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ローマ神話

ウェヌスとは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

Venus  / ウェヌス

大地 十二の主神

もとは庭と実りの女神。ローマ人の祖の母として、国家の祖先神になった。

ウェヌスとは何の神様か

ウェヌスはひとことで言えばローマ人の祖先の母です。ギリシャ名はアプロディーテー

美と愛の女神として知られますが、ローマでの重みはそこにありません。

アイネイアースの母。その子孫がローマを建てた。

つまりこの女神は、ローマ人の血のもととされました。

カエサルは自らの家をこの女神の血筋と称し、ウェヌス・ゲネトリクス(生みの母ウェヌス)の神殿を自分の広場に建てています。

古い顔は庭と果樹の女神です。名は「魅力」「愛らしさ」を意味する語からできています。

4月1日のウェネラーリアでは、女性たちが女神の像を洗い清めました。

ハドリアヌス帝はウェヌスとローマを並べた神殿を建てます。市内で最大の神殿でした。

ウェヌスのローマ名・ギリシャ名と読み方

日本語では「ウェヌス」「ヴィーナス」の両方が使われます。ヴィーナスは英語読みで、美術作品の題名ではこちらが定着しています。

金星を指す語も、この女神の名です。明け方と夕方によく見える明るい星であることによります。

ミロのヴィーナス、ヴィーナスの誕生。

いずれもギリシャのアプロディーテーを描いたものですが、日本語ではローマ名で呼ぶのが習わしになっています。

金曜日を指す語も、多くのヨーロッパの言語でこの女神の名です。

Venus(ウェヌス)

ラテン語の主格。属格はウェネリスとなる。

Venus Genetrix(ウェヌス・ゲネトリクス)

「生みの母」。ユリウス氏族の祖としての称号。

Aphrodite(アプロディーテー)

ギリシャ名。

ウェヌスの物語

  1. 庭の女神から国家の祖へ ─ 役目の入れ替わり
  2. エリュクスから来た女神 ─ 戦時に迎えられる
  3. ウェヌスとローマ神殿 ─ 皇帝が設計した最大の神殿

