少しずつ違います。

ホメロス『イリアス』は「前は獅子、後ろは蛇、中は山羊」とだけ書きます。ヘシオドス『神統記』はもう少し具体的です。

三つの頭を持つ。 一つは獅子、一つは山羊、一つは蛇。

「三つの頭」と「一つの体の三つの部分」では、絵に描いたときの姿がまったく違います。

古代の壺絵や彫刻に残るのは、ほぼ次の形です。

獅子の体に獅子の頭。背中の中ほどから山羊の頭が生える。尾が蛇の頭になっている。

紀元前5世紀のアレッツォのキマイラ(エトルリアの青銅像)が、この形の代表例です。フィレンツェの国立考古学博物館が所蔵しています。

火を吐くのは、書物によって獅子の口とも山羊の口とも読めます。そこも定まっていません。

ベレロフォンの遠征 ─ 死ねという命令

この退治は、殺す目的で送り出された任務でした。

ベレロフォンは、王妃の誘いを断ったために逆恨みされ、身に覚えのない罪を着せられます。しかし客人を殺すのは掟に反する。そこで王は、

折りたたんだ書板を持たせ、リュキアの王のもとへ送った。 板には「この者を殺せ」と書かれていた。

本人が自分の死刑執行令状を運んだわけです。文字が出てくるホメロス最古の場面としても知られています。

リュキア王も客人を直接は殺せません。かわりに命じたのが、キマイラ退治でした。

誰も生きて帰らぬ相手である。行けば死ぬ。

ところがベレロフォンは、アテナの助けで天馬ペガサスを手に入れていました。地上の敵を、空から攻める。 前提が崩れます。

鉛を溶かす ─ 火を弱点にする

退治の方法は、後代のアポロドーロスや注釈がくわしく伝えます。

ベレロフォンは矢では仕留められないと見て、槍の穂先に鉛の塊を付けました。 そして空から降下し、

怪物の口の中へ、その槍を突き入れた。

吐き出される火の熱で鉛は溶け、溶けた金属が喉から内側へ流れ落ちて、内臓を焼きました。

武器で殺したのではありません。相手自身の火で殺しています。

ギリシャ神話の怪物退治は、たいてい相手の性質を逆手に取ります。

メドゥーサは、見れば石になるので見ないで斬った。 ヒュドラは、切れば生えるので焼いて塞いだ。 キマイラは、火を吐くので溶ける物を投げ込んだ。

力比べで勝った例は、ほとんどありません。弱点を見つけた者が勝ちます。

燃え続ける山 ─ いまも火が出ている場所

リュキア(今のトルコ南西部)には、地面から炎が出続けている場所があります。

岩の割れ目から天然ガスが漏れ、自然に発火して燃え続けているもので、少なくとも二千年以上、消えたことがありません。古代の人はこれを見て、

山の下に、まだキマイラが生きている。

と考えました。地名もキマイラです。現在の地図にはヤナルタシュ(燃える石)という名で載っています。

古代の地理学者ストラボンも、リュキアにキマイラの名を持つ谷があると記録しています。

火を吐く怪物の話が、燃える山から生まれたのか。それとも先に話があって、山に名が付いたのか。 どちらが先かは分かっていません。

ただ、火が実際に出ている土地に、火を吐く怪物の伝説があったという事実は動きません。地理と神話が結びついた、はっきりした例です。

キマイラの家系図と家族

キマイラの親: エキドナテュポーン

キマイラの性格と人物像

キマイラには、意志も台詞もありません。

土地を荒らし、家畜を襲い、討たれる。それだけが書かれています。企みも、恨みも、交渉もありません。

この怪物の意味は、性格ではなく形にあります。

一つの体に、三つの生き物が同居している。

ギリシャの怪物には、この「混ざり方」を持つものが多くいます。スフィンクス(獅子と人と鳥)、ケンタウロス(人と馬)、セイレーン(人と鳥)。世界の秩序に対する違反として、混合が使われています。

キマイラはその中でももっとも極端で、三つの動物が一つになっています。だから名前がそのまま「混じったもの」を指す言葉になりました。

現代の生物学が遺伝子の混在にこの名を付けたのは、比喩ではなく、原義どおりの使い方です。二千数百年前の怪物の名が、いま実験室で使われています。

キマイラゆかりの地と遺跡

キマイラを祀った神殿はありません。 怪物であり、信仰の対象ではないからです。

かわりに残ったのは、その名が付いた土地でした。トルコ南西部のヤナルタシュは、古代から「キマイラ」と呼ばれてきた場所で、いまも地面から炎が出続けています。

神話の生き物の名を持つ土地で、いまも実際に火が燃えている。 こういう例は多くありません。

退治の場面を描いた美術は各地の博物館に残ります。とくにアレッツォのキマイラ(紀元前5〜4世紀のエトルリアの青銅像)は、フィレンツェの国立考古学博物館が所蔵する代表作です。

