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ローマ神話

ミーセーノスとは何の神様か|家系図・物語・ゆかりの地

Misenus  / ミーセーノス

アエネーイスの人々

アエネーアースの隊のラッパ手。海に沈められ、岬に名を残した。

ミーセーノスとは何の神様か

ミーセーノスはひとことで言えば土地の名になった男です。

アエネーアースの隊のラッパ手でした。もとはトロイアの将ヘクトルに従い、その死後にアエネーアースの隊に加わったとされます。

合図でも、戦いへの誘いでも、この男に並ぶ者はいなかった。

ある日、ほら貝を吹いて海の神々を挑発しました。 その報いとしてトリートーンに海へ引きずり込まれ、命を落とします。

『アエネーイス』第6巻で、冥界へ下ろうとするアエネーアースにシビュラは告げます。葬られぬままの仲間がいる、と。一行は薪を積み、丁重に葬りました。

その岬はミーセーヌムと名づけられます。

神話の名が、そのまま実在の軍港の名として千年使われました。 のちにローマ西方艦隊の母港が置かれた場所です。

ミーセーノスのローマ名・ギリシャ名と読み方

日本語では「ミーセーノス」「ミセヌス」「ミーセーヌス」が使われます。ギリシャ語寄りに読むかラテン語寄りに読むかの違いです。

地名としては「ミセーノ」「ミゼーノ」というイタリア語の形で紹介されることが多くあります。カポ・ミゼーノが現在の岬の名です。

人の名が先か、土地の名が先か。

土地の名が先で、そこから人物が作られたとみる研究者が多くいます。名の由来を説明するために人物を用意する手法は、ウェルギリウスが繰り返し使ったものです。

なお、詩では「アイオロスの子」と呼ばれますが、風を司る王アエオルスとは別人とされます。 同じ名の人物が複数いるため、混同されやすい箇所です。

Misenus(ミーセーノス)

ラテン語の主格。アイオロスの子とされ、詩ではヘクトルの供の一人として紹介される。

Misenum(ミーセーヌム)

この人物にちなむとされる岬と港町の名。ローマ西方艦隊の母港が置かれた。

Aeolides(アイオリデース)

アイオロスの子の意。詩でこの呼び方が使われるが、風の王と同じ名の別人とされる。

ミーセーノスの物語

  1. ヘクトルの供から ─ 経歴の書かれ方
  2. 海の神々への挑戦 ─ ほら貝の音
  3. 第6巻の葬送 ─ 冥界へ下る条件
  4. ミーセーヌムの千年 ─ 名が残るということ

