マールスの妃とされるサビニ系の女神。名は力を意味する。
ネリオーとは何の神様か
ネリオーはひとことで言えばマールスの妃とされた女神です。
サビニ人に由来するとされます。ローマの古い祭祀には、サビニから入った神がいくつもあり、この女神もその一つに数えられます。
名はサビニ語の「力」「勇」を意味する語から出たもので、ラテン語では「男らしさ」を意味する語にあたると、ゲッリウスが説明しています。
つまり、戦の神の力そのものを名にした女神です。
古い祈りの文句に「マールスとネリオー」という形で名が残ります。神の名を対にして呼ぶのは、ローマの古い祈りによく見られる形です。
喜劇作家プラウトゥスは、この対を茶化す場面を書きました。舞台で笑いにできたということは、名がよく知られていた証しになります。
ミネルウァと同じ神だとする説明や、ウェネーリアと結びつける説明も古代からありました。
独立した神殿は、記録に残っていません。
ネリオーのローマ名・ギリシャ名と読み方
日本語では「ネリオー」「ネリオ」の表記が使われます。長音を書き分けない形も見かけます。
ネリエーネ、ネリエーネスといった形も伝わっています。ラテン語の格変化がどうなるのか、古代の著述家自身が迷っており、資料によって形が揺れています。
名の形が定まらないこと自体が、この女神の古さを示しています。
名の由来については、サビニ語の「力」「勇」を意味する語に結びつける説明が伝わります。ゲッリウスは、ラテン語の「男らしさ」を意味する語にあたると述べました。
戦の神の力そのものを、女神の名にしたという作りです。ローマには、神の働きを別の神として立てる例がいくつもあります。
なお、この名をギリシャの女神と結びつける説明は伝わっていません。ローマとサビニの側だけで語られる神です。
Nerio(ネリオー)
ラテン語の主格。古い祈りの文句にこの形で名が現れる。
Nerienes(ネリエーネス)
プラウトゥスの喜劇に見える形。格変化の形が資料によって揺れている。
Mars Nerioque(マールスとネリオー)
二柱を対で呼ぶ古い祈りの形。この形でだけ名が残った例が多い。
ネリオーの物語
マールスとネリオー ─ 古い祈りに残る対
ネリオーの名は、古い祈りの文句のなかに残りました。
「マールスとネリオー」という形で、二柱を対にして呼びます。
神の名を対で呼ぶのは、ローマの古い祈りの形です。
ローマの祈りでは、名を呼び落とすことが恐れられました。神の名を取り違えたり、一柱だけ落としたりすれば、祈りは効き目を失うと考えられていたためです。
そのため、対の名は決まった順序で唱えられます。マールスの名が先に、ネリオーの名が後に続きました。
この形で残ったということは、祈りの文句が変えられずに受け継がれたことを意味します。ローマ人は、意味がわからなくなった古い言葉も、そのまま唱え続けました。
言葉の意味より、正しい形で唱えることのほうが重んじられたのです。
ネリオーの名が今日まで伝わったのは、この習慣のおかげです。意味が忘れられても、名は残りました。
名の意味 ─ サビニ語からラテン語へ
2世紀の著述家ゲッリウスは、この女神の名について説明を残しました。
名はサビニ語に由来し、「力」「勇」を意味するといいます。ラテン語では「男らしさ」を意味する語にあたる、と続けます。
力そのものが、女神の名になっている。
ローマには、神の働きを別の神として立てる例がいくつもあります。勝利、平和、誠実。抽象概念の神と呼ばれる一群です。
ネリオーもその作りに近いのですが、違う点があります。サビニ語から来ているということです。
サビニ人は、ローマの北東にいた人々です。建国の物語では、女たちを奪われて戦い、のちに一つの民になったと語られます。ローマの祭祀には、サビニから入った神がいくつもあります。
外から来た言葉が、祈りの文句のなかで意味の通じない名として残る。ゲッリウスの説明は、その意味を取り戻そうとする試みでした。
ただし、この説明が正しいかどうかは確かめられていません。
プラウトゥスの笑い ─ 舞台に上がった対
喜劇作家プラウトゥスは、この二柱の対を茶化す場面を書きました。
戦の神とその妃という取り合わせを、夫婦のやりとりに引き寄せて笑いにしています。
舞台で笑いになるのは、客が知っている名だけです。
ここが大事な点です。前2世紀のローマの観客が、この名を聞いてわかったということになります。
いまでこそ名前しか残っていない神ですが、当時は日常の言葉のなかにありました。祈りの文句を耳にする機会が、それだけ多かったということです。
喜劇は、古い祭祀を知る手がかりとして重んじられます。まじめな書物に載らないことが、笑いの種として書き留められるためです。
同じことは、ほかのローマの神についても言えます。舞台の台詞が、失われた祭祀の記録になっている場合があります。
プラウトゥスの一節がなければ、ネリオーの名の形も、当時の知られ方も、たどれなくなっていました。
なぜ記録が少ないのか ─ 対の神の宿命
ネリオーについて伝わることは、ごくわずかです。理由は三つ考えられます。
第一に、対の神だからです。マールスと並べて呼ばれるため、この女神だけを取り出して書く必要がありませんでした。