キマイラ山(ヤナルタシュ)(Yanartas)

二千年以上燃え続ける天然ガスの噴出地

地図で開く

キマイラ山(ヤナルタシュ)の住所: トルコ アンタルヤ県(古代リュキア地方、オリュンポス遺跡の近く)

キマイラ山(ヤナルタシュ)の祀られた神: (祀られた神はいない。伝承地)

キマイラ山(ヤナルタシュ)に残るもの: 燃え続ける岩場と、周辺の遺構

山腹の岩の割れ目から天然ガスが漏れ出し、自然に発火して燃え続けている場所です。古代からその名を「キマイラ」と言い、現在のトルコ語名ヤナルタシュは「燃える石」を意味します。

古代の人々は、この火を山の下に封じられた怪物のものと考えました。

キマイラを祀った施設ではありません。 怪物の名が付いた自然の火の場所です。近隣には古代都市オリュンポスの遺跡があります。

所在は古代地名事典プレイアデス(Chimaera (mountain)/Yanartas)で確認した。

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キマイラが現代に残した痕跡

キマイラの名は、生物学の用語・地名・美術として現代に残りました。

キメラ(生物学・医学): 一つの個体に、遺伝情報の異なる細胞が混じっている状態。動物実験や移植医療で日常的に使われる用語で、原義の「混じったもの」がそのまま生きている。

ヤナルタシュ(トルコ): 古代にキマイラと呼ばれた場所。天然ガスが噴き出して燃え続けており、いまも夜に火が見える。

ギンザメ類の学名: 深海にすむ軟骨魚の一群に、この怪物の名が与えられている。姿が他の魚と大きく違うことによる。

アレッツォのキマイラ: 紀元前5〜4世紀のエトルリアの青銅像。1553年に発見され、フィレンツェの国立考古学博物館が所蔵する。

「絵空事」を意味する語: フランス語などで、実現しない空想を指す語としてこの名が使われる。存在しないものの代表とされたため。

キマイラが司るもの

祈願の対象ではありません

怪物であり、古代に祀られた記録はない。名を冠した山はあるが、そこで信仰が行われた形跡はない。

キマイラが登場するゲーム・アニメ

創作では「キメラ」が固有名詞ではなく、分類名として使われるようになりました。 複数の生き物を掛け合わせた存在の総称です。

原典のキマイラは一体しかいない特定の怪物であり、リュキアの土地を荒らして討たれました。「キメラという種族」は後世の用法です。

生物学の用語が先に広まったため、いまでは神話より学術用語のほうが知られているという珍しい例になっています。

キマイラが登場するゲーム

各種ロールプレイングゲームの合成獣

複数の動物が混じった敵の総称として「キメラ」が使われます。原典の一体ではなく、分類名として広まりました。

女神転生シリーズ

獅子・山羊・蛇を組み合わせた姿で登場します。

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God of War シリーズ

火を吐く敵として登場します。

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キマイラが登場するアニメ・漫画・映像

鋼の錬金術師

生き物を掛け合わせて作る存在を「キメラ」と呼び、物語の中心に据えています。

パーシー・ジャクソンシリーズ

母エキドナとともに登場します。

映画「タイタンの戦い」(2010年版)

火を吐く怪物として現れます。

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キマイラについてよくある質問

キマイラは何の怪物ですか。

獅子と山羊と蛇が一体になり、口から火を吐く怪物です。テュポーンとエキドナの子で、小アジアのリュキアに住んで土地を荒らしました。

キマイラとキメラは同じものですか。

同じ語です。ギリシャ語読みが「キマイラ」、英語読みが「キメラ」で、日本語では神話の怪物をキマイラ、生物学の用語をキメラと呼び分ける習慣があります。

キマイラを倒したのは誰ですか。

英雄ベレロフォンです。天馬ペガサスにまたがって空から近づき、鉛を付けた槍を口の中に投げ入れました。鉛が怪物自身の火で溶け、内側から焼いて倒しています。

キマイラの名前の意味は何ですか。

もとは「一冬を越した雌の山羊」を意味する、家畜の年齢を表す普通の言葉です。三体一身の真ん中にある山羊が、そのまま名になりました。

キマイラの伝説の場所はいまも見られますか。

トルコ南西部アンタルヤ県のヤナルタシュ(燃える石)が、古代に「キマイラ」と呼ばれた場所です。岩の割れ目から天然ガスが噴き出して燃え続けており、二千年以上消えたことがありません。

キマイラの兄弟には誰がいますか。

ケルベロス、ヒュドラ、オルトロス、スフィンクス、ネメアの獅子です。いずれもテュポーンとエキドナの子で、英雄たちの試練の相手になりました。