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ローマ神話

マリーカとは何の神様か|家系図・物語・祀った神殿

Marica  / マリーカ

大地 泉と森の神

リーリス川の河口の森に祀られた土地の女神。ラティーヌスの母とされる。

マリーカとは何の神様か

マリーカはひとことで言えば川の河口の森の女神です。

ミントゥルナエの町の近く、リーリス川の河口に森を持っていました。

ウェルギリウスは『アエネーイス』第7巻で、この女神をファウヌスの妃、そしてラティーヌスの母としています。ラティーヌスはアエネーアースを迎え入れたラティウムの王です。

イタリア側の王家の血筋が、この土地の女神から始まっています。

森には一つの定めがありました。

いったん持ち込んだものは、二度と持ち出してはならない。

マリウスがスッラに追われたとき、この一帯の沼地に身を隠したという話も伝わります。追手はミントゥルナエの町で彼を捕らえました。

ウェヌスと同じ女神とみる説や、キルケーと重ねる説もありました。古代の書き手のあいだでも、この女神が何者かは一致していません。

資料は乏しく、名の意味もわかっていません。

マリーカのローマ名・ギリシャ名と読み方

日本語では「マリーカ」「マリカ」の表記が使われます。長音を書き分けない形も見られます。

名の意味は、いまもわかっていません。 古代の書き手も由来を説明しておらず、後世の研究でも定説が出ていません。

ラテン語ではなく、その土地の古い言葉から来た名とみられています。

ニュンパ・マリーカ、すなわち妖精マリーカという呼び方もあります。女神とみるか、土地の妖精とみるかは、書き手によって違います。

古代の書き手のあいだでは、ウェヌスと同じ女神とみる説や、キルケーと重ねる説も出されました。キルケーが近くの岬に結びつけられていたためです。

一致していないということ自体が、この女神の資料の少なさを示しています。 ラティーヌスの母という位置づけ以外に、共有された理解がありませんでした。

Marica(マリーカ)

ラテン語の主格。名の意味はわかっておらず、由来を説明した古代の記述も残っていない。

Lucus Maricae(ルークス・マリーカエ)

マリーカの森の意。リーリス川の河口にあった聖域を指し、遺跡の名としても使われる。

Nympha Marica(ニュンパ・マリーカ)

妖精マリーカの意。土地の妖精として呼ばれることがあり、女神と妖精のどちらとみるかは書き手により異なる。

マリーカの物語

  1. リーリス川の河口の森 ─ ミントゥルナエの女神
  2. ファウヌスの妃、ラティーヌスの母 ─ アエネーイス第7巻
  3. 持ち出してはならない森 ─ 定めと、マリウスの逃亡
  4. なぜ記録が少ないのか ─ 土地の神が残らなかった理由