庭の女神から国家の祖へ ─ 役目の入れ替わり

ウェヌスのもっとも古い姿は、庭と果樹の女神でした。

名も「魅力」を意味する語から出ており、はじめから愛の女神だったわけではありません。

この女神が国家の中心に来たのは、アイネイアースの物語を通してです。

トロイアが落ちたとき、ウェヌスの子アイネイアースは父を背負って逃れ、イタリアへ渡りました。その子孫からロームルスが生まれます。

ローマ人は、自分たちがトロイアの生き残りの子孫だと考えた。

この筋書きが定まると、ウェヌスは国家の祖先神になります。

カエサルはさらに一歩進めました。ユリウス氏族はアイネイアースの子イウルスの血筋であると称し、自分の家を女神の直系に置いたのです。

前46年、カエサルは自分の広場にウェヌス・ゲネトリクス神殿を建てました。

庭の女神が、一族の系図の起点になった。 ローマの神が政治にどう使われたかを示す例です。

エリュクスから来た女神 ─ 戦時に迎えられる

ローマがカルタゴと戦っていたころ、シチリアのエリュクス山から一柱の女神が迎えられました。

ウェヌス・エルキーナです。

この山の女神は、フェニキアの女神の性格を強く残していました。ギリシャ人はアプロディーテーと呼び、ローマ人はウェヌスと呼びました。

前215年、カピトリウムに神殿が建てられた。

ローマが劣勢に立たされていた時期です。戦況が悪いときに、外から神を迎えるのはローマの常套手段でした。

さらに前181年、コッリーナ門の外にもう一つ神殿が建てられます。こちらは高級娼婦たちが祀る神殿になりました。

同じ女神でありながら、市内の神殿は国家の祭祀、市外の神殿は別の人々の信仰の場になります。

ローマの宗教では、同じ名の神が場所ごとに別の役目を持つことがよくありました。

ウェヌスとローマ神殿 ─ 皇帝が設計した最大の神殿

ハドリアヌス帝は、自ら図面を引いたと伝えられる神殿を建てました。

ウェヌスとローマの神殿。121年に着工されています。

二つの祭神が背中合わせに座る、変わった造りでした。

一方はウェヌス・フェリクス(幸いをもたらすウェヌス)。
もう一方はローマ・アエテルナ(永遠のローマ)。

ウェヌス側は東の円形闘技場を向き、ローマ側は西のフォルムを向きます。

ローマ市内で最大の神殿でした。

この設計をめぐって、建築家アポロドーロスが批判し、そのために処刑されたという話が伝わります。ただし、この逸話の信頼性は疑われています。

神殿の名にも仕掛けがあります。ローマという語を逆から読むと、アモル(愛)になります。

都市の名と、愛の女神の子の名が、裏返しの関係にある。

遺構はいまも残り、東側の壁と半円形の天井を見ることができます。

ウェヌスの家系図と家族

ウェヌスの親: ユーピテル

ウェヌスのきょうだい: バックスともにユーピテルの子マグナ・マーテルともにトロイアに結びつけられる

ウェヌスの妻・夫: マールス密通の相手とされるウゥルカーヌス

ウェヌスの子・子孫: クピードー

ウェヌスの性格と人物像

ローマのウェヌスは、ギリシャのアプロディーテーより「重い」神です。

アプロディーテーの物語は、恋と嫉妬と笑いに満ちています。神々が彼女の不倫を見て笑う場面すらあります。

ローマのウェヌスにそうした軽さはありません。国家の祖先だからです。

一族の系図の起点であり、皇帝の血筋の保証。

ウェルギリウスの『アエネーイス』でも、この女神は息子を守るために父ユーピテルへ願い出る母として描かれます。恋の女神というより、執拗に子を助ける母です。

一方で、庭と果樹の女神としての姿も消えませんでした。4月1日のウェネラーリアは、女性が女神の像を水で洗い、花を飾る祭でした。

祖先神と、庭の女神。二つの顔が最後まで並んでいました。

ウェヌスを祀った神殿と遺跡

ウェヌスの神殿は、称号ごとに性格が違いました。

国家の祖先神としてのゲネトリクス、都市の守り手としてのポンペイアーナ、そしてエリュクスから迎えられたエルキーナ。

同じ女神でありながら、祈る人も願う内容も違った。

エリュクスの女神を祀った神殿はローマ市内に二つありましたが、どちらも位置が特定されていないため、ここには挙げていません。

ウェヌスとローマの神殿(Templum Veneris et Romae)

ローマ市内で最大の神殿

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ウェヌスとローマの神殿の住所: イタリア ローマ ウェリアの丘(北緯41.8909 東経12.4897)

ウェヌスとローマの神殿の祀られた神: ウェヌス・フェリクスとローマ・アエテルナ

ウェヌスとローマの神殿に残るもの: 基壇・柱・半円形の天井の一部

ウェヌスとローマの神殿のご利益: 恋愛・国家の永続

ハドリアヌス帝が121年に着工した神殿です。二つの祭神が背中合わせに座る造りでした。

ウェヌス側は円形闘技場を、ローマ側はフォルムを向いています。

ローマ市内で最大の神殿でした。

ローマという語を逆から読むとアモル(愛)になります。名の付け方に仕掛けがありました。

コロッセオのすぐ西側。フォロ・ロマーノの入場券で見学できる。

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ウェヌス・ゲネトリクス神殿(Templum Veneris Genetricis)

ユリウス氏族の祖を祀る神殿

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ウェヌス・ゲネトリクス神殿の住所: イタリア ローマ カエサルのフォルム(北緯41.8941 東経12.4848)

