ネプトゥーヌスの妃とされる海の女神。沖の深い波を司るとされた。
サラーキアとは何の神様か
サラーキアはひとことで言えば海の神の妃です。ネプトゥーヌスと対になる女神として伝えられます。
名は塩をふくむ水を指す語に通じるとされ、そこから「塩の女神」と説明されることが多くあります。
ウァロは、この女神を沖の深い波、ウェニーリアを岸に打ち寄せる波として、二柱を対にしました。
遠くの波と、近くの波。海のはたらきを二つに分けた形です。
ゲッリウスは、古い祈りの文句にネプトゥーヌスとサラーキアの名が並ぶことを伝えています。神官が唱える定型の言葉のなかに、この名が残っていました。
同じ文句のなかには、マールスの妃ネリオや、クゥイリーヌスの妃ホーラも並びます。 神とその妃を一組で呼ぶ形式があったわけです。
のちにギリシャの海の王の妃と重ねられました。
ただし、この女神を単独で祀った神殿は記録に残っていません。
サラーキアのローマ名・ギリシャ名と読み方
日本語では「サラーキア」「サラキア」「サラシア」の表記が使われます。長音を書き分けない形のほうが目にする機会が多くなっています。
名の由来については、塩を意味する語に結びつける説明がもっとも広く行われています。そこから「塩の女神」と紹介されることがよくあります。
ただし、海そのものを指す語から来たとする説明もあります。
どちらが正しいかは決着していません。 古代の書き手のあいだでも一致していないためです。
ギリシャの海の王の妃と重ねられますが、その名を別名として使うのは正確ではありません。 二柱は別々に育った神で、サラーキアの側にはギリシャ側のような物語が伝わっていないからです。
ローマ側で伝わるのは、名と、対になる神と、祈りの文句の三つだけです。
Salacia(サラーキア)
ラテン語の主格。海を意味する語や、塩を意味する語と結びつけて説明されるが、由来は確定していない。
Salacia Neptuni(サラーキア・ネプトゥーニー)
ネプトゥーヌスのサラーキアの意。古い祈りの文句では、神とその妃をこの形で並べて呼んだ。
Venilia(ウェニーリア)
対になる女神の名。ウァロは沖の波をサラーキア、岸に寄せる波をウェニーリアとした。別の神であり、同じ神ではない。
サラーキアの物語
祈りの文句のなかの名 ─ 神とその妃を一組で呼ぶ
サラーキアの名が確かに残っているのは、古い祈りの文句のなかです。
ゲッリウスは、神官が用いた呼びかけの一覧を書き写しました。そこにはこう並びます。
ネプトゥーヌスにはサラーキア、マールスにはネリオ、クゥイリーヌスにはホーラ。
神と、その妃を一組で呼ぶ形式があったことがわかります。
この一覧に出てくる女神たちには、共通した特徴があります。物語をほとんど持たず、単独の神殿も持たないことです。
名だけが、祈りの言葉のなかに保存されていました。
ローマの祭祀では、呼びかける名を間違えないことがきわめて重視されました。だからこそ、意味がわからなくなった名も、文句のなかにそのまま残ったのです。
サラーキアという名が今日まで伝わっているのは、この形式のおかげだといえます。
沖の波と岸の波 ─ ウァロによる対
ウァロは、二柱の女神を対にして説明しました。
サラーキアは沖の深い波、ウェニーリアは岸に打ち寄せる波です。
海を、遠くと近くに分けたわけです。
沖の波は、船を運びもすれば沈めもします。岸の波は、人がふだん目にする波です。同じ海の別の面が、別の女神として立てられていました。
ローマの神々には、こうした分け方がよく見られます。昼の雷と夜の雷を別の神が受け持つ、といった具合です。
一つの現象を細かく割り、それぞれに名を与える。この考え方が、ローマの古い祭祀の骨格でした。
ウェニーリアのほうは、ウェルギリウスの『アエネーイス』にも名が出てきます。トゥルヌスの母とされる場面です。
サラーキアには、そうした物語がありません。 対にされた二柱のうち、片方だけが叙事詩に取り込まれました。
塩の女神と呼ばれる理由 ─ 名の由来をめぐって
サラーキアは、しばしば「塩の女神」と紹介されます。
これは、名が塩をふくむ水を指す語に通じるという説明によります。
海の水は塩からい。だから海の女神は塩の名を持つ。
すっきりした説明ですが、確定しているわけではありません。
古代の書き手のなかには、海そのものを指す語から来たとする者もいます。跳ねる、湧き立つといった動きを表す語に結びつける説明も伝わります。
どの説も決め手を欠いており、いまも決着していません。
こうした名の由来をめぐる議論は、ローマの古い神ではよく起こります。名が先にあって、意味の説明は後から付けられたからです。
ローマ人自身が、自分たちの古い神の名の意味を説明できなくなっていました。サラーキアもその一柱にあたります。
神殿を持たない女神 ─ なぜ記録が少ないのか
サラーキアを単独で祀った神殿は、記録に残っていません。
これは書き落としではなく、この女神の性格そのものによると考えられます。
