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ギリシャ神話

クリュメネとは何の神様か|家系図・物語

Κλυμένη  / クリュメネ

ティタン神族

イアペトスの妻。太陽の馬車を暴走させた少年パエトンの母。

クリュメネとは何の神様か

クリュメネはひとことで言えば二つの家に名を残した母です。

オケアノスとテテュスの娘で、大洋の水の精オケアニスの一人。

ヘシオドス『神統記』では、ティタンのイアペトスの妻として現れます。生んだのは四柱です。

天を担ぐアトラス、雷に撃たれたメノイティオス、 火を盗んだプロメテウスパンドラを迎えたエピメテウス

ギリシャ神話でもっとも罰の多い家系の、母にあたります。

もう一つ、オウィディウス『変身物語』には別の顔があります。太陽神ヘリオスとの間に少年パエトンを生んだ母です。

父の証がほしいと言う子に、母は「東の館へ行って自分で尋ねよ」と告げました。パエトンは太陽の馬車を借りて暴走し、雷に撃たれて落ちます。

その一言が、子の死のきっかけになりました。

クリュメネのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Κλυμένη。日本語では「クリュメネ」または「クリュメネー」と書きます。

名は「名高い」「聞こえのよい」を意味する語から作られています。聞くことに関わる語根で、同じ語根から作られた名がギリシャ神話には数多くあります。

この名でいちばん注意が要るのは、同じ名の人物が複数いることです。

イアペトスの妻クリュメネ。 パエトンの母クリュメネ。 『イリアス』でヘレネに従う侍女クリュメネ。 テッサリアの英雄イピクロスの母クリュメネ。

同一人物なのか別人なのか、原典は整理していません。 イアペトスの妻とパエトンの母を同じ女神とみなす立場と、別とみなす立場の両方があります。

さらにアポロドーロスは、イアペトスの妻をアシアという別の名で記しています。妻の名そのものが揺れています。

Κλυμένη(クリュメネ)

古代ギリシャ語の表記。「名高い」「聞こえのよい」を意味する語から作られた名。

クリュメネー(クリュメネー)

長音を残した学術的な表記。

アシア(アシア)

アポロドーロスは、イアペトスの妻をこの名で記す。原典によって妻の名が入れ替わる箇所にあたる。

クリュメネの物語

  1. 四人の子の母 ─ 罰の家系を産む
  2. パエトンの母 ─ 一言が招いた死
  3. ヘリアデスと琥珀 ─ 泣き続けた娘たち
  4. 同じ名が多いこと ─ 二人のクリュメネ問題

四人の子の母 ─ 罰の家系を産む

ヘシオドス『神統記』は、イアペトスの結婚をこう書きます。

イアペトスは、オケアノスの娘、足首の美しいクリュメネを妻とし、 ともに床に入った。 彼女はアトラスを産み、メノイティオスを産み、 プロメテウスを産み、エピメテウスを産んだ。