ウェヌス・ゲネトリクス神殿の祀られた神: ウェヌス・ゲネトリクス

ウェヌス・ゲネトリクス神殿に残るもの: 基壇と三本の柱

ウェヌス・ゲネトリクス神殿のご利益: 子孫の繁栄

前46年にカエサルが奉献した神殿です。

ユリウス氏族がこの女神の血筋であるという主張を、形にしたものでした。

神殿にはクレオパトラの黄金の像も置かれたと伝えられます。

三本の柱が復元されて立っています。

フォーリ・インペリアーリ通りから見える。

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ポンペイのウェヌス神殿(Templum Veneris Pompeianae)

ポンペイの守護女神の神殿

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ポンペイのウェヌス神殿の住所: イタリア カンパニア州 ポンペイ遺跡 マリーナ門の東(北緯40.7484 東経14.4837)

ポンペイのウェヌス神殿の祀られた神: ウェヌス・ポンペイアーナ

ポンペイのウェヌス神殿に残るもの: 基壇と柱廊の跡

ポンペイのウェヌス神殿のご利益: 都市の守り

ポンペイは、ローマの植民市になったときウェヌスを守護女神としました。

市街の南西、海を見下ろす位置に神殿が建てられています。

79年の噴火の時点でもまだ修復の途中でした。62年の地震の被害から立ち直っていなかったためです。

柱は倒れたまま埋もれ、そのぶん配置がよく残りました。

マリーナ門から入ってすぐの位置にある。

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ウェヌスが現代に残した痕跡

ウェヌスの名は、惑星・曜日・美術の題名に残りました。

金星: 明け方と夕方によく見える明るい星。美しさから愛の女神の名が与えられた。

金曜日: フランス語・イタリア語・スペイン語の金曜日は、いずれもこの女神の名に由来する。

ミロのヴィーナス: ルーヴル美術館の大理石像。1820年にミロス島で発見された。両腕を失った姿で知られる。

ヴィーナスの誕生: ボッティチェッリの絵画。貝の上に立つ姿は、この女神の図像として最も知られる。

ウェヌスが司るもの

恋愛と結婚

4月1日のウェネラーリアで女性たちが祈った。

子孫の繁栄

ウェヌス・ゲネトリクスとして、一族の祖として祀られた。

庭と果樹

もっとも古い姿。庭の実りを司る女神だった。

ウェヌスが登場するゲーム・アニメ

美術の題名では、ギリシャの女神を描いていてもローマ名で呼ばれます。

ミロのヴィーナスも、ヴィーナスの誕生も、描かれているのはアプロディーテーです。

ルネサンス期のイタリアで、ローマ名が標準になったため。

日本語の美術用語がその流れをそのまま受け継いでいます。

ウェヌスが登場する美術

ミロのヴィーナス

両腕を失った大理石像。この女神が知られる最大の経路です。

ヴィーナスの誕生

ボッティチェッリの絵画。貝の上に立つ姿が定着しました。

ウェヌスが登場するゲーム・アニメ

女神転生シリーズ

愛と美の女神として登場します。

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金星を扱う作品

惑星の名を通して、この女神の名が使われます。

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ウェヌスについてよくある質問

ウェヌスとアプロディーテーは同じ神ですか。

同一視されますが、由来は別です。ウェヌスはもともと庭と果樹の女神で、アイネイアースの母とされたことからローマ人の祖先神になりました。

なぜカエサルはこの女神を祀ったのですか。

ユリウス氏族がアイネイアースの子イウルスの血筋であると主張していたためです。前46年に自分の広場にウェヌス・ゲネトリクス神殿を建てました。

ミロのヴィーナスはこの女神ですか。

ギリシャで作られた像なので、描かれているのはアプロディーテーです。ただし美術の題名としてはローマ名で呼ぶのが習わしになっています。

ウェヌスとローマの神殿はどこにありますか。

ローマのコロッセオのすぐ西側です。ハドリアヌス帝が121年に着工した、市内最大の神殿でした。遺構が見学できます。

金星の名はこの女神に由来しますか。

そうです。明け方と夕方によく見える明るい星であることから、美の女神の名が与えられました。