森と牧畜の神。眠る者に声で告げ、狼の祭の日に祀られた。
ファウヌスとは何の神様か
ファウヌスはひとことで言えば声で告げる神です。ギリシャのパーンと重ねられました。
ローマでのこの神には、ギリシャに無い役目があります。予言です。
森で眠る者の耳もとに、声だけが聞こえる。
そのためファートゥウス(語る者)とも呼ばれました。神殿の床に羊の皮を敷いて眠り、夢のお告げを待つ習わしがあります。
前194年、ティベリス島に神殿が奉献されました。祭日は2月13日です。
その二日後の2月15日には、ルペルカー?リアが行われました。
- 若者が山羊の皮だけをまとう
- 皮の紐で市中を走り、行き会う者を打つ
- 打たれた女は子を授かるとされた
この祭とファウヌスの関係は、古代から議論されています。 決着していません。
ラティウムの古い王の一人としても語られます。
ファウヌスのローマ名・ギリシャ名と読み方
日本語では「ファウヌス」「ファウナス」が使われます。
名の由来は分かっていません。
「恵む」を意味する語につなげる説。
「語る」を意味する語につなげる説。
どちらとも決着していません。
複数形のファウニーは、山羊の脚を持つ森の精霊たちを指す語になりました。ギリシャのサテュロスと重ねられます。
近代の生物学では、この複数形からある地域の動物全体を指す学術用語が作られました。フローラ(植物相)と対になる語です。
Faunus(ファウヌス)
ラテン語。「恵む」を意味する語につなげる説と、「語る」を意味する語につなげる説がある。
Fatuus(ファートゥウス)
「語る者」。予言する神としての呼び名。
Pan(パーン)
ギリシャ名。
ファウヌスの物語
羊の皮の上で眠る ─ 声を聞く方法
ファウヌスの告げは、声だけです。姿は現れません。
森で眠る者の耳もとに、声が聞こえます。
そのため、この神から告げを得る方法が決まっていました。
犠牲にした羊の皮を、聖なる林の地に敷く。
その上で眠る。
夢の中で答えが返る。
ウェルギリウスの『アエネーイス』に、この場面があります。
ラティウムの王ラティーヌスが、娘の縁組について迷ったとき、父ファウヌスの林へ行ってこの方法を試しました。
返ってきた答えは、こうです。
娘を、土地の者と結婚させてはならない。
外から来る者と結ばせよ。
この答えによって、ラーウィーニアはアイネイアースの妻になります。
トゥルヌスとの戦いは、この告げから始まりました。
眠って告げを得る方法は、ギリシャの医神の聖域でも行われました。ローマ独自のものではありません。
ルペルカーリア ─ 山羊の皮で打つ
2月15日のルペルカーリアは、ローマでもっとも古い祭の一つです。
パラティヌスの丘のふもと、ルペルカールという洞窟から始まります。
山羊と犬が犠牲にされる。
二人の若者の額に、血のついた刀を当て、乳で拭う。
若者は笑わなければならない。
そのあと、犠牲の皮を細く切り、若者たちが山羊の皮だけをまとって走り出します。
手にした皮の紐で、行き会う者を打つ。
打たれた女は、子を授かるとされた。
祭を行うのはルペルキーと呼ばれる集団です。
この祭とファウヌスの関係は、はっきりしていません。
- ファウヌスの祭だとする記録
- ルペルクスという別の神の祭だとする記録
- イーヌウスという神の祭だとする記録
古代の著述家のあいだでも一致していません。
祭は5世紀まで続きました。ローマの祭のなかで、最後まで残ったものの一つです。
王としてのファウヌス ─ 神と人のあいだ
ファウヌスは、ラティウムの古い王としても語られます。
サートゥルヌスの孫。ピークスの子。ラティーヌスの父。
ローマの建国以前の王たちの系図に、この神が組み込まれています。
神なのか、王なのか。
ローマの伝えでは、その区別が曖昧です。同じことは、サートゥルヌスにも、ピークスにも、エウアンドロスにも当てはまります。
昔の王が、死んで神になった。
そう説明されることもあります。
ウェルギリウスの『アエネーイス』では、ラティーヌスの父として、聖なる林の中から声で告げます。
神として祀られながら、系図の中では人として扱われています。
この曖昧さは、ローマの神話の特徴です。ギリシャのように、神々の世界と人間の世界がはっきり分かれていません。
そのぶん、土地と血筋の物語として組み立てられています。
ファウヌスの家系図と家族
ファウヌスの性格と人物像
ファウヌスは、姿を見せない神です。
森の中から声だけが聞こえます。
ギリシャのパーンが、山羊の脚と角を持つ姿ではっきり描かれるのとは対照的です。
声だけ。それがローマ側の特徴。