生まれた四人は、そろってゼウスとの関わりで行き詰まります。担がされ、撃たれ、縛られ、だまされる。

この母から出た子で、無事に終わった者は一人もいません。

注目したいのは、この母がティタンではないことです。オケアノスとテテュスの娘、すなわち大洋の水の精オケアニスの一人にあたります。

天から出たティタンと、海から出た水の精。イアペトスの家系は、二つの流れが合わさったところに立っています。

なお、アポロドーロスはイアペトスの妻をアシアという名で記します。同じオケアノスの娘ですが、名が違います。原典によって入れ替わる箇所です。

パエトンの母 ─ 一言が招いた死

オウィディウス『変身物語』の第一巻から第二巻にかけて、少年パエトンの話が語られます。

パエトンは、自分の父が太陽神だと友に言いました。信じてもらえず、母のもとへ走ります。

母クリュメネは、こう答えました。

東の館へ行って、自分で尋ねなさい。 あの方は、あなたを子と認めるはずです。

パエトンは太陽の館へ行き、父に会い、証として一日だけ馬車を貸してほしいと願います。父は誓いを立てていたため、断れませんでした。

馬は少年の手に負えず、天を焼き、地を焦がします。ゼウスは雷を放ってパエトンを落としました。

母の一言が、子を父のもとへ行かせ、その死につながりました。

オウィディウスは、母の嘆きを長く書いています。遺体を探して世界じゅうを歩き、川辺の墓を見つけて泣き伏す場面です。

証を求めた子と、証を示そうとした母。 どちらにも悪意はありません。

ヘリアデスと琥珀 ─ 泣き続けた娘たち

パエトンには姉妹がいました。ヘリアデス(太陽の娘たち)と呼ばれます。

弟の死を嘆いて、川辺で泣き続けました。四か月のあいだ泣き続けたと『変身物語』は書きます。

そして、変化が起こります。

足が根になり、体が幹に包まれ、 腕が枝に変わっていった。 母が抱きしめようとすると、樹皮が裂けて血が流れた。

娘たちはポプラの木になりました。母クリュメネは、木になった娘たちを引きはがそうとして、かえって傷つけてしまいます。

それでも娘たちの涙は止まりません。木から落ちた涙は日に固まり、琥珀になったとされます。

古代の人は、琥珀を樹脂の化石ではなく、木になった娘たちの涙だと考えました。

琥珀はバルト海沿岸から地中海へ運ばれる貴重な品でした。遠くから来る美しい石に、遠い北の川辺の物語が結びついたことになります。

子を三度失った母として、クリュメネの物語は終わります。

同じ名が多いこと ─ 二人のクリュメネ問題

この女神を調べると、必ずぶつかる問題があります。イアペトスの妻とパエトンの母は、同じ人物なのかということです。

整理すると、こうなります。

ヘシオドスのクリュメネは、オケアノスの娘でイアペトスの妻。 オウィディウスのクリュメネは、太陽神の妻でパエトンの母。

名前は同じ、親も同じオケアノスとされます。ところが夫が違います。

古代の書き手たちは、この二人を統一しようとしませんでした。 神話は一つの体系ではなく、地方ごと時代ごとに育った話の集まりだからです。

同じ名の人物は他にもいます。『イリアス』でヘレネに従う侍女、テッサリアの英雄イピクロスの母。いずれも別の物語に属します。

この図鑑では、ヘシオドスのイアペトスの妻を中心に置き、パエトンの母としての伝えを併記する形を取りました。原典が分かれている以上、どちらかに決めることはしません。

クリュメネの家系図と家族

クリュメネの親: オケアノスオケアノスとテテュスの娘

クリュメネの妻・夫: イアペトスオケアノスの娘クリュメネを妻としたヘリオス『変身物語』では太陽神との間に少年パエトンを生んだ

クリュメネの子・子孫: アトラス天を担がされたアトラスの母

クリュメネの性格と人物像

クリュメネの性格は、母としてだけ描かれます。

ヘシオドスの側では、形容が一つ付くだけです。「足首の美しい」。妻として、四人の子の母として名が挙がり、それ以上のことは書かれていません。

オウィディウスの側には、はっきりした場面があります。子に「自分で尋ねなさい」と告げる母、遺体を探して世界を歩く母、木になった娘を抱きしめようとする母です。

この女神が動くのは、子に関わるときだけです。 レトと同じ形をしています。

ただしレトと違って、クリュメネには守り切れなかったという結末が付きます。パエトンは死に、娘たちは木になりました。四人の息子も、それぞれ罰を負っています。

この母から出た子で、無事に終わった者はほとんどいません。

それでも、この女神が誰かを恨む場面はありません。ゼウスへの呪いも、太陽神への訴えもありません。嘆き、探し、抱きしめようとするだけです。

力を持たない母という一点で、ギリシャの女神のなかでは珍しい位置にいます。

クリュメネゆかりの地と遺跡

クリュメネを祀った神殿は確かめられませんでした。

オケアニスと呼ばれる大洋の水の精は数多くいますが、そのうち独立した祭祀を持つのはごく一部です。この女神には、都市との縁も祭りの名も見つかりませんでした。

ゆかりの地として語られるのは、パエトンが落ちたとされる川です。イタリア北部を流れる大きな川に比定する伝えがあり、その川辺で娘たちがポプラになったとされます。ただし、その位置を確定できる資料は確かめられませんでした。