リーリス川の河口の森 ─ ミントゥルナエの女神

マリーカの聖域は、リーリス川の河口にありました。

いまのガリリアーノ川の河口で、近くにミントゥルナエという町があります。ローマとナポリのあいだ、海に面した一帯です。

川と海と沼が入り混じる土地でした。

この一帯は、古くはアウルンキ人が住んだ地域です。ローマが南へ広がる過程で植民市が置かれました。

聖域はローマの町ができるより古く、発掘では古い時期の神殿の基壇が見つかっています。

土地の女神が、町より先にそこにいたということです。

ローマは植民市を置いたあとも、この聖域を残しました。征服した土地の祭祀をそのまま続けさせるのは、ローマがしばしば行ったやり方です。

いまこの一帯は遺跡公園になっており、ミントゥルナエの町の跡とあわせて見学することができます。

ファウヌスの妃、ラティーヌスの母 ─ アエネーイス第7巻

この女神の名がもっともよく知られているのは、『アエネーイス』第7巻によります。

ウェルギリウスは、ラティウムの王ラティーヌスの血筋を語る場面で、この女神を持ち出しました。

ラティーヌスの父はファウヌス、母はラウレントゥムの妖精マリーカ。

ファウヌスの妃という位置づけです。ファウヌスは森と牧の神で、イタリアの古い神にあたります。

ラティーヌスは、アエネーアースを迎え入れ、娘ラウィーニアを嫁がせた王です。つまりイタリア側の王家の血筋が、この土地の女神から始まっていることになります。

ウェルギリウスがこの女神を選んだ理由は、はっきりとは書かれていません。

ラティウム南部の土地の神を、王家の系図に組み込むことで、物語をその土地に根づかせようとしたとみる読み方があります。

この一節のおかげで、マリーカの名は失われずに残りました。

持ち出してはならない森 ─ 定めと、マリウスの逃亡

マリーカの森には、一つの定めがありました。

いったん持ち込んだものは、二度と持ち出してはならない。

神に捧げられた場所から、物を外へ出さないという決まりです。

似た定めは、他の聖なる森にも伝わります。神の領域と人の領域を、物の出入りで区切る考え方です。

この一帯には、もう一つ有名な話があります。マリウスの逃亡です。

政敵スッラに追われたマリウスは、この付近の沼地に身を隠しました。泥のなかに首まで浸かっていたところを見つかったと伝えられます。

捕らえられたのはミントゥルナエの町でした。処刑を命じられた兵が、マリウスの眼光に打たれて剣を落としたという話が続きます。

この逸話は森の女神とは直接関わりませんが、この土地の名を後世に伝えることになりました。

沼地と森という景観そのものが、話の舞台になっています。

なぜ記録が少ないのか ─ 土地の神が残らなかった理由

マリーカについて、確かに言えることはごくわずかです。

聖域の場所、ファウヌスの妃という位置づけ、森の定め。 これでほぼ尽きます。

名の意味もわかりません。姿を伝える記述も、祭日も残っていません。

なぜこれほど資料が少ないのでしょうか。

理由は三つ考えられます。

一つめは、この女神がローマの国家祭祀に入らなかったことです。都に神殿が建てられなかったため、暦にも記録にも残りませんでした。

二つめは、アウルンキ人の言葉が失われたことです。名の意味を伝えられる人がいなくなりました。

三つめは、ウェルギリウスが一行触れただけだったことです。物語に組み込まれた神は詳しく語られますが、系図に名が出るだけの神は、そこで止まります。

逆に言えば、その一行が無ければ、この名は完全に消えていました。

土地の神がどう消えていくかを、この女神ははっきり見せてくれます。

マリーカの家系図と家族

マリーカの妻・夫: ファウヌス

マリーカの子・子孫: ラティーヌスラティーヌス

マリーカの性格と人物像

マリーカには、性格を語る記述がまったく残っていません。

行いも、言葉も、姿も伝わっていません。古代の書き手が、この女神を何者とみるかで一致していないほどです。

ウェヌスと同じ女神とみる説、キルケーと重ねる説、土地の妖精とみる説。

いずれも推定です。一致した理解が無いこと自体が、資料の少なさを示しています。

研究上の位置づけとしては、ローマに取り込まれなかった土地の神の例として扱われます。

ローマは、征服した土地の神を都へ迎えることがありました。しかしこの女神は迎えられず、もとの場所に残ったままでした。

そのぶん、聖域は長く続きます。発掘では古い時期から使われ続けた跡が出ています。

都に入らなかったから記録が少なく、しかし土地では祀られ続けた。 この形は、イタリアの土地の神に広く見られるものです。

マリーカを祀った神殿と遺跡

マリーカの聖域は、リーリス川の河口の森の一か所が確かめられています。

いまのガリリアーノ川の河口にあたり、発掘で古い時期の神殿の基壇が見つかっています。

ローマの植民市が置かれるより古くから使われていた聖域です。

二件目に挙げたミントゥルナエは、この聖域を支えた町の跡です。町のなかにマリーカを祀る施設があったわけではありません。 祀られたのは、町の外の森でした。

この女神はローマ市内に神殿を持ちませんでした。 国家祭祀に取り込まれなかったためです。

そのぶん、土地では長く祀られ続けました。都に入らなかったから記録が少なく、土地では残ったという形です。

マリーカの森(Lucus Maricae)

マリーカを祀った聖域

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マリーカの森の住所: イタリア ラツィオ州 ミントゥルノ ガリリアーノ川の河口(北緯41.2292 東経13.7587)

