ロームルスとレムスの母。ウェスタの巫女でありながら双子を生んだ。
レア・シルウィアとは何の神様か
レア・シルウィアのローマ名・ギリシャ名と読み方
日本語では「レア・シルウィア」で定着しています。「レア」と「レアー」の揺れが少しあります。
ギリシャ神話のレア(クロノスの妻)とは別の存在です。名が似ているだけで、つながりはありません。
古い詩では「イーリア」と呼ばれます。
この名は、トロイアの別名イーリオンに通じます。アエネーアースの一族の血を引くことを示すための名です。
二つの名は、二つの系譜を指しています。 シルウィアはアルバ・ロンガの王家、イーリアはトロイアからの流れ。ローマ人は建国者の母に、両方を背負わせました。
Rhea Silvia(レア・シルウィア)
もっとも広く使われる形。シルウィアはアルバ王家の家名にあたる。
Ilia(イーリア)
古い詩に多い形。トロイアの別名イーリオンに通じ、アエネーアースの子孫であることを示す。
Rea Silvia(レア・シルウィア)
ラテン語の写本ではこの綴りも多い。
レア・シルウィアの物語
アルバ・ロンガの王家 ─ 巫女にされる
アルバ・ロンガは、アエネーアースの子アスカニウスが建てた町とされます。
その王ヌミトルを、弟のアムーリウスが追いました。ヌミトルの息子は狩りの最中に殺されます。
残ったのが娘のレア・シルウィアでした。
アムーリウスは彼女をウェスタの巫女に任じた。名誉のように見せて。
ウェスタの巫女は国家の火を守る職で、三十年のあいだ結婚を許されません。 誓いを破れば生き埋めにされます。
血筋を絶つ手立てとして、これ以上のものはありませんでした。
ローマ人がこの筋書きを好んだのは、ウェスタの巫女という制度がその後も千年続いたからです。物語の細部が、目の前の制度と噛み合っていました。
マールスの訪れ ─ 双子の誕生
彼女が身ごもった経緯は、書き手によって違います。
リウィウスはマールスに犯されたと書き、そのうえで冷ややかにこう続けます。
神を父としたのは、罪を軽くするためだったのかもしれない。
リウィウスは、この話を信じていません。 建国の伝えを紹介しながら、疑いを残す書き方をしています。
オウィディウスは違う書き方をしました。水を汲みに出た彼女が川岸で眠り、そこへ神が訪れる。目を覚ましたとき何が起きたかを知らない、という場面です。
生まれたのは男の双子でした。神の子であることは、母を救いませんでした。
アムーリウスは双子を籠に入れて川へ流させ、母を牢に入れます。
その後 ─ 三つに分かれる最期
レア・シルウィアがどうなったかは、一つに定まっていません。
一つ目は、牢に入れられたまま死んだという形です。リウィウスはここで彼女の話を打ち切ります。
二つ目は、川に投げ込まれて溺れたという形。
三つ目は、川に投げ込まれたが死なず、河の神の妻になったという形です。相手はテウェレ川の神テウェリヌスとも、支流のアニオーとも語られます。
河の神が、川底の宮に迎えた。
三つ目は詩人に好まれました。ホラーティウスは、彼女が夫の川に嘆きを訴える場面を書いています。
双子が救われる話の裏で、母の行方は語られなくなります。 物語の中心が子に移ったためです。
なぜこの母が必要だったのか
ローマ建国の物語には、血筋をつなぐ役目が要りました。
トロイアから逃れたアエネーアース、その子が建てたアルバ・ロンガ、そこから生まれるロームルス。この三つを一本の線にするには、アルバの王女が要ります。
同時に、父がマールスであることも欠かせません。ローマ人が自らを軍神の子孫と呼ぶ根拠が、ここに置かれています。
母が人、父が神。
英雄の生まれ方として、地中海に広く見られる形です。
近年の研究では、この物語が前4世紀から前3世紀にかけて形を整えたとみられています。ローマがイタリア半島で力を持ち、ギリシャ世界に自らの由来を説明する必要が出た時期にあたります。
レア・シルウィアの家系図と家族
レア・シルウィアの性格と人物像
レア・シルウィアには、自分から動く場面がほとんどありません。
巫女にされ、身ごもらされ、子を奪われ、牢に入れられる。伝えられているのは、彼女が受けた出来事ばかりです。
せりふらしいせりふも、ほとんど残っていません。
オウィディウスだけが、双子を奪われたあとの嘆きを書きました。腕を伸ばして子を求める場面です。
この描かれ方は、彼女が物語の装置として作られたことを示しています。 血筋をつなぎ、神の子を産む。その二つを果たしたところで、記述が止まります。
一方で、建国の物語の入口に、罰せられる女性が置かれているという点は、後世の読み手がたびたび取り上げてきました。近代の小説や歌劇では、彼女の側から語り直す試みが繰り返されています。
レア・シルウィアゆかりの地と遺跡
レア・シルウィアを祀った神殿は、記録に残っていません。
彼女は神ではなく、建国の物語のなかの女性として語られました。神になったのは息子のロームルスだけです。