もう一つ、太陽の館があったとされる東の果ても、地上の場所として特定できません。

この女神の場所は、物語のなかにしかありません。 そこは正直に書いておきます。

クリュメネが現代に残した痕跡

クリュメネの名は、琥珀の由来を語る話とともに残りました。

琥珀の由来: 木になった娘たちの涙が固まって琥珀になったとされる。古代の人は、琥珀を樹脂の化石ではなくこの涙だと考えていた。

ポプラになった娘たち: 弟パエトンを嘆いて泣き続けた姉妹は、ポプラの木に変わったと『変身物語』は伝える。川辺のポプラにこの物語が結びついた。

小惑星クリュメネ: 小惑星の一つにこの名が付けられている。

同名の人物の多さ: イアペトスの妻、パエトンの母、ヘレネの侍女、イピクロスの母。同じ名が複数の物語に現れ、古代の書き手も統一していない。

クリュメネが司るもの

母であること

四人の息子と、パエトンおよびヘリアデスの母。動くのは子に関わるときだけである。

子の守り

子の遺体を探して世界を歩き、木になった娘を抱きしめようとした。

親を思う心

父の証を求めた子に、自分で尋ねよと告げた。その一言が物語を動かす。

嘆き

子を失った嘆きが長く書かれている。娘たちの涙は琥珀になったとされる。

水の恵み

オケアノスとテテュスの娘で、大洋の水の精オケアニスの一人にあたる。

クリュメネが登場するゲーム・アニメ

創作でのクリュメネは、パエトンの物語の一部として現れます。オウィディウスの筆が印象的なため、ヘシオドスの側の姿はほとんど知られていません。

絵画では、落ちる少年と嘆く母という組み合わせが好まれました。単独で描かれた作品は確かめられませんでした。

クリュメネが登場する絵画・彫刻

パエトンの墜落を描いた作品

馬車もろとも落ちる少年を描いた絵画は数多く残ります。母が嘆く場面を添えたものもあります。

ヘリアデスの変身を描いた作品

娘たちが木に変わっていく場面。母が引きはがそうとする姿が描かれることがあります。

クリュメネが登場するゲーム・創作

ギリシャ神話を題材にした作品

パエトンの母として名が挙がります。イアペトスの妻としての側面が扱われることは少なくなっています。

琥珀を扱う作品

琥珀の由来を語る場面で、この一族の物語が引かれることがあります。

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クリュメネについてよくある質問

クリュメネはどんな神ですか。

オケアノスとテテュスの娘で、大洋の水の精オケアニスの一人です。ヘシオドス『神統記』ではイアペトスの妻として、アトラス・メノイティオス・プロメテウス・エピメテウスの母になります。

パエトンの母と同じ人物ですか。

原典は整理していません。ヘシオドスのクリュメネはイアペトスの妻、オウィディウスのクリュメネは太陽神ヘリオスの妻でパエトンの母です。名も親も同じですが夫が違い、同一視する立場と別とみなす立場の両方があります。

パエトンはどうなったのですか。

父の証として太陽の馬車を一日借りましたが、馬を御しきれずに天を焼き地を焦がしました。世界が焼き尽くされる前に、ゼウスが雷を放って少年を落としました。

琥珀との関係は何ですか。

パエトンを嘆いた姉妹ヘリアデスがポプラの木に変わり、その木から落ちた涙が固まって琥珀になったとされます。古代の人は琥珀を、樹脂の化石ではなくこの涙だと考えていました。

クリュメネを祀った神殿はありますか。

確かめられませんでした。オケアニスと呼ばれる水の精のうち、独立した祭祀を持つのはごく一部です。ゆかりの地として語られるパエトンの落ちた川も、位置を確定できませんでした。