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ギリシャ神話

メティスとは何の神様か|家系図・物語

Μῆτις  / メティス

ティタン神族

ゼウスの最初の妻。呑み込まれ、夫の内側で知恵そのものになった。

メティスとは何の神様か

メティスはひとことで言えば呑まれて残った知恵です。

オケアノスとテテュスの娘で、名は「はかりごと」「機転」を意味します。ホメロスがオデュッセウスを褒めるときに使う語と同じものです。

この女神は、ゼウスの勝利の最初の一手を打ちました。アポロドーロスによれば、クロノスに吐き薬を渡し、呑まれた兄姉を出させたのはメティスです。

ゼウスの最初の妻になりましたが、ガイアウラノスが予言します。

メティスが産む娘は父に並ぶ。 次に産む男の子は、父を倒して神々の王になる。

ゼウスは同じ手を使いました。身ごもったメティスを言いくるめ、そのまま呑み込んだのです。

のちにゼウスの頭が割れ、武装したアテナが飛び出します。そしてメティス自身は消えず、夫の内側から助言を続けたと伝えられます。

メティスのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Μῆτις。日本語では「メティス」または「メーティス」と書きます。

この語は、ギリシャ語の知恵を表す言葉のなかでも特別な位置にあります。

ソピアが体系だった知、ヌースが見通す知だとすれば、メティスは切り抜ける知です。 変わり続ける状況のなかで、その場の最善手を見つける力を指します。

ホメロスがオデュッセウスに与える枕詞「ポリュメティス」も、この語から作られています。木馬を思いつく力、名を「誰でもない」と偽る機転。それがメティスです。

ローマ名は伝わっていません。ローマにこの女神に当たる神はおらず、名前がそのまま使われました。

木星の衛星メティスにも名が残っています。ゼウスに呑まれた妻が、いまはゼウスの星の一番内側を回っています。

Μῆτις(メティス)

古代ギリシャ語の表記。知恵・策略・機転を意味する普通名詞でもある。単なる知識ではなく、その場で最善の手を見つける力を指す。

メーティス(メーティス)

長音を残した学術的な表記。

ポリュメティス(ポリュメティス)

「多くの知恵を持つ者」の意。ホメロスがオデュッセウスに与えた枕詞で、この語から作られている。

メティスの物語

  1. 吐き薬を渡す ─ 最初の一手
  2. 呑み込まれる ─ 三代目の予防
  3. 頭から生まれる娘 ─ 母のいない誕生

吐き薬を渡す ─ 最初の一手

ゼウスがクロノスを倒す物語は、たいてい「ゼウスが父に薬を飲ませた」と語られます。しかしその薬を用意した者がいます。

アポロドーロス『ギリシャ神話』第1巻は、はっきり書いています。

ゼウスはオケアノスの娘メティスを助力者とした。 メティスはクロノスに薬を飲ませ、まず石を、次に呑み込んだ子らを吐き出させた。

つまり、ティタノマキアの味方をそろえた最初の一手は、この女神の仕事でした。

ヘシオドスはこの場面を書いていません。原典によって役割の重さが違います。

それでも、ゼウスの妻の順番でメティスが一番目に置かれていることは、どの伝えでも共通しています。最高神が最初に選んだのは、力の神でも美の神でもなく、知恵の女神でした。