マリーカの森の祀られた神: マリーカ

マリーカの森に残るもの: 古い時期の神殿の基壇が発掘されている

マリーカの森のご利益: 川と水の守り・森の守り

リーリス川、いまのガリリアーノ川の河口にあった聖域です。ローマの植民市が置かれるより古くから使われていました。

森には定めがありました。いったん持ち込んだものは、二度と持ち出してはならない。

発掘では古い時期の神殿の基壇が出ており、長く使われ続けた跡が確かめられています。

ウェルギリウスが『アエネーイス』第7巻でこの女神をラティーヌスの母としたのは、この土地の祭祀を踏まえてのこととみられます。

川の河口の一帯にあり、ミントゥルナエの遺跡から近い。

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ミントゥルナエ(Minturnae)

聖域を支えた町の跡

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ミントゥルナエの住所: イタリア ラツィオ州 ミントゥルノ(北緯41.2422 東経13.7684)

ミントゥルナエの祀られた神: (マリーカを祀る施設は町の外の森にあった)

ミントゥルナエに残るもの: 劇場・水道橋・広場の跡(遺跡公園として公開)

ミントゥルナエのご利益: (マリーカを祀る施設は町の中に無い)

リーリス川の河口に置かれたローマの植民市です。マリーカを祀る施設はこの町の中ではなく、川の河口の森にありました。

町そのものは街道沿いに栄え、劇場や水道橋の跡が残っています。

マリウスがスッラに追われて捕らえられたのが、この町です。 付近の沼地に身を隠していたところを見つかったと伝えられます。

町と森は近く、あわせてたどることができます。

遺跡公園として公開され、劇場と水道橋の跡を見学できる。

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マリーカが現代に残した痕跡

マリーカの名は、河口の遺跡と、叙事詩の一行として残りました。

ガリリアーノ河口の遺跡: 古い神殿の基壇が発掘され、この一帯の祭祀が古くまでさかのぼることが確かめられている。

アエネーイスの系図: ラティーヌスの母として第7巻に名が出る一行が、この女神の名を後世に伝えた。

マリウスの逃亡: この一帯の沼地に隠れて捕らえられた話が、土地の名とともに語り継がれている。

ミントゥルナエ遺跡: 劇場と水道橋の残るローマの植民市で、聖域とあわせて見学できる。

マリーカが司るもの

川と水の守り

リーリス川の河口に聖域を持ち、川と海の境の水を司る女神とされた。

森の守り

持ち込んだものを持ち出してはならないという定めを持つ聖なる森を司った。

土地の血筋

ラティーヌスの母とされ、イタリア側の王家の始まりに置かれた。

マリーカが登場するゲーム・アニメ

マリーカが作品に現れることは、ほとんどありません。

姿も物語も伝わっていないため、描く手がかりがないためです。

かわりに描かれるのは、この土地で起きた出来事のほうです。

沼に隠れたマリウスの場面は、近世の歴史画で好まれました。神ではなく土地が主役になるのが、この女神の作品での扱われ方です。

マリーカが登場するゲーム

ローマを扱う歴史戦略ゲーム

イタリア南部の聖域として、地名や施設に名が現れることがあります。

神話を扱う対戦型ゲーム

森と水の女神として、名前だけが登場することがあります。

マリーカが登場する絵画・彫刻

沼のマリウスを描いた絵画

この一帯の沼地に隠れた場面が、近世の歴史画で取り上げられました。

聖域から出た奉納品

河口の聖域から出土した供え物が、地域の博物館に収められています。

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マリーカについてよくある質問

マリーカはどんな女神ですか。

ミントゥルナエの近く、リーリス川の河口の森に祀られた土地の女神です。ウェルギリウスはアエネーイス第7巻で、ファウヌスの妃であり、ラティウムの王ラティーヌスの母としています。

名前の意味は何ですか。

わかっていません。ラテン語ではなく、その土地の古い言葉から来た名とみられていますが、古代の書き手も由来を説明しておらず、定説はありません。

森にはどんな決まりがありましたか。

いったん持ち込んだものは、二度と持ち出してはならないという定めが伝えられます。神の領域と人の領域を、物の出入りで区切る考え方によるものです。

マリウスの話とはどう関わりますか。

スッラに追われたマリウスが、この一帯の沼地に身を隠し、ミントゥルナエの町で捕らえられたと伝えられます。女神と直接の関わりはありませんが、土地の名を後世に伝えました。

なぜ資料が少ないのですか。

ローマの国家祭祀に取り込まれず、都に神殿が建てられなかったためです。土地の言葉が失われたことも重なり、名の意味も伝わりませんでした。