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ギリシャ神話

アルペイオスとは何の神様か|家系図・物語・ゆかりの地

Ἀλφειός  / アルペイオス

大地 原初の神

オリンピアを流れる河の神。海の下を追い続け、泉に合流した。

アルペイオスとは何の神様か

アルペイオスはひとことで言えば追いかけた川です。

オケアノスとテテュスの子で、ペロポネソス半島最大の川の神。オリンピアの聖域はこの川のほとりにあり、競技場は川と丘のあいだに置かれていました。

狩りのニンフアレトゥーサが自分の川で水浴びをしたとき、この神は水底から声をかけます。彼女は逃げ出しました。

追跡は日が傾くまで続き、逃げる側は恐怖のあまり全身が水に変わります。アルテミスが大地を裂いて彼女を地下へ落とすと、

自分も水の姿に戻り、海の底をくぐって追っていった。

シチリア島の泉で、二つの水はついに混じり合ったと語られます。

ギリシャの恋の物語で、追う側が海を越えて到達する例はここだけです。

ヘラクレスの功業にも登場します。三十年掃除されなかった家畜小屋は、この川と隣の川の流れを引き込むことで、一日で洗い流されました。

アルペイオスのギリシャ名・ローマ名と読み方

古代ギリシャ語では Ἀλφειός。日本語では「アルペイオス」または「アルフェイオス」と書きます。

語源は定まっていません。「白い」を意味する語と結び付ける説があり、この場合は石灰を含んで白く濁る水を指すことになります。ギリシャの川は、雨季に白っぽく濁ります。

この名は、現在も使われている地名です。ペロポネソス半島を西へ流れる川が、いまもこの名で呼ばれています。神の名がそのまま現代の川の名として残っている、数少ない例です。

甲殻類では、はさみを鳴らして音を出すテッポウエビの一群に、この神の名が学名として与えられました。

混同されやすいのが、新約聖書に出てくる同名の人物です。ギリシャ語の音が同じですが、この河神とは関係がありません。

古代の詩では「音を立てて流れる」という形容が添えられることが多く、水量の多い川として知られていました。

Ἀλφειός(アルペイオス)

古代ギリシャ語の表記。「白い」を意味する語と結び付ける説があり、石灰を含んで白く濁る水を指すとされる。

アルフェイオス(アルフェイオス)

日本語での別の書き方。事典によって「ペ」と「フェ」に分かれる。

アルペイオス・ケラドン(アルペイオス・ケラドン)

「音を立てて流れるアルペイオス」の意。詩のなかでこの川を呼ぶときの言い方。

Alpheus(アルペウス)