名を並べて唱えれば、それで足りたのです。
第二に、神殿を持たなかったからです。独立した神殿は記録に残っていません。マールスの神殿に共に祀られたとする説がありますが、確かめられていません。 神殿がなければ、奉献の碑文も祭日の記録も残りません。
第三に、意味が早くに忘れられたからです。サビニ語から来た名は、ローマ人にも意味が通じなくなっていました。ゲッリウスが説明を書いたのは、すでに説明が要る状態だったからです。
それでも、名は消えませんでした。 祈りの文句として、喜劇の台詞として、著述家の説明として残りました。
意味がわからなくなっても唱え続ける。 ローマの祭祀のその性質が、この女神を今に伝えています。
ネリオーの家系図と家族
ネリオーの妻・夫: マールス
ネリオーの性格と人物像
ネリオーには、物語がありません。 姿の描写も、像も伝わっていません。
わかっているのは、マールスと対で呼ばれたこと、名が力を意味すること、そして舞台で笑いにされたことだけです。
それでも、姿の見当はつきます。
戦の神の力を、妃という形で立てた女神です。神の働きを別の神として立てるのは、ローマの祭祀によく見られる作りです。
ミネルウァと同じ神だとする説明や、ウェネーリアと結びつける説明も古代からありました。どれも決め手を欠きます。 説明が複数あるということは、当時すでに正体がわからなくなっていたということです。
研究のうえでは、この女神はサビニ系の神がローマに入った例として、また古い祈りの文句の残り方を示す例として引かれます。
神殿も祭日もない神が、祈りの言葉のなかだけで千年を越えて伝わりました。 記録の少なさとは別に、これは相当に強い残り方です。
ネリオーを祀った神殿と遺跡
ネリオーの独立した神殿は、記録に残っていません。
マールスの神殿に共に祀られたとする説がありますが、確かめられていません。
名が残ったのは、建物ではなく祈りの言葉のなかです。
ローマの神には、神殿を持つ神と、祈りの文句のなかにだけ名がある神があります。ネリオーは後者にあたります。
奉献の碑文も、祭日の記録もありません。そのため、この節に挙げられる場所はありません。推し量って座標を書くことはしません。
マールスの祭祀の場で名が唱えられた見込みはあります。ただし、どの場所でとまでは伝わっていません。
祀られていたことは確かで、どこでかがわからない。 そういう形の神です。
ネリオーが現代に残した痕跡
ネリオーの名は、祈りの文句のなかに残りました。
マールスとネリオー: 二柱を対で呼ぶ古い祈りの形。この文句によって名が今日まで伝わった。
プラウトゥスの喜劇: 舞台でこの対が茶化される場面があり、当時よく知られていたことを示す資料になっている。
ゲッリウスの説明: アッティカの夜のなかで、名の意味をサビニ語からたどる説明が残されている。
サビニ由来の神々: ローマの祭祀にサビニから入った神がいくつもあり、その代表として名が挙がる。
ネリオーが司るもの
力と勇
名が「力」「勇」を意味するとされ、戦に立ち向かう力に結びつけられた。
戦の守り
マールスと対で呼ばれ、戦にかかわる祈りのなかで名が唱えられた。
夫婦の縁
マールスの妃とされ、対の神として並び呼ばれることに結びつけられた。
ネリオーが登場するゲーム・アニメ
ネリオーを主題にした作品は、ほとんどありません。 姿が伝わっていないため、描きようがないという事情があります。
名が使われるのは、戦の神の妃という役どころです。
近年の遊戯や小説で名が引かれる場合、その多くはゲッリウスの説明をもとにしたものです。
古代の作品としては、プラウトゥスの喜劇が唯一に近い手がかりになります。舞台の笑いが、失われた祭祀を今に伝えている例です。
ネリオーが登場するゲーム
神話を題材にしたカードゲーム
戦の神の妃として名が使われることがあります。
古代を舞台にした戦略ゲーム
戦にかかわる古い女神として扱われる例があります。
ネリオーが登場する古代の文学
プラウトゥスの喜劇
この女神と戦の神の対を茶化す場面が残されています。
アッティカの夜
名の由来をサビニ語からたどる説明が読めます。
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ネリオーについてよくある質問
ネリオーはどんな女神ですか。
マールスの妃とされるサビニ系の女神です。名はサビニ語の「力」「勇」を意味する語から出たとされ、ラテン語では「男らしさ」を意味する語にあたるとゲッリウスが説明しています。
ネリオーの神殿はありますか。
独立した神殿は記録に残っていません。マールスの神殿に共に祀られたとする説がありますが、確かめられていません。名が残ったのは、古い祈りの文句のなかです。
なぜ喜劇に出てくるのですか。
プラウトゥスが、戦の神とその妃という対を夫婦のやりとりに引き寄せて笑いにしたためです。舞台で笑いになるのは客が知っている名だけなので、当時よく知られていたことがわかります。
ミネルウァと同じ神ですか。
そう説明する者が古代にいましたが、決め手はありません。ウェネーリアと結びつける説明もありました。説明が複数あるということは、当時すでに正体がわからなくなっていたということです。