ヘクトルの供から ─ 経歴の書かれ方

ミーセーノスの経歴は、死んだあとにまとめて語られます。

もとはトロイアの将ヘクトルに従い、そのかたわらでほら貝と槍を扱いました。

合図を吹き、戦いへ誘う技において、彼に並ぶ者はいなかった。

ヘクトルが討たれたのち、アエネーアースの隊に移ります。主を替えても役目は同じでした。

叙事詩において、ラッパ手は物語を進める役です。合図がなければ軍は動きません。声を持たない集団に、声を与える者と言えます。

ところが、この人物が生きているあいだの場面はほとんど書かれていません。第3巻で名が挙がる程度です。

紹介と死が同じ箇所に置かれています。 読者はこの男を知ると同時に、失います。

経歴が弔辞の形で語られるため、生前の姿が残りませんでした。

海の神々への挑戦 ─ ほら貝の音

死の場面は、次のように語られます。

ミーセーノスは岩の上に立ち、ほら貝を吹き鳴らしました。

空ろな貝で海を鳴らし、神々を競いに呼んだ。

これをトリートーンが聞きつけます。トリートーンは海の神ネプトゥーヌスに従い、ほら貝を吹いて波を鎮める神です。同じ道具を持つ者どうしの争いになりました。

トリートーンは男を波間に引き込み、岩のあいだで溺れさせます。

詩は「もし信じてよいならば」という言い方を添えます。ウェルギリウスは、この死因を断定していません。

技を誇ったために滅びる。 ギリシャの物語に繰り返し出てくる型です。

ただし、この人物は罰として書かれているようには見えません。葬送の場面は敬意をもって描かれ、非難の言葉はありません。技のうえで最も優れた者が、技ゆえに死にました。

第6巻の葬送 ─ 冥界へ下る条件

第6巻で、アエネーアースは冥界へ下る方法をシビュラに尋ねます。

答えは二つでした。黄金の枝を取ることと、もう一つ。

あなたの仲間の一人が、葬られぬまま横たわっている。

一行は浜へ行き、遺体を見つけます。そして森へ入り、木を切り倒して薪を積みました。この木を伐る場面は、詩のなかで長く丁寧に書かれています。

遺体は焼かれ、骨は集められ、丘に塚が築かれました。武具と櫂とラッパが、その上に置かれます。

葬りを済ませてはじめて、生者は死者の国へ行くことを許されます。

死者を放置したまま冥界へ下ることはできない。 この決まりが、場面の意味です。

塚の築かれた岬に、男の名が与えられました。ローマの読者にとって、それは自分たちの知っている港の名です。詩の場面と現実の地図が、ここで重なります。

ミーセーヌムの千年 ─ 名が残るということ

この岬は、のちにローマの歴史のなかで大きな役割を果たします。

アウグストゥスの時代、ローマ西方艦隊の母港がここに置かれました。地中海の西半分を担当する常備の艦隊です。

港は火山の入り江を利用したもので、内港と外港に分かれていました。ローマ最大級の軍港です。

79年のウェスウィウス山の噴火のとき、艦隊の指揮官だった大プリニウスがここから船を出しました。避難する人々を助けようとして、途中で命を落とします。この出来事は甥の手紙に詳しく記されました。

近隣の丘には、いまも大きな貯水槽の跡が残ります。艦隊に水を供給するために造られたものです。

一人の男の塚から始まった名が、艦隊の名になりました。

神話の人物の名が、実在の軍事拠点の名として千年使われた例です。名を残すという意味では、叙事詩のどの脇役よりも成功しています。

ミーセーノスの家系図と家族

ミーセーノスの性格と人物像

ミーセーノスの性格は、技を誇る者という一点に集まります。

詩が繰り返すのは、ラッパの腕前です。合図を吹く技において並ぶ者がいなかった、と書かれます。

その自負が、海の神々への挑戦になりました。

とはいえ、詩はこの男を責めていません。死因を語るとき「もし信じてよいならば」と留保を付け、葬送は丁重に描かれます。過ちの物語としては書かれていません。

研究では、この人物は地名の由来を説明するために置かれたとみられています。ミーセーヌムという土地の名が先にあり、そこから人物が作られた、という見方です。

同じ手法は、ほかの岬や港でも使われました。パリヌールス、カイエータ。アエネーアースの航路に沿って、仲間の死が地名になっていきます。

旅の跡が、地図に刻まれていく形です。この男はその最初の一人にあたります。

ミーセーノスゆかりの地と遺跡

ミーセーノスを祀った神殿や祭壇は、記録に残っていません。

叙事詩の登場人物であり、神として祀られた形跡がないためです。

残ったのは祭祀ではなく、地名でした。

ここに挙げた二か所は、いずれもこの名を負った土地です。港町ミーセーヌムと、その先端のミーセーヌム岬。塚が築かれたとされる場所ですが、塚そのものは見つかっていません。

そのため、この節は「ゆかりの地」としています。祀られた場所ではないことを、はっきりさせておきます。

なお、港町の遺構の多くは海面の変動で水没しており、陸上から見られるのは一部だけです。

ミーセーヌム(Misenum)

ローマ西方艦隊の母港が置かれた町

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ミーセーヌムの住所: イタリア カンパニア州 バコリ ミゼーノ(北緯40.7863 東経14.0849)

ミーセーヌムの祀られた神: (この人物を祀る場所は無い)

ミーセーヌムに残るもの: 港湾施設・劇場・貯水槽の跡

ミーセーヌムのご利益: (祀る施設は無い)