ローマでの綴り。オウィディウス『変身物語』ではこの形で現れる。

アルペイオスの物語

  1. 海の底を追う ─ 川が海を越える
  2. オリンピアの川 ─ 競技場のかたわらを流れる
  3. 家畜小屋を洗う ─ 五番目の功業

海の底を追う ─ 川が海を越える

アレトゥーサを追う話は、ギリシャの変身譚のなかでも異例の形をしています。

ふつう、追う側は途中で終わります。アポロンダフネが月桂樹になったところで足を止め、パーンはシュリンクスが葦になったところで諦めました。

アルペイオスは、止まりません。

逃げる者が水になったなら、自分も水になればよい。

河神が人の姿を捨て、川そのものに戻ります。 そして、アルテミスが開いた地下の道を追っていきました。

海の底をくぐり、イオニア海を横切り、シチリア島まで。恋の物語で、これほど長い距離を移動した神は他にいません。

古代の人は、この話を地理として受け止めていました。次のような言い伝えが残っています。

オリンピアで犠牲の血が川に流れると、 シチリアの泉が濁る。

同じ水がつながっている証拠とされたのです。

もっとも、結末は原典によって違います。オウィディウスはアレトゥーサが逃げ切ったように書き、別の伝えでは二つの水が混じり合ったとします。

追いついたのか、届かなかったのか。 どちらとも決められません。

オリンピアの川 ─ 競技場のかたわらを流れる

この神がギリシャ人にとって身近だったのは、オリンピアの聖域を流れていたからです。

四年に一度の競技祭が開かれたその場所は、アルペイオス川と、支流の合流点にあります。神殿と競技場は、川と丘に挟まれた狭い平地に並んでいました。

パウサニアスは、オリンピアにこの河神の祭壇があり、アルテミスと並べて祀られていた と記しています。

追った者と、逃げた娘を助けた女神が、 同じ場所で並んで祀られている。

奇妙な取り合わせですが、古代の祭祀にはこうした例が珍しくありません。

この川は、実際に聖域を脅かしもしました。長い年月のあいだに流路が変わり、競技場の一部を削り取ったと考えられています。

近代の発掘で聖域が地中から現れたのは、川が運んだ土砂に埋もれていたためです。神域を埋めたのも、守ったのも、この川でした。

土砂の下にあったからこそ、建物の基礎と数多くの奉納品が残りました。

家畜小屋を洗う ─ 五番目の功業

ヘラクレスの十二の功業のうち、五番目は戦いではありません。掃除です。

エリスの王アウゲイアスは、三千頭の家畜を飼っていました。その小屋が、

三十年のあいだ、一度も掃除されていなかった。

ヘラクレスは、一日でこれを片づけると申し出ます。報酬は家畜の十分の一。

手段は、力ではありませんでした。小屋の壁に穴を開け、アルペイオスと隣の川の流れを引き込んだのです。水は小屋を洗い流し、反対の穴から出ていきました。

英雄が川そのものを道具として使った、唯一の功業です。

この功業には後日談があります。王は報酬を払わず、しかも約束などしていないと言い張りました。ヘラクレスはのちに軍を率いてこの国を攻め、王を討ちます。

そして、その勝利を記念してオリンピアの競技祭を始めたと伝えられます。

アルペイオス川で洗い、アルペイオス川のほとりで祭りを開いた。 五番目の功業は、競技祭の由来の物語にもなっています。

アルペイオスの家系図と家族

アルペイオスの親: オケアノス河の神々の父

アルペイオスの性格と人物像

アルペイオスは、あきらめない神です。

性格として書かれていることは、ほとんどこの一点に尽きます。追い、追い続け、姿を捨ててまで追いました。

ギリシャ神話の求愛する神々は、たいてい途中で終わります。相手が樹になれば樹を抱き、葦になれば笛を作る。その場で切り替える柔らかさが、この神にはありません。

悪意は書かれていません。脅しも、罠も、報復もありません。ただ追っただけです。

それでも、追われた側の恐怖はオウィディウスがはっきり書いています。

影が伸びて、私の足元に届いた。

一途さは、追われる側から見れば恐怖です。 この物語は、その両面を残しています。

もうひとつの顔は、川としての性格です。音を立てて流れ、雨季には白く濁り、流路を変えて聖域を削りました。

古代の人にとって、この川は恵みでも脅威でもある存在でした。家畜小屋を洗う水量を持ち、競技場を削る力も持っています。

人格としての一途さと、川としての強い流れ。この二つは、同じことを別の言い方で表しているとも読めます。

止まらない水は、止まらない恋として語られました。

アルペイオスゆかりの地と遺跡

アルペイオスだけを祀った神殿は確かめられませんでした。 河の神は、神殿ではなく祭壇の形で祀られるのが通例です。

確かめられるのは、オリンピアの聖域です。パウサニアスは、ここにこの河神の祭壇があり、アルテミスと並べて祀られていたと記しています。追った者と、逃げた娘を助けた女神が、同じ場所に並んでいたことになります。

ギリシャでは、川に馬や牛を沈めて捧げる習わしが各地にありました。少年が成人するときに髪を切って川に捧げる儀式も広く行われています。建物を建てるのではなく、水そのものに捧げるのが河神への祈り方でした。

この川はいまも同じ名で流れています。神の名が現代の地名として残っている、数少ない例です。

オリンピアの聖域(オリンピアのせいいき)

四年ごとの競技祭が開かれた聖域

地図で開く

オリンピアの聖域の住所: ギリシャ ペロポネソス半島 オリンピア遺跡

オリンピアの聖域の祀られた神: ゼウス、ヘラ、アルペイオス

オリンピアの聖域に残るもの: 神殿の基壇・競技場・工房の跡

アルペイオス川とその支流の合流点にある聖域です。パウサニアスは、ここにこの河神の祭壇があり、アルテミスと並べて祀られていたと記しています。

川は長い年月のあいだに流路を変え、競技場の一部を削り取ったと考えられています。同時に、運んだ土砂が聖域を埋めて保存する結果にもなりました。

神域を削ったのも、埋めて守ったのも、この川でした。

近代の発掘で地中から現れた。神殿の基壇と競技場の跡が残る。

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アルペイオスが現代に残した痕跡

アルペイオスの名は、現代の地名と学名として残りました。

現在のアルフィオス川: ペロポネソス半島を西へ流れる川が、いまも同じ名で呼ばれている。神の名がそのまま現代の地名になった例。

テッポウエビの学名: はさみを鳴らして大きな音を出す小さなエビの一群に、この神の名が与えられている。

海底を通る水の伝説: オリンピアの川がシチリアの泉に通じるという言い伝えは、古代の地理書に繰り返し記された。

オリンピアの競技祭の由来譚: ヘラクレスがこの川で家畜小屋を洗い、のちにその地で祭りを始めたと伝えられる。

アルペイオスが司るもの

川と水の守り

ペロポネソス半島最大の川の神。オリンピアの聖域を流れる。

灌漑

水量が多く、流れを引き込んで洗い流す力を持つ川として語られた。

競技

オリンピアの競技祭は、この川のほとりで開かれた。

意志を通すこと

姿を捨ててまで追い続けた神として語られる。

水源

支流を集めて西へ流れ、平野を潤す川そのものである。

アルペイオスについてよくある質問

アルペイオスはどんな神ですか。

オケアノスとテテュスの子で、ペロポネソス半島最大の川の神です。オリンピアの聖域はこの川のほとりにあり、競技場は川と丘のあいだに置かれていました。

アレトゥーサをどこまで追ったのですか。

シチリア島までとされます。逃げる相手が水に変わって地下へ落とされると、自分も水の姿に戻り、海の底をくぐって追いかけました。恋の物語でこれほど長い距離を移動した神は他にいません。

二人は最後にどうなったのですか。

原典が分かれています。オウィディウスはアレトゥーサが逃げ切ったように書きますが、別の伝えではシチリアの泉で二つの水が混じり合ったとされます。どちらとも決められません。

ヘラクレスの功業とどう関わりますか。

五番目の功業で、三十年掃除されなかった家畜小屋を洗うために、この川と隣の川の流れが引き込まれました。英雄が川そのものを道具として使った唯一の功業です。

アルペイオスを祀った場所はありますか。

オリンピアの聖域に祭壇があり、アルテミスと並べて祀られていたとパウサニアスが記しています。ただし、この神だけを祀った神殿は確かめられませんでした。

アルペイオスと併せて覚えたい言葉・用語

ニンフ(Νύμφη)

山・森・泉・木に宿る若い女神たち。神ではあるが不死ではなく、宿る木や泉が滅べば死ぬとされた。ギリシャ神話で最も数の多い存在。