呑み込まれる ─ 三代目の予防

ウラノスはクロノスに倒され、クロノスはゼウスに倒されました。同じことが三度目に起きるのを、ゼウスは防ごうとします。

ヘシオドス『神統記』の記述です。

ゼウスはメティスを言葉でたぶらかし、腹に納めた。 善と悪を教えてくれるようにと、大地と天が助言したからである。

父たちとの違いは、呑む相手です。ウラノスは子を地中に押し込め、クロノスは生まれた子を呑みました。ゼウスは、子ではなく妻を、生まれる前に呑んだのです。

こうして、王座を奪う男の子は、生まれてこなかった。

三代続いた世代交代は、ここで止まります。 ゼウスが最後の王であり続けるのは、この一手のためです。

ただし、ゼウスは知恵ごと呑み込みました。同じ場面をヘシオドスはこう続けます。

女神は腹のなかにとどまり、善と悪をゼウスに告げ続けた。

消されたのではなく、取り込まれたのです。

頭から生まれる娘 ─ 母のいない誕生

月が満ちたとき、ゼウスの頭が激しく痛みました。

伝えによって助けた神が違います。ヘパイストスが斧で割ったとも、プロメテウスが割ったとも語られます。

割れた頭から、武具をまとった娘が鬨の声を上げて飛び出した。

アテナです。オリュンポスが揺れ、大地が震え、海が波立ったと『ホメロス風讃歌』は伝えます。

ここで重要なのは、アテナには母がいないことになっている点です。アイスキュロスの悲劇では、アテナ自身がこう言います。

私を産んだ母はいない。私はすべて父の側に立つ。

母を呑み込んだ結果、娘は母を持たない神になりました。

それでも、アテナが受け継いだのは母の性質です。工夫する知恵、策を立てる力。父ゼウスからではなく、腹に納められたメティスから来ています。

メティスの家系図と家族

メティスの親: オケアノスオケアノスとテテュスの娘に数えられる

メティスの妻・夫: ゼウスゼウスの最初の妻。身ごもったまま呑み込まれた

メティスの子・子孫: アテナアテナの母。娘はゼウスの頭から生まれた

メティスの性格と人物像

メティスは、負けた側の神です。

ゼウスに知恵を貸し、勝たせ、そして呑まれました。抵抗した場面も、恨んだ場面も原典にありません。ギリシャ神話のなかでも、報われ方がとりわけ薄い神です。

ただし、この女神には他の敗者と決定的に違う点があります。居場所が残っていることです。

タルタロスへ落とされたティタンたちは、地の底にいます。呑まれたメティスは、最高神の内側にいます。ヘシオドスは、彼女がそこから善と悪を告げ続けたと書きました。

ゼウスの判断は、呑んだ妻の声でできている。 そう読める書き方です。

もう一つ、この女神には姿の描写がありません。美しいとも恐ろしいとも書かれていません。ホメロスの詩に一度も登場せず、系譜と一度きりの場面でしか現れません。

それでも神話全体を動かしています。 クロノスに薬を飲ませたこと、アテナを産んだこと。この二つが無ければ、オリュンポスの体制そのものが成り立ちません。

姿がなく、台詞がなく、それでも中心にいる。知恵という働きに、これ以上ふさわしい形はないとも言えます。

メティスを祀った神殿と遺跡

メティスを祀った神殿は確かめられませんでした。

この女神には、独立した祭祀の記録がほとんどありません。神話のうえでゼウスに呑み込まれ、以後は夫の内側にいる存在とされたためだと考えられます。

ただし、アテネのパルテノン神殿は、母を呑んだゼウスの頭から生まれた娘の神殿です。 東の破風には、アテナが誕生する場面が彫られていました。母の名は、そこに現れません。

祀られた形跡が無いことと、忘れられたことは別です。 この女神の名は、知恵を表す語として古代ギリシャ語のなかに生き続けました。

メティスが現代に残した痕跡

メティスの名は、知恵を表す語天体の名として現代に残りました。

木星の衛星メティス: 1979年に発見された木星の内側の衛星。ゼウス(ユピテル)の星を、呑まれた最初の妻がもっとも近くで回っている。

学術用語としてのメティス: 規則には書けない、その場の判断で身につく知を指す語として、人類学や政治学で使われる。マニュアル化できない現場の知恵を論じるときの鍵語になっている。

小惑星メティス: 1848年に発見された小惑星9番の名。

オデュッセウスの枕詞: 「多くの知恵を持つ者」という呼び名は、この女神の名から作られている。ホメロスの詩でくり返し現れる。

メティスが司るもの

知恵

その場で最善の手を見つける力。体系だった知識ではなく、切り抜ける知を指す。

助言

呑み込まれたのちも、ゼウスに善と悪を告げ続けたと伝えられる。

機転

名がそのまま機転を意味する。オデュッセウスの枕詞もこの語から作られた。

技術による解決

力ではなく手立てで事を運ぶこと。クロノスに薬を飲ませた一手がその典型。

メティスが登場するゲーム・アニメ

創作でメティスが単独の登場人物になることは、ほとんどありません。アテナの出生を説明するときにだけ名が出る、という扱いが大半です。

理由ははっきりしています。原典に姿も台詞も無いからです。書かれていないものは、借りようがありません。

一方で「メティス」という語そのものは、学問の世界で使われ続けています。神ではなく概念として生き延びた、珍しい例です。

メティスが登場する絵画・彫刻

アテナ誕生の図像

古代の壺絵では、ゼウスの頭から飛び出すアテナの脇に、小さくメティスが描かれることがあります。

パルテノン神殿東破風

アテナの誕生を彫った場面。現存部分は大きく欠けており、中心の人物像は失われています。

メティスが登場するゲーム・創作

ペルソナシリーズ

同じ名の登場人物が置かれ、知恵と助言の役目を担います。

ギリシャ神話を題材にした作品

アテナの出生を扱う作品では、呑み込まれた母として言及されます。

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メティスについてよくある質問

メティスはどんな神ですか。

知恵と機転を司る女神で、オケアノスとテテュスの娘です。ゼウスの最初の妻となりましたが、身ごもったまま呑み込まれました。のちにゼウスの頭からアテナが生まれます。

ゼウスはなぜメティスを呑んだのですか。

メティスが産む男の子が父を倒して王になる、とガイアとウラノスに予言されたためです。ウラノスもクロノスも子に倒されており、ゼウスは生まれる前に手を打ちました。

呑まれたメティスはどうなりましたか。

消えていません。ヘシオドス『神統記』は、女神がゼウスの腹のなかにとどまり、善と悪を告げ続けたと書いています。ゼウスの判断はこの妻の声でできている、と読める書き方です。

アテナはメティスの子ですか。

そうです。ただしゼウスの頭から生まれたため、アテナは「母のない神」として扱われます。アイスキュロスの悲劇では、アテナ自身が「私を産んだ母はいない」と語ります。

メティスを祀った神殿はありますか。

確かめられませんでした。この女神には独立した祭祀の記録がほとんどなく、神話のうえではゼウスの内側にいる存在とされています。

メティスと併せて覚えたい言葉・用語

ティタノマキア(Titanomachia)

ゼウス率いるオリュンポスの神々と、クロノス率いるティタン神族の戦争。十年続き、解放されたキュクロプスとヘカトンケイルの加勢で決着した。