ローマでは、ネプトゥーヌス自身の神殿すら数が少なく、しかも海の神としてよりは水の神として祀られていました。ローマはもともと海の民ではなかったためです。
海の神が薄いのだから、その妃はさらに薄くなります。
そのうえサラーキアは、祈りの文句のなかで神と一組で呼ばれる形の女神でした。単独で祀られる対象ではなく、ネプトゥーヌスの祭祀のなかに含まれていたとみられます。
名だけが残り、場所が残らなかった。 これがサラーキアの記録の残り方です。
海洋帝国になった後のローマでも、この女神が大きくなることはありませんでした。そのころには、ギリシャ由来の海の神々の物語が入ってきていたからです。
サラーキアの家系図と家族
サラーキアの性格と人物像
サラーキアには、人としての性格が伝わっていません。
怒りも嘆きも語られず、行いを記した話も残っていません。伝わっているのは、名と、対になる神と、祈りの文句だけです。
それでもローマ人は、この名を祈りの場から落としませんでした。
ローマの祭祀では、呼びかける相手の名を正しく挙げることが何より重んじられました。意味がわからなくなっても、文句は変えられません。
研究上の位置づけとしては、ローマの古い神々のうち、名しか残らなかった一群の代表例として扱われます。ネリオやホーラと同じ列です。
性格が無いのではなく、性格を語る資料が失われたのだと考えるほうが、記録の残り方には合います。
のちにギリシャの海の王の妃と重ねられましたが、その物語がサラーキアの物語として定着することはありませんでした。
サラーキアを祀った神殿と遺跡
サラーキアを祀った神殿や聖域は、記録に残っていません。
これは資料が失われたというより、もともと単独では祀られなかったためとみられます。
この女神は、ネプトゥーヌスの祭祀のなかで呼ばれる名でした。
ゲッリウスが書き写した祈りの文句では、神とその妃が一組で唱えられます。サラーキアの名が出てくるのは、その形式のなかです。
そのうえローマでは、ネプトゥーヌス自身の神殿も多くありません。海に向いた祭祀そのものが薄い都市でした。
したがって、ここでは住所を挙げる欄を空けています。確かめられた場所が無いためです。
サラーキアが現代に残した痕跡
サラーキアの名は、海に関わる語や天体の名として残りました。
太陽系外縁の天体: 海王星の外側をまわる天体の一つに、この女神の名が付けられている。
塩を表す語: 名の由来とされる語が、塩や塩からさを表す各国語の語につながっている。
古い祈りの文句: 神とその妃を一組で唱える形式の例として、いまも研究で引かれ続けている。
海の女神の図像: 波と海獣に囲まれた女神の図像が、後世に海の擬人像として受け継がれた。
サラーキアが司るもの
航海の安全
沖の深い波を司るとされ、船が海へ出るときに意識された女神。
海の恵み
塩をふくむ水の女神として、海から得られるものと結びつけられた。
夫婦の対
神とその妃を一組で呼ぶ古い形式のなかで、対になる存在として挙げられた。
サラーキアが登場するゲーム・アニメ
作品でのサラーキアは、単独で主役になることがありません。
海の神の妃という位置づけで名前が挙がるか、ギリシャの海の王の妃と重ねられて描かれるかのどちらかです。
物語が伝わっていないため、描く場面がありません。
一方で、天体の名としては近年よく目にするようになりました。海王星の外側をまわる天体に、この女神の名が付けられているためです。
サラーキアが登場するゲーム
神話を扱う対戦型ゲーム
海の神の妃として、名前だけが登場することがあります。
宇宙を扱う探索ゲーム
天体の名として用いられ、外縁の星の名前に現れます。
サラーキアが登場する絵画・彫刻
海の神の勝利の図
海獣に引かれる車に乗る神と妃の構図が、床の装飾に繰り返し表されました。
噴水の海の一族
近世の噴水で、海の神とその妃を組で配する形が広く用いられました。
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サラーキアについてよくある質問
サラーキアはどんな女神ですか。
ネプトゥーヌスの妃とされる海の女神です。ウァロは沖の深い波をサラーキア、岸に打ち寄せる波をウェニーリアとして対にしました。単独の神殿は記録に残っていません。
なぜ塩の女神と呼ばれるのですか。
名が塩をふくむ水を指す語に通じるとされるためです。ただし海そのものを指す語から来たとする説明もあり、由来は決着していません。
サラーキアを祀った神殿はありますか。
記録に残っていません。もともと単独では祀られず、ネプトゥーヌスの祭祀のなかで名を呼ばれる女神だったとみられます。
ウェニーリアとはどういう関係ですか。
同じ神ではなく、対にされた別の女神です。ウァロは沖の波をサラーキア、岸の波をウェニーリアと説明しました。ウェニーリアのほうはアエネーイスにも名が出てきます。
なぜ物語が伝わっていないのですか。
ローマの古い神には、名だけが祈りの文句に残り、物語を持たない神が多くいます。サラーキアもその一柱で、ネリオやホーラと同じ列に並べられます。