ここに挙げたのは、物語の舞台です。
そのため、この節の見出しを「ゆかりの地」としています。
なお、河の神の妻になったという伝えから、テウェレ川そのものを彼女ゆかりの地として挙げる案内を見かけることがあります。古代の祭祀としての裏づけは見つかりません。
アルバ・ロンガ(Alba Longa)
レア・シルウィアの生まれた町とされる
アルバ・ロンガの住所: イタリア ラツィオ州 カステル・ガンドルフォ一帯(北緯41.7445 東経12.6497)
アルバ・ロンガの祀られた神: (この女性を祀る施設は無い)
アルバ・ロンガに残るもの: 町の跡は特定されていない。アルバヌス湖の西岸一帯とされる
アルバ・ロンガのご利益: (祀る施設は無い)
アエネーアースの子アスカニウスが建てたとされる町です。ラテン諸都市の盟主でした。
第三代の王トゥッルス・ホスティーリウスの時代にローマに滅ぼされ、住民はローマへ移されたと伝えられます。
町そのものの位置は確かめられていません。 カステル・ガンドルフォからアルバー?ノにかけての一帯とみられていますが、決め手になる遺構は出ていません。
アルバヌス湖を見下ろす一帯。ローマから鉄道と路線バスで行ける。
ルペルカール(Lupercal)
流された双子が牝狼に拾われたとされる洞
ルペルカールの住所: イタリア ローマ パラティウムの丘の北西麓(北緯41.8893 東経12.4871)
ルペルカールの祀られた神: ファウヌス・ルペルクス
ルペルカールに残るもの: 洞とされる空間(保存作業のため通常は非公開)
ルペルカールのご利益: (祀る施設は無い)
川に流された双子が流れ着いたとされる場所です。母の物語が終わり、子の物語が始まる地点にあたります。
籠がいちじくの木の根もとで止まり、そこへ牝狼が来たと伝えられます。この木はルーミーナのいちじくと呼ばれ、後々まで大切にされました。
レア・シルウィア自身を祀る場所ではありません。
パラティウムの丘の見学路から位置を外から見ることができる。
レア・シルウィアが現代に残した痕跡
レア・シルウィアの名は、絵画と歌劇の題材として残りました。
マールスとレア・シルウィア: ルーベンスをはじめ、眠る女性のもとへ軍神が訪れる場面が繰り返し描かれた。
石棺の浮き彫り: ローマ時代の石棺に、この場面と双子の誕生を並べて彫ったものが残る。
ウェスタの巫女: この物語をきっかけに、巫女の誓いの重さがしばしば語られてきた。
イーリアの名: 詩で使われた呼び名。トロイアからの血筋を示す形として、後世の系譜の書物に受け継がれた。
レア・シルウィアが司るもの
血筋をつなぐこと
トロイアからアルバ・ロンガ、そしてローマへ至る系譜の結び目にあたる。
母であること
ローマ人の父祖である双子を産んだ女性として語られた。
川との縁
河の神の妻になったとする伝えから、テウェレ川と結びつけられた。
レア・シルウィアが登場するゲーム・アニメ
作品でのレア・シルウィアは、眠っている姿で描かれることがほとんどです。
オウィディウスの書き方が下敷きになっているためで、目を覚ましたときには何も知らない、という筋になっています。
描かれるのは、彼女が知らないうちに起きたことです。
近代の小説や歌劇には、彼女の側から語り直す試みがいくつかあります。
レア・シルウィアが登場するゲーム
歴史をあつかう戦略ゲーム
建国の背景として、双子の母の名が現れることがあります。
ローマを舞台にした物語作品
双子の出生の場面で、しばしば語り手の役を与えられます。
レア・シルウィアが登場する絵画・彫刻
ルーベンスの作品
眠る彼女のもとへマールスが近づく場面を描いています。
ローマ時代の石棺
出会いと双子の誕生を並べた浮き彫りが、いくつも残っています。
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レア・シルウィアについてよくある質問
レア・シルウィアはギリシャ神話のレアと同じですか。
別です。名が似ているだけで、つながりはありません。ギリシャのレアはクロノスの妻でゼウスの母、レア・シルウィアはアルバ・ロンガの王女です。
なぜウェスタの巫女にされたのですか。
王位を奪った叔父アムーリウスが、兄の血筋を絶やすためです。巫女は三十年のあいだ結婚を許されないため、子孫が生まれないと考えられました。
レア・シルウィアはその後どうなりましたか。
一つに定まっていません。牢で死んだとする形、川に投げ込まれて溺れたとする形、河の神の妻になったとする形の三つが伝わります。
イーリアという名は何ですか。
古い詩で使われた別名です。トロイアの別名イーリオンに通じ、アエネーアースの一族の血を引くことを示します。
レア・シルウィアと併せて覚えたい言葉・用語
バー(bꜣ/人格・魂)
人の頭を持つ鳥の姿で描かれる、その人の人格にあたる部分。昼は墓を出て動き、夜は遺体へ戻るとされた。