ラッパ手の名にちなむとされる港町です。アウグストゥスの時代にローマ西方艦隊の母港が置かれました。

火山の入り江を利用した港で、内港と外港に分かれていました。地中海西半分を担当する常備艦隊の拠点です。

79年のウェスウィウス山噴火の際、指揮官だった大プリニウスがここから船を出しています。

近隣の丘には、艦隊に水を送るための巨大な貯水槽の跡が残ります。この人物を祀った施設は見つかっていません。

ナポリ市街から西へ。貯水槽跡は事前申込で見学できることがある。

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ミーセーヌム岬(Promunturium Misenum)

塚が築かれたとされる岬

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ミーセーヌム岬の住所: イタリア カンパニア州 バコリ カポ・ミゼーノ(北緯40.7777 東経14.0894)

ミーセーヌム岬の祀られた神: (この人物を祀る場所は無い)

ミーセーヌム岬に残るもの: 岬そのもの。灯台と展望地

ミーセーヌム岬のご利益: (祀る施設は無い)

アエネーアースが仲間を葬り、塚を築いたとされる岬です。詩では、この塚から土地の名が生まれたと語られます。

岬はいまも、その名で呼ばれています。

現在は灯台が立ち、ナポリ湾とイスキア島を見渡せる展望地になっています。

塚そのものは見つかっていません。 ここは物語の舞台であり、祭祀の場ではありませんでした。

バコリから岬の先端へ道が通じている。湾と島を一望できる。

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ミーセーノスが現代に残した痕跡

ミーセーノスの名は、岬と軍港の名として残りました。

カポ・ミゼーノ: ナポリ湾西端の岬。現在もこの名で呼ばれ、灯台と展望地がある。

ローマ西方艦隊: アウグストゥスがこの地に母港を置いた常備艦隊。地中海西半分を担当した。

大プリニウスの出航: 79年の噴火のとき、艦隊の指揮官がこの港から船を出した。甥の手紙にその経緯が記されている。

ミセーノの貯水槽: 艦隊へ水を送るために造られた地下の巨大な貯水施設。柱の並ぶ内部が残る。

ミーセーノスが司るもの

合図と音楽

ほら貝とラッパの技において並ぶ者がいなかったとされる。

葬りの大切さ

葬られぬ死者を放置しては冥界へ下れないという決まりを示す役を負った。

航海の記憶

岬の名として残り、船乗りが目印とする地形と結びついた。

ミーセーノスが登場するゲーム・アニメ

作品でのミーセーノスは、死んだ姿で描かれます。

登場する場面がほとんど葬送に限られるためです。生きて吹いている姿を描いた例は多くありません。

森で木を伐る場面のほうが、絵になりやすいと考えられてきました。

日本ではこの人物を単独で扱った作品は見当たりません。地名としての「ミゼーノ」のほうが、旅行の案内などを通じて知られています。

ミーセーノスが登場するゲーム

古代ローマを舞台にした戦略ゲーム

ミセヌムが艦隊の拠点として地図上に置かれることがあります。

叙事詩を題材にした物語ゲーム

冥界へ下る前の手続きとして、葬送の場面が扱われます。

ミーセーノスが登場する絵画・彫刻

ミーセーノスの葬送を描いた絵画

薪を積む場面や火を放つ場面が、風景画の題材として描かれました。

アエネーイスの挿絵版画

第6巻の冒頭を表す図として、浜辺の遺体と森の伐採が選ばれます。

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ミーセーノスについてよくある質問

ミーセーノスはどんな人物ですか。

アエネーアースの隊のラッパ手です。もとはヘクトルに従っていました。合図を吹く技において並ぶ者がいなかったとされます。

なぜ海に沈められたのですか。

ほら貝を吹いて海の神々を競いに呼んだためと伝えられます。トリートーンが波間に引き込みました。ただし詩は「もし信じてよいならば」と留保を付けており、断定していません。

ミーセーヌムという地名はこの人物に由来しますか。

詩ではそう語られます。ただし研究では、土地の名が先にあり、その由来を説明するために人物が作られたとみる見方が有力です。

ミーセーヌムはどんな場所ですか。

ナポリ湾の西端にある岬と港町です。アウグストゥスの時代にローマ西方艦隊の母港が置かれ、79年の噴火のときには大プリニウスがここから船を出しました。