ただし、時代が下ると図像は混ざりました。ファウニーと呼ばれる複数形の精霊たちは、サテュロスと区別がつかなくなります。
もう一つの顔は、牧畜の守り手です。羊と山羊を狼から守ります。
ルペルカーリアの祭が「狼」に関わる名で呼ばれるのも、この役目に結びつけられることがあります。
予言し、家畜を守り、王でもある。
役目が一つに定まりません。ローマの古い神には、この状態のものが数多くあります。
ファウヌスを祀った神殿と遺跡
ファウヌスの祀られ方は、神殿より聖なる林でした。
森の中から声が聞こえる神。
告げを求める者は、林へ行って羊の皮の上で眠ります。建物は要りません。
ティベリス島の神殿は、前194年に建てられたものです。それ以前は、林で祀られていたとみられます。
住所を確かめられたのは、ここに挙げた二か所です。
ファウヌス神殿(Aedes Fauni)
ティベリス川の島に建てられた神殿
ファウヌス神殿の住所: イタリア ローマ ティベリーナ島(北緯41.8906 東経12.4772)
ファウヌス神殿の祀られた神: ファウヌス
ファウヌス神殿に残るもの: 地上に残っていない
ファウヌス神殿のご利益: 家畜の守り
前194年に奉献された神殿です。ティベリス川の中の島に建てられました。
同じ島には、ギリシャから迎えられた医神の神殿もあります。外から来た神や、市中に置きにくい神を島に置くという扱いがうかがえます。
祭日は2月13日です。その二日後にルペルカーリアが行われました。
地上に遺構は残っていません。
島には現在も病院と教会が建っている。
ルペルカール(Lupercal)
ルペルカーリアが始まった洞窟
2月15日のルペルカーリアが始まった洞窟です。
ここで山羊と犬が犠牲にされ、若者たちが山羊の皮をまとって走り出しました。
2007年、この洞窟とされる空間が丘の下から見つかったと発表されましたが、同定については議論が続いています。
この祭とファウヌスの関係も、古代から議論が分かれています。
パラティーノの丘の見学区域にある。内部は原則として公開されていない。
ファウヌスが現代に残した痕跡
ファウヌスの名は、動物相を指す学術用語として残りました。
動物相: ある地域に生息する動物全体を指す学術用語。フローラ(植物相)と対になる語として作られた。
牧神の午後: マラルメの詩とドビュッシーの曲。ここでの牧神はこの神を指し、山羊の脚を持つ姿で描かれる。
森の精霊を指す語: 複数形が、山羊の脚を持つ森の精霊たちを指す語になった。
ファウヌスが司るもの
告げを得る
羊の皮の上で眠り、夢のお告げを待った。
家畜の守り
羊と山羊を狼から守る神とされた。
子宝
ルペルカーリアで皮の紐に打たれた女は、子を授かるとされた。
ファウヌスが登場するゲーム・アニメ
作品では、山羊の脚を持つ姿で描かれます。
これはギリシャのパーンから来た図像です。
ローマ側の特徴は、姿を見せず声だけで告げること。
こちらは、作品にはほとんど出てきません。
一方、動物相を指す学術用語としては、この名が毎日使われています。
ファウヌスが登場する音楽・舞踊
牧神の午後への前奏曲
ドビュッシーの管弦楽曲。ニジンスキーの舞踊でも知られます。
ファウヌスが登場する美術・ゲーム
バルベリーニのファウヌス
眠る姿の大理石像。ミュンヘンにあります。
幻想世界を扱う作品
山羊の脚を持つ種族の名として、この神の名が広く使われます。
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ファウヌスについてよくある質問
ファウヌスとパーンは同じ神ですか。
同一視されますが、ローマのファウヌスには予言の役目があります。姿を見せず、森で眠る者の耳もとに声だけが聞こえるとされました。
どうやって告げを得たのですか。
犠牲にした羊の皮を聖なる林の地に敷き、その上で眠りました。夢の中で答えが返るとされます。
ルペルカーリアはこの神の祭ですか。
はっきりしていません。ファウヌスの祭とする記録、ルペルクスという別の神の祭とする記録、イーヌウスの祭とする記録があり、古代の著述家のあいだでも一致していません。
動物相を指す語はこの神に由来しますか。
そうです。複数形が森の精霊たちを指す語になり、そこからある地域の動物全体を指す学術用語が作られました。フローラ(植物相)と対になる語です。
ファウヌスと併せて覚えたい言葉・用語
カー(kꜣ/生命力)
人と一緒に生まれ、死後も供物を受け取る生命力。クヌムがろくろで人を作るとき、肉体とカーの二体を同